【弁護士コラム】木材加工機械「リングバーカー」での死亡事故。遺族が知るべき「企業の責任」と「適正な賠償」について

本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の労災集中チームの弁護士が執筆しています。

木材・木製品製造業の現場では、原木の皮を剥ぐ「リングバーカー」や、木材を粉砕する「チッパー」、製材機械といった強力な動力機械が稼働しています。これらの機械は生産効率を飛躍的に高める一方で、ひとたび事故が起きれば、作業員の命を一瞬にして奪う凶器へと変貌します。

もし、あなたの大切なご家族が、リングバーカーなどの機械整備中や作業中に事故に遭われ、お亡くなりになったり、重篤な後遺障害を負われたりしたのであれば、その悲しみと将来への不安は計り知れないものでしょう。

「労災保険が下りるから、補償はそれで十分だろう」 会社側からそのように説明され、なんとなく納得されてはいませんでしょうか。しかし、労災保険の補償はあくまで最低限の生活保障であり、被害者が受けた精神的苦痛(慰謝料)や、将来得られたはずの経済的利益の全てを埋め合わせるものではありません。

この記事では、リングバーカーによる労災事故に遭われた被害者やご遺族が、泣き寝入りすることなく、正当な権利を守るために不可欠な知識と、会社に対する損害賠償請求の重要性について、弁護士が専門家の視点から解説します。

1.一般動力機械(リングバーカー等)による事故の恐ろしさ

1.一般動力機械(リングバーカー等)による事故の恐ろしさ

(1)「一般動力機械」のリスクとは

リングバーカーをはじめとする木材加工機械や、粉砕機(クラッシャー)、食品加工機械などは「一般動力機械」と呼ばれ、強力なモーターや油圧などの動力で動いています。これらは硬い原木や岩石を加工する能力を持っており、その駆動力は極めて強力です。ひとたび人の身体が接触すれば、瞬時に破壊する凶器となり得ます。

(2)多発する「巻き込まれ・挟まれ」事故

これらの機械で最も多く、かつ悲惨な結果を招くのが「巻き込まれ・挟まれ」事故です。

  • メンテナンス中の事故: 機械の調子が悪く、詰まりを取り除いたり調整を行ったりする際、電源を切らずに(あるいは切れずに)作業を行い、センサーが誤検知して機械が作動し、ローラーやアームに挟まれるケース。
  • 回転体への巻き込まれ: 作業着の袖や手袋が回転部分に触れ、そのまま身体ごと引き込まれるケース。一度巻き込まれると人の力で引き抜くことは不可能に近く、腕の切断や圧死といった最悪の事態を招きます。

特にリングバーカーの事故では、原木を検知するセンサーが作業員を誤検知し、自動的にローラーが降下して作業員を押さえつけるといった、制御システムの特性が関与する事例も報告されています。

2.労災保険で受けられる補償の内容

2.労災保険で受けられる補償の内容

業務中の事故であれば、まずは国の労災保険から給付を受けることになります。主な給付は以下の通りです。

  • 療養(補償)給付: 治療費、入院費、手術代など。原則自己負担はありません。
  • 休業(補償)給付: 療養のために働けない期間の4日目から、休業1日につき給付基礎日額(事故前3ヶ月の平均賃金)の80%(特別支給金20%を含む)が支給されます。
  • 障害(補償)給付: 治療を続けても症状が改善しなくなった状態(症状固定)で、後遺障害が残った場合に、その等級(第1級~第14級)に応じて年金または一時金が支給されます。
  • 遺族(補償)給付・葬祭料: 労働者が死亡した場合に、遺族の生活保障のための年金や一時金、および葬儀費用が支給されます。
  • 介護(補償)給付: 障害等級第1級または第2級の重い障害が残り、現に介護を受けている場合に支給されます。

3.労災保険の限界と「会社への損害賠償請求」

3.労災保険の限界と「会社への損害賠償請求」

ここからが非常に重要なポイントです。

「労災保険では『慰謝料』は支払われません」

労災保険はあくまで治療費や当面の生活費の補填が中心です。事故によって被った精神的苦痛に対する「慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)」や、将来にわたり失われた収入の全額(逸失利益)は、労災保険の給付対象外(または一部のみ支給)です。

この不足分を補うためには、事故の原因を作った会社に対して、民事上の「損害賠償請求」を行う必要があります。

会社に請求できる根拠=「安全配慮義務違反」

事業者は、労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。これは労働契約法第5条等で定められた法的な義務です。

 リングバーカーなどの機械事故において、以下のような事情があれば、会社に安全配慮義務違反(過失)があったとして、損害賠償を請求できる可能性が高くなります。

  • 安全装置(インターロック)の不備・無効化: 人が立ち入るエリアの扉を開けると機械が自動停止する「インターロック」装置が設置されていなかったり、作業効率を優先して意図的に解除(無効化)されていたりした場合。
  • 「ロックアウト」措置の徹底不足: 修理や清掃、調整作業を行う際、他者が誤って電源を入れないよう、起動装置に施錠したり「点検中」の表示を出したりする「ロックアウト・タグアウト」の手順が徹底されていなかった場合。
  • 危険な作業手順の指示・黙認: 「いちいち電源を切ると再起動に時間がかかる」などの理由で、機械を稼働させたまま手作業で調整や清掃をするよう指示していた、あるいはそのような危険な作業を黙認していた場合。
  • 安全教育の不足: 機械の危険性やセンサーの特性(人を検知して作動するリスクなど)について、十分な教育を行わずに未熟練者に作業をさせていた場合。

実際のリングバーカー死亡事故の事例が厚生労働省で公開されています。

被災者は木材加工所に採用されて約4か月であり、2週間前から機械の操作方法などの説明を受けながら作業を行っていた。

リングバーカーは原木が入ってきたことを光センサーで検知し、自動的にローラーが降りて原木を押さえて皮剥ぎを開始する。

災害発生当日は、リングバーカーの調子が悪く、リングバーカーの電源が入ったまま調整作業を行っていた。

被災者がリングバーカーに立ち入ったときに、原木を検知するための光センサーが被災者を検知し、ローラーが降りて被災者を押さえ付けた。

作業手順では、リングバーカーの保守作業時には電源を切ることとなっていたが、守られていなかった。  

「電源を切らずに立ち入ったこと」「作業手順が守られていなかったこと」「危険性が周知されていなかったこと」などが原因として挙げられており、これらは会社の安全管理体制の欠如を示すものです。

何を請求できるのか?-労災保険では足りない補償

会社に対しては、主に以下の損害について賠償を求めることができます。

損害項目内容労災保険との関係
傷害慰謝料入通院によって受けた精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
後遺障害慰謝料後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
逸失利益後遺障害により将来得られなくなった収入の補償労災給付で不足する部分を請求
休業損害休業期間中の収入減(労災の8割給付との差額2割+α)労災給付で不足する部分を請求
将来介護費等重い後遺障害で将来必要となる介護費用や住宅改修費労災給付で不足する部分を請求
弁護士費用賠償請求のために要した弁護士費用の一部労災では支払われない

労災保険からの給付と会社からの賠償金を合わせて受け取ることで、初めて事故によって生じた損害の全体が補填されるのです。

慰謝料について

慰謝料には、主に2つの種類があります。

  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    事故日から症状固定日までの間、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する補償です。入院期間や通院期間が長くなるほど、金額は高くなります。
  • 後遺障害慰謝料
    症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。

具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。

等級後遺障害慰謝料(弁護士基準)
1級2,800万円
2級2,370万円
3級1,990万円
4級1,670万円
5級1,400万円
6級1,180万円
7級1,000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

4.【シミュレーション】請求額はこれだけ変わる

4.【シミュレーション】請求額はこれだけ変わる

会社への損害賠償請求を行うかどうかで、受け取れる金額には数千万円の差が生じることがあります。 ここでは、後遺障害が残ったケースを例に計算してみましょう(死亡事故の場合はさらに高額になります)。

【モデルケース:粉砕機等での後遺障害】

  • 被害者:45歳男性、年収500万円
  • 事故状況:機械のローラー等に巻き込まれ、指の欠損や関節機能障害を負った。
  • 後遺障害等級:第8級(労働能力喪失率45%)と認定。

A:労災保険のみの場合

  • 障害補償給付(一時金):給付基礎日額の503日分
  • 受取額目安:約689万円

B:会社へ損害賠償請求をした場合(弁護士基準) 以下の項目を追加で請求できます(労災給付分は控除して調整)。

  • 後遺障害慰謝料:約830万円(弁護士基準)
  • 逸失利益: 500万円 × 45%(喪失率)× 14.029(係数) = 約3,157万円
  • 合計請求額目安:約4,000万円前後

その差は、約3,300万円以上になります。 会社への請求を行わないということは、これだけの正当な権利を放棄することと同義なのです。これが死亡事故であれば、逸失利益や慰謝料の額はさらに増大し、総額で1億円近くになることも珍しくありません。

5.実際の解決事例から見る弁護士の役割

5.実際の解決事例から見る弁護士の役割

実際に、機械による巻き込まれ事故で弁護士が介入し、多額の賠償金を獲得した事例をご紹介します。

事例:食品加工機械での巻き込まれ(約1200万円獲得)

【事故内容】 大型ミンチ機の清掃作業中、他の作業員が誤ってスイッチを入れてしまい、右手を巻き込まれました。親指を失い、人差し指にも重度の機能障害(8級相当)を負いました。

【会社側の対応】 会社は当初、「本人の確認不足だ」「勝手に手を入れた」として責任を否定し、賠償に応じようとしませんでした。

【弁護士の対応と結果】 弁護士は、労働安全衛生規則に基づき、「清掃作業中の電源ロックアウト(施錠管理)が徹底されていなかったこと」「合図や連携に関する安全教育が不十分だったこと」を具体的に指摘し、会社の安全配慮義務違反を立証しました。 また、主治医と連携して正確な後遺障害診断書を作成し、適正な等級(8級)を獲得しました。 その結果、労災給付とは別に、約1,200万円の損害賠償金を獲得することができました。

事例:機械への巻き込まれ(約2100万円獲得)

【事故内容】 自動反転ほぐし器(食品機械)の中にゴミを見つけた作業員が、停止スイッチを押したつもりで手を入れたところ、機械が停止しておらず右手を巻き込まれ、ほぼ動かない状態(5級)となりました。

【弁護士の対応と結果】 被害者にも「完全に停止を確認せずに手を入れた」という過失はありましたが、弁護士は「そもそも蓋を開ければ止まるインターロック等の安全装置が不十分であった」点などを指摘し、安全配慮義務違反を主張しました。 特に争点となった「将来介護費」について、配偶者の介護状況を具体的に立証し、裁判上の和解により約2,100万円の賠償金を獲得しました。

6.弁護士に相談するメリット

6.弁護士に相談するメリット

労災事故、特に機械による重篤な事故において、弁護士に依頼するメリットは非常に大きいです。

(1)適正な「後遺障害等級」の獲得

後遺障害の等級は、1級違うだけで補償額が数百万円から数千万円変わります。 弁護士は、診断書の記載内容をチェックしたり、必要な検査(可動域測定など)を医師に依頼したりして、適正な等級認定をサポートします。

(2)会社の「過失」を立証し責任を追及できる

会社側は「従業員の不注意だ」と責任を逃れようとするケースが多々あります。 しかし、安全装置の不備や教育不足があれば、それは会社の責任です。弁護士は法令や過去の裁判例に基づき、会社の安全配慮義務違反を論理的に主張します。

(3)「慰謝料」や「逸失利益」の最大化

会社や保険会社との示談交渉において、弁護士が介入することで、最も高額な基準である「裁判所基準(弁護士基準)」での慰謝料請求が可能になります。相手の提示額を鵜呑みにせず、本来受け取るべき金額を主張できます。

(4)複雑な手続きの代行

労災申請(様式5号、7号、8号、10号など)や、会社との交渉、場合によっては裁判まで、複雑で精神的負担の大きい手続きをすべて弁護士に任せることができます。被害者の方は治療とリハビリに専念することができます。

7.まとめ:決して一人で悩まないでください

7.まとめ:決して一人で悩まないでください

リングバーカーや粉砕機による事故は、一瞬にして被害者の人生を変えてしまうほどの影響力を持っています。失われた命や身体機能を取り戻すことはできませんが、残されたご家族や被害者ご本人の今後の生活を守るための金銭的な補償を得ることは、正当な権利です。

「会社に迷惑をかけたくない」「自分も悪かったから」と遠慮する必要はありません。 まずは、労災問題に精通した弁護士にご相談ください。あなたの状況を分析し、最適な解決策をご提案します。

労災関連のご質問・ご相談 グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。

労災分野では労災事故と後遺障害に集中特化した弁護士チームが、ご相談から解決まで一貫してサポートいたします。

初回相談無料:まずはお気軽にご状況をお聞かせください。

後遺障害労災申請のサポート:複雑な手続きもお任せいただけます。

全国対応・LINE相談も可能:お住まいの場所を問わずご相談いただけます。 労災事故で心身ともに大きな傷を負い、将来への不安を抱えていらっしゃるなら、決して一人で悩まないでください。お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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