【交通事故】重傷事案の示談交渉と訴訟|提示額の見抜き方と解決までの流れを弁護士が解説

長い入院と手術、そしてリハビリを経て、ようやく症状固定に至り、後遺障害の等級も決まった。しばらくして保険会社から届いた一通の書面に、賠償金の提示額が記載されています。

「これが妥当な金額なのだろうか」。多くの方がそこで手が止まります。相手は毎日この仕事をしている専門部署であり、こちらは人生で初めての交渉です。

重傷事案では、提示額と適正額との差が数百万円から数千万円に及ぶことが珍しくありません。本記事では、提示額のどこを見ればよいのか、交渉から訴訟までどのように進むのかを、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

提示書面はここを見る

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基準が何かを確認する

提示書面には、治療費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益といった項目が並んでいます。まず確認すべきは、慰謝料の金額が赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)の基準に照らしてどの水準にあるかです。

赤い本の基準では、後遺障害慰謝料は第一級二八〇〇万円、第三級一九九〇万円、第五級一四〇〇万円、第七級一〇〇〇万円、第九級六九〇万円、第一一級四二〇万円、第一二級二九〇万円が目安です。提示額がこれを大きく下回っていれば、交渉の余地があります。

入通院慰謝料の算定方法

赤い本では、原則として別表Ⅰを用い、入通院期間を基礎に算定します。たとえば入院三か月・通院六か月であれば二一一万円、入院六か月・通院六か月であれば二八二万円が目安です。

さらに、傷害の部位・程度によっては二〇パーセントから三〇パーセント程度の増額が、生死が危ぶまれる状態が継続したときや手術を繰り返したときには別途の増額が認められます。提示額が一〇〇万円前後にとどまっていれば、明らかに低い水準です。

休業損害の基礎日額

給与所得者であれば、事故前三か月の給与総額を九〇日で割った金額が基礎日額です。保険会社が稼働日数で割って日額を低く算定していることがありますので確認してください。有給休暇を使った日も休業損害の対象になります。

家事従事者の方は、賃金センサスの女性全年齢平均賃金を基礎として請求できます。自営業者の方は、確定申告の所得額に加え、事業維持に必要な固定経費も請求できます。

逸失利益の三要素

基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間。この三つを確認します。若年者なのに実収入で計算されていないか、喪失率が等級表より低くされていないか、喪失期間が六七歳までではなく一〇年などに制限されていないか。いずれも典型的な減額の手口です。

将来分の損害が入っているか

重傷事案で提示額が低くなる最大の原因は、将来分の損害がそもそも計上されていないことです。

将来介護費、将来治療費、装具・器具の買替費用、家屋改造費、自動車改造費、成年後見人の報酬。これらは、被害者側から具体的な金額と根拠を示して請求しない限り、保険会社が自ら提示してくることはまずありません。

赤い本の基準では、将来介護費は職業付添人が実費全額、近親者付添人が一日につき八〇〇〇円とされていますが、重度後遺障害の裁判例では日額一万五〇〇〇円から二万八〇〇〇円が認められ、総額が一億円を超えた例も複数あります。提示書面にこれらの項目が見当たらなければ、その一点だけでも交渉の理由になります。

近親者慰謝料が入っているか

第一級・第二級といった重度後遺障害の事案では、ご本人の慰謝料とは別に、ご家族固有の慰謝料が認められます。裁判例では、ご本人分三〇〇〇万円に父母各三〇〇万円から四〇〇万円を加算した例が多数あります。

これも、請求しなければ提示されることはない項目です。

過失割合

賠償額が大きい事案ほど、過失割合一割の差が数百万円の差になります。提示された過失割合の根拠を確認し、納得できなければ刑事記録やドライブレコーダー映像で検証すべきです。

既払金と損益相殺

治療費として保険会社が病院に支払った金額、労災保険や健康保険の給付、人身傷害保険金などが控除されています。控除されるべきでないもの(労災の特別支給金など)まで差し引かれていないか確認してください。

解決までの三つの道筋

解決までの三つの道筋

示談交渉

まず代理人から請求書を送り、交渉を行います。争点が過失割合や損害項目の一部にとどまる事案では、三か月から六か月程度で合意に至ることもあります。

メリットは、時間と費用の負担が小さいことです。デメリットは、保険会社が裁判基準の満額までは応じないことが多く、八割から九割程度での妥結となる場合があることです。

紛争処理センターの利用

公益財団法人交通事故紛争処理センターに和解あっせんを申し立てる方法があります。嘱託弁護士があっせん案を示します。あっせん案そのものに法的拘束力はありませんが、あっせんが不調に終わった場合の審査会の裁定には、被害者側が同意すれば協定保険会社等が拘束されるため、実際にはあっせん案が尊重される傾向にあります。

費用がかからず、訴訟より短期間で解決できる利点があります。もっとも、過失割合や後遺障害の存否といった事実関係に大きな争いがある事案には向きません。

訴訟

交渉で折り合えない場合には、地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。解決までに一年から二年を要することもありますが、その分のメリットもあります。

第一に、裁判基準が満額認められる可能性があること。第二に、認容額に対して事故日からの遅延損害金(令和二年四月一日以降の事故であれば年三パーセント、それ以前は年五パーセント)が付くこと。第三に、認容額のおおむね一割が弁護士費用として上乗せされること。第四に、裁判所は自賠責の等級認定に拘束されませんので、より高い等級や喪失率が認められる可能性があることです。

重傷事案では、これらを合計すると、訴訟を選ぶことで手取り額が大きく増えることが少なくありません。

訴訟の進み方

訴訟を提起すると、まず訴状と答弁書のやり取りがあり、その後は一か月から二か月に一度のペースで期日が開かれ、双方が準備書面と証拠を提出していきます。

重傷事案では、後遺障害の程度、労働能力喪失率、将来介護費の日額と期間、過失割合、素因減額といった点が争点になります。医学的な争点がある場合には、主治医の意見書を提出したり、私的鑑定を実施したりすることもあります。

争点がひととおり整理されると、裁判所から和解案が示されるのが一般的です。和解に至らなければ、当事者や医師の尋問を経て判決となります。統計上、交通事故訴訟の多くは和解で終了しています。

なお、ご本人が判断能力を欠く状態にある場合には、訴訟を追行するために成年後見人の選任が必要です。申立てから選任までに数か月かかりますので、早めに準備してください。

重傷事案で特に注意すべきこと

重傷事案で特に注意すべきこと

示談は一度きり

示談書には、「本件に関し、当事者間に他に何らの債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項が入ります。署名をすれば、後から症状が悪化しても、請求漏れに気づいても、原則としてやり直しはできません。

将来の再手術が見込まれる場合などには、その点を留保する条項を入れる交渉も考えられます。

症状固定後も悪化した場合

示談後に症状が悪化した場合、清算条項があっても、示談当時に予想できなかった後遺症については追加請求が認められる余地があります。最高裁も、示談当時予想できなかった損害についてまで放棄したものとは解されないとの判断を示しています。

もっとも、これは例外的な取扱いです。将来の再手術や症状の進行が見込まれる場合には、示談の段階でその点を留保しておくほうが確実です。

時効に注意する

損害及び加害者を知った時から、物損は三年、人身損害は五年で時効にかかります。後遺障害については症状固定日が起算点です。

自賠責保険への請求権は、症状固定の翌日から三年です。交渉が長引きそうな場合には、時効の完成猶予の手続をとる必要があります。

生活資金の確保

症状固定から示談成立までは、収入が途絶える一方で介護費用がかさみます。被害者請求により自賠責保険金を先に受け取る、人身傷害保険を先行して使う、労災の年金を受給するといった方法で、生活の基盤を確保してから交渉に臨むことをお勧めします。

過失相殺がある場合の健康保険・労災の活用

被害者側にも過失がある事案では、治療費についても過失割合に応じた減額が行われます。自由診療で治療費が高額になっていると、その分の自己負担が重くなります。

そこで、健康保険や労災保険を使って治療費の総額を圧縮しておくことが有効です。総額が下がれば、過失相殺で差し引かれる金額も下がり、結果として手取り額が増えます。

健康保険を使う場合には「第三者行為による傷病届」を、労災の場合には「第三者行為災害届」を提出する必要があります。事故直後の判断が、最終的な手取り額を左右します。

人身傷害保険の使い方

ご自身やご家族の任意保険に人身傷害保険が付いていれば、過失割合にかかわらず約款基準の保険金を受け取れます。治療費や当面の生活費を確保する手段として有効です。

ただし、受領の順序によって最終的な手取り額が変わります。加害者からの賠償金を先に受け取るか、人身傷害保険金を先に受け取るかで、いわゆる過失部分の回収に差が生じるためです。受領の前に一度ご相談いただくことをお勧めします。

なお、加害者が任意保険に加入していない、いわゆる無保険事案では、自賠責保険の限度額を超える部分を加害者本人から回収しなければなりません。資力に不安がある場合には、財産の調査や仮差押えを検討する必要があります。ご自身の保険に無保険車傷害保険が付いていれば、そちらから回収できる場合もあります。

弁護士費用特約を確認してください

弁護士費用特約を確認してください

自己負担なく依頼できる

多くの自動車保険には、弁護士費用特約が付帯されています。法律相談料一〇万円、弁護士費用三〇〇万円までを保険会社が負担する内容が一般的です。

ご自身の保険だけでなく、ご家族(配偶者、同居の親族、別居の未婚の子)の保険に付いている特約を使える場合もあります。また、自動車保険だけでなく、火災保険やクレジットカードの付帯サービスに付いていることもあります。

特約を使っても等級が下がったり保険料が上がったりすることはありません。まずは保険証券を確認してください。

特約がない場合

当事務所では、弁護士費用特約がない場合でも、原則として着手金無料の方式を採用しています。増額できた金額の中から報酬をいただく形ですので、持ち出しの心配なくご依頼いただけます。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

基準が変わる

弁護士が代理人として介入すれば、交渉は裁判基準を前提に進みます。提示額が二倍、三倍になる事案は珍しくありません。

交渉の窓口を一本化できる

ご本人やご家族が、介護や治療と並行して保険会社とやり取りを続けることは大きな負担です。窓口を一本化することで、生活の立て直しに専念していただけます。

当事務所のサポート内容

①提示書面の分析

まず提示書面を拝見し、項目ごとに適正額との差を分析して、増額の見込みを率直にお伝えします。

②請求書の作成と交渉

赤い本の基準に基づく請求書を作成し、代理人として保険会社と交渉します。窓口は当方に一本化されます。

③証拠の収集

刑事記録の取寄せ、医師への照会、意見書の取得といった証拠収集も、すべて当方で行います。

④紛争処理センター・訴訟

交渉で折り合えない場合には、紛争処理センターの利用または訴訟の提起を検討し、ご本人の意向を確認しながら方針を決めていきます。

おわりに

おわりに

保険会社の提示額は、交渉の出発点にすぎません。そして、その出発点は、裁判所が認める水準よりもかなり低い位置に置かれているのが通常です。

重傷事案では、その差が数千万円に及ぶこともあります。ご自身とご家族のこれからの生活を支える原資である以上、その金額が妥当かどうかを確かめずに署名をするべきではありません。

提示書面が届いたら、署名の前に一度ご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。