購入した物に契約と異なる不適合な部分があった場合、一般的には不適合のない別の物と交換する取扱いがなされています。しかし、車の売買契約に関しては納車された車に不適合があっても修理対応が原則とされています。なぜそのような違いがあるのでしょうか。

売買契約における契約不適合責任

売買契約における売主は、当事者が合意した内容(契約で定めた内容)どおりの物を買主に引き渡す義務を負っています。

物の種類・品質・数量において、合意した内容と異なる物を引き渡した場合、売主はこの義務に違反したことになり、契約不適合責任を問われます。

売主は、買主と売買契約を締結するにあたって、債務の内容の実現を自ら引き受けたのですから、債務として負担したことを実現しなかったという点をもって、当然に損害賠償責任を負う、との考え方です。

この考え方を具体化したのが民法562条であり、同条は、目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないとき、買主は、売主に対して、
①目的物の補修
②代替物の引渡し
③不足分の引渡し
を請求することができる
、と定めています。

これが、「追完請求権」と呼ばれるものです。

例えば、家具店で購入した椅子に契約内容と異なる不適合な部分があった場合、買主は、売主に対して、

①目的物の補修
→“足がぐらついているから直して欲しい”

②代替物の引渡し
→“別の椅子と交換して欲しい”

③不足分の引渡し
→“4脚買ったのに3脚しかないので、もう1脚引き渡して欲しい”

という請求ができるということです。

一般的な物の売買契約の場合

一般的な物、例えば、食料品や文房具、洋服や家具、電化製品など、世の中で小売り販売されているほとんどの物については、購入した物に契約内容と異なる不適合な部分があった場合、売主は、同種同型の別の物(新しい物)と交換する対応をとっていることが多いでしょう。

これは、上記で見た追完請求権のうち、「②代替物の引渡し」をしているということです。

また、対象物が食料品や書籍となると、そもそも修理が向かない(できない)ため、「①目的物の補修」ではなく、「②代替物の引渡し」で対応しているということもあります。

さて、世の中のほとんどの物の売買契約において、契約不適合があった場合の対応が「②代替物の引渡し」であるならば、車(新車)も同じでしょうか?

新車の売買契約の場合

原則として「①目的物の補修」でよい

新車の売買契約において、販売店は、お客様に、「中等の品質」を備えた新車を納車する義務を負っています。

ここにいう「中等の品質」(民法401条1項)とは、他の同種同型の新車と比較して遜色のない性能・品質を備えた新車であることを言います。

例えば、納車した新車に、エンジンがかからない、ルーフがへこんでいる、ワイパーが作動しない、といった不具合があった場合、それは「中等の品質」を備えた新車とは言えません。

このような不具合のある新車を納車したことは、販売店の債務不履行となり、販売店はお客様に対して契約不適合責任を負うことになります。

そこで、お客様は、追完請求権の行使として、一般的な物の売買契約におけるのと同様に、「①目的物の補修」ではなく、「②代替物の引渡し」を請求することができるのでしょうか?

答えは、「Nо」です。

新車の売買契約において当該新車に不具合があった場合で、その不具合を修理(あるいは部品の交換など)することが可能であるならば、お客様は「②代替物の引渡し」と請求することはできず、販売店は「①目的物の補修」をすればよいことになっています。

これは法律の条文上も根拠のあることで、先に見た民法562条には、実はただし書きがあり、それは次のようになっています。

「ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる」

つまり、納車した新車に契約不適合となる不具合があった場合でも、販売店の方でその不具合を修理し、本来の「中等の品質」を有する新車のレベルに復することができるのであれば、販売店は、お客様に対し、修理した新車を納車すればよいのです。

車の売買契約の特殊性

新車の購入は、人生にそう何度もある買い物ではないのが普通でしょう。

お客様にとっては、心待ちにしていた新車に何らかの不具合があり、それが販売店において修理されたからといって、「一度修理されたものを『新車』と言われても…」と、腑に落ちない部分もあるかもしれません。

しかし、新車を店頭に用意することは販売店にとっても負担です。

例えば、軽微な不具合しかないにもかかわらず、お客様からの追完請求として「②代替物の引渡し」を認めてしまうと、同種同型の別の新車を用意しなければならない販売店の負担が重くなり過ぎます。

また、新車の売買契約には、物の売買のみならず、税金や車庫証明などの諸手続きも絡んでいますから、そう簡単に「別の新車と入れ替え」というわけにはいきません。

さらに、一度登録した車は中古車として販売するしかなくなり、車種によってはかなりの価値落ち分が発生します。お客様に納車するはずだった当該新車が販売店の手元に残っても、販売店が価値落ち分相当の損失を被ることになります。

一方で、不具合を販売店の方で修理し、本来の「中等の品質」を有する新車のレベルに復することができるのであれば、お客様には(お気持ちのうえではともかく)不利益はそれほど生じません。

このように、新車交換とした場合に販売店に生じる負担と、修理対応とした場合にお客様に生じる負担とを利益衡量した結果、まさに、「売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる」との条文に当てはまるものとして、販売店はまず「①目的物の補修」をすればよい、と言えるのです。

新車の契約不適合責任に関するトラブル事例

現場でお客様対応に当たるスタッフが、上記のような、車の売買契約の特殊性からくる修理対応の原則を理解していないがために、お客様との間で無用なトラブルに発展するケースが散見されます。

例えば、次のような事例です。

 新車のご注文をいただき、車も店舗に届いた。

納車の準備を進めていたところ、営業スタッフが、場内で車を移動させる際、不注意で新車を店舗の壁にぶつけてしまった。傷は、フロントバンパーの左側と左フェンダーに渡っており、かなりの損傷である。

 納車を楽しみに来店されたお客様は、新車の状態を見て大変なショックを受け、「どうしてくれるんだ!納車当日にぶつけられるなんて・・・こんな縁起の悪い車、乗りたくないよ!」とお怒りである。

 営業スタッフは、精一杯謝罪するとともに、「確かに、お客様の言うことももっともだ。こんなに大きな傷がある車は、もう『新車』とは呼べないだろう」と考え、お客様に対し、「急ぎ、別の新車を手配させていただきますので、この場は何とかご勘弁下さい」と提案した。

 お客様は、なおもご不満のようであったが、別の新車が用意できるまでは代車もお貸しすると申し出ると、渋々納得してくれた。

 その後、営業スタッフが上記の顛末を店長に報告したところ、店長から、「ぶつけたのはうちのミスだが、フロントバンパーと左フェンダーを交換すればよいのであって、新車交換はやり過ぎだ。今すぐ、お断りするように」と言われてしまった。

 営業スタッフは、驚いて、その日のうちにお客様に電話して、店長の方針をお伝えしたものの、お客様は、「何言ってるの!?さっきは、別の新車と交換するって約束したじゃないか。パーツを交換して済ませようなんて、絶対に認めないよ!」と大激怒。

 その後も直接訪問するなどして、何とか修理対応(パーツ交換)で納得していただくようお願いを続けているが、お客様の理解が得られない。

 修理も納車もできない状態のまま、2か月が経過してしまった。

このケースでは、営業スタッフが最初の説明を誤ったがために、お客様との関係がよりこじれてしまいました。

一度、「別の新車と交換します」と言われれば、お客様は当然そうしてもらえるものと期待しますから、前言撤回のうえ「やはり修理対応で」と言われても、納得しづらいでしょう。

このまま修理対応に了承いただけず、納車もできないとなると、この新車は長期預かり車両となってしまいます。

最悪の場合、販売店としては、この新車の引き取りを求めて、法的措置を取らなければならなくなるかもしれません。

店長の言うとおり、たとえ大きな傷であっても、パーツの交換で済む、すなわち、修理によって「中等の品質」を有する状態に戻せるのであれば、修理したその車をお客様に納車すれば足りるのです。

いくら、「つけてしまった傷が大きい」、「納車当日なのに縁起が悪い」といっても、そうした事情に引きずられて判断を誤ってはいけません。

以上から明らかなように、現場のスタッフに正しい知識があれば、お客様との間で無用なトラブルに発展することもなく、円滑な営業が可能となります。

自動車の売買契約における契約不適合責任の考え方について、現場で正しい理解が共有できているか、この機会に改めて確認することをお勧めします。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 田中 智美

自動車

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉県弁護会所属の弁護士。
自動車販売協会連合会埼玉県支部の顧問を務め、会員ディーラーから数多くの法律相談を受ける。自動車の販売・整備・修理等にまつわる法律実務に精通し、講演実績も多数。ディーラー側の視点からトラブル対応に当たっている。