不倫の慰謝料を請求された──示談書にサインする前に 求償権・違約金条項・清算条項の落とし穴と、減額が認められ得る7つの事情

【記事要約】

突然の内容証明や電話に動揺し、送られてきた示談書にそのままサインしてしまう方が少なくありません。しかし示談書には金額以外にも、求償権放棄、接触禁止と違約金、口外禁止といった重大な条項が含まれています。とりわけ求償権は、放棄と引き換えに減額を求める有力な交渉材料であり、無償で手放すべきものではありません。本記事では、サイン前に確認すべき条項と減額が認められ得る事情を弁護士が解説します。

ある日突然、内容証明郵便が届く。あるいは、相手の配偶者から直接電話がかかってくる。

「300万円を支払え」
「1週間以内に回答しなければ、勤務先と実家に連絡する」
「この示談書にサインして、期限までに返送してほしい」

このとき、多くの方が同じ行動を取ります。恐怖と後ろめたさから、早く終わらせたい一心で、送られてきた示談書にそのままサインしてしまうのです。

しかし、示談書へのサインは、この問題における最大の分岐点です。一度署名押印すれば、内容は原則としてやり直しがききません。そして、送られてくる示談書には、金額以外にも重大な条項が含まれていることがほとんどです。

本稿では、示談書にサインする前に必ず確認すべき条項と、減額が認められ得る事情について整理します。

第1 最初に──絶対にやってはいけない4つのこと

第1 最初に──絶対にやってはいけない4つのこと

1 その場で金額を認める

電話や対面で問い詰められ、「わかりました、払います」と口にしてしまう方が非常に多くいます。

慰謝料の支払いを承諾する意思表示は、口頭でも法的な意味を持ち得ます。また、その会話が録音されていれば、後の交渉で「一度は認めたではないか」と持ち出されます。

事実関係の確認を求められても、その場で回答する必要はありません。「弁護士に相談したうえで、書面で回答します」と述べて、いったん引き取ってください。

2 示談書にすぐサインする

後述するとおり、示談書には金額以外の重要な条項が含まれています。内容を理解しないまま署名すれば、その負担を長期にわたって背負うことになります。

3 相手方配偶者と直接やり取りを続ける

感情的なやり取りは、事態を悪化させるだけです。深夜のメッセージや長時間の電話は、精神的に消耗するばかりでなく、その内容が証拠として蓄積されていきます。

4 証拠を消去する

すでに請求を受けている段階で、やり取りの履歴を削除する行為は、かえって不利に働きます。証拠隠滅と評価されるだけでなく、こちらに有利な事実(相手方から積極的に誘われていた、既婚であることを隠されていた等)を示す資料まで失うことになります。

第2 示談書で最も見落とされる「求償権」の問題

第2 示談書で最も見落とされる「求償権」の問題

1 共同不法行為という構造

不貞行為は、あなたと相手方の配偶者(有責配偶者)とが共同で行った不法行為と評価されます。

共同不法行為者は、被害者に対してそれぞれが損害の全額について賠償義務を負います。したがって、請求する側は、あなた一人に対して全額を請求することができます。

しかし、これはあなたが最終的に全額を負担すべきという意味ではありません。共同不法行為者の間には、それぞれの責任の程度に応じた負担部分があり、自己の負担部分を超えて支払った者は、他方に対してその超過分を請求することができます。これが求償権です。

2 なぜ請求する側はあなただけを狙うのか

請求する側からすれば、配偶者に請求しても家計は同一ですから、実質的な意味がありません。だからこそ、外部の第三者であるあなたに全額を請求してくるのです。

しかし、あなたの側からすれば、事実としてどちらが主導したのか、どちらの責任がより重いのかという問題があります。相手方が積極的に誘い、既婚であることを隠していたような事案であれば、あなたの負担部分はむしろ小さいと評価される余地があります。

3 示談書に潜む「求償権放棄条項」

ここが最大の落とし穴です。

送られてくる示談書には、しばしば次のような条項が含まれています。

「乙(あなた)は、丙(相手方配偶者)に対する求償権を放棄する」

この条項にサインすれば、支払った全額を自分一人で負担することが確定します。本来であれば相手方に対して請求できたはずの部分を、自ら手放すことになるのです。

4 実務上の交渉材料としての使い方

もっとも、求償権を実際に行使することには現実的な困難も伴います。相手方夫婦が婚姻を継続する場合、求償請求は新たな紛争を生み、あなた自身の負担も小さくありません。

そこで実務上は、求償権の放棄を交渉材料として用いる方法が定着しています。

「求償権を放棄する代わりに、慰謝料の金額を減額していただきたい」

この交渉によって、実質的な負担を大きく圧縮できるケースは少なくありません。請求する側にとっても、後日の求償請求という火種を消せるメリットがあるため、応じられることが多い条項です。

何も知らずに求償権放棄条項にサインしてしまえば、この交渉カードを無償で差し出すことになります。

第3 示談書で確認すべきその他の条項

第3 示談書で確認すべきその他の条項

1 接触禁止条項と違約金

「今後一切、丙と接触してはならない。違反した場合は違約金として金100万円を支払う」

このような条項が入っていることがあります。二度と関わらないという趣旨自体は当然のことですが、問題は履行可能性です。

同じ職場に勤めている、居住地域が近く生活圏が重なる、共通の知人が多いといった事情がある場合、偶発的な接触が生じる可能性は否定できません。それが違約金の請求につながる事態は避けなければなりません。

対応としては、次のような修正を求めることが考えられます。

  • 「意図的に接触してはならない」として、偶発的な接触を除外する
  • 職務上必要な連絡は除外する旨を明記する
  • 違約金の金額を合理的な水準に修正する、または違約金条項自体を削除する

2 口外禁止条項

「本件について第三者に口外してはならない」という条項も一般的です。

注意すべきは、この義務が一方的にあなただけに課されている場合があることです。相手方が勤務先や知人に事実を触れ回るリスクを封じるためにも、双方が負う義務として修正を求めるべきです。

3 清算条項

「本件に関し、当事者間に本示談書に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する」

これは、あなたにとって極めて重要な条項です。この条項があることで、示談後に追加の請求を受けることを防げます。

逆に、清算条項が入っていない示談書にサインすることは避けてください。金額を支払った後に、離婚したことを理由として改めて請求される、といった事態が生じ得ます。

4 支払方法

一括払いが困難な場合、分割払いの交渉は可能です。ただし、分割払いとする代わりに、期限の利益喪失条項(一度でも滞納すれば残額を一括で支払う)が付されるのが通常です。

無理のある分割計画を約束してしまうと、かえって状況を悪化させます。実際に支払える金額を冷静に見積もってください。

第4 減額が認められ得る事情

第4 減額が認められ得る事情

請求された金額は、あくまで請求する側が希望する金額にすぎません。裁判所が認める水準とは、しばしば大きな開きがあります。

減額を主張し得る典型的な事情は、次のとおりです。

1 既に婚姻関係が破綻していた

不貞行為の当時、すでに夫婦関係が破綻していた場合、保護されるべき婚姻共同生活の平和が存在しなかったとして、賠償責任が否定または大幅に軽減されることがあります。

長期間の別居、離婚協議の進行、家庭内別居の実態などが、その根拠となり得ます。相手方から聞いていた話や、当時のやり取りの記録が重要な資料になります。

2 既婚者であることを知らなかった

不法行為が成立するには、故意または過失が必要です。相手方が独身であると偽っており、それを信じたことに落ち度がなかったといえる場合、責任が否定される余地があります。

マッチングアプリのプロフィール、独身を前提としたやり取り、指輪をしていなかったといった事情を、具体的に主張することになります。

3 関係の期間・態様

交際期間が短い、関係を持った回数が少ないといった事情は、慰謝料の減額要素として考慮されます。

4 主導したのは相手方である

相手方から積極的に誘われ、こちらは消極的であったという事情は、負担部分の判断に影響します。

5 離婚に至っていない

不貞が発覚した後も夫婦が婚姻を継続している場合、離婚に至った事案と比べて、慰謝料は低額にとどまるのが一般的です。

6 相手方配偶者から既に回収している

請求する側が、すでに配偶者から一定額を受け取っている場合、あなたに対する請求はその分だけ減額されます。同一の損害について二重に賠償を受けることはできないためです。

この点は、こちらから確認しなければ明かされないことが多く、必ず質問すべき事項です。

7 支払能力

法的な減額事由そのものではありませんが、現実の交渉においては、支払能力が金額を左右します。回収可能性のない高額な合意よりも、確実に履行される現実的な金額のほうが、請求する側にとっても合理的だからです。

第5 時効を確認してください

第5 時効を確認してください

不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年で時効となります(民法第724条第1号)。

古い交際関係について、相手方の配偶者がかなり以前から事実を把握していた場合、既に時効が完成している可能性があります。

「いつ知ったのか」は、請求する側が明らかにしたがらない事項です。しかし、この点の確認によって、そもそも支払義務が存在しないという結論に至ることもあります。

おわりに──後ろめたさと、法的な責任の範囲は別の問題です

おわりに──後ろめたさと、法的な責任の範囲は別の問題です

慰謝料を請求された方の多くが、強い自責の念を抱えています。「自分が悪いのだから、言われたとおりに払うしかない」と考えてしまうのは、自然なことかもしれません。

しかし、道義的な後ろめたさと、法的に負うべき責任の範囲とは、別の問題です。

法は、行為の悪質性、関係の態様、婚姻関係の実情といった事情を総合して、賠償すべき金額を定めています。請求する側が提示した金額が、その水準と一致している保証はどこにもありません。

そして、金額以上に重要なのが、示談書の条項です。求償権、接触禁止と違約金、口外禁止、清算条項。これらの設計次第で、あなたがこの先何年にわたって負担を抱えるかが決まります。

サインする前に、一度だけ専門家に見せてください。それだけで、結論が変わることがあります。届いた書面をそのままお持ちいただければ、何が問題で、どこを交渉すべきかを整理してお伝えします。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ

私たちは、開所以来35年以上、不倫慰謝料の問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。不倫慰謝料という法律問題に関し、ご相談者、ご依頼者がより充実した日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして、全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

不倫慰謝料

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、不貞行為を原因とする慰謝料請求案件を多数担当。請求する側・される側のいずれの立場からも対応が可能で、証拠収集の方針から示談交渉・調停・訴訟まで一貫してサポート。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、離婚問題とも連携した一体的な解決を得意とし、依頼者の精神的負担の軽減にも配慮した対応を心がけている。