【2026年6月成立】デジタル遺言制度「保管証書遺言」とは? メリットや注意点を解説

2026年6月に成立した民法の改正案により新たな遺言制度「保管証書遺言」が将来開始されることになりました。デジタル時代に対応した新しい遺言作成の仕組みや従来の遺言書との違い、メリット、利用する際の注意点を分かりやすく解説します。

はじめに

はじめに

​自身の財産を残される家族へスムーズに引き継ぎ、将来の相続トラブルを未然に防ぐためのツールとして、遺言・遺言書は非常に重要です。

​これまで日本の法律(民法)では、主として「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類の遺言制度がありました。

自筆証書遺言:
遺言者が、遺言の本文・日付・氏名を全て手書きし、押印して作成する遺言書。

公正証書遺言:
遺言者が公証役場へ向き、公証人に遺言内容を伝えて作成してもらう遺言書。

自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑さえあれば、手軽に自宅で作成することも可能でした。
しかしながら、保管状況によっては、遺言書の紛失や汚損、隠匿、改ざんなどのリスクが否定できないところもありました。
他方、公正証書遺言は、遺言書の原本は公証役場で保管されるため、上記のようなリスクはありませんでしたが、公証役場に赴き作成しなくてはならないというハードルが存在しました。

そこで、ある意味で「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のいいとこどりをしたような制度として、法務局による「自筆証書遺言書保管制度」が創設され、2020年からはじまっていました。
これは、自筆証書遺言を作成したあと、この原本を法務局に預けて保管をしてもらえるという制度です。
法務局で厳重に保管されるため、紛失や汚損、隠匿、改ざんといったリスクを防ぐことができます。

また、単なる自筆証書遺言では相続発生後に家庭裁判所で「検認」という手続を受けなければなりませんが、自筆証書遺言書保管制度を利用すると、この手続きが不要になるという便利な効果もありました。

​現行制度の課題

​現行制度の課題

上記のような日本の遺言制度には、主として以下の2つの課題がありました。

課題① 「手書き」が必要

これが最大の理由だと思いますが、従来の主たる遺言制度である自筆証書遺言の場合、このデジタル化の時代にあっても「手書き」が必要とされています。
「本文、日付、氏名」は必ず手書き(自筆)にて書く必要があります。

皆さんは、最近、文章を手書きしていますか?
仕事はPC打ち、プライベートはスマートフォン打ちと、名前や住所ならまだしも、「文章」を手書きする機会はほとんど無くなってきているのではないでしょうか。
かく言う筆者も、筆者の頃の司法試験や二回試験(司法修習の卒業試験に当たります。)では長文を手書きしていましたが、弁護士になった後には、メモ書きを手書きすることがある他は、ほとんどPC打ちをしているように思います。

このように、そもそも文章を手書きする機会が減っている昨今にもかかわらず、自筆証書遺言では手書きが求められます。
本文、日付、氏名をPC打ちした場合は、形式を満たさず、遺言としては無効となってしまいます。

特に厄介なのは「本文」の手書きです。
「遺言者は全ての財産を●●に相続させる。」のような一文だけの遺言であればまだ良いのですが、この遺産は誰へ、あの遺産は彼へ、等と細かく指定すればするほど、本文の分量が増え、その分手書きの負担が増えます。
もし書き間違いをしてしまった場合には、消しゴムや修正液で直すのではなく、きちんと定められた加除訂正のルールに従わなければなりません。
これは私の経験に基づく感想ですが、書き間違いをしないように遺言書を書き切るのは結構大変です。特に高齢になってから、手が震えないように、集中力を切らさないように、長文を手書きで書き切るというのは、本当に大変だと思います。

自筆証書遺言で主要な欄を手書きにするように求めるのは、遺言者が自分の意思でこの遺言を残しているということを担保するために設けられた「縛り」なのだと思いますが、筆者も含め、多くの人が心の中で「遺言書をパソコンやスマートフォンで作成できるようになればいいのに……」と思っていたのではないでしょうか。

課題② 法務局か公証役場に行くか、紛失等のリスクを甘受するか

上記で紹介した自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は法務局へ、公正証書遺言を作成する場合は交渉役場へ行く必要があります。
いずれも、代理人だけが行くというのでは足りません。必ず本人が行く必要があります。
公正証書遺言の場合は、入院等の事情があれば、病院まで出張をお願いすることや、ウェブ会議の方法で面接をすることも可能ですが、必ずしも認められるわけではありませんでした。

そうすると、紛失等のリスクを負って自宅等手元で保管するか、わざわざ法務局や公証役場に行くか、という2択になるということになります。
ユーザー目線――というより遺言者目線に立てば、「自宅に居ながら遺言書を作成し、自宅に居ながら安全に保管できたら便利なのに……」と思うことも当然かと思います。

​デジタル時代の新制度「保管証書遺言」が創設

​デジタル時代の新制度「保管証書遺言」が創設

​こうした時代の変化やニーズに対応するため、2026年(令和8年)6月、民法等の一部を改正する法律が成立し、デジタル技術を活用した新たな遺言方式として「保管証書遺言」が創設されることになりました。
なお、この遺言の方式は、俗に「デジタル遺言」と呼ばれることもあります。制度の全過程がデジタルに限られるというわけではないので、やや不正確ですが、デジタルもOKになったというインパクトが大きいので、デジタル遺言との呼び名も頷けます。

保管証書遺言の特徴は下記のとおりです。

①遺言書はPCやスマートフォンで作成可

保管証書遺言の場合、遺言書はデジタルでもアナログでも、パソコン打ちでも手書きでも、いずれで作っても構わないということになっています。

アナログ(紙)で作る場合は全文を作成したあと、手書きの署名をします。パソコンなどで作成して印刷したという場合もこちらに当たります。

デジタル(データ)で作る場合は、全文と氏名を電磁的記録(デジタルデータ)で作成(記録)し、さらに電子署名などを施します。

②「署名」の代わりに電子署名も可能になる

上記のとおり、遺言書をデジタル(データ)で作成しこれをデータのまま下記③の保管をする場合は、手書きの「署名」の代わりに、電子署名などを利用することができます。

③作成した遺言書データは法務局が保管する

「保管証書遺言」は、その名のとおり「保管」が制度の肝になります。
上記①②で作成した遺言書は、法務局に「保管」しなければその効力を生じないとされています。
法務局が遺言書の原本を保管することになるので、紛失や改ざんなどのリスクは限りなく低くなります。

④保管の申請や手続がオンライン上で出来る

法務局への保管の申請は、オンラインで申請することができるようになります。
保管の手続の際には、遺言書保管官(法務局の担当の職員のことです。)が本人確認を行いますので、第三者が遺言者になりすまして遺言書の保管手続をすることを防げるものと思われます。
また、この本人確認や下記⑤の口述を含む保管申請時の面接についても、一部ウェブ会議の方法で行うことができるようになる予定とのことです。
なお、具体的な仕組み作りはこれからなので、詳細は今後の情報公開を待つことになります。

⑤遺言書保管官に遺言の全文を口述して伝える

法務局に対して保管の申請をする際には、「遺言の全文を口述する」という手続を行うことになります。
平たく言えば、遺言書を音読するということです。
これにより、遺言者が自分の意思でその遺言を遺しているのだということが担保されます。
ちなみに、口がきけない方に対しては、通訳人による通訳や自書などの代替手段が用意されています。
なお、この口述を含む保管申請時の面接についても、一部ウェブ会議の方法で行うことができるようになる予定とのことです。

⑥相続人は、相続開始後に遺言書の証明書を請求できる

上記⑤までの手続により保管された遺言書について、相続人は、相続開始後に遺言書の証明書を請求できるようになります。これは紙、データのいずれの形式でも交付を受けられるようになるそうです。

遺言書の原本自体は、法務局に保管されたままになりそうです。

⑦検認不要

自筆証書遺言書保管制度や公正証書遺言の制度と並び、保管証書遺言の場合も家庭裁判所での「検認」の手続は不要となります。

注意! 保管証書遺言は「将来」スタートする

注意! 保管証書遺言は「将来」スタートする

上記のとおりご紹介してきた「保管証書遺言」ですが、これを定める改正民法は成立したものの、まだ施行とはなっていません。
「公布(令和8年6月24日)から3年以内」に制度スタートとなるとされていますので、現時点ではまだ具体的な日取りや手続きは明らかにされていません。おそらく、今、急ピッチで、保管証書遺言のためのシステムなどを作っているものと思われます。
そのため、「今、遺言書を作成したい」という方は、従来どおり、自筆証書遺言や公正証書遺言の方法でご作成頂き、次に書き直し・作り直しをする際に、(間に合っていれば)保管証書遺言の方法もご検討頂くということになります。
特に公正証書遺言を選択しない場合には、「全文・日付・署名」が手書きの自筆証書遺言を作成することになります。
全文をパソコンやスマートフォンで作成しても良い保管証書遺言の制度は「まだ始まっていない」のでご注意ください。

まとめ

まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は、民法改正によって新設された「保管証書遺言」制度をご紹介しました。
「デジタル遺言」との呼び名もあるとおり、遺言書をパソコン打ちで作成できるようになったことは、本当に画期的で、個人的な感想としてもありがたいことだと思います。
また、法務局の職員による本人確認や遺言書の全文の口述などを通して、遺言書自体の形式的な有効性判断にも有利に(有効との方向に)働くものと思いますし、法務局で保管がなされることから紛失や改ざん等のリスクも無くしていくことができます。
将来の紛争予防という点では、とても効果があるものと思います。

一方で、本制度によっても担保されないのは、遺言書の中身(内容)の正当性です。
遺言保管官は遺言書の中身については何も判断しませんし、助言もしません。
そのため、遺言書の内容により遺言が無効となること、あるいは遺留分等の何かの紛争を引き起こす内容になることを防ぐ効果は、この制度にはありません。
将来、保管証書遺言制度を利用する際には、ぜひ一度、弁護士まで遺言のご相談をしてみてはいかがでしょうか。
将来生じ得るリスクも考えた上でどのような遺言書を遺すべきかアドバイスをし、必要に応じて手続のサポートもすることができると思います。ぜひご検討ください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 木村綾菜

相続

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和元年登録。遺産分割・遺留分侵害額請求・遺言作成などの相続分野の案件を多数取扱う他、相続財産清算人として相続人不存在となった遺産の整理を行ったり、高齢となった親の財産の処分のために成年後見人の選任の申立てを行ったりするなど、相続周辺分野の案件の実績も有する。