借家の立ち退き請求を受けたら、まずは弁護士までご相談を
賃貸人(家主)から借家契約を解約、あるいは更新拒絶され立ち退き請求を受けたら、賃借人はそれに応じなければいけないのでしょうか。どのような場合であっても、立退料を提示されたら、賃借人は立ち退きをしなければならないのでしょうか。実は、一般的な建物賃貸借契約書や、法律には、立退料に関する定めはないのです。しかし、実務上では家主から立ち退き料として一定の金銭を支払ってもらい、立ち退きに応じるということがしばしば見られます。家主から立ち退きを求められたらどうしたらよいか、立退料の支払いは必ず受けられるのか、相場は存在するのかなど、裁判例などを踏まえ説明します。

家主から立ち退き請求を受けたときの対応について

借家契約の法的規制

建物の賃貸借契約に関しては、賃貸人の権利を制限

賃貸人が借家契約を解約あるいは更新拒絶し、賃借人に対し立ち退きを求めるということは決して珍しいことではありません。そして、賃借人も現在の生活拠点を失うのですから、このような解約や更新拒絶はトラブルに発展することも多くあります。

建物の賃貸借には借家法や借地借家法(平成4年8月1日施行)という法律が適用され、一般法である民法で規定された賃貸借の関係よりも、賃貸人の権利を制限しています。

民法の規定では賃貸期間の定めがある場合には、期間満了によりその契約は終了し、契約を更新しない限り借主はその目的物を返さねばなりません。期間の定めがない場合は、貸主は借主に対しいつでも解約の申し入れをすることができますし、解約申入れから3か月を経過すればその賃貸借契約が終了することになっています。

しかし、そのような民法の定める賃貸借契約では借家関係が安定せず、賃借人の生活は不安定になってしまいます。そこで、借家法や借地借家法では、賃貸期間の満了(更新拒絶)の場合や期間を定めのない契約での解約申入れに対し、「賃貸人において自分がその家屋を使用する必要があるなどの立ち退きを求めるのがもっともであると認められる事情(正当事由)がなければならない」と制限しました。

賃貸人からの更新拒絶や解約申入れがあっても、必ず立ち退きしなくてはならないわけではない!

以上のとおり、借家法あるいは借地借家法で賃貸人からの更新拒絶や解約申入れに対しては、「正当事由」があるかどうかがポイントとなり、仮に通知期間内に更新拒絶を受けるなどしても、「正当事由」がないということであれば、賃借人も立ち退きをしなければならないわけではないのです。

正当事由がない場合の更新拒絶等の通知はどうなる?

建物賃貸借の期間満了に際し、通知期間(期間満了の1年前から6か月前の間)に更新拒絶をすることで、賃貸借契約を終了させるための手続要件は充たしていることになりますが(借地借家法26条)、正当事由がない場合は法定更新となり、契約は継続することになります。

ですから、契約の終了を望まない賃借人としては、賃貸人からの通知に対し、立ち退きに応じてしまわずに、まずは更新拒絶等に正当事由がないことを賃貸人に対し指摘しておけばよいでしょう。

正当事由について

それでは、法律上更新拒絶や解約申入が許される「正当事由」というのは一体どのようなものなのでしょうか。

正当事由とは

正当事由の有無について、最高裁判所の判例では、「家主と借家人双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照らし妥当と認むべき理由」こそが「正当事由」であると解しています。
つまり「①賃貸人側の事情」、「②賃借人側の事情」、「③その他借家関係から生じた事情」など、一切の事情を考慮して判断されることになっているのです。

正当事由の判断に関する事情の具体例

「①賃貸人側の事情」の典型例としては、建物をその賃貸人自身が使用しなければいけないといったことや、現住居の状態、家族数、職業、資力といったものが挙げられます。

これに対し、「②賃借人側の事情」の典型例としては、借家の構造、家族数、職業、資力、転居先の有無などが挙げられます。

さらに、「③その他借家関係から生じた事情」としては、契約締結時の事情、建物賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況や現況など、様々な事情が考えられます。

正当事由の存否判断

上記のような①及び②「賃貸人側及び賃借人側の事情」を主たる要因、③「その他借家関係から生じた事情」を補充要因として、さらに立退料、つまり明渡の条件や明渡の引き換えとして金銭を給付する申し出などを考慮して判断がされています。

つまり、主たる要因や補充要因があっても、「正当事由」とまでは言えない場合にその不足分を補うために立退料という要因があるといえるでしょう。
ただし、立退料はあくまでも正当事由の補完要素であって、立退料の提供申出以外の事情が一定水準に達しない場合には、相当高額の立退料の提供申出をしたからといって正当事由が具備されるものではない、としている裁判例もあります。

立退料の相場とは

立退料は計算できる?

上記のとおり、提案された立退料が高額だからといって、直ちに正当事由が備わるわけではありませんが、そもそも立退料に相場というものはあるのでしょうか。
残念ながら、立退料は法律上いくらであれば良いと定められているものでもなく、定型的な計算式があるわけではありません。

実務上は、更新拒絶や解約の意思表示をされた賃借人がこれを争い、訴訟に発展することもあります。東京高裁の裁判例の中では、立退料の額を考えるにあたって「賃借契約成立の時期および内容、その後における建物利用関係、解約申入れ当時における双方(賃貸人・賃借人)の事情を総合的に比較衡量して裁判所がその裁量によって自由に決定しうる」としたものがあります。

賃貸人から建物賃貸借契約の更新拒絶や解約を求められたら

更新拒絶や解約を求める正当事由の要素として考えられる典型的な例としては、賃貸人自身がその建物の使用を必要としている場合や建物が老朽化して改修を要する場合などがあります。しかし、そのような事情があったとしても、直ちに立退料も不要となるような正当事由ありと評価されるとは限りません。

「賃貸人から契約の更新拒絶や解約を求められたが、その要求について説明されても納得できず、それに応じたくない・応じるか迷っている」という賃借人の方は、まずはその契約の更新拒絶や解約に「正当事由」があるかを検討した上で、「立ち退きに応じるべきか否か」という部分も含め、具体的な事情(ご自身の状況や、賃貸人側の状況など)を基に、一度弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか?

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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