産業用ボイラーで発生する労働災害について弁護士が解説

労災の中でも産業用ボイラーによる労災は発生件数が多いです。

産業用ボイラーによる労災の場合、重大な傷害が生じたり、場合によっては死亡に至ったりすることもあるため、正しい知識を持っておくことが非常に重要です。

このコラムでは、労働者として注意するべき点を詳しく解説します。

1 産業用ボイラーとは?

1 産業用ボイラーとは?

(1)産業用ボイラーとは?

産業用ボイラーとは、一言で言えば、「燃料を燃やした熱で水を加熱し、高いエネルギーを持った『蒸気』や『温水』を作り出す装置」のことです。

家庭用の給湯器を巨大化・高性能化させたものとイメージすると分かりやすいですが、その用途は単にお湯を沸かすだけでなく、工場の製造ラインを動かす動力源や殺菌・加熱など、産業の基盤を支える重要な役割を担っています。

(2)産業用ボイラーの種類

ア 炉筒煙管ボイラー

円筒形の本体の中に煙管が通っているタイプです。
構造が頑丈で、負荷の変動に強いです。
主に、クリーニング工場、中規模工場、病院の暖房などで使用されています。

イ 水管ボイラー

多数の水管を並べて加熱するタイプです。
高圧・大量の蒸気を素早く作るのが得意です。
大規模プラント、火力発電所、大規模工場などで使用されています。

2 産業用ボイラーで多発する事故類型

2 産業用ボイラーで多発する事故類型

産業用ボイラーは莫大なエネルギーを蓄えているため、一歩間違えると大規模な爆発や人命に関わる事故につながります。

厚生労働省などの統計や現場の事例に基づくと、主な事故類型は大きく分けて以下の4つに分類されます。

(1)破裂(圧力爆発)

ボイラー事故の中で最も恐ろしく、破壊力が大きいのが「破裂」です。
原因としては、以下のものが考えられます。

過圧:圧力調整器の故障や安全弁の固着により、設計圧力を超えてしまう。
腐食・摩耗:メンテナンス不足でボイラーの鋼板が薄くなり、圧力に耐えられなくなる。
空焚き:水位が下がった状態で加熱し続け、高温で強度が低下した鋼板に急に給水することで、一気に蒸気が膨張して爆発する。

(2)燃焼事故(異常燃焼・炉内爆発)

蒸気側ではなく、「燃料を燃やす側」で起きる事故です。
原因としては、以下のものが考えられます。

未燃ガスへの点火:失火した際に燃料ガスが炉内に充満し、そこに再点火しようとして爆発する。
換気不足:供給空気の不足により不完全燃焼が起き、一酸化炭素(CO)が発生・爆発する。

(3)水位不足による焼損(空焚き)

爆発まで至らなくても、頻繁に発生するのが「焼損」です。
原因としては、以下のものが考えられます。

水位制御装置の故障:自動給水が止まる、あるいは水位計が汚れで誤作動(水があると思い込む)する。
ブロー操作のミス:排水作業(ブロー)中にバルブを閉め忘れる。

(4)蒸気・熱湯による災害(火傷・噴出)

日常の運用やメンテナンス中に発生する事故です。
原因としては、以下のものが考えられます。

バルブ誤操作:圧力がかかっている状態で無理に蓋を開ける、あるいは点検中の配管に蒸気を送ってしまう。
ウォーターハンマー:配管内の凝縮水(ドレン)が蒸気に押し流され、激しい衝撃で配管やバルブを破壊する。

3 産業用ボイラーで発生する労働災害の現状

3 産業用ボイラーで発生する労働災害の現状

産業用ボイラーに関連する労働災害の具体的な件数は、厚生労働省や日本ボイラー協会が統計を公表しています。

結論から言うと、「ボイラー本体の爆発」による壊滅的な事故は技術進歩により激減していますが、点検・清掃中や操作ミスによる「火傷」や「ガス爆発」といった労働災害は、依然として毎年一定数発生し続けているのが現状です。最新の状況と傾向をまとめました。

(1)ボイラー事故の発生件数(年間推移)

日本ボイラー協会の分析や厚生労働省の統計を総合すると、ボイラーおよび圧力容器の事故件数は、近年年間80〜100件前後で推移しています。

1960年代は年間200件以上でしたが、近年は年間約80〜90件となっています。

(2)近年の傾向

統計データを見ますと、「操作・点検中」のヒューマンエラーを原因とする労災が主流になっています。

ボイラー自体の強度が上がり、ボイラーが勝手に爆発することは稀になりました。

これに代わって、「清掃中に誤ってバルブを開けた」「点火時の手順を省略した」といった作業者の不注意や手順ミスによる労災が目立ちます。

4 労働安全衛生法と使用者責任

4 労働安全衛生法と使用者責任

(1)労働安全衛生法の定め

産業用ボイラーは、一歩間違えれば爆弾のような破壊力を持つため、労働安全衛生法(安衛法)において非常に厳格な規制が設けられています。

主な規定は、「製造・設置」「資格・免許」「定期検査」の3つの柱で構成されています。

ア 製造と設置の規制(厳しい事前審査)

ボイラーを勝手に作ったり、設置したりすることはできません。

製造許可:厚生労働大臣の許可を受けた者しか製造できません。
落成検査:設置後、労働基準監督署長による検査(落成検査)に合格し、「ボイラー検査証」の交付を受けなければ使用できません。
変更・再使用:構造を変更したり、中古ボイラーを再設置したりする場合も、改めて検査が必要です。

イ 就業制限(資格と免許)

ボイラーの操作は、誰でもできるわけではありません。安衛法第61条に基づき、ボイラーの規模(伝熱面積)によって、選任すべき「ボイラー取扱作業主任者」の資格等級(特級〜二級)が厳格に決まっています。

ウ 定期的な検査(義務化された点検)

ボイラーの安全を維持するため、以下の点検・検査が義務付けられています。

定期自主検査(安衛則第88条):1ヶ月以内ごとに1回、事業者が自主的に点検し、記録を3年間保存しなければなりません。
チェック項目:本体の損傷、自動制御装置、燃焼装置、附属品の異常など。
性能検査(安衛法第38条):1年以内ごとに1回、登録性能検査機関(日本ボイラ協会など)による検査を受ける必要があります。これに合格しないと、ボイラー検査証の有効期間が更新されず、運転継続ができなくなります。

(2)使用者責任

会社の従業員のミス等で産業用ボイラーによる労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。

使用者責任とは、労働者を使用している者(使用者、会社)が、労働者が他者に損害を発生させた場合に、その損害を米証する責任を負うことです。

会社としては、使用者責任を追及された場合、使用者は、労働者の選任及び監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が発生するものであったことを立証しなければ、責任を免れません。

5 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

5 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付は国から受ける給付であり、会社への損害賠償請求は会社を相手方とする請求ですので、両者を並行して行うことは可能です。

もっとも、以下の点には注意が必要です。

(1) 二重取り(不当利得)はできない

労災保険で既に給付された分(例:治療費)は、損害賠償の金額から差し引かれる可能性があります。
ただし、慰謝料や逸失利益(将来の収入の補填)については差し引かれません。

(2)請求期限(時効)に注意

労災給付と会社への損害賠償請求には以下のように時効がありますので、これらを徒過しないように注意が必要です。

労災給付:原則として事故から2年以内
損害賠償:事故から5年以内(2020年4月以降の事故)

6 労災保険で受け取れる給付の種類

6 労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険で受け取れる給付には、主に、以下のようなものがあります。

(1)療養(補償)給付

治療費の全額を補償するものです。
病院での診察、入院、手術、投薬、リハビリなどの費用が対象です。
労災指定病院で受診すれば自己負担は基本的にゼロです。
基本的に、治療が必要な限り、治療費等が支給されます。

(2)休業(補償)給付

仕事を休まざるを得なくなった場合の給料の補償に相当するものです。
支給額は、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)です。
給付基礎日額は、事故前3か月の平均日給です。

(3)障害(補償)給付

後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級(1〜14級)に応じて「一時金」または「年金」が支給されます。
1級~7級は年金、8級~14級は一時金が支給されます。
この他に、特別支給金(国から上乗せ支給)も支給されることがあります。

7 会社への損害賠償請求

7 会社への損害賠償請求

(1)どのような請求ができるか

労災が発生した場合、会社に対して損害賠償することが考えられます。
法律的には、使用者責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。

(2)使用者責任

4(2)でご説明したとおり、会社の従業員の行為により、労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。

(3)安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求

会社には安全配慮義務(労働者の生命・身体を守るべき義務)があります。
会社がこの義務に違反していた場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
この請求を行うためには、会社にどのような安全配慮義務があり、それにどのように違反したのかを証明する必要があります。
そのため、事実関係を十分に把握し、詳細な検討が必要となります。

8 弁護士に労災を依頼するメリット

8 弁護士に労災を依頼するメリット

(1)損害賠償請求が有利に進む

労災保険の給付とは別に、会社の安全配慮義務違反があれば民事上の損害賠償請求ができます。

弁護士に依頼すれば、慰謝料や逸失利益などの請求が可能です(労災保険ではカバーされないものです。)。

(2)会社や保険会社との交渉を代行してくれる

会社が非協力的・冷たい態度をとるケースでも、弁護士が交渉窓口になることで精神的負担が激減します。
また、弁護士に依頼することで、労災申請を渋る会社に対して、法的な対応を促すことも可能です。

(3)複雑な労災申請の手続きを代行・サポートしてくれる

各種申請書(障害補償給付など)の記入支援や提出代行が可能です。
弁護士が入ることで、労働基準監督署との対応もスムーズになります。
特に長期休業・後遺障害・死亡事故では手続きが煩雑になりやすく、そのような場合は、弁護に依頼する方が良いでしょう。

9 当事務所のサポート内容

9 当事務所のサポート内容

当事務所では、会社に対する損害賠償請求や後遺障害申請のご依頼を受けています。
ご依頼を受けている内容や弁護士費用については、以下のページをご参照ください。

https://www.g-rosai.jp/

労災は手続きが複雑であり、会社に対する損害賠償請求にも専門的な知識が必要となりますので、労災に遭われた場合は、是非お早めにご相談ください。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎

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