建設現場や製造工場など、日本の産業を支える現場では、元請けだけでなく多く下請け業者が関わって作業が進められています。しかし、労働災害の発生状況を見ると、残念ながら下請け労働者の方が被災するケースが目立っているのが実情です。

万が一、仕事中や通勤中に事故に遭った場合、下請けという立場から労災申請をためらってしまう方も少なくありません。本記事では、下請け労働者を取り巻く労災の実態と、弁護士に相談するメリットについて解説します。

下請け労災の実態

下請け労災の実態

厚生労働省の統計によれば、令和5年の労働災害による死傷者数は 135,371人に上ります。

特に建設業は深刻で、死傷者数が 17,347人(全体の12.8%)を占め、死亡災害は 223人で全産業の中で最多となっています。

注目すべきはその災害原因です。建設業の死亡原因の約4割は「墜落・転落」であり、これは下請け作業者が従事することの多い高所作業に集中している傾向があります。

また、製造業においても「はさまれ・巻き込まれ」による事故が多発しており、これらも下請け比率の高い金属加工や組立工程で発生しやすい労災です。施工体系別の分析でも、事故の多くが一次・二次・三次といった下請け業者によって発生していることが指摘されています。

なぜ下請け労働者に事故が集中するのか

なぜ下請け労働者に事故が集中するのか

労災事故が下請け労働者に集中する背景には、いくつかの構造的な理由が考えられます。

危険作業の担当: 元請けの社員と比較して、下請け労働者は高所作業や重量物の取り扱いなど、より危険度の高い現場作業を任される割合が高い傾向があります。

事業場の規模: 統計上、労災の約60%が従業員50人未満の小規模事業場で発生しています。これは、安全管理体制が十分でない場合がある下請け・孫請けといった規模の事業場に事故が偏在していることを示唆しています。

安全体制の不備: 元請けによる現場管理は行われているものの、下請け業者に対する安全教育が徹底されていなかったり、必要な安全装置(墜落防止措置など)が不備であったりするケースも散見されます。

労災申請をためらう下請け労働者の不安

労災申請をためらう下請け労働者の不安

下請けという立場は、労災申請において大きな心理的障壁となることがあります。

「労災申請をしたら、元請けから仕事が切られるのではないか」
「現場に迷惑をかけたら、次の契約に響くのではないか」

このような懸念から、ケガをしても我慢してしまったり、会社(事業主)の指示で労災を使わずに治療したりする「労災隠し」が行われるケースが後を絶ちません。

しかし、労災保険の申請は、雇用形態(正社員、パート、アルバイト、一人親方など)に関わらず、労働者に認められた正当な権利です。

元請けや会社が、労災申請を理由に取引を打ち切ったり、解雇したりするなどの不利益な取り扱いをすれば、不当労働行為に該当する可能性があります。

労災保険の給付内容について

労災保険の給付内容について

業務中の事故であれば、労災保険から以下の給付が受けられます。

  • 療養(補償)給付: 治療費、入院費、手術代など。原則自己負担はありません。
  • 休業(補償)給付: 療養のため働けない期間の4日目から、休業1日につき給付基礎日額(事故前3ヶ月の平均賃金)の80%が支給されます(特別給付含む)。
  • 障害(補償)給付: 治療を続けても症状が改善しなくなった状態(症状固定)で、後遺障害が残った場合に、その等級(第1級~第14級)に応じて年金または一時金が支給されます。
  • 遺族(補償)給付・葬祭料: 労働者が死亡した場合に、遺族の生活保障のための年金や一時金、葬儀費用が支給されます。
  • 介護(補償)給付: 障害等級第1級または第2級の重い障害が残り、介護が必要な場合に支給されます。

【重要】しかし、労災保険では「慰謝料」は支払われません
ご覧の通り、労災保険は治療費や収入の補填が中心です。事故によって被った精神的苦痛に対する「慰謝料」や、後遺障害によって苦痛を受けた「後遺障害慰謝料」及び生涯にわたり失われた収入=逸失利益は、労災保険の給付対象外です。この不足分を補うために、次の「会社への損害賠償請求」が極めて重要になります。
※逸失利益は一部支給

慰謝料について

慰謝料には、主に2つの種類があります。

  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    事故日から症状固定日までの間、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する補償です。入院期間や通院期間が長くなるほど、金額は高くなります。
  • 後遺障害慰謝料
    症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。

具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。

等級後遺障害慰謝料の金額
1級2800万円
2級2370万円
3級1990万円
4級1670万円
5級1400万円
6級1180万円
7級1000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

会社への損害賠償請求について

会社への損害賠償請求について

労災保険とは別に、事故の原因が会社側にある場合、民法上の不法行為(709条)または労働契約法上の安全配慮義務違反(5条)を根拠に、会社に対して損害賠償を請求することができます。

事業者は、労働者が安全で健康に働けるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。これは法律で定められた絶対的な義務です。会社が安全対策を怠っていた場合、義務違反に問われる可能性が高くなります。

弁護士に相談するメリット

弁護士に相談するメリット

下請けという立場で会社や元請けと交渉することに不安がある場合こそ、法律の専門家である弁護士に相談するメリットは大きくなります。

労災保険給付の申請サポート

労災認定を受けるための複雑な申請手続き(初回請求)を弁護士がサポートします。万が一、労働基準監督署から不支給の決定がなされた場合でも、不服申立て(審査請求)の手続きを迅速に進めることができます。

後遺障害等級認定の支援

治療を尽くしても症状が残ってしまった場合(症状固定)、後遺障害等級の認定を受けることが重要です。もし認定された等級が不当に低い場合でも、不服申立てを行い、適正な等級を得るための手続きを行うこともできます。

また、どのような後遺障害が認定されるかは事前にある程度予測ができるので、それに沿って対策を建てることもできます。

元請けへの損害賠償請求

労災事故が、元請けや会社の「安全配慮義務違反」(例:墜落防止措置の未設置、危険な作業の黙認など)によって発生した場合、民事上の損害賠償請求が可能です。これは、下請け労働者であっても可能です。ただし、裁判例で蓄積された条件として、「特別な社会的接触」という条件はあります。

つまり、元請会社と下請会社の従業員との間にある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係が認められる場合には安全配慮義務が生じるとされています。

とある裁判例では、以下のような基準を用いています。

「「右認定事実によれば、上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

すべての下請けが、元請けに損害賠償請求ができるとは限りませんが、気になる方は弁護士に相談するのが良いです。

労災給付では補えない部分のカバー

労災に遭ってしまった場合なぜ弁護士が必要なのでしょうか。それは、上でご説明したように、慰謝料は労災からは支給されませんし、後遺障害を負った場合の逸失利益の補償も不十分であるからです。

また、労災が認められたとしても、されに請求をするためには、自分が所属する会社を相手に損害賠償請求を行う必要があります。

ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。

会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、まずは弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社と裁判をする必要もあります。

労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

労災関連のご質問・ご相談

労災関連のご質問・ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。労災分野では労災事故と後遺障害に集中特化した弁護士チームが、ご相談から解決まで一貫してサポートいたします。

初回相談無料:まずはお気軽にご状況をお聞かせください。
後遺障害労災申請のサポート:複雑な手続きもお任せいただけます。
全国対応・LINE相談も可能:お住まいの場所を問わずご相談いただけます。

労災事故で心身ともに大きな傷を負い、将来への不安を抱えていらっしゃるなら、決して一人で悩まないでください。お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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