会社から懲戒解雇を言い渡されたが、その理由や解雇に至る経過が納得できないというケースは多く存在します。
そのような場合には会社が行った懲戒解雇の有効性を争っていく必要がありますので、今回は、懲戒解雇を不当解雇として争う場合の考え方について解説していきます。

普通解雇と懲戒解雇の違い

解雇は普通解雇と懲戒解雇に分かれます。
普通解雇は使用者から労働者に対する一方的な労働契約関係解消の申入れとされますが、懲戒解雇は労働者が犯した企業秩序違反に対して使用者が課す制裁の一種ですので、それぞれ有効となる要件が異なります。

懲戒解雇の有効要件

労働契約法の定め

労働契約法は、使用者の懲戒処分の有効性について、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。

これを分解すると、懲戒解雇は、
① 使用者が労働者を懲戒することができる場合で
② 労働者の秩序違反行為について懲戒解雇をもって対応することに合理的な理由があり、
③ 労働者が当該秩序違反行為により懲戒解雇となっても社会通念上やむを得ないと考えられる
場合にその有効性が認められるということになります。

具体的な有効要件

① 使用者が労働者を懲戒することができる場合

使用者が労働者に対して懲戒処分を行おうとする場合には、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及びそれぞれの種別に対応する懲戒事由を定めておく必要があり、また、当該就業規則を労働者に周知しておかなければなりません。

懲戒処分は労働者に対する制裁としての意味合いを有するため、使用者は、制裁を課す前提として、労働者に対して、どのような行為がどのような制裁につながるのかという予測がつく状態にしておくべきという要請に基づきます。

そのため、そもそも就業規則の存在しない会社では懲戒解雇はなしえず、就業規則が存在する場合でも就業規則の記載のない事柄を理由に懲戒解雇をすることはできません。
仮にそのような状態で懲戒解雇がなされたとすれば「懲戒することができる場合」に該当せず、その懲戒解雇は無効です。

② 労働者の秩序違反行為について懲戒解雇をもって対応することに合理的な理由がある

懲戒解雇を行うためには就業規則に懲戒の種別とそれぞれの種別に対応する懲戒事由を定めておく必要があるということは先に述べたとおりですが、ここでいう「合理的な理由がある」とは、労働者の秩序違反行為が就業規則に定められた懲戒解雇事由に該当することを意味しています。

就業規則に定められる懲戒解雇事由は以下のようなものがあります。
・重大な経歴詐称
・正当な理由なく無断欠勤を続け出勤しない
・正当な理由なく無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返し、注意・指導をしても改まらない
・正当な理由なく業務上の指示命令に従わない
・故意または重大な過失により会社に損害を与える
・会社内で刑法犯に該当する行為をする
・繰り返し懲戒を受けるも勤務態度が改まらない 等々

懲戒解雇は労働者の秩序違反行為に対する制裁としては最大限の処分となりますので、その懲戒事由該当性は厳しく判断されることになります。
形式的には懲戒解雇事由に該当すると思われる秩序違反行為であってもその程度が著しくない場合(経歴詐称はあるが職務遂行に大きな影響を与えない、無断欠勤はあるが日数がそこまで多くない等)には「合理的な理由がある」とは認められない場合があります。
労働者の秩序違反行為は認められるものの懲戒解雇事由該当性までは認められないとすれば、その懲戒解雇は「合理的な理由がある」に該当せず無効です。

なお、懲戒解雇の理由となる労働者の秩序違反行為は懲戒解雇時に使用者が認識していたものに限られますので、懲戒解雇時以降に判明した労働者の秩序違反行為を懲戒解雇の理由とすることは基本的には許されません。

③ 労働者が当該秩序違反行為により懲戒解雇となっても社会通念上やむを得ないと考えられる

労働者の秩序違反行為が就業規則に定める懲戒解雇事由に該当する場合であっても労働者に対する懲戒解雇がそれだけで有効となるわけではありません。
懲戒解雇の「合理的な理由がある」ことに加え、労働者の秩序違反行為に対する制裁として懲戒解雇という最大限の制裁を与えることが当該労働者を取り巻く具体的な事情のもとで社会通念上やむを得ないと判断される場合(懲戒解雇の「社会的相当性が認められる」場合)に懲戒解雇は有効となります。

懲戒解雇の社会的相当性の判断要素には以下のようなものがあります。
・労働者の秩序違反行為の内容、程度、会社の客観的信用性に与える影響
・労働者の役職、担当業務、勤続年数、勤務態度、反省の程度、会社に対する被害回復の状態、懲戒処分歴、年齢、家族構成等の個人的事情
・当該労働者に対する懲戒解雇以前の会社の対応
・懲戒解雇に至る社内手続の有無及びその履歴状況、労働者に対する弁明の機会の提供の有無
・同様の秩序違反行為に対する会社の過去の懲戒処分歴との比較 等々

懲戒解雇に社会的相当性が認められるか否かは懲戒解雇の対象となる労働者を取り巻く具体的な事情を踏まえ判断されますが、労働者の秩序違反行為が極めて重大なものである場合には懲戒解雇の手続の一部が履行されていなかったとしても懲戒解雇の社会的相当性が認められることもありますので、判断要素のすべてが同じ重みとされているわけではないということには注意が必要です。

労働者に懲戒解雇事由に該当する秩序違反行為が存在するものの、当該労働者は長年真面目に勤務しておりそれ以外の注意等の履歴がない、同じ秩序違反行為をした別の労働者は降格等の懲戒処分で済まされている、会社側で懲戒手続に沿った対応をしていない等の場合には、その懲戒解雇は「社会的相当性が認められる」に該当せず無効です。

まとめ

以上のとおり、今回は懲戒解雇を不当解雇として争う場合の考え方について解説してきました。

懲戒解雇は会社が労働者に対してなしうる最大限の制裁となりますので、その有効性要件は厳格に判断されます。
言い換えれば、懲戒解雇の場面は争いが多く存在するということになり、懲戒解雇を言い渡された後の初動が重要となります。
懲戒解雇に関する会社側の主張を確認するため、まずは会社に対して解雇理由証明書(もしくは退職理由証明書)の発行を求めるというところから始めることが定石ですが、専門的な知識を有する弁護士に相談し助力を得ることが懲戒解雇を争う上での大きな助けとなります。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
労働分野について専門チームを設けており、ご相談やご依頼を受けた場合は、労働専門チームの弁護士が担当いたしますので、懲戒解雇でお悩みの方は是非一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
弁護士のプロフィールはこちら