
「夫に財産はないと言われた」と諦めていませんか?ネット銀行や株式、保険など夫の隠し財産を特定し、公平な財産分与を勝ち取るための情報収集術から、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託といった強力な法的調査手段まで、弁護士が詳しく解説します。
はじめに:「財産はない」という夫の言葉を鵜呑みにしていませんか?

「夫から『我が家に貯金なんてない』『俺の口座は空っぽだ』と言われたけれど、長年の給与やボーナスを考えればそんなはずはない……」
「専業主婦で夫の財布の中身や口座情報を把握しておらず、財産分与で損をしてしまいそう……」
離婚を決意したものの、「夫が財産を隠している気がする」「何がどこにどれだけあるのかわからない」というお金に関する切実なご相談が毎日のように寄せられます。
離婚における「財産分与」は、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた共有財産を、原則として「2分の1ずつ」分け合う大切な権利です。しかし、家計を夫が一手に握っていたケースや、夫が自分名義の口座で単独管理していたケースでは、妻に内緒で預貯金や投資資産、保険などを隠そうとするトラブルが後を絶ちません。
そのまま相手の「財産はない」という言葉を鵜呑みにして離婚届を出してしまうと、本来もらえるはずだった数百万円〜数千万円単位の財産分与を放棄することになってしまいます。
しかし、適切な事前準備と、弁護士が用いる強力な法的手段(弁護士会照会や裁判所の調査嘱託など)を活用すれば、夫が隠そうとしている口座や資産を突き止め、適正な財産分与を獲得することは十分に可能です。
本コラムでは、どのような財産が隠されやすいのか、別居前に妻自身ができる合法的な情報収集法から、弁護士が介入して行う専門的な財産調査の手法まで、実務目線で徹底的に解説します。
離婚時に隠されやすい「隠し財産」の典型パターンと種類

「うちの夫は隠し事なんてできない性格だから……」と思っていても、離婚の文字が頭をよぎった瞬間から、将来の財産分与を見越して巧妙に資金を移動し始める配偶者は少なくありません。
まずは、どのような資産が隠し財産になりやすいのか、その典型パターンを整理しておきましょう。
ネット銀行・ネット証券の口座
近年、最も急増している隠し財産のパターンが「ネット銀行(楽天銀行、PayPay銀行、住信SBIネット銀行など)」や「ネット証券(SBI証券、楽天証券など)」です。
紙の通帳が発行されず、取引明細や残高もスマホアプリやメールでしか確認できないため、妻がその存在すら気づいていないケースが多発しています。
別口座(サブ口座・旧口座)への資金移動
給与振込口座とは別に、昔作った休眠口座や副業用の口座を隠し口座として利用し、給与の一部やボーナス、不労所得などを定期的に移し替えているパターンです。
生命保険・学資保険・個人年金保険の解約返戻金

定期預金や投資信託だけでなく、「掛け捨てではない保険(終身保険、養老保険、学資保険等)」も財産分与の対象となります。
夫が自分で保険料を支払っていた場合、離婚直前に勝手に解約して解約返戻金を隠したり、名義を変更したりして隠蔽を図ることがあります。
株式・投資信託・暗号資産(仮想通貨)
会社の持ち株会や個人的な株式投資、投資信託、暗号資産(ビットコインなど)も立派な共有財産です。特に暗号資産やFX口座は、スマートフォンのアプリ内だけで完結するため、外からは見えにくい隠し財産になりやすい特徴があります。
タンス預金・親族名義口座への名義変更
銀行口座からまとまった現金を引き出して実家や自宅の金庫に隠す「タンス預金」や、「子供の名義」「実家の親の名義」の口座に資金を移し替えて『これは自分のものではない』と主張する手法です。
なお、親族名義の口座であっても、原資が夫婦の共有財産であれば、実質的に財産分与の対象としてカウントされます。
同居中(別居前)に妻自身ができる「合法的な情報収集・証拠集め」

弁護士や裁判所の力を借りるにしても、「どの金融機関に口座があるか」「どの会社と取引しているか」という“手がかり”が全くゼロの状態から調査を始めることは非常に困難です。
夫と同居している今(別居前)だからこそできる、合法的な情報収集の手順を押さえておきましょう。
自宅に届く「郵便物」「ご利用明細」のチェック
電子化が進んだとはいえ、年に数回は金融機関や証券会社、保険会社から「取引残高報告書」「配当金計算書」「控除証明書」「重要なお知らせ」などの郵便物が届きます。
- 差出人の金融機関名や証券会社名、保険会社名
- 封筒筒の表書きに記載されている口座番号や取扱店名
これらをスマートフォンで写真に収めておくだけで、後の専門的調査の決定的な手がかりとなります。
※決して、封筒の中身を勝手に開けてはなりません。
給与明細・源泉徴収票・確定申告書の確認
夫の給与明細や源泉徴収票、税金の確定申告書控えには、隠し財産のヒントが詰まっています。
給与明細の控除欄
財形貯蓄、自社株買い(持ち株会)、組合積立金などの項目があれば、会社を通じて給与天引きで貯蓄がなされている証拠です。
源泉徴収票・確定申告書
「給与所得以外」の所得欄(雑所得、配当所得、不動産所得など)や、「保険料控除」の適用欄を見ることで、利用している保険会社や投資の有無が判明します。
通帳の「定期的な振込・引き出し履歴」の確認
夫名義のメイン通帳(給与口座)が見られる状態であれば、過去2〜3年分の取引履歴をコピーするか撮影しておきましょう。
- 毎月(またはボーナス月)に一定額が「他行口座」へ振り込まれていないか
- 離婚の話が出始めた時期に、突然「数十万〜数百万単位のまとまった現金引き出し」がなされていないか
振込先の銀行名や支店名が通帳に印字されていれば、それが隠し口座の直接的な特定につながります。
パソコンのブックマークやスマホアプリの確認
※注意!夫のスマホのパスワードを不正に解除して盗み見たり、ハッキングを行ったりすると、不法行為やトラブルの原因になります。
ただし、リビングに置かれている共有パソコンのブラウザのブックマーク(お気に入り)に「ネット銀行のログインページ」や「証券会社のサイト」が登録されていないか確認したり、日常会話の中で夫が口にした銀行名などをメモに残しておくだけでも有益な情報となります。
弁護士が使う強力な法的手段「弁護士会照会」と「裁判所の調査嘱託」

別居後、夫に対して「財産の一覧を出してください」と求めても、相手が「これ以上財産はない」「提出を拒否する」と言い張ることがほとんどです。
しかし、自力での交渉が限界を迎えても諦める必要はありません。弁護士が介入し、調停や裁判といった法的手続きへ移行することで、公的な権限を用いて金融機関へ直接照会をかけることが可能になります。
弁護士会照会(弁護士法第23条の2に基づく照会)
弁護士会照会とは、弁護士が受任した事件の事実を調査するために、弁護士会を通じて公務所や日本医師会、銀行、証券会社、保険会社などの団体に照会を行い、必要な事項の報告を求める法的制度です。
活用例
「〇〇銀行 △△支店に、夫名義の口座が存在するかどうか、および過去の取引履歴・現在残高の開示を求める」
特徴
離婚調停や裁判を起こす前の段階(示談交渉の段階)から利用することができます。
メリット
金融機関に対して報告義務が課されるため、個人で銀行に問い詰めても開示されない情報が、弁護士を通すことでスムーズに開示されます。
裁判所の「調査嘱託(ちょうさしょくたく)」

調査嘱託とは、離婚調停や離婚訴訟(裁判)の継続中に、家庭裁判所が裁判所の名において銀行や証券会社、勤務先企業、官公庁などに対して必要な情報の調査・報告を命じる手続きです。
活用例
「夫の勤務先企業に対し、過去の退職金見込額の試算書の提出を求める」「証券会社に対し、保有株式や取引履歴の開示を命じる」
特徴
裁判所を通じた公的な命じる手段であるため、金融機関や企業側も極めて厳格に対応します。
メリット
弁護士会照会では回答を拒否する一部の機関であっても、裁判所の調査嘱託であれば回答に応じる可能性が極めて高くなります。
金融機関への照会における注意点(「支店名」の特定が必要)
法律上の調査手段は非常に強力ですが、ひとつ大きな実務上の注意点があります。
日本の銀行(都市銀行や地方銀行)に対する照会では、多くの場合「銀行名」だけでなく「特定の支店名」まで絞り込んで申請しなければ受け付けてもらえないという運用になっています。
例えば、「全国の三菱UFJ銀行にある夫の口座を全検索してください」という大雑把な照会は認められません。
「自宅近くの支店」「勤務先最寄りの支店」「実家近くの支店」「通帳の振込履歴に載っていた支店」など、事前の情報収集によって支店名をある程度予測・特定しておくことが、調査を成功させる最大のカギとなります。
また、財産分与基準日以外の期間の通帳履歴の開示をさせることは、よほど資金移動をしていることの証拠などが無い限り、裁判所が調査嘱託を認めてくれることは難しいのが実状です。
もし「隠し財産」が判明したら?

弁護士の調査や調停での開示手続きによって夫の隠し財産が浮き彫りになった場合、どのような法的な展開になるのでしょうか。
判明した隠し財産を含めて「2分の1」で正当に分与を受ける
当然ながら、新たに発覚した預貯金や株式、保険解約返戻金はすべて夫婦の共有財産として繰り入れられ、妻は正当な割合(原則2分の1)の分配を請求することができます。
離婚成立後に隠し財産が発覚した場合の財産分与請求
「財産分与せずに離婚を成立させてしまったけれど、後から夫が巨大な隠し口座を持っていたことが発覚した」という場合でも、諦める必要はありません。
法律上、離婚成立から5年以内(民法第768条第2項)であれば、後から発覚した財産について財産分与請求を行うことが可能です。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 平栗丈嗣
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録。大学で心理学を専攻した経歴を持ち、法的な観点のみならず心理学的知見を活かしたアプローチを強みとする。特に離婚問題に注力しており、論理的な法的解決にとらわれず依頼者の感情面にも配慮した多角的なサポートに尽力。民間企業での実務経験に基づく豊かな人生経験から、依頼者に寄り添う安心感と信頼性を備える。




