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「中皮腫」と診断された、あるいはご家族を中皮腫で亡くされた――。中皮腫は、そのほとんどが過去に吸い込んだアスベスト(石綿)が原因で起こる病気で、吸い込んでから発症するまでに30〜50年という長い時間がかかります。石綿を扱う仕事に1年以上就いていた方の中皮腫は、原則として労災と認められ、治療費や休業中の補償、ご遺族への年金が支給されます。労災の期限が過ぎたご遺族には「特別遺族給付金」、建設現場で働いていた方には最大1,300万円の「建設アスベスト給付金」、労災の対象にならない方には「救済給付」があり、会社や国に賠償を求められる場合もあります。本記事では、中皮腫で受けられる補償の全体像、労災認定の基準、そしてご本人やご家族が今すぐ確認したいことを解説します。

1. 中皮腫と診断されたご本人、ご家族へ

中皮腫と診断されると、治療のことで頭がいっぱいになるのは当然です。ただ、中皮腫は「仕事が原因の病気」として補償を受けられる可能性が高い病気でもあります。治療費や生活費の不安を少しでも軽くするために、どのような制度があるのか、いつまでに何をすればよいのかを、早い段階で知っておいていただきたいと思います。

補償の制度は一つではなく、労災保険、石綿健康被害救済制度、建設アスベスト給付金、会社や国への賠償請求と、いくつもの道があります。それぞれに対象となる方と期限が決まっており、どれを使えるかは、昔どこでどのような仕事をしていたかによって変わります。アスベスト被害の全体像と当事務所のサポートについては、当サイトの「アスベスト(石綿)健康被害の給付金・賠償金相談」もご覧ください。

2. 中皮腫とアスベストの関係

中皮腫は、胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜といった臓器を包む膜(中皮)にできる悪性腫瘍です。その多くは石綿が原因で、吸い込んでから発症するまでの潜伏期間は35年前後が多く、30〜50年に及ぶとされています。そのため、石綿の使用が原則禁止された現在も、中皮腫で亡くなる方は増え続けています。人口動態統計によると、中皮腫による死亡者は1995年に全国で500人だったのが、2024年には1,562人になり、埼玉県内でも94人が亡くなっています。

労災の請求も増えています。厚生労働省の集計では、石綿による肺がんや中皮腫などの労災請求は、2025年度に1,788件と前年度より約17%増え、そのうち1,344件が支給の決定を受けました。石綿の輸入は1970年代から1990年代に最も盛んで、当時の仕事が原因の病気が、今になって見つかっているのです。

「昔のことで、もう証明できない」とあきらめる必要はありません。ご本人やご家族が、いつ、どこで、どのような仕事をしていたかを思い出すことが、補償への第一歩になります。

3. 中皮腫で受けられる補償は一つではありません

中皮腫の方やご遺族が利用できる主な制度は、次のとおりです。

制度対象になる方主な給付期限の目安
労災保険労働者として石綿を扱う作業に従事していた方治療費、休業補償、傷病・障害の年金、遺族への年金・一時金、葬祭料遺族補償は亡くなった日の翌日から5年
特別遺族給付金(石綿救済法)労災の遺族補償が時効で受けられなくなったご遺族特別遺族年金(原則年240万円)または一時金1,200万円2032年(令和14年)3月27日まで
建設アスベスト給付金建設現場で働いていた労働者、一人親方など中皮腫1,150万円(亡くなられた場合1,300万円)診断(死亡)から20年
救済給付(環境再生保全機構)労災などの対象にならない方(周辺住民、ご家族など)医療費の自己負担分、療養手当(月103,870円)、葬祭料、特別遺族弔慰金280万円など給付の種類により異なる
損害賠償・国との和解会社に安全配慮義務違反がある方、石綿工場で働いていた方など慰謝料などの損害賠償時効あり

労災保険と救済給付は、同じ病気について両方を受けることはできませんが、建設アスベスト給付金は国が慰謝料に相当する額を支給するもので、労災の給付を受けている方も請求できます。どの制度を、どの順番で使うかは、ご本人の職歴と現在の状況によって変わります。

4. 中皮腫が労災と認められる基準

厚生労働省の認定基準では、石綿を扱う作業に従事した労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜または精巣鞘膜の中皮腫は、次の①②のいずれかに当てはまれば、業務上の病気(労災)と認められます。

  • ①胸部エックス線写真で、第1型以上の石綿肺の所見がある
  • ②石綿ばく露作業に従事した期間が1年以上ある

ただし、最初に石綿を扱う作業を始めてから10年未満で発症した中皮腫は除かれます。また、中皮腫は診断が難しい病気のため、病理組織検査で中皮腫と確定診断されていることが重要です。病理検査ができない場合は、臨床検査の結果や画像、経過などを総合して判断されます。

石綿を扱った期間が1年に満たない場合でも、あきらめる必要はありません。厚生労働省のパンフレットでは、造船所で約7か月間、船内に石綿を含む断熱材を取り付ける作業に従事し、約45年後に中皮腫と診断された方が、高濃度の石綿にさらされていたとして労災と認められた事例が紹介されています。

【ポイント】中皮腫は、胸膜プラークなどの所見がなくても認められます
石綿による肺がんの場合は、胸膜プラークや石綿小体といった医学的な所見と、一定期間の従事歴の組み合わせが求められます。これに対して中皮腫は、石綿を扱う作業に1年以上従事していたことが確認できれば、こうした所見がなくても労災と認められます。中皮腫は少量の石綿でも発症することがあるためです。「検査で石綿の痕跡が出なかった」と言われても、職歴の証明ができれば道は開けます。

5. 「石綿ばく露作業」に当たる仕事

認定基準でいう「石綿ばく露作業」には、次のような作業が含まれます。

  • 石綿鉱山での採掘や、倉庫などでの石綿原料の袋詰め・運搬
  • 石綿製品の製造工程での作業
  • 石綿の吹付け作業
  • 石綿製品を使った断熱・保温のための被覆や、その補修
  • 石綿製品の切断などの加工作業
  • 石綿製品が建材などに使われている建物や設備の補修・解体作業
  • 石綿製品が使われている船舶や車両の補修・解体作業
  • タルク(滑石)など、石綿を不純物として含む鉱物の取扱い

これらと同じ程度に石綿を吸い込む作業や、こうした作業の周辺で間接的に石綿を吸い込んだ作業も含まれます。大工、内装工、配管工、電気工、塗装工、左官、解体工などの建設関係のほか、造船、建材や摩擦材(ブレーキなど)の製造、自動車の整備、ボイラーや配管の保温工事など、幅広い仕事が当てはまります。

従事歴は、厚生年金の加入記録(勤務先と期間が分かります)、雇用保険の記録、当時の同僚の証言、会社に残っている資料などで証明します。会社がすでに廃業していても、労災の請求はできます。労災保険は国の制度であり、労働基準監督署が当時の事業場の状況を調査するからです。

6. 労災で受けられる給付

  • 療養補償給付:治療費は自己負担なしです。
  • 休業補償給付:治療のために働けない場合、休業4日目から給付基礎日額の約80%が支給されます。
  • 傷病補償年金・障害補償給付:療養が長引く場合や、症状が残った場合に、程度に応じて支給されます。
  • 遺族補償年金・一時金:亡くなられた場合、ご遺族に年金または一時金が支給されます。遺族特別支給金として300万円の一時金もあります。
  • 葬祭料:葬儀を行った方に支給されます。

労災の請求には期限があります。治療費や休業補償は2年、障害補償や遺族補償、葬祭料は5年で時効になります。ご遺族の年金は、亡くなった日の翌日から5年です。中皮腫は進行が速いことも多いため、診断を受けたら早めに請求の準備を始めてください。

7. 労災の期限が過ぎてしまったご遺族へ――特別遺族給付金

中皮腫で亡くなられてから5年以上がたち、労災の遺族補償を請求する権利が時効で消えてしまった場合でも、石綿健康被害救済法に基づく「特別遺族給付金」を請求できることがあります。病気の原因が仕事だったと長く気づけなかった石綿被害の特徴を踏まえて設けられた制度です。

対象は、2026年(令和8年)3月26日までに亡くなった労働者のご遺族で、支給されるのは特別遺族年金(原則として年額240万円)または特別遺族一時金(1,200万円)です。請求期限は2032年(令和14年)3月27日までで、窓口は労働基準監督署です。2025年度には386件の請求があり、133件が支給の決定を受けています。

なお、2026年3月27日以降に亡くなられた場合は、労災保険の遺族補償の対象になります。亡くなった日の翌日から5年以内に請求してください。

8. 建設現場で働いていた方へ――建設アスベスト給付金

建設現場で石綿を吸い込んで中皮腫になった方は、国から「建設アスベスト給付金」を受けられる可能性があります。2021年の最高裁判決を受けて設けられた制度で、労働者だけでなく、一人親方や中小事業主も対象です。

  • 対象となる期間と作業:1972年10月1日から1975年9月30日までの石綿の吹付け作業、または1975年10月1日から2004年9月30日までの屋内作業場での建設作業
  • 給付額:中皮腫は1,150万円、中皮腫で亡くなられた場合は1,300万円(石綿を扱った期間が短いなど、一定の事情で減額されることがあります)
  • 請求期限:中皮腫と診断された日から20年。亡くなられた場合は死亡の日から20年

建設アスベスト給付金は、労災の給付と重複しません。労災が認定されている方は、認定の記録を活用して給付金の請求を進められます。制度の詳細や当事務所のサポートは、「アスベスト(石綿)健康被害の給付金・賠償金相談」で解説しています。

9. 労災の対象にならない方へ――救済給付

石綿工場の周辺に住んでいた方、作業着を持ち帰った家族から石綿を吸い込んだ方、特別加入をしていなかった自営業の方などは、労災の対象になりません。こうした方には、独立行政法人環境再生保全機構が実施する「救済給付」があります。

中皮腫については、医学的な診断を中心に判定され、石綿をどこで吸い込んだかの証明までは求められません。療養中の方には、医療費の自己負担分と療養手当(月額103,870円)が支給され、亡くなられた場合は葬祭料(199,000円)が支給されます。制度に申請する前に中皮腫で亡くなられた方のご遺族には、特別遺族弔慰金(280万円)と特別葬祭料(199,000円)があります。

請求期限は、亡くなられた時期によって異なります。2006年(平成18年)3月26日以前に亡くなられた場合は2032年(令和14年)3月27日まで、それ以降に亡くなられた場合は原則として死亡の翌日から25年以内です。申請は、環境再生保全機構のほか、保健所などの窓口でも受け付けています(機構の相談ダイヤル:0120-389-931)。

10. 会社や国への損害賠償請求

労災保険からは慰謝料が支給されません。会社が石綿の危険性を知りながら、防じんマスクの支給や換気などの対策を怠っていた場合には、安全配慮義務違反として、会社に慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」もご覧ください)。

会社が廃業している場合でも、国や建材メーカーに責任を問える道があります。1958年5月26日から1971年4月28日までの間に石綿工場で働いていた方については、最高裁判所が国の責任を認めた判決を受けて、国との和解により賠償金を受け取る手続きが設けられています。建設現場で働いていた方については、建設アスベスト給付金とは別に、石綿建材を製造したメーカーへの損害賠償請求が認められた裁判もあります。

損害賠償の請求には時効があり、発症や死亡から時間がたつほど難しくなります。どの相手に、どの請求ができるかは職歴によって異なるため、早めにご相談ください。

11. 準備しておきたい資料

  • 診断書、病理検査の結果、画像検査の記録(確定診断の根拠になります)
  • 職歴のメモ(いつ、どこで、どのような作業をしていたか。現場名や元請会社名も)
  • 厚生年金の加入記録(年金事務所やねんきんネットで取得できます)
  • 雇用保険の記録、給与明細、社員証など、勤務先が分かるもの
  • 当時の同僚や親方の連絡先
  • 亡くなられている場合は、死亡診断書(死体検案書)と戸籍謄本

病院のカルテや画像には保存期限があり、時間がたつと廃棄されることがあります。労災の請求を考えている場合は、早めに資料の写しを取り寄せておきましょう。職歴は、ご本人が話せるうちに、できるだけ詳しく聞き取っておくことが大切です。

12. よくあるご質問

Q. 働いていた会社がもうありません。労災の請求はできますか?

A. できます。労災保険は国の制度なので、会社が廃業していても請求できます。年金記録や同僚の証言で従事歴を証明します。

Q. 石綿を扱った期間が1年に満たないのですが。

A. 1年未満でも、高濃度の石綿を吸い込む作業だったと認められれば、総合的な判断で労災と認められた例があります。作業の内容を具体的に整理して、相談してください。

Q. 父は10年以上前に中皮腫で亡くなりました。今からでも何かできますか?

A. 労災の遺族補償は時効になっていますが、2026年3月26日までに亡くなった方のご遺族であれば、2032年3月27日まで特別遺族給付金を請求できます。建設現場で働いていた方であれば、死亡から20年以内なら建設アスベスト給付金の対象になることもあります。

Q. 労災と建設アスベスト給付金は、両方受け取れますか?

A. 両方受け取れます。建設アスベスト給付金は慰謝料に相当するもので、労災の給付とは性質が異なります。一方、労災と救済給付は、同じ病気について両方を受けることはできません。

Q. 夫の作業着を洗っていた私が中皮腫になりました。

A. ご本人が労働者として石綿を扱っていたわけではないため、労災ではなく救済給付の対象になります。状況によっては、ご主人の勤務先などへの請求を検討できる場合もあります。

13. まとめ――職歴を整理し、期限が来る前に動く

中皮腫は、そのほとんどが過去の石綿ばく露によるものです。石綿を扱う仕事に1年以上就いていた方は、原則として労災と認められ、期限が過ぎたご遺族には特別遺族給付金、建設現場で働いていた方には建設アスベスト給付金、労災の対象にならない方には救済給付があります。会社や国への賠償請求ができる場合もあります。

どの制度を使えるかは、職歴と現在の状況で変わります。中皮腫の診断を受けた方、ご家族を亡くされた方は、職歴の整理と資料の確保から、一緒に進めていきましょう。

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【出典・参照条文】
・厚生労働省パンフレット「石綿による疾病の労災認定」
・厚生労働省「石綿による疾病の認定基準について」(平成18年2月9日付け基発第0209001号。平成24年3月29日改正)
・石綿による健康被害の救済に関する法律(平成18年法律第4号。令和4年法律第72号による改正)、厚生労働省「特別遺族給付金」
・独立行政法人環境再生保全機構「アスベスト(石綿)による健康被害救済給付の概要」(令和7年4月1日現在)
・特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(令和3年法律第74号)、厚生労働省「建設アスベスト給付金制度」
・厚生労働省「令和7年度 石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(速報値)」(令和8年6月17日)
・厚生労働省「都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年〜令和6年)」(人口動態統計)
・労働者災害補償保険法第42条(時効)、労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
・最高裁判所平成26年10月9日判決(泉南アスベスト訴訟)、最高裁判所令和3年5月17日判決(建設アスベスト訴訟)
・(注)本記事は一般的な解説であり、各制度の対象になるかどうかや金額は、職歴や診断の内容など個別の事情により判断されます。制度の内容や金額は改定されることがあります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

労働災害(労災)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。