
| 【この記事のポイント】 労災を申請したのに「不支給決定通知書」が届いてしまった——。しかし、これで終わりではありません。労働基準監督署長の決定に不服がある場合、「審査請求」という不服申立ての手続きが用意されています。本記事では、不支給決定通知書の見方、不支給になった場合の治療費の扱い、脳・心臓疾患や精神障害で不支給になりやすい理由、審査請求から再審査請求・取消訴訟までの3段階の手続きと期限、そして会社への損害賠償請求という別の選択肢まで、弁護士が詳しく解説します。 |
はじめに ── 「不支給」は終わりではありません

仕事が原因でケガや病気になり、労災保険を申請したにもかかわらず「不支給」の決定が下されてしまった。治療費も生活費も自己負担となり、途方に暮れている——そのようなご相談を数多くいただきます。
しかし、労働基準監督署長の判断が常に正しいとは限りません。提出した資料が不十分だったために業務との因果関係が認められなかったケースや、認定基準の当てはめに争いがあるケースも少なくないのです。不支給決定に納得できない場合には、法律上「審査請求」という不服申立ての手続きが用意されています。
| 諦める前に、まず期限を確認してください 労災の不支給決定に対する審査請求には、「決定があったことを知った日の翌日から3か月以内」という期限があります。この期限を過ぎると、原則として争う道が閉ざされてしまいます。通知書が届いたら、まず日付を確認し、早急に対応を検討してください。 |
1. 労災保険の「不支給決定通知書」とは?

労災保険を請求すると、労働基準監督署が調査を行い、業務上の災害(業務災害)または通勤災害に該当するかどうかを判断します。その結果、「該当しない」と判断された場合に届くのが「不支給決定通知書」です。
◆ 通知書で必ず確認すべき3つのポイント
| 確認事項 | なぜ重要か |
| ①決定の年月日 | 審査請求の期限(決定を知った日の翌日から3か月)の起算点になります。最も重要な確認事項です |
| ②不支給の理由 | 「業務起因性が認められない」「認定基準を満たさない」など、どの点が否定されたのかが記載されています。反論の出発点になります |
| ③教示文(不服申立ての方法) | 審査請求の申立先(都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官)と期限が記載されています |
◆ 不支給の理由が詳しく書かれていない場合は?
通知書に書かれた理由が抽象的で、なぜ不支給になったのか分からないというケースも多くあります。その場合は、労働基準監督署が調査で収集した資料(復命書など)を、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づいて開示請求することができます。
この開示資料を分析することで、監督署がどのような事実認定をし、どこで業務との因果関係を否定したのかが判明します。効果的な審査請求を行うためには、この開示請求が極めて重要なステップとなります。
| 【弁護士に依頼すれば開示請求も代行できます】 開示請求の手続きや、大量の開示資料の分析には専門的な知識が必要です。弁護士に依頼すれば、資料の取り寄せから「どこを争えば覆せるか」という戦略の立案まで一貫して対応できます。 |
2. 労災が不支給になった場合、治療費(医療費)の負担はどうなる?

不支給決定が出ると、労災保険からの給付は受けられません。治療費や休業中の生活費をどうするかは、被災された方にとって切実な問題です。
◆ 労災指定病院で治療していた場合
労災指定病院では、労災申請中は窓口負担なしで治療を受けられますが、不支給決定が出ると、それまでの治療費を請求される可能性があります。この場合、健康保険に切り替えて処理することになります。
◆ 健康保険への切り替え手続き
| 手続き | 内容 | |
| ① | 医療機関へ連絡 | 労災が不支給になった旨を病院に伝え、健康保険での再計算を依頼する |
| ② | 健康保険証を提示 | 健康保険に切り替えることで、自己負担は原則3割になる |
| ③ | 高額療養費制度の活用 | 自己負担額が高額になる場合、所得に応じた限度額を超えた分が払い戻される |
| ④ | 傷病手当金の検討 | 療養のため働けない場合、健康保険から標準報酬日額の約2/3が最長1年6か月支給される |
| 【審査請求で認められれば、遡って労災扱いになります】 審査請求や訴訟によって不支給決定が取り消されれば、改めて労災保険から給付を受けられます。その際、健康保険で支払った分は精算されます。つまり、いったん健康保険に切り替えても、争う権利がなくなるわけではありません。 |
| 会社の対応にも注意を 「労災じゃないなら健康保険を使え」と会社に言われるケースがありますが、労災の不支給決定はあくまで行政の判断であり、会社に安全配慮義務違反があった事実まで否定されたわけではありません。後述するとおり、労災が不支給でも会社への損害賠償請求が認められる可能性は残されています。 |
3. なぜ不支給に?労災認定の厳しい基準(脳・心臓疾患、精神障害)

ケガのように原因が明確な事故と異なり、脳・心臓疾患(過労死)や精神障害(うつ病など)は、業務以外の要因(持病・生活習慣・私生活のストレスなど)でも発症しうるため、業務との因果関係の判断が非常に難しく、不支給になりやすい分野です。
◆ 脳・心臓疾患(過労死)の認定基準
脳梗塞・心筋梗塞などについては、令和3年(2021年)9月に約20年ぶりに認定基準が改正されました。主な判断枠組みは以下のとおりです。
| 評価の枠組み | 内容 |
| 長期間の過重業務 (いわゆる過労死ライン) | 発症前1か月間に時間外労働おおむね100時間超、または発症前2〜6か月間に月平均80時間超で、業務と発症の関連性が強いと評価される |
| 【改正のポイント】 労働時間以外の負荷要因 | 過労死ラインに至らなくても、これに近い時間外労働(月おおむね65時間超が目安)があり、かつ「勤務間インターバルが短い勤務」「休日のない連続勤務」「身体的負荷を伴う業務」「暑熱・寒冷環境」などの負荷要因があれば、総合評価により認定されうる |
| 短期間の過重業務・ 異常な出来事 | 発症直前〜前日の異常な出来事や、発症前おおむね1週間の特に過重な業務も評価対象 |
| 対象疾病の追加 | 令和3年改正で「重篤な心不全」が対象疾病に追加された |
| 【残業時間の立証がカギ】 会社が申告した労働時間だけで判断されると、実態より短い時間で評価されてしまうことがあります。タイムカード・PCのログイン記録・入退館記録・メール送信履歴・GPS記録などから実労働時間を立証することが、認定を左右します。 |
◆ 精神障害(うつ病・適応障害など)の認定基準
精神障害については、令和5年(2023年)9月に認定基準が改正されました。以下の3要件をすべて満たす必要があります。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること(うつ病・適応障害など)
② 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
▶ 令和5年改正の主なポイント
| 改正内容 | 解説 |
| カスタマーハラスメントの追加 | 「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が具体的出来事に追加。接客業・医療介護職などの実態が反映された |
| パワハラ6類型の明示 | 従来の「身体的攻撃」「精神的攻撃」に加え、「無視・故意の孤立」「過大・過小な要求」なども明示。性的指向・性自認に関する精神的攻撃も含むと明記 |
| 感染症等の危険業務 | 感染症などの病気や事故の危険性が高い業務への従事が追加 |
| 既存疾患の悪化 | 従来は「特別な出来事」がなければ悪化の業務起因性を認めていなかったが、改正後は「業務による強い心理的負荷」により悪化した場合、悪化した部分について業務起因性が認められるようになった |
| 改正前の基準で判断されていませんか 認定基準は近年大きく改正されています。過去に不支給となった方や、現在争っている方は、改正後の基準に照らして再評価すべきケースがあります。特にカスハラや既存疾患の悪化については、判断の枠組みが変わっています。 |
4. 労災の不支給決定に納得できない場合の対処法「審査請求」

不支給決定に不服がある場合の第一段階が「審査請求」です。裁判のように費用がかかる手続きではなく、印紙代等も不要で利用できます。
◆ 審査請求の基本情報
| 項目 | 内容 |
| 申立先 | 決定を行った労働基準監督署を管轄する都道府県労働局に置かれている「労働者災害補償保険審査官」 |
| 期限 | 決定があったことを知った日の翌日から3か月以内(平成28年4月1日改正により、従来の60日から3か月に延長されました) |
| 方法 | 書面(労働保険審査請求書)または口頭。用紙は労働基準監督署・都道府県労働局労災補償課・e-Gov で入手可能 |
| 費用 | 印紙代等はかからない(無料) |
| 審理の内容 | 審査官が請求人からの聴取を行い、原処分庁(労働基準監督署)からも意見を聞き、独自に資料を収集して、原処分を取り消すかどうかを判断する |
◆ 審査請求を成功させるための3つのポイント
重要なのは、「納得できない」と感情的に訴えるだけでは決定は覆らないという点です。当初の申請時と同じ資料を再提出しても、同じ結論になる可能性が高いといえます。
| ① | 不支給の理由を正確に把握する | 開示請求により復命書等を取り寄せ、監督署がどの事実をどう評価したのかを分析する。争点を特定しなければ、有効な反論はできません |
| ② | 新たな証拠を追加する | 主治医や専門医の意見書、追加の医学的検査結果、同僚の陳述書、実労働時間を示す客観的記録(PCログ・入退館記録等)など、当初提出していない証拠を揃える |
| ③ | 法的・医学的に筋の通った主張を組み立てる | 認定基準のどの要件を、どの証拠でどう満たすのかを論理的に構成する。医学的知見と法律の双方を踏まえた主張書面の作成が不可欠です |
| 【審査請求の結果が出るまでの期間】 審査請求の結果が出るまでには、数か月程度かかるのが一般的です。なお、審査請求をした日から3か月を経過しても審査官の決定がない場合には、審査請求が棄却されたものとみなして、次の段階(再審査請求または取消訴訟)に進むことができます。 |
5. 審査請求の結果にも不服がある場合(再審査請求・取消訴訟)

審査請求で決定が覆らなかった場合でも、さらに争う道が残されています。労災の不服申立ては、以下の3段階の構造になっています。
| 段階 | 手続き | 申立先・期限 | 特徴 |
| 第1 | 審査請求 | 都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官 →決定を知った日の翌日から3か月以内 | 書面・口頭いずれも可。費用無料。新証拠の提出が重要 |
| 第2 | 再審査請求 | 厚生労働省の労働保険審査会 →決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内 | 文書によることが必要(口頭不可)。結果が出るまで半年以上かかることが多い |
| 第3 | 取消訴訟 (行政訴訟) | 地方裁判所(被告は国) →決定を知った日から6か月以内、または決定があった日から1年以内 | 判断主体が裁判所に変わるため、行政段階で覆らなかった判断が覆ることがある |
◆ 【重要】再審査請求を経ずに訴訟を提起できます
平成28年の法改正により、再審査請求をしなくても、審査請求の決定後に直接、取消訴訟を提起できるようになりました。再審査請求は結果が出るまで半年以上かかることが多く、判断が覆るケースも決して多くはないため、審査請求の後は再審査請求を経ずに訴訟へ進むという選択肢も有力です。
| 【どちらを選ぶべきか】 再審査請求は費用がかからない一方、時間がかかり判断が覆りにくい傾向があります。取消訴訟は裁判所という独立した第三者が判断するため覆る可能性がある一方、費用と時間がかかります。どちらの道を選ぶべきかは、争点の性質や証拠の状況によって異なるため、弁護士にご相談ください。 |
| 行政訴訟は簡単ではないが、道は開かれている 労災の行政訴訟の勝訴率は2割程度という統計もあり、決して容易な道ではありません。しかし逆に言えば、行政段階では認められなかった主張が、裁判所では認められるケースが現に存在するということです。特に、新たな医学的証拠や実労働時間の立証によって事案の見え方が変われば、結論が変わる可能性は十分にあります。 |
6. 労災不支給を覆すなら弁護士へ!会社への損害賠償請求も可能

◆ 労災が不支給でも、会社への損害賠償請求は別の話
見落とされがちですが、労災保険の不支給決定と、会社に対する損害賠償請求は、まったく別の制度です。
労災保険は、労働基準監督署が「認定基準」に照らして判断する行政上の制度です。これに対して会社への損害賠償請求は、会社が安全配慮義務(労働契約法第5条)を怠ったかどうかを、民事上の問題として裁判所が判断するものです。判断する主体も、適用される基準も異なります。
| 労災不支給=会社に責任がない、ではありません 労災が不支給になったからといって、会社に落ち度がなかったことが確定するわけではありません。長時間労働を放置していた、ハラスメントを知りながら対応しなかった、安全設備が不十分だったといった事情があれば、会社に対して慰謝料を含む損害賠償を請求できる可能性があります。しかも、労災保険では慰謝料は一切支払われないため、慰謝料を得るには会社への請求が必要です。 |
◆ 会社への損害賠償請求で認められうる損害
| 損害の種類 | 内容 |
| 慰謝料 | 精神的苦痛に対する賠償。労災保険では一切支払われないため、会社への請求でのみ得られる |
| 逸失利益 | 後遺障害により将来得られなくなった収入。労働能力喪失率とライプニッツ係数を用いて算定する |
| 治療費・休業損害 | 実際にかかった治療費や、働けなかった期間の減収分 |
| その他 | 通院交通費、介護費用、葬祭費用(死亡事案)など |
◆ 弁護士に依頼するメリット
- 不支給理由の分析:開示請求により監督署の判断過程を把握し、どこを争えば覆せるかを見極めます
- 証拠の収集と保全:実労働時間を示す客観的記録、医師の意見書、同僚の陳述書など、認定を左右する証拠を戦略的に集めます
- 主張書面の作成:認定基準の要件と証拠を結びつけ、医学的・法的に説得力のある主張を構成します
- 手続きの選択:再審査請求と取消訴訟のどちらを選ぶべきか、事案に応じて最適な道筋を判断します
- 会社への損害賠償請求:労災の不服申立てと並行して、または不支給が確定した後も、会社への請求という別ルートを追求できます
- 期限の管理:3か月・2か月・6か月という短い期限を確実に守り、権利を失うリスクを防ぎます
◆ こんな方は、早めにご相談ください
| 【相談チェックリスト】 ■不支給決定通知書が届いたが、理由に納得できない ■通知書に書かれた理由が抽象的で、なぜ不支給なのか分からない ■過労で倒れた/うつ病になったが、業務との関連を認めてもらえなかった ■会社が申告した残業時間が、実態よりも短い ■障害等級が認定されたが、想定より低い等級だった ■審査請求をしたが棄却された。次にどうすべきか分からない ■労災が不支給でも、会社の責任を問いたい |
7. まとめ ── 期限内に、正しい戦略で

労災の不支給決定は、決して最終決定ではありません。審査請求・再審査請求・取消訴訟という3段階の不服申立て制度が用意されており、さらに会社への損害賠償請求という別の道もあります。
ただし、いずれの手続きにも短い期限が設けられています。「どうしたらいいか分からない」と迷っているうちに3か月が過ぎてしまえば、争う権利そのものを失いかねません。
不支給決定通知書を受け取られた方は、まず通知書の日付をご確認のうえ、お早めにご相談ください。あなたが本来受け取るべき補償を取り戻すために、全力でサポートいたします。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、労災問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。労災の不支給決定に納得できない方、審査請求をお考えの方に対し、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。お客様満足度は92.9%。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 |
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また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
労働災害(労災)
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。






