
海外で人気の化粧品を仕入れて日本国内で販売したい、あるいは海外の工場に自社ブランドのコスメを製造委託して輸入したい——越境ECやSNSを通じた情報流通の加速を背景に、当事務所にはこうしたご相談が数多く寄せられています。相談者も、既存事業の多角化を図る中小企業、海外ブランドの日本総代理店、D2Cブランドを立ち上げる個人事業主まで、実に多様です。
化粧品ビジネスは、医薬品と比べて参入しやすい分野であると言われます。医薬品であれば品目ごとに厚生労働大臣の承認(薬機法第14条)を受けなければ製造販売できませんが、化粧品は原則として品目ごとの承認を要しないからです。
しかし、「承認が要らない」ことと「規制がない」ことは、まったくの別物です。海外の化粧品を輸入して国内で販売する行為は、薬機法上、自社の工場で製造して販売するのと同じ「製造販売」に位置づけられます。その結果、二種類の業許可、品目ごとの届出、成分規制、日本語による表示義務、そして広告規制という、幾重もの規制をクリアしなければなりません。
これらを知らないまま販売を始めてしまい、保健所の立入りを受けて在庫をすべて廃棄せざるを得なくなった、という事例も現実に生じています。無許可での製造販売は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(薬機法第84条第2号)という刑事罰の対象であり、決して軽微な違反ではありません。
本コラムでは、海外化粧品の輸入販売を検討されている事業者の皆様に向けて、事業開始前に必ず押さえるべき薬機法上の手続と、実務で見落とされがちな落とし穴を解説いたします。
「輸入して売る」は薬機法上の「製造販売」にあたる

製造販売業許可が必要になる理由
まず出発点として押さえていただきたいのが、薬機法における「製造販売」の定義です。
薬機法第2条第13項は、「製造販売」を、自ら製造をし、又は輸入をした医薬品等を販売し、貸与し、若しくは授与することと定義しています。つまり、海外から化粧品を輸入して国内の消費者や小売店に販売する行為は、法律上、製造行為を行っていなくとも「製造販売」に該当するのです。
そして、化粧品の製造販売業を行うには、薬機法第12条第1項に基づく「化粧品製造販売業許可」が必要です。この許可は、条文上は厚生労働大臣の権限とされていますが、実務上は都道府県知事が処理しており、申請先は総括製造販売責任者が業務を行う事務所の所在地を管轄する都道府県の薬務主管課となります。有効期間は5年で、更新が必要です。
許可の要件と人員体制~「営業担当者しかいない会社」では取れない
許可の要件は、大きく二つです。第一に、品質管理の方法がGQP省令(医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令)に、製造販売後安全管理の方法がGVP省令(同・製造販売後安全管理の基準に関する省令)にそれぞれ適合していること。第二に、申請者や責任役員が欠格事由に該当しないことです。
ここで実務上のハードルとなるのが、人員要件です。化粧品の製造販売業者は、総括製造販売責任者を置かなければならず(薬機法第17条第1項)、その資格は施行規則第85条の2第2項に定められています。具体的には、①薬剤師、②高校以上の学校で薬学又は化学に関する専門の課程を修了した者、③薬学又は化学の科目を修得した後、品質管理又は製造販売後安全管理の業務に3年以上従事した者などです。加えて、GQP上の品質保証責任者、GVP上の安全管理責任者も必要となります。「営業担当者しかいない会社が、明日から輸入化粧品を売る」ということは、制度上できない仕組みになっているのです。
見落とされやすい「製造業許可」~輸入品の保管・ラベル貼りも「製造」

製造販売業許可だけでは足りない
ここからが、実務で最も見落とされる論点です。
製造販売業許可さえ取ればよいと誤解されている事業者が少なくありませんが、輸入化粧品を扱う場合、多くのケースで薬機法第13条第1項に基づく「化粧品製造業許可」も併せて必要になります。
というのも、薬機法における「製造」には、最終製品の保管や、包装、表示(ラベル貼付)といった工程が含まれるからです。海外から輸入した製品を自社倉庫に保管し、日本語の成分表示ラベルを貼って出荷するという、ごく当たり前の作業が、法律上は「製造」にあたります。
二つの区分~自社の工程がどちらに当たるか
化粧品製造業許可には、施行規則第25条第3項により二つの区分があります。
包装・表示・保管区分
輸入した完成品を保管し、日本語ラベルを貼り、外装を整えるだけであれば、包装・表示・保管のみを行う「包装・表示・保管区分」の許可で足ります。輸入代理店型のビジネスの多くはこの区分に該当します。
一般区分
これに対し、輸入したバルク(半製品)を国内で容器に小分け充填する場合や、製造工程の一部を国内で行う場合には、製造工程の全部又は一部を行う「一般区分」の許可が必要となります。構造設備の要件も厳しくなりますので、自社の工程がどちらに当たるのかは、事業計画の段階で見極めておくべきポイントです。
保管のみの登録制度と「委託」という選択肢
なお、令和3年8月に施行された「保管のみを行う製造所の登録」制度(薬機法第13条の2の2)は化粧品にも適用されており、保管だけを行う倉庫については許可ではなく登録で対応できる場合があります。
また、自社で許可・登録を取得せず、許可を有する物流事業者(受託製造所)に保管・表示を委託するという選択肢もあります。初期投資を抑えたい事業者にとっては現実的な設計といえますが、委託先との間で品質管理に関する取決め(GQP省令上の取決め)を書面で交わすことが必要です。
品目ごとの手続と製品面の規制

化粧品製造販売届と「外国届」
業許可を取得しても、それだけで商品を売れるわけではありません。
化粧品は品目ごとの承認こそ不要ですが、薬機法第14条の9第1項により、販売開始前に、品目ごとに「化粧品製造販売届」を提出する必要があります。届出事項に変更が生じた場合には、30日以内の変更届も必要です(同条第2項)。
販売名も自由に付けられるわけではなく、既存の医薬品と同一の名称や、医薬部外品と紛らわしい名称、効能効果を誇大に暗示する名称は認められません。「薬用」「メディカル」といった語を安易に用いると、届出の段階で修正を求められます。
さらに、輸入化粧品に特有の手続として、いわゆる「外国届」があります。海外の製造販売業者や製造所については、あらかじめ「化粧品外国製造販売業者(製造業者)届書」を提出しておく必要があり、この届出を経た外国製造所を製造販売届に記載することになります。医薬品のような外国製造業者の認定は不要ですが、この届出を失念すると製造販売届が受理されません。
日本で使えない成分がある~「化粧品基準」という壁
輸入ビジネスで最も深刻なトラブルに発展しやすいのが、成分規制です。
化粧品の成分は、薬機法第42条第2項に基づく「化粧品基準」(平成12年厚生省告示第331号)により規律されています。その構造は、配合が禁止・制限される成分を列挙する「ネガティブリスト」と、防腐剤・紫外線吸収剤・タール色素について使用できる成分を限定列挙する「ポジティブリスト」の組合せです。
ここで注意すべきは、欧米で適法に流通している製品であっても、日本の化粧品基準には適合しない場合があるという点です。特に防腐剤と紫外線吸収剤は、リストに掲載された成分を、定められた配合量の範囲で用いなければなりません。海外ブランドの処方をそのまま持ち込むと、この段階で販売不可と判明することがあります。
しかも、成分の問題は広告表現の手直しでは治癒できません。輸入契約を締結し、まとまったロットを発注してから発覚すれば、そのまま在庫が不良資産と化します。取引条件を詰める前に、全処方(フルフォーミュラ)を入手して化粧品基準への適合性を確認することを、強くお勧めいたします。
表示は日本語で~全成分表示と製造販売業者名
輸入品をそのまま店頭に並べることはできません。化粧品の容器・被包には、薬機法第61条に基づき、製造販売業者の氏名又は名称及び住所、名称、製造番号又は製造記号、全成分の名称、指定された製品については使用期限などを、邦文で記載しなければなりません。
全成分表示は、配合量の多い順に、日本化粧品工業会の定める表示名称を用いて記載するのが原則です(1%以下の成分と着色剤は順不同で可)。ここに記載される「製造販売業者」は、海外ブランドではなく、日本で製造販売業許可を受けた事業者です。つまり、輸入事業者は自社の名称と住所を製品に表示して、品質と安全性について日本国内で責任を負う立場に立つことになります。
表示を欠いた製品の販売は禁止されており(薬機法第55条第1項の準用)、輸入代理店が「ブランド側が作ったパッケージだから」と言い訳することはできません。
通関の場面~輸入確認(旧・薬監証明)が必要な場合
輸入の場面では、税関での確認手続も押さえておく必要があります。
業として化粧品を輸入する場合、製造販売業許可を取得し、製造販売届を提出済みであれば、原則として輸入確認(薬機法第56条の2。かつての「薬監証明」)は不要です。通関の際には、化粧品製造販売業許可証の写しと製造販売届書の写しを提示し、届出者と輸入申告者が一致していることを示す取扱いとなっています(令和2年8月31日薬生発0831第4号ほか)。
他方で、許可・届出を経ていない者が輸入する場合や、試験研究用・展示用として輸入する場合には、地方厚生局の輸入確認を受ける必要があります。「まずはサンプルを輸入して市場の反応を見たい」という場面でも、数量や目的によっては確認手続が必要になりますので、事前の確認が欠かせません。
販売開始後のリスク~広告規制と法改正の動向

化粧品には「56の効能の範囲」がある
無事に販売にこぎつけても、広告表現でつまずく事業者は後を絶ちません。
範囲を超えれば「化粧品」ではなく「医薬品」になる
化粧品の効能効果として標榜できる範囲は、平成23年7月21日薬食発0721第1号により56項目に限定されています。「肌にはりを与える」「乾燥による小ジワを目立たなくする」といった表現はこの範囲内ですが、「シミが消える」「アトピーが治る」「細胞を再生する」といった表現は範囲を超えます。
範囲を超えた効能効果を標榜すれば、その製品は形式上「化粧品」であっても、使用目的の観点から薬機法上の「医薬品」とみなされ、無承認無許可医薬品として取締りの対象となり得ます。また、虚偽又は誇大な広告は薬機法第66条第1項に違反し、令和3年8月に導入された課徴金納付命令の対象となります。課徴金は対象期間(最長3年)の対価合計額の4.5%であり、売上規模によっては極めて高額です。
インフルエンサー・アフィリエイトも「何人も」規制の対象
近年はインフルエンサーやアフィリエイターを通じた宣伝が主流ですが、薬機法の広告規制は「何人も」を名宛人としており、外部に委託したから免責されるという理屈は通りません。加えて、令和5年10月からは景品表示法のいわゆるステルスマーケティング規制も施行されており、広告主である輸入事業者が責任を問われる構造は共通しています。NG表現を明示したガイドラインを示し、投稿内容を定期的にモニタリングする体制が不可欠です。
令和7年改正の影響~責任役員と外国製造業者の登録
最後に、直近の法改正の動きにも触れておきます。
令和7年5月21日に公布された改正薬機法(令和7年法律第37号)は、後発医薬品の供給不安や品質不正事案を受けた改正であり、その多くは医薬品を対象とするものです。もっとも、化粧品の事業者にも関係する項目があります。
一つは、法令違反があった場合に厚生労働大臣が責任役員の変更を命じることができる制度で、これは化粧品の製造販売業者・製造業者も対象とされています。もう一つは、本邦に輸出される化粧品を製造する外国製造業者について、登録制度が設けられる点です。いずれも公布から2〜3年以内の施行が予定されており、輸入化粧品を扱う事業者は、サプライチェーンの管理体制を今のうちに整理しておくことが望まれます。
まとめ

海外化粧品の輸入販売は、品目ごとの承認が不要であるという点で確かに参入しやすい事業です。しかし、その手軽さの裏側には、①化粧品製造販売業許可、②化粧品製造業許可(又は保管のみの登録、あるいは許可を有する事業者への委託)、③品目ごとの製造販売届と外国届、④化粧品基準への適合、⑤日本語による全成分表示、⑥通関手続、⑦56の効能の範囲を踏まえた広告管理という、七つの関門が控えています。
これらはいずれも、商品を仕入れてから対応できるものではありません。許可の取得には人員の確保と体制整備が必要であり、成分が基準に適合しなければ製品そのものを取り扱えません。輸入契約を締結する前の段階で、法的な実現可能性を確認しておくことが、結果として最も低コストなリスク管理となります。
当事務所では、化粧品の輸入販売を新たに始められる事業者の皆様に対し、事業スキームの設計段階からのリーガルチェック、契約書の作成・レビュー、広告表現の確認、行政対応まで一貫してご支援しています。輸入や新規参入をご検討の際には、着手前の早い段階でご相談いただければ幸いです。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
薬機法
中央大学法科大学院・埼玉工業大学での講師活動、法テラス民事法律扶助審査委員・埼玉県意見表明等支援員としての公的活動を通じ、幅広い法的知見を持って依頼人の権利と事業を守る。公益社団法人埼玉県暴力追放・薬物乱用防止センター主催の不当要求防止責任者講習でも講師を務め、民事介入暴力対策委員会・子どもの権利委員会所属。




