競業避止義務契約の有効性

勤務先を退職する際、勤務先から記載を求められる諸々の書類の中に、退職後一定期間について同業他社への就職等をしないことを誓約するという内容の合意書が含まれていることがあります。

勤務先に求められるがまま合意書に記入をしてしまうことも多いのですが、当該合意に違反をした場合には法的責任を追及されることもあります。

今回は競業避止義務契約の有効性について関連する裁判例を交えて解説をしていきます。

競業避止義務とは?

競業避止義務とは?

競業避止義務は、労働者が使用者と競合するような他企業に就職したり、自ら事業を立ち上げたりしないということを内容とするものです。

雇用契約期間中は使用者と雇用契約を締結していることの当然の帰結として労働者に対する競業避止義務が導かれますが、雇用契約終了後は特別の定めがある場合を除き競業避止義務を課されることはありません。

また、雇用契約終了後の競業避止義務について特別の定めがある場合においても、競業避止義務は労働者の職業選択の自由を制限する性質のものである等の理由から無制限にその有効性が認められるわけではありません。

裁判例は、雇用契約終了後の競業避止義務が合理的範囲を超え、労働者の職業選択の自由等を不当に制限する場合、その制限は公序良俗に反し無効になるとの判断枠組みをとっています。

その際の考慮要素としては、競業が制限される期間、競業が制限される場所的範囲、制限にかかる職種、競業避止義務を課す場合の代償措置の有無等が挙げられ、労使双方の利益状況、一般消費者に与える影響の各視点から競業避止義務契約の当不当の判断がなされています。

関連する裁判例

関連する裁判例

競業避止義務契約の有効性について判断をした最近の裁判例を紹介いたします。

大阪高判令和7年6月25日

【事案の概要】

交通整備業を営む会社に在籍していた労働者が会社に知らせることなく競合他社の役員に就任し、また、競合する別会社を設立し、競合業務に従事していた。

これを察知した会社は労働者に対して事実確認を行い、その際、労働者は「在職中及び退職後5年間は、競合他社に就職、役員就任、会社立ち上げを行わない、違反した場合には違約金2000万円を支払い、会社に生じた実損害がそれを超える場合にはその分も賠償する」旨の誓約書にサインをした。

誓約書作成の翌月に労働者は会社を退職したが、引き続き、競合他社の役員であり続け、自身が設立した別会社で競合業に従事するなどしたため、会社は労働者に対し、誓約書に基づく違約金等の支払いを求めて裁判を起こした。

【一審】

労働者が裁判に対応しなかったため、会社側が全面勝訴。

判決後に労働者が控訴。

【控訴審】

競業避止義務契約の有効性が主たる争点となったが、高等裁判所は以下のとおり判断を行い、労働者に対して誓約書記載の違約金の半額の支払いを命じた。

・労働者の在職中の競業行為は会社との関係で信義則違反となるため誓約書が作成された経過は合理的

・労働者は会社の営業秘密やノウハウを有していたため、そのような労働者に対して競業避止義務を課すことは不相当ではない

・退職後5年間という競業避止期間は不当に長期であり競業避止期間は2年間の限度で有効

・競業避止義務を設定するにあたり代償措置はとられていない労働者の会社における立場や待遇を考えるとその点は不合理とはいえない

・退職前の競業行為を対象とする部分は損害賠償の予定に該当し無効であるが、退職後の競業行為を対象とする部分は損害賠償の予定には該当しない

・労働者の競業行為を防止するための競業避止合意であること、労働者の競業行為により会社に相当額の損害が発生する可能性があること等の事情から合意違反の違約金を一定程度高額に設定することには合理性がある

・競業避止合意の内容が一部無効であること、労働者の在籍期間が3年程度と短いこと、労働者の月収が36万円程度そこまで高額でないこと等を踏まえると、違約金額2000万円は不当に高額であり、その2分の1を超える部分は公序良俗に反し無効

まとめ

まとめ

今回は競業避止義務契約の有効性について関連する裁判例を交えて解説をしてきました。

裁判例の判断内容からも分かるとおり、退職時に競業避止義務を含む合意を勤務先と交わした場合かつ退職後に競業行為に及んだ場合には一定の範囲で損害賠償請求や違約金請求に応じないといけない可能性があります。

そのため、退職時に勤務先からサインを求められた書類については一つ一つ目を通し、退職後のライフプランを踏まえ慎重に対応を検討すべきということになります。

なお、勤務先によっては退職時の合意書という形ではなく、就業規則に退職後の競業避止義務が盛り込まれている場合もありますので、その点は注意が必要です。

退職にあたり競業避止義務の設定を含む合意書の作成を求められている、退職後競業行為をする予定があるが既に競業避止義務契約にサイン済みでありその内容が有効か確認したい等の場合には一度弁護士にご相談することをお勧めいたします。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二

弁護士のプロフィールはこちら