
労災の中でも解体用機械による労災は発生件数が多いです。
解体用機械による労災の場合、重大な傷害が生じたり、場合によっては死亡に至ったりすることもあるため、正しい知識を持っておくことが非常に重要です。
このコラムでは、労働者として注意するべき点を詳しく解説します。
1 解体用機械とは?

「解体用機械」とは、建物や構造物を取り壊す(解体する)ために設計・改造された建設機械の総称です。
一般的には油圧ショベル(パワーショベル)をベースとしたものが多く、用途に合わせて先端のアタッチメントを付け替えたり、アームの長さを変更したりして使用されます。
(1) 主な解体用機械の種類
解体用機械は、大きく分けて「ベースマシン(本体)」と「アタッチメント(先端部分)」の組み合わせで決まります。
ア 油圧ショベル(ベースマシン)
最も一般的な解体機械の土台です。解体現場では、激しい振動や破片から運転手を守るために、キャビン(運転席)にガードが取り付けられた「解体仕様機」が使われます。
イ アタッチメントの種類
用途に応じて、以下のようなツールを先端に装着します。
圧砕機(大割・小割): 巨大なハサミのような形で、コンクリートを噛み砕きます。
鉄骨カッター: 鉄骨を強力な力で切断します。
ブレーカー: ノミのような先端を激しく打ち付け、岩石やコンクリートを砕きます(音が大きいのが特徴です)。
フォーク(つかみ): 木材や廃棄物をつかんで分別したり、積み込んだりします。
(2)特殊な解体機械
建物の高さや場所によっては、特殊な形状の機械が登場します。
ロングブーム・ハイリーチ仕様: アームを非常に長くしたタイプです。地上からビルの中層階~高層階(ビル4階〜10階程度など)を直接解体する際に使用されます。
ツーピースブーム: アームの関節が一つ多いタイプで、狭い場所での作業や、懐(ふところ)の深い場所の解体に適しています。
コンクリート圧砕機(サイレントクラッシャー): 騒音や振動を抑える必要がある市街地の解体で活躍します。
2 解体用機械で多発する事故類型

解体工事は建設業の中でも特に危険が伴う作業であり、厚生労働省の統計などでは、解体用機械(車両系建設機械)に関連する労働災害は主に以下の5つの類型に分類されます。
特に「つかみ機(フォーク)」による事故が全体の約8割近くを占めるというデータもあり、注意が必要です。
(1)挟まれ・巻き込まれ事故
機械の可動部や、アタッチメントと構造物の間に挟まれるケースです。
アタッチメント交換時: 接続ピンの抜き差し中にアタッチメントが倒れ、手足が挟まれる。
旋回時: 重機が旋回した際、後方のカウンターウェイトと壁の間に作業員が挟まれる。
点検中: エンジン停止を確認せずに内部を触り、ファンやベルトに巻き込まれる。
(2)飛来・落下事故
解体中の部材や、機械が掴んでいたものが落ちてくるケースです。
荷の脱落: 「つかみ機」で運搬中に、バランスを崩してH形鋼やコンクリート塊が落下し、下にいた作業員に当たる。
破片の飛来: コンクリート圧砕機やブレーカーの使用中に、破片が弾け飛んで運転手や周囲の人に激突する。
(3)転倒・転落事故
重機自体のバランスが崩れる、あるいは重機から人が落ちるケースです。
地盤の不同沈下: 瓦礫の上など不安定な場所で作業し、重機がバランスを崩して横転する。
過負荷: 能力以上の重量物をつかんだり、アームを伸ばしすぎたりして前方に転倒する。
乗り降り時の転落: 運転手がキャタピラやステップで足を滑らせて転落する。
(4)激突・接触事故
動いている重機に作業員が接触するケースです。
死角への立ち入り: 重機の死角(特に後方や側方)に作業員が入り込み、バックしてきた重機にひかれる。
合図の不徹底: 誘導員との連携不足により、重機が急に動いて周囲の作業員をなぎ倒す。
(5) 崩壊・倒壊事故
機械の操作によって、建物自体が予期せぬ方向に倒れてくるケースです。
解体手順のミス: 支柱を先に切断してしまい、外壁や屋根が重機の上に崩れ落ちてくる(下敷きになる)。
3 解体用機械で発生する労働災害の現状

解体用機械に関連する労働災害の統計について、厚生労働省や建設業労働災害防止協会(建災防)のデータ(令和4年〜令和6年確定値を含む)に基づき解説します。
解体工事全体では年間約30人前後の死亡者が出ており、その中でも「解体用機械」が直接関与する事故は非常に高い割合を占めています。
(1) 事故の型別
死亡災害の構成比建設業全体の死亡災害と比較すると、解体工事では「崩壊・倒壊」の割合が高いのが特徴です。
解体用機械が関わる事故の主な型は以下の通りです。
墜落・転落(約30〜40%): 機械自体の事故ではありませんが、解体用機械の操作ミスや振動により、作業員が屋根や足場から落ちるケースが最多です。
崩壊・倒壊(約10〜25%): 解体用機械で柱や壁を崩した際、予測に反して建物全体が崩れ、機械ごと下敷きになる、あるいは周囲の作業員を巻き込む事故です。
はさまれ・巻き込まれ(約10〜15%): 機械の旋回部や、アタッチメント(ハサミ部分)と構造物の間に挟まれる事故です。
飛来・落下(約5〜10%): 機械で掴んでいた廃材が落下する、あるいはコンクリート破片が飛散して直撃するケースです。
(2)起因物別の傾向
どの機械が危ないのか「建設機械」が原因となる死亡事故のうち、解体用機械の占める割合は以下の通りです(令和5年確定値ベース)。
起因物の種類死亡者数(建設業全体)
特徴掘削用機械(ユンボ等)約18〜20人土木作業全般を含むため最多解体用機械(ニブラ等)約4〜6人台数は掘削用より少ないが、重篤度が高い締固め用機械約3〜5人転倒や轢過(ひかれる)が多い
注目すべき点:解体現場での「飛来・落下」事故の約4割は、解体用機械(つかみ機など)による「つり荷の落下」が原因であるという分析結果があります。本来は「吊り具」ではないアタッチメントに無理やりワイヤーをかけて荷を吊り、外れてしまうケースが目立ちます。
(3)アタッチメント別の事故傾向
統計上、特に「つかみ機(フォーク・ニブラ)」による事故が目立ちます。
つかみ機(約8割): 廃材の積み込みや仕分け中に、掴んでいたものが滑り落ちて下の人に当たる事故が多発しています。
ブレーカー: 破砕時の激しい振動による重機自体の転倒や、破片の飛散による負傷が多い傾向にあります。4. 近年の傾向と課題住宅解体の増加: 空き家問題に伴い、狭い土地での解体作業が増えており、隣接建物や電線との接触事故、小規模事業所(10人未満)での労災発生率が高いのが課題です。
不適切な使用: 統計によると、解体用機械を「クレーン代わり(荷吊り)」に使用したことによる事故が絶えません。これは法律で原則禁止(専用のクレーン機能付き機体を除く)されていますが、現場での安易な判断が事故を招いています。
4 労働安全衛生法と使用者責任

(1)労働安全衛生法の定め
解体用機械に関する労働安全衛生法(および労働安全衛生規則)の規定は、主に「使用上の規制」「資格」「点検」の3つの柱で構成されています。特に平成25年(2013年)の法改正により、それまでの「ブレーカー」だけでなく、「鉄骨切断機」「コンクリート圧砕機」「解体用つかみ機」も正式に規制対象となりました。
ア 使用に関する安全規定
事故を防ぐため、現場での運用には厳しい制限があります。
立入禁止の義務(第171条の6):解体物の飛来や機械の旋回による危険がある場所には、運転者以外の労働者を立ち入らせてはいけません。
運転室のない機械の使用禁止(第171条の5):破片が飛んでくる恐れがある場合、ガード付きの運転室がない機械を使用してはいけません(ミニショベルにハサミを付けただけなどはNG)。
転倒の防止(第171条の4):路肩や傾斜地など、転倒の恐れがある場所での使用は原則禁止されています。特にアームが12m以上の「特定解体用機械」はより厳格です。
アタッチメントの制限(第166条の3):機械の構造上、定められた重量を超えるアタッチメントを装着することは禁止されています。
イ 教育に関する安全規定
運転に必要な資格機械の大きさ(機体質量)によって、必要な教育が異なります。区分必要な資格対象3トン以上車両系建設機械(解体用)運転技能講習大型のニブラやブレーカーなど3トン未満小型車両系建設機械(解体用)特別教育ミニショベルベースの解体機など注意: 「整地・運搬・積込み用(ユンボ等)」の免許を持っていても、解体用アタッチメント(ブレーカーやハサミ)を使うには、別途この**「解体用」の資格**が必要です。
ウ 検査に関する規定
特定自主検査(年次点検):1年以内に1回、有資格者や検査業者による定期検査を受けなければなりません。
定期自主検査(月次点検):1ヶ月以内に1回、ブレーキやクラッチ、作業装置の異常を確認する必要があります。
作業開始前点検:その日の作業を始める前に、必ず点検を行わなければなりません。
エ 構造規格(ヘッドガード等)
前面ガードの設置: 鉄骨切断機や圧砕機は、運転席の前面に飛来物防止用のガード(安全ガラスやネットなど)を備えることが義務付けられています。
ヘッドガード: 落石や構造物の倒壊の恐れがある場所では、堅固なヘッドガード(屋根の保護)が必要です。
(2)使用者責任
会社の従業員のミス等で解体用機械による労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
使用者責任とは、労働者を使用している者(使用者、会社)が、労働者が他者に損害を発生させた場合に、その損害を米証する責任を負うことです。
会社としては、使用者責任を追及された場合、使用者は、労働者の選任及び監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が発生するものであったことを立証しなければ、責任を免れません。
5 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付は国から受ける給付であり、会社への損害賠償請求は会社を相手方とする請求ですので、両者を並行して行うことは可能です。
もっとも、以下の点には注意が必要です。
(1) 二重取り(不当利得)はできない
労災保険で既に給付された分(例:治療費)は、損害賠償の金額から差し引かれる可能性があります。
ただし、慰謝料や逸失利益(将来の収入の補填)については差し引かれません。
(2)請求期限(時効)に注意
労災給付と会社への損害賠償請求には以下のように時効がありますので、これらを徒過しないように注意が必要です。
労災給付:原則として事故から2年以内
損害賠償:事故から5年以内(2020年4月以降の事故)
6 労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険で受け取れる給付には、主に、以下のようなものがあります。
(1)療養(補償)給付
治療費の全額を補償するものです。
病院での診察、入院、手術、投薬、リハビリなどの費用が対象です。
労災指定病院で受診すれば自己負担は基本的にゼロです。
基本的に、治療が必要な限り、治療費等が支給されます。
(2)休業(補償)給付
仕事を休まざるを得なくなった場合の給料の補償に相当するものです。
支給額は、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)です。
給付基礎日額は、事故前3か月の平均日給です。
(3)障害(補償)給付
後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級(1〜14級)に応じて「一時金」または「年金」が支給されます。
1級~7級は年金、8級~14級は一時金が支給されます。
この他に、特別支給金(国から上乗せ支給)も支給されることがあります。
7 会社への損害賠償請求

(1)どのような請求ができるか
労災が発生した場合、会社に対して損害賠償することが考えられます。
法律的には、使用者責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。
(2)使用者責任
3(2)でご説明したとおり、会社の従業員の行為により、労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
(3)安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
会社には安全配慮義務(労働者の生命・身体を守るべき義務)があります。
会社がこの義務に違反していた場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
この請求を行うためには、会社にどのような安全配慮義務があり、それにどのように違反したのかを証明する必要があります。
そのため、事実関係を十分に把握し、詳細な検討が必要となります。
8 弁護士に労災を依頼するメリット

(1)損害賠償請求が有利に進む
労災保険の給付とは別に、会社の安全配慮義務違反があれば民事上の損害賠償請求ができます。
弁護士に依頼すれば、慰謝料や逸失利益などの請求が可能です(労災保険ではカバーされないものです。)。
(2)会社や保険会社との交渉を代行してくれる
会社が非協力的・冷たい態度をとるケースでも、弁護士が交渉窓口になることで精神的負担が激減します。
また、弁護士に依頼することで、労災申請を渋る会社に対して、法的な対応を促すことも可能です。
(3)複雑な労災申請の手続きを代行・サポートしてくれる
各種申請書(障害補償給付など)の記入支援や提出代行が可能です。
弁護士が入ることで、労働基準監督署との対応もスムーズになります。
特に長期休業・後遺障害・死亡事故では手続きが煩雑になりやすく、そのような場合は、弁護に依頼する方が良いでしょう。
9 当事務所のサポート内容

当事務所では、会社に対する損害賠償請求や後遺障害申請のご依頼を受けています。
ご依頼を受けている内容や弁護士費用については、以下のページをご参照ください。
労災は手続きが複雑であり、会社に対する損害賠償請求にも専門的な知識が必要となりますので、労災に遭われた場合は、是非お早めにご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





