認知症の高齢者の監督責任について
 今回は、認知症の高齢者A(当時91歳)が起こした鉄道事故に関し、鉄道会社が本人の家族に対して、列車が遅れたなどとして、700万円余りの損害賠償を求めた事例(最判平成28年3月1日)をご紹介します。
 裁判では,Aの身の回りの世話をしていた者が監督責任(民法714条1項)を負うかが争われましたが,裁判所は,Aの妻や長男に監督責任はないと判断しました。
 判決の骨子としては,当時85歳で要介護1の認定を受けていたAの妻や,20年以上Aと別居し,事故直前にも1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたに過ぎないAの長男については,監督責任はなく、賠償金を払う義務はないという内容です。
 当事務所の弁護士の間にも、Aの妻や長男の責任を認めるべきだという弁護士と、認めるべきではないという弁護士がいましたが、後者の方が多数派でした。高齢化社会で、このような事例は増えていくと考えられますし、親族の関与の程度、方法によって結論も異なってくるでしょう。今後とも判例の動向に注意することが必要です。