
私たちの生活や経済活動を根底で支えている陸上貨物運送業(トラック運送)や倉庫業。インターネット通販の普及などで物流の需要が急増する一方、現場で働くドライバーや作業員の方々は、過酷な労働環境と、常に隣り合わせの危険に直面しています。
厚生労働省の統計を見ても、陸上貨物運送業の労働災害の発生件数は全産業のなかでも高い水準で推移しており、とりわけ「トラックの荷台からの墜落・転落」「フォークリフトとの接触・はさまれ」「ロールボックスパレット(カゴ車)の転倒・下敷き」といった荷役作業中の重大事故が後を絶ちません。
これらの事故は、打撲や骨折にとどまらず、頭部を強打したことによる高次脳機能障害、脊髄を損傷したことによる下半身麻痺、車輪や荷物の下敷きになったことによる手足の粉砕など、その後の人生を大きく変えてしまう重篤な後遺障害をもたらすケースが少なくありません。
事故に遭われた被災者やご家族は、先の見えない治療と生活への不安のなかで、まずは労働基準監督署を通じて労災保険の申請を行います。労災が認定されれば、治療費(療養補償給付)や休業中の補償(休業補償給付)、後遺障害に対する給付(障害補償給付)などが国から支払われます。
しかし、ここで忘れてはならない重要な事実があります。それは、国の労災保険の給付には、被災者が被った精神的・肉体的な苦痛に対する「慰謝料」が一切含まれていないという点です。さらに、後遺障害によって将来得られるはずだった収入の減少にあたる逸失利益についても、労災保険の給付だけでは、本来受け取るべき適正な損害額には遠く及びません。
これらの「労災保険では足りない損害」を補填し、適正な補償を得るためには、事故の原因をつくった会社(雇用主や元請け業者など)に対して、直接損害賠償(民事賠償)を請求する必要があります。本記事では、運送業・倉庫業に特有の事故リスクや、会社に損害賠償を請求するための法的根拠、そして会社側が主張しがちな「労働者の自己責任」の壁を乗り越えるための弁護士の役割について、労働災害問題に精通した埼玉県大宮の弁護士が詳しく解説します。
「労働者の不注意」で片付けられがちな運送業の労災と会社の責任

運送業や倉庫業で労災事故が発生すると、会社側(あるいは会社が加入する保険会社)が高い頻度で主張してくるのが、「事故の原因は労働者本人の不注意である」という論理です。「足元をよく見ていなかったから荷台から落ちた」「フォークリフトが近づいているのに避けなかった本人が悪い」「カゴ車を無理な力で押したから倒れた」といったかたちで、事故の責任を被災者個人の自己責任として片付けようとするケースが見受けられます。
しかし、労働安全衛生法などの観点から見ると、このような主張は容易には認められません。会社には、労働者が安全に働けるよう現場の環境やルールを整備する安全配慮義務があります。労働者が多少のミスや不注意をしたとしても、ただちに重大な事故へと直結しないような安全な作業環境を整えておくことこそ、法律が会社に求めている責任です。
フォークリフトとの接触・下敷き
フォークリフトは、荷物を高く持ち上げた状態では前方の視界が極端に悪くなり、また後輪で操舵するため独特の動きをします。周囲の作業員がその危険性を十分に理解していなかったり、運転手が周囲の確認を怠ったりすることで、接触やひかれ、荷物の落下による下敷きといった死亡・重傷事故が繰り返し発生しています。
ロールボックスパレット(カゴ車)の転倒
倉庫や店舗への配送で多用されるロールボックスパレットは、構造的に縦長で、重い荷物を積むと重心が高くなるため、わずかな段差や傾斜でも転倒しやすいという弱点があります。数百キロの重量となったカゴ車が倒れ、下敷きになった労働者が骨盤骨折や脊髄損傷などの重傷を負う事故が多発しており、その危険性は専門機関からも指摘されています。
トラック荷台からの墜落
荷物の積み下ろしやシート掛けの際に、高さ1メートルから2メートル以上あるトラックの荷台から転落する事故です。「たかが数メートル」と思われがちですが、無防備な状態でコンクリートの地面に頭や背中から落下すれば、命に関わる事態になりかねません。これらの事故の多くは、単なる個人の不注意ではなく、会社が法的な安全対策を怠った結果として引き起こされています。
運送業の事故で問われる労働安全衛生法上の「過失」

会社に損害賠償(慰謝料や逸失利益など)を請求するためには、会社側に安全配慮義務違反(過失)があったことを、被災者側で具体的に主張・立証する必要があります。運送業・荷役作業の事故では、労働安全衛生法や同規則が定める次のようなルールが守られていたかどうかが、会社の過失を問ううえでの焦点となります。
①フォークリフト等の接触防止措置・立入禁止措置
労働安全衛生規則では、フォークリフトなどの荷役運搬機械を用いて作業を行う場合、接触により労働者に危険が生じるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならないと定められています。フォークリフトの作業エリアと歩行者の通路が明確に分離されていなかった、誘導員が配置されていなかった、運転手への安全教育が不十分だったといった状況で接触事故が起きた場合、会社の明らかな安全配慮義務違反となります。キーを抜かずに運転席を離れた結果、車両が暴走したようなケースでも、重い責任が問われます。
②機械の定期自主検査(特定自主検査)の未実施
フォークリフトなどの機械については、労働安全衛生法に基づき、1年以内ごとに1回、有資格者による特定自主検査を実施することが義務付けられています。ブレーキの効きが悪かった、ツメの動作に異常があったといった機械の不具合が原因で事故が起きた際に、この法定検査を怠っていた、あるいは不具合を放置したまま使用させていた事実が判明すれば、悪質な過失と評価されます。
③重量物取扱い時の作業計画・指揮者の不備
重量物を取り扱う作業などでは、労働災害を防止するための作業計画を定め、その計画に従って作業を指揮する者を選任しなければなりません。行き当たりばったりの作業や、現場任せの危険な作業(極端に重い荷物を無理な体勢で人力で持ち上げさせるなど)を放置して事故や腰痛などの疾患を生じさせた場合、安全管理体制の欠如が問われます。
④過密な配送スケジュールや人員不足の放置
運送業界に広く見られる過密な配送スケジュールや慢性的な人員不足も、事故の根本原因として安全配慮義務違反に問われる可能性があります。「時間に追われて安全確認を省かざるを得なかった」「本来複数人で行うべき重量物の搬送を一人でやらせていた」「長時間労働による疲労で注意力が低下していた」といった背景がある場合、会社が労働者の安全よりも効率や利益を優先した結果として、損害賠償責任が認められる余地は十分にあります。
会社への賠償金請求に向けた「証拠集め」のポイント

会社に安全配慮義務違反を追及し、適正な賠償金を勝ち取るためには、客観的な証拠を揃えることが欠かせません。会社側が自らに不利な証拠を進んで提出してくれるとは限らないため、事故後できるだけ早い段階で証拠を確保しておくことが重要です。
作業環境・事故状況に関する証拠
事故直後の現場の状況(荷物の散乱具合、路面の段差や傾斜、立入禁止の区画線の有無など)や、原因となったフォークリフト・ロールボックスパレットの状態は、スマートフォンなどで撮影しておきます。現場はすぐに片付けられてしまうため、初動が肝心です。あわせて、トラックのドライブレコーダーや倉庫内の防犯カメラの映像は、事故の瞬間を捉えた強力な客観的証拠となります。重大事故の場合は、警察の実況見分調書や労働基準監督署の調査記録も作成されるため、後日これらを入手できる可能性があります。
安全管理体制に関する証拠
フォークリフトの特定自主検査記録表は、法定の点検が確実に行われていたか、不具合の指摘がなかったかを確認するうえで重要です。あわせて、会社がどのような手順で作業を指示していたかがわかる作業手順書・作業計画書、被災者が適切な安全教育を受けていたかや日々の朝礼で危険性が共有されていたかを示す安全教育・KY(危険予知)活動の記録なども手がかりとなります。
さらに、過労や過密スケジュールが事故の背景にある場合には、労働時間や走行距離を裏付けるタイムカードや運転日報(運行記録)が重要な証拠となります。「いつも通路に荷物があふれて危険だった」「カゴ車のキャスターが壊れているのに修理してもらえなかった」といった、職場の常態的な危険性を裏付ける同僚の証言(陳述書)も有効です。
運送労災の賠償金請求を弁護士に依頼すべき理由

運送業・倉庫業での労災事故において、被災者ご本人やご家族が単独で会社や保険会社と交渉し、適正な賠償金を得ることは容易ではありません。労働災害の専門家である弁護士に依頼すべき理由を説明します。
「本人の不注意」という過失相殺の主張に対抗する
前述のとおり、会社側は「被災者がよそ見をしていた」「マニュアルどおりに動かなかった」などと被災者の過失を執拗に責め、賠償金を大幅に減額する過失相殺を主張してきます。しかし、労働安全衛生法の基本的な考え方は、労働者のミスを前提とした安全設備の構築にあります。弁護士が介入すれば、「フォークリフトと接触しないための根本的な分離措置を怠った会社にこそ主たる責任がある」「構造的に転倒しやすいカゴ車を安全に運用するためのルールや指導を欠いていた」といった法的根拠に基づき、不当な過失相殺の主張を跳ね返します。
労災保険に上乗せして「裁判基準」で賠償額を算定する
会社が労災上乗せ保険に加入していた場合、保険会社から示談金が提示されることがありますが、その金額は保険会社独自の低い任意基準で計算されたものです。弁護士が代理人として交渉や裁判を行えば、過去の裁判例に基づく最も高い水準の裁判基準(いわゆる赤本基準)で計算をやり直します。重い後遺障害が残った場合、後遺障害慰謝料だけでも大きな増額が見込め、さらに将来の収入減を補償する逸失利益を正確に算定することで、当初の提示額から数倍、ときに数千万円単位で賠償金が増えることも珍しくありません。
証拠が消滅する前の迅速な「証拠保全」
会社側が責任を逃れるために、事故原因となったカゴ車をひそかに処分したり、ドライブレコーダーの映像を消去したり(あるいは上書きされてしまったり)する危険があります。弁護士に早期に依頼することで、裁判所を通じた証拠保全手続きにより、会社側の証拠隠滅を法的に防ぐことが可能になります。
後遺障害等級の適正な認定をサポートする
賠償額を大きく左右するのが、労働基準監督署によって認定される後遺障害等級です。弁護士は、主治医が作成する後遺障害診断書が労災の認定基準を的確に満たしているかを事前に確認し、万が一不当に低い等級にとどまった場合には、審査請求(異議申立て)を行って適正な等級の獲得を目指します。
おわりに

運送業や倉庫業の事故は、「自分の不注意だったから仕方ない」と被災者ご自身が泣き寝入りしてしまっているケースが少なくありません。しかし、会社の不十分な安全管理によって一生残る障害を負わされたのであれば、適正な賠償金を受け取ることは労働者の当然の権利です。会社から示談書が提示されたとしても、その場で安易にサインや押印をしてしまわないことが大切です。
「会社が自分のミスだと言って責任を認めてくれない」「保険会社から提示された金額が妥当かわからない」「証拠の集め方がわからない」といった不安を抱えておられる方は、一人で悩まず、私たちにご相談ください。ケガの治療とこれからの生活の再建に専念していただけるよう、正当な賠償金の獲得に向けて全力でサポートいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
労働災害(労災)
弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。






