
| 【この記事のポイント】 運行中に突然倒れた、自宅で脳梗塞を発症した――。長時間労働などの過重な業務が原因で脳・心臓疾患を発症した場合、労災として認められます。トラック運送は、脳・心臓疾患による労災の認定件数が全業種で最も多い業種です。発症前1か月におおむね100時間、または2〜6か月平均で月おおむね80時間を超える時間外労働があれば、業務との関連が強いと評価されます。2021年の改正で、これに届かなくても、拘束時間の長さや休息の短さなどを合わせて認められることが明確になりました。ご本人が話せない状態でも、ご家族が手続きを進められます。労働時間の証拠は会社側にあることが多いため、早い段階で記録を確保することが大切です。本記事では、認定の基準、拘束時間の上限との関係、ご家族が今すぐできることを解説します。 |
1. 家族が運行中に倒れた――そのとき、ご家族が直面すること

「運行中に意識を失って救急搬送された」「早朝に出勤しようとして、自宅で倒れた」――。ある日突然、ご家族が脳梗塞や心筋梗塞で倒れたという連絡を受けたら、まずはご本人の治療が最優先です。ただ、その後、ご本人が話せない状態が続いたり、亡くなられたりした場合には、仕事との関係を調べ、労災を請求するのはご家族の役割になります。
「毎日朝早くから夜遅くまで働いていた」「休みもほとんどなかった」――。そう感じていても、それを裏づける記録の多くは会社の手元にあります。脳・心臓疾患の労災は、発症前の働き方をどこまで正確に明らかにできるかで、結果が大きく変わります。まずは、どのような場合に労災と認められるのかを知っておきましょう。
2. トラック運送は、脳・心臓疾患の労災が最も多い業種です

道路貨物運送業は、脳・心臓疾患による労災の支給決定件数が全業種で最も多く、令和3年度は全体の約三分の一を占めました。長い拘束時間、深夜や早朝の不規則な勤務、荷待ち、荷役の身体的な負担が重なりやすいためです。
労災の対象になる主な病気は、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、重篤な心不全、大動脈解離です。
これらの病気は突然発症し、命に関わったり、重い後遺症が残ったりすることが少なくありません。ご本人やご家族にとって、仕事が原因だったのかどうかは、その後の生活を左右する大きな問題です。
3. 労災と認められる3つのパターン

労災の認定では、発症前の業務が「過重」だったかどうかを、次の3つの観点から判断します。
| パターン | 判断の対象 | ドライバーにあてはめた例 |
| 長期間の過重業務 | 発症前おおむね6か月間の労働時間や負荷 | 月の残業が80時間を超える状態が数か月続いた |
| 短期間の過重業務 | 発症前おおむね1週間の業務 | 発症前の1週間、深夜に及ぶ長時間労働が続いた |
| 異常な出来事 | 発症直前の強い負荷 | 重大な交通事故に直接関わった、炎天下で水分補給できないまま荷役を続けた |
4. 「過労死ライン」と2021年の認定基準の改正

長期間の過重業務では、次の時間外労働があれば、業務と発症の関連が強いと評価されます。いわゆる「過労死ライン」です。
- 発症前1か月間に、おおむね100時間を超える時間外労働
- 発症前2か月間〜6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働
ここでいう時間外労働は、1週間あたり40時間を超えて働いた時間を指します。また、発症前1か月間から6か月間にわたって、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症の関連は弱いと評価されますが、45時間を超えて長くなるほど、関連は徐々に強まると評価されます。
2021年9月の改正で、過労死ラインに届かなくても、近い時間外労働があり、労働時間以外の負荷も大きければ、総合的に評価して労災と認めることが明確になりました。ドライバーの仕事に当てはまりやすい負荷は次のとおりです。
- 拘束時間の長い勤務(荷待ちを含む)
- 休日のない連続勤務
- 勤務間インターバル(終業から次の始業まで)が短い勤務
- 不規則な勤務、深夜勤務
- 荷役など身体的な負荷を伴う業務
- 暑さや寒さ、騒音などの作業環境
荷待ちの時間や、荷積み・荷下ろしの時間も、労働時間に含まれます。会社の記録上の「残業時間」より、実際の時間外労働が大幅に長いことは珍しくありません。
5. 拘束時間の上限(改善基準告示)との関係

トラック運転者には、「改善基準告示」で拘束時間や休息期間の上限が定められています。2024年4月から基準が厳しくなり、時間外労働にも年960時間の上限が適用されています。
| 項目 | 原則 | 例外 |
| 1年の拘束時間 | 3,300時間以内 | 労使協定で3,400時間以内 |
| 1か月の拘束時間 | 284時間以内 | 労使協定で310時間以内(年6か月まで) |
| 1日の拘束時間 | 13時間以内 | 上限15時間(14時間超は週2回までが目安) |
| 1日の休息期間 | 継続11時間以上を基本 | 継続9時間を下回らない |
| 連続運転時間 | 4時間以内 | SA・PAに駐車できない場合などは4時間30分まで |
このほか、運転時間は、2日平均で1日9時間以内、2週平均で1週44時間以内とされています。
改善基準告示そのものは労災認定の基準ではありません。ただし、この上限を超える働かせ方は、業務の過重性を示す事情になり、会社の責任を問う場面でも重要な根拠になります。
6. ご家族が今すぐできること

脳・心臓疾患の労災認定では、発症前の労働時間をどこまで正確に証明できるかが結果を左右します。会社の記録は、時間がたつと廃棄されたり、整えられたりするおそれがあります。
- 会社に記録の保存を求める:デジタコ(運行記録計)、運転日報、点呼記録、タイムカード、配車表などです。
- 手元の記録を残す:ご本人のスマートフォン(LINE、通話履歴、位置情報)、給与明細、出発・帰宅時刻のご家族の記憶やメモなどです。
- 医療記録を確認する:発症日や病名、既往症の状況が分かる資料です。
- 必要に応じて証拠保全を検討する:会社が記録を出さない、改ざんのおそれがある場合は、裁判所を通じて記録を確保する手続きがあります。
証拠の集め方は、当サイトのコラム「トラックドライバーの長時間労働、その証拠はどこにあるか」で詳しく解説しています。労災の請求には期限(時効)があり、治療費や休業補償は2年、遺族補償や障害補償は5年です。
労災の請求は、ご本人が療養中であれば治療費や休業補償について、亡くなられた場合はご遺族が遺族(補償)給付や葬祭料について行います。請求書は、勤務先を管轄する労働基準監督署に提出します。会社が協力しない場合でも請求できますので、会社の対応を待たずに準備を始めることが大切です。
| 【注意】会社の「残業はそれほど多くなかった」をうのみにしない 会社から「残業はそれほど多くなかった」「本人の体質の問題だ」と言われることがあります。しかし、タイムカード上の時間と、荷待ちを含む実際の拘束時間は、大きく違うことがあります。持病があっても労災と認められる場合もあります。会社の説明だけで判断せず、記録にもとづいて確認することが大切です。 |
7. 労災が認められなかったときは

労働基準監督署が労災と認めなかった(不支給の決定をした)場合でも、それで終わりではありません。決定に不服がある場合は、決定を知った日の翌日から3か月以内に、労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることができます。審査請求でも認められない場合は、労働保険審査会への再審査請求や、裁判所に決定の取消しを求める訴訟という道もあります。
不支給となる場合、労働時間や業務の負荷が十分に証明できなかったことが理由になっていることがあります。新たな証拠を集め直すことで、判断が変わる可能性もあります。
当事務所では、審査請求などの不服申立てや、不支給の決定の取消しを求める訴訟のご依頼もお受けしています。費用については、当サイトの「弁護士費用について」をご覧ください。
8. 会社への損害賠償請求も検討しましょう

労災が認定されても、労災保険から慰謝料は支給されません。長時間労働をさせていた会社には、安全配慮義務違反として損害賠償を請求できる場合があります(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」もご覧ください)。
亡くなられた場合や重い後遺障害が残った場合は、慰謝料や将来の収入の損失(逸失利益)を含め、請求額が大きくなることがあります。当サイトの「労災事故で死亡した場合の慰謝料(損害賠償)の相場はどれくらい?」「労災事故で死亡した場合の逸失利益(損害賠償)とは?金額はいくらになる?」「労災でご家族を亡くされた方へ」もご覧ください。
当事務所では、長時間労働によって脳梗塞を発症し、後遺症が残った方の解決事例があります(解決事例:長時間労働で失語症等の後遺症が残った事故)。解決の内容は、事案ごとに異なります。
9. よくあるご質問

Q. 高血圧などの持病があっても、労災になりますか?
A. なり得ます。持病があっても、業務による過重な負荷で病状が自然な経過を超えて悪化したと認められれば、労災の対象です。
Q. 倒れたのが自宅や休日でも、労災になりますか?
A. なり得ます。判断の中心は、発症した場所ではなく、発症前の業務が過重だったかどうかです。
Q. 会社から「残業はそれほど多くなかった」と言われました。
A. タイムカード上の時間と、荷待ちを含む実際の拘束時間は、大きく違うことがあります。デジタコや運転日報などで、実際の労働時間を証明できる場合があります。
Q. 亡くなった場合、家族の誰が請求できますか?
A. 遺族補償年金は、亡くなった方の収入で生計を維持していた配偶者や子などが受け取ります。年金の対象になる方がいない場合も、一時金が支給されることがあります。
10. まとめ――労働時間の記録を、消える前に確保する

トラック運転手の脳梗塞や心筋梗塞は、長時間労働など業務の過重な負荷が原因であれば、労災と認められます。過労死ラインに届かなくても、拘束時間の長さや休息の短さ、深夜勤務などを合わせて認められる道があります。労災が認められなかった場合も、審査請求などで争うことができます。
脳・心臓疾患の労災は、労働時間の立証が最大の山場です。ご家族だけで会社とやり取りをするのは大きな負担になります。弁護士が、記録の確保から労災申請、会社への請求までを一貫してサポートします。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、地域の皆様の法律問題に一貫して寄り添って参りました。仕事中の事故やケガ、病気でお困りの方とそのご家族が、適正な補償を受けられるよう、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 初回相談は60分まで無料です。入院中のご本人に代わって、ご家族からのご相談もお受けしています。会社への損害賠償請求、後遺障害等級認定、遺族補償年金の認定のサポートは着手金0円です(弁護士費用)。電話、LINEビデオ通話、Zoomでのご相談にも対応しています。お電話(048-649-4631/平日9:00〜20:00・土曜9:00〜17:00)のほか、メール・LINEでもお問い合わせいただけます。 |
【出典・参照条文】
- 厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日付け基発0914第1号)
- 厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント」
- 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。令和6年4月から改正後の基準を適用)
- 労働者災害補償保険法第42条(時効)、労働保険審査官及び労働保険審査会法第8条(審査請求期間)
- 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
- (注)本記事は一般的な解説であり、労災に当たるかどうかは発症前の業務の状況などを総合して判断されます。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
労働災害(労災)
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。




