
テールゲートリフターは運送業等で広く使われている分、それに起因する労災も多く発生しています。
このような労災に遭った場合、適切な賠償を得るためには、会社にどのような落ち度があるか等を知っておく必要があります。
このコラムでは、実務で重要な点を詳しく解説します。
1 テールゲートリフターとは?

テールゲートリフター(以下「TGL」といいます。)とは、トラックの荷台後部に装着された荷物積み降ろし用の昇降装置で、重い荷物の積み降ろしに大変重宝する機械です。パワーゲートとも呼ばれることがあります。
TGLを利用するとフォークリフトなどの荷役運搬機械が使えない場所でも荷物の積み降ろしが可能になるため、荷役時間の短縮につながり、作業者の負担を軽減できることから業務の効率化に大きく貢献する装置といえるでしょう。近年はトラックドライバーの高齢化や国土交通省が中小企業向けに補助事業(2023年9月時点)を行っていることから、普及が進みつつあります。
2 テールゲートリフターで多発する事故類型

テールゲートリフターを使用していて発生する労災には、主に以下のような類型があります。
(1) 挟まれ・巻き込まれ事故
昇降中にリフターと荷台の隙間に手足が挟まれる。
荷物を支えているときにリフターが予期せず下降し、身体が挟まる。
操作中に他の作業者がリフターの可動部に接近して挟まれる。
例:荷物を載せたままリフターを上昇させていたところ、横で補助していた同僚の足が昇降台と地面の間に挟まれて骨折。
(2)墜落・転落事故
作業者がリフター上から地面に落下。
荷物のバランスを崩して荷とともに転落。
特に雨天時や油の付着で滑りやすくなった台上で多発。
例:荷下ろし作業中に台上から後方に転倒し、腰部を骨折。
(3) 荷の落下による災害
荷が固定されておらず、昇降中に転倒・滑落。
パレット積み荷がバランスを崩して作業者に衝突。
重量物(飲料ケース、鋼材など)が頭部・足部に落下。
(4)操作ミス・誤作動による事故
二人以上で作業中、意思疎通不足により誤って操作。
リモコン操作のケーブルが破損・誤作動。
操作スイッチを誤って押してしまい、リフターが急降下。
(5)主な原因
これらの事故の主な原因としては、安全確認・声かけ不足、荷の固定不良や過積載、操作スイッチの誤操作、メンテナンス不十分(油漏れ・センサー不良など)、作業マニュアルの不徹底、単独作業での無理な姿勢・動作等が考えられます。
3 テールゲートリフターで発生する労働災害の現状

(1)労災の発生状況
労働安全衛生総合研究所 の報告によると、2011 年および 2012 年の休業4日以上の労災データを用い、テールゲートリフターに起因する労災の推計を行ったところ、「年間約 558~632 件(全体の0.49~0.53%)」との推定が出ています。
同報告によれば、これらの労災のうち、約 7割 が荷台・昇降板(プラットホーム)からの「転落・墜落」によるもの、という分析があります。
被災タイプの分類としては以下のような比率が示されています。
作業者の転倒・転落・飛び降り:78件(24.6%)
荷の転倒・転落による下敷き等:72件(22.7%)
荷・作業者の転倒・転落・下敷き等:56件(17.7%)
昇降板と荷台との間にはさまれ:65件(20.5%)
業種別では、運輸交通業および貨物運送業(陸運業)が約8割を占める、という分析があります。
(2)労災の傾向と特徴
多くの災害が「荷台・昇降板からの転落・墜落」や「荷の倒れ・転落による下敷き」といった、荷役および昇降操作時の危険性に起因しています。
「昇降板と荷台との間に挟まれる(はさまれ)事故」も約2割程度発生しており、隙間・接触というメカニズムも相当数あります。
荷物・荷役環境の状況(例えば荷の重量、荷台高さ、作業者の姿勢・動作、床面・昇降板の傾き等)が、災害リスクを高めているとの分析があります。
業界的には、物流・運送関係作業(トラック荷役)で特に発生頻度が高いという傾向が明らかになっています。
4 労働安全衛生法等の関係法規と使用者責任

(1) 労働安全衛生法の基本的な適用条文
ア 第20条(事業者の講ずべき措置)
事業者は、労働者の危険または健康障害を防止するため、必要な措置を講じなければならない。
→TGL使用作業では、操作方法の周知、安全装置の点検、教育の実施などが「必要な措置」に該当します。
イ 第22条(機械等の危険防止措置)
事業者は、機械・器具・その他の設備について、労働者に危険を及ぼすおそれがある場合は、覆い・囲い・安全装置その他の防護措置を講じなければならない。
→TGLは「昇降装置」に該当するため、
・昇降台と荷台の隙間に挟まれない構造
・非常停止スイッチや安全バーの設置
・定期点検による作動確認
が義務的な安全措置とされます。
ウ 第59条(安全衛生教育)
事業者は、労働者を就業させるときは、その業務に関する安全又は衛生のための教育を行わなければならない。
→TGLの操作や荷役作業を行う労働者には、
・操作方法・危険ポイント・合図方法
・荷の固定・転落防止措置
・非常時対応(挟まれ・落下事故時の初動)
などの安全教育が義務づけられます。
(2)労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)で関係する条文
ア 第36条(機械等の点検)
事業者は、機械・器具を使用するに当たり、異常がないことを確認しなければならない。
→TGLの油漏れ、リモコン・スイッチの動作、昇降板の傾きや変形などを始業点検する義務があります。
イ 第151条の19(荷役作業)
荷を積卸しする作業においては、転倒、転落又は落下による危険を防止するため、必要な措置を講じなければならない。
→ TGLを使う荷下ろし作業はこの条項に該当。
「荷の転倒・落下防止」「作業者の墜落防止」「人が近づかない措置」が求められます。
ウ 第518条(機械等の検査・整備)
事業者は、機械等を定期的に検査し、異常を認めたときは補修その他必要な措置を講じなければならない。
→ TGLの油圧装置・電気配線・安全装置などは定期点検が必要です。
(3)関連する通達・指針
ア 厚生労働省通達
「テールゲートリフターの安全な取扱いについて」(基発1226第3号、平成26年12月26日)
→ 現場での指導・教育に最も重要な文書。
主な内容:TGLの構造・作動原理の理解、作業前点検・合図・声かけの励行、荷の固定と人の立ち位置の確保、作業中の立入禁止措置、操作者教育の実施
※この通達は**労働安全衛生法第20条・第22条の「危険防止措置義務」**の具体化として位置づけられています。
(4)トラック協会・厚労省作成のガイドライン
ア「テールゲートリフター安全取扱指針」(国土交通省・厚労省)
→ 構造基準・操作教育・安全確認手順を整理
イ「荷役作業安全ガイドライン」
→ TGLを含む荷役機械の安全確保方法を具体的に説明
(5)使用者責任
会社の従業員のミス等でテールゲートリフターに起因する労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
使用者責任とは、労働者を使用している者(使用者、会社)が、労働者が他者に損害を発生させた場合に、その損害を米証する責任を負うことです。
会社としては、使用者責任を追及された場合、使用者は、労働者の選任及び監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が発生するものであったことを立証しなければ、責任を免れません。
5 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付は国から受ける給付であり、会社への損害賠償請求は会社を相手方とする請求ですので、両者を並行して行うことは可能です。
もっとも、以下の点には注意が必要です。
(1) 二重取り(不当利得)はできない
労災保険で既に給付された分(例:治療費)は、損害賠償の金額から差し引かれる可能性があります。
ただし、慰謝料や逸失利益(将来の収入の補填)については差し引かれません。
(2)請求期限(時効)に注意
労災給付と会社への損害賠償請求には以下のように時効がありますので、これらを徒過しないように注意が必要です。
労災給付:原則として事故から2年以内
損害賠償:事故から5年以内(2020年4月以降の事故)
6 労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険で受け取れる給付には、主に、以下のようなものがあります。
(1)療養(補償)給付
治療費の全額を補償するものです。
病院での診察、入院、手術、投薬、リハビリなどの費用が対象です。
労災指定病院で受診すれば自己負担は基本的にゼロです。
基本的に、治療が必要な限り、治療費等が支給されます。
(2)休業(補償)給付
仕事を休まざるを得なくなった場合の給料の補償に相当するものです。
支給額は、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)です。
給付基礎日額は、事故前3か月の平均日給です。
(3)障害(補償)給付
後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級(1〜14級)に応じて「一時金」または「年金」が支給されます。
1級~7級は年金、8級~14級は一時金が支給されます。
この他に、特別支給金(国から上乗せ支給)も支給されることがあります。
7 会社への損害賠償請求

(1)どのような請求ができるか
労災が発生した場合、会社に対して損害賠償することが考えられます。
法律的には、使用者責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。
(2)使用者責任
3(2)でご説明したとおり、会社の従業員の行為により、労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
(3)安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
会社には安全配慮義務(労働者の生命・身体を守るべき義務)があります。
会社がこの義務に違反していた場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
この請求を行うためには、会社にどのような安全配慮義務があり、それにどのように違反したのかを証明する必要があります。
そのため、事実関係を十分に把握し、詳細な検討が必要となります。
8 弁護士に労災を依頼するメリット

(1)損害賠償請求が有利に進む
労災保険の給付とは別に、会社の安全配慮義務違反があれば民事上の損害賠償請求ができます。
弁護士に依頼すれば、慰謝料や逸失利益などの請求が可能です(労災保険ではカバーされないものです。)。
(2)会社や保険会社との交渉を代行してくれる
会社が非協力的・冷たい態度をとるケースでも、弁護士が交渉窓口になることで精神的負担が激減します。
また、弁護士に依頼することで、労災申請を渋る会社に対して、法的な対応を促すことも可能です。
(3)複雑な労災申請の手続きを代行・サポートしてくれる
各種申請書(障害補償給付など)の記入支援や提出代行が可能です。
弁護士が入ることで、労働基準監督署との対応もスムーズになります。
特に長期休業・後遺障害・死亡事故では手続きが煩雑になりやすく、そのような場合は、弁護に依頼する方が良いでしょう。
9 当事務所のサポート内容

当事務所では、会社に対する損害賠償請求や後遺障害申請のご依頼を受けています。
ご依頼を受けている内容や弁護士費用については、以下のページをご参照ください。
https://www.g-rosai.jp/
労災は手続きが複雑であり、会社に対する損害賠償請求にも専門的な知識が必要となりますので、労災に遭われた場合は、是非お早めにご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





