デジタル遺言の議論

2023年5月、政府がデジタル遺言の制度を検討していることが報道されました。

今回は、さいたま市大宮区で30年以上の歴史を持ち、「相続専門チーム」を擁する弁護士法人グリーンリーフ法律事務所が、デジタル遺言について解説を行います。

遺言とは

遺言とは

遺言とは

遺言とは、遺言者の最終の意思を表すもので、法的な意味での遺言としては、遺言者=被相続人が、自身の死後、自身の財産をどのように処分すべきかを記載した意思表示と言えます。

遺言の方式

遺言の方式

遺言は、厳格な方式が定められています。

民法

第七章 遺言
第一節 総則
(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
(遺言能力)
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第九百六十二条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
(相続人に関する規定の準用)
第九百六十五条 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。
(被後見人の遺言の制限)
第九百六十六条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
第二節 遺言の方式
第一款 普通の方式
(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第九百七十一条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
(秘密証書遺言の方式の特則)
第九百七十二条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。
(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
(共同遺言の禁止)
第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
第二款 特別の方式
(死亡の危急に迫った者の遺言)
第九百七十六条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
(伝染病隔離者の遺言)
第九百七十七条 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(在船者の遺言)
第九百七十八条 船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(船舶遭難者の遺言)
第九百七十九条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4 第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。
(遺言関係者の署名及び押印)
第九百八十条 第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
(署名又は押印が不能の場合)
第九百八十一条 第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
(普通の方式による遺言の規定の準用)
第九百八十二条 第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
(特別の方式による遺言の効力)
第九百八十三条 第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。
(外国に在る日本人の遺言の方式)
第九百八十四条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。この場合においては、第九百六十九条第四号又は第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者及び証人は、第九百六十九条第四号又は第九百七十条第一項第四号の印を押すことを要しない。

普通方式の遺言

遺言とは

上記の通り、死亡危急時や遭難時など特殊の場合を除き、普通方式の遺言は3つの種類が定められています。

①普通証書遺言

②公正証書遺言

③秘密証書遺言

このうち、①の普通証書遺言については、一定の条件を満たせば財産目録をパソコンなどで作成し印刷したものとすることができる以外は、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないとされ、自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押すことが必要とされています。

なぜデジタル化の議論が出ているか

なぜデジタル化の議論が出ているか

内閣府の規制改革推進会議の議事録等によれば、デジタル遺言の必要性=現在の自筆証書遺言の問題点は、次のようなところにあるようです。

①手書きのため、財産が多い場合などやデジタル資産がある場合に気軽に作成することが困難

②地域格差などがあり、専門家の助力を受けにくい人がいる

③誤記や財産の記載漏れの場合に問題が発生する

④遺言作成能力や偽造による争いの問題がある

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_05digital/220301/digital02_minutes.pdf

デジタル化で上記の問題点が克服できるか

デジタル化で上記の問題点が克服できるか

弁護士として日常的に遺言の問題を扱う立場としては、確かに、③や④の問題にはしばしば直面します。

しかし、どのようなデジタル遺言を想定するかにより変わってくると思いますが、③や④の問題はデジタルにすれば解決する、という種類のものではないように思います。

すなわち、③については財産の記載漏れ(デジタルの場合は、入力や申告漏れでしょうか)というのはデジタルの場合もあり得ます。

また、④については、デジタルであれば偽造の主張はしにくいと思うものの、意思能力や偽造を主張する関係者の多くは、遺言で不利な立場になる側と思われます。

従って、その立場の方々が、遺言者の遺言作成能力を疑問に思った場合には、デジタル(電子署名など)であっても遺言について争うものと考えられます。

また、デジタルの場合、一般には、オンラインやビデオでの動画撮影などで本人の意思によることを担保すると思われますが、オンラインやビデオの動画撮影に際して、第三者が関与することが不可能というわけではありません。

こうしてみると、デジタル化によって、③や④の問題が解決できるわけではないことが明らかになります。

次に、①の気軽に作成することが困難、という点については、そもそも、問題とするかどうか、という問題がありうると思います。

すなわち、遺言では、自身の死後の財産の処分という重大な意思決定をするわけですので、気軽である必要はない、という価値観もありうると思われます。

こうしてみると、現在の自筆証書遺言の問題点として、デジタル化により改善できるのは、②の地域格差や専門家の助力が得にくい人がいる、という点かと思います。

ただし、これについても、コロナ禍で進んだオンライン相談の普及により、助力だけであれば、オンライン法律相談などで対応できるようにも思います。

デジタル遺言が導入された場合にどうすべきか

デジタル遺言が導入された場合にどうすべきか

以上みたように、現在の遺言における問題点は、現時点では、デジタル化により完全に解決できるわけではないと考えられます。

どのようなデジタル遺言を想定するかにより変わってくると思いますが、仮にデジタル遺言が導入された場合でも、財産の記載漏れや、遺言作成能力や第三者の関与という、法的な問題が発生する余地は残っていると考えられます。

そこで、デジタルであっても、有効・適式な遺言を残すためには何が必要かを考えると、やはり、専門家、特に弁護士の助言が必要という結論になると思います。

デジタルであっても、その内容が適法・有効であるためには法的なアドバイスが必要になりますし、おそらく、さまざまな様式の充足が必要になると思われますので、そうした適式な手続へのアドバイスも弁護士の親和性があると言えます。

従って、デジタル遺言が導入されたとしても、有効・適式な遺言を残すためには、弁護士の助言は必要であると考えています。

デジタル遺言とグリーンリーフ法律事務所

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴

開設以来数多くの相続に関する案件・相談に対応してきた弁護士法人グリーンリーフ法律事務所には、相続に精通した弁護士が数多く在籍し、また、相続専門チームも設置しています。

このように、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所・相続専門チームの弁護士は、相続案件や相続に関する法律相談を日々研究しておりますので、遺言の作成や遺言が関係する相続に関して、自信を持って対応できます。

なお、費用が気になる方は、上記HPもご参照ください。

最後に

最後に

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、当コラム執筆時点で17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。

ぜひ、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 野田 泰彦

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