【残業代】残業代の正しい計算方法と知っておくべきポイント

労働基準法に基づき、企業は従業員が法定労働時間を超えて労働した場合、または法定休日に労働させた場合に、通常の賃金に一定の割増賃金を上乗せして残業代を支払う義務があります。この残業代の計算は複雑に感じられるかもしれませんが、基本的な計算式といくつかのルールを理解すれば、正確に算出することが可能です。

残業代の基本計算式

残業代の基本計算式

残業代の計算は、以下のシンプルな式が基本となります。

残業代 = 1時間当たりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間数

この式を構成する3つの要素をそれぞれ詳しく見ていきましょう。

1時間当たりの基礎賃金の算出方法

1時間当たりの基礎賃金の算出方法

残業代計算の最初のステップは、1時間当たりの基礎賃金を正確に算出することです。

ここで注意すべきは、「総賃金」に含まれるものと除外されるものがある点です。

1時間当たりの基礎賃金 = (1か月の総賃金 – 除外される手当) ÷ 月平均所定労働時間

となりますので、この除外される手当がどのようなものかが重要となります。

1か月の総賃金から除外される手当

残業代計算における「基礎賃金」には、以下の手当は含まれません。これらは労働基準法によって明確に定められています。

  • 時間外労働手当:残業代そのものであるため、基礎賃金には含みません。
  • 休日労働手当:法定休日に働いたことに対する手当であり、基礎賃金には含みません。
  • 深夜労働手当:深夜に働いたことに対する手当であり、基礎賃金には含みません。
  • 家族手当:扶養家族の人数などに応じて支給される手当です。
  • 通勤手当:通勤にかかる費用を補助するための手当です。
  • 別居手当:単身赴任などで家族と別居している場合に支給される手当です。
  • 子女教育手当:子どもの教育費を補助するための手当です。
  • 住宅手当:住居にかかる費用を補助するための手当です。
  • 臨時に支払われた賃金:結婚手当や出産手当など、一時的に支払われる賃金です。
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金:ボーナスなど、1か月以上の期間を対象として支払われる賃金です。

これらの手当を除いた「1か月の総賃金」が、残業代計算の基礎となります。

月平均所定労働時間の算出方法

月平均所定労働時間の算出方法

次に、「月平均所定労働時間」を算出します。これは、会社が定めた通常の労働時間(所定労働時間)を月単位で平均したものです。

月平均所定労働時間 = 年間所定労働時間 ÷ 12か月

年間所定労働時間は、会社の就業規則などで確認できます。例えば、週40時間労働で年間休日が120日の場合、年間所定労働時間は「(365日 – 120日) × (40時間 ÷ 5日)」といった形で計算できます。

残業の種類と割増率

残業の種類と割増率

残業にはいくつかの種類があり、それぞれ適用される割増率が異なります。これは、労働者に対する負担の度合いや、労働時間に関する法的な規制を反映したものです。

残業の種類割増率適用条件
時間外労働(月60時間以内)125% (1.25倍)法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて労働した場合の、月60時間までの時間外労働。
時間外労働(月60時間超)150% (1.5倍)月60時間を超える時間外労働。中小企業については、2023年4月1日より適用が義務化されました。
休日労働135% (1.35倍)法定休日(週に1日、または4週間に4日)に労働した場合。就業規則で定められた所定休日は含まれません。
深夜労働125% (1.25倍)午後10時から午前5時までの間に労働した場合。
時間外労働かつ深夜労働150% (1.5倍)時間外労働が深夜時間帯にかかる場合(125% + 25%)。月60時間を超える時間外労働の場合は175% (1.75倍)。
休日労働かつ深夜労働160% (1.6倍)休日労働が深夜時間帯にかかる場合(135% + 25%)。

これらの割増率は重複して適用される場合があるため、正確な判断が重要です。

例えば、深夜に時間外労働を行った場合は、時間外労働の割増率と深夜労働の割増率が合算されます。

具体的な計算例

具体的な計算例

1時間当たりの基礎賃金が3000円の場合を想定し、具体的な残業代の計算例を見ていきましょう。

時間外労働の場合

<時間外労働が月に20時間の場合(月60時間以内)>
残業代 = 3000円 × 1.25 × 20時間 = 75,000円

月60時間を超える時間外労働の場合

<時間外労働が月に70時間の場合>
60時間までの時間外労働:3000円 × 1.25 × 60時間 = 225,000円
60時間を超える時間外労働(10時間):3000円 × 1.50 × 10時間 = 45,000円
合計残業代 = 225,000円 + 45,000円 = 270,000円

休日労働の場合

<法定休日に8時間労働した場合>
残業代 = 3000円 × 1.35 × 8時間 = 32,400円

深夜労働の場合

<通常の労働時間内で深夜に3時間労働した場合>
残業代 = 3000円 × 1.25 × 3時間 = 11,250円

時間外労働かつ深夜労働の場合

<午後9時から午前2時まで(5時間)時間外労働をした場合>
午後9時~午後10時(1時間):時間外労働のみ = 3000円 × 1.25 × 1時間 = 3,750円
午後10時~午前2時(4時間):時間外労働かつ深夜労働 = 3000円 × 1.50 × 4時間 = 18,000円
合計残業代 = 3,750円 + 18,000円 = 21,750円

もし、この時間外労働が月60時間を超える部分であった場合、深夜労働の割増率は1.75倍になります。

休日労働かつ深夜労働の場合

<法定休日に午後10時から午前3時まで(5時間)労働した場合>
残業代 = 3000円 × 1.60 × 5時間 = 24,000円

残業代計算におけるその他の重要事項

残業代計算におけるその他の重要事項

変形労働時間制について

変形労働時間制を導入している企業では、一定期間(1週間、1か月、1年など)を平均して法定労働時間を超えなければ、特定の日に法定労働時間を超えても残業代が発生しない場合があります。

ただし、この制度も労働基準法に基づいた厳格な要件を満たす必要があります。

管理監督者について

労働基準法上の「管理監督者」に該当する従業員は、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。

そのため、原則として時間外労働手当や休日労働手当は発生しません。しかし、深夜労働手当は適用されます。

ただし、形式的に役職名が付いているだけで実態が伴わない場合は、管理監督者とは認められず、残業代の支払い義務が発生します。

みなし残業(固定残業代)について

みなし残業(固定残業代)制度は、実際の残業時間にかかわらず、毎月一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。この制度が有効であるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 基本給と固定残業代が明確に区分されていること
  • 固定残業代が何時間分の残業代として支給されているか明確であること
  • 固定残業時間を超えて労働した場合には、別途超過分の残業代が支払われること

これらの要件が満たされていない場合や、固定残業時間を大幅に超える残業が発生しているにもかかわらず、超過分の残業代が支払われない場合は、違法となる可能性があります。

労働時間の把握

企業は、労働者の労働時間を適正に把握する義務があります。これは、残業代を正確に計算し、未払いを防ぐ上で極めて重要です。

タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など、客観的な方法で労働時間を記録することが求められます。

未払い残業代が発生した場合

未払い残業代が発生した場合

もし、残業代が正しく支払われていないと感じる場合は、以下の対応を検討することができます。

  1. 証拠の収集:労働時間を示す記録(タイムカードのコピー、業務日報、メールの送受信履歴など)、給与明細、雇用契約書、就業規則などを可能な限り集めます。
  2. 会社への相談:まずは会社の人事担当者や上司に、未払い残業代がある旨を伝え、是正を求めます。
  3. 労働基準監督署への相談:会社との交渉で解決しない場合、労働基準監督署に相談し、助言や指導を求めることができます。必要に応じて、労働基準監督署が調査を行い、会社に是正勧告を出すこともあります。
  4. 弁護士への相談:法的な手続きが必要となる場合や、複雑なケースでは、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。内容証明郵便の送付、労働審判、訴訟などの手段を検討できます。

まとめ

まとめ

残業代の計算は、労働者の権利を守る上で非常に重要です。1時間当たりの基礎賃金、割増率、残業時間数の3つの要素を理解し、ご自身の残業代が正しく計算されているかを確認することが大切です。もし、計算方法に疑問がある場合や未払い残業代の可能性がある場合は、適切な機関に相談し、対応を検討しましょう。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

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