
【この記事のポイント】
多くの中小企業では、株主総会や取締役会が実際には開催されず、議事録だけが作られています。株主も役員も身内だけという会社では、それでも長年何の問題も起きません。しかし、ひとたび相続・事業承継・役員間の対立・M&Aといった場面が訪れた瞬間、その積み重ねが一気に牙をむきます。本記事では、形骸化が生む具体的なリスク(決議の無効・登記の停止・役員の個人責任・M&Aの破談)と、最低限やっておくべき実務、そして「平時から関与する顧問弁護士」がなぜ有効なのかを解説します。
はじめに ── 「開いていない総会」の議事録が眠っていませんか

「株主総会といっても、株主は私と妻と息子だけ。わざわざ集まる必要なんてないでしょう」
「取締役会も、顔を合わせれば毎日話しているようなものだから」
経営者の方から、こうしたお話をうかがうことは少なくありません。実際、多くの中小企業では株主総会や取締役会を適法に開催しなければならないという意識が低く、法定の手続に従って行われていないケースがよく見られます。そもそも実質的にこれらを開催せず、税理士や司法書士から言われるままに形式的な議事録だけを作成している企業もめずらしくありません。
問題は「争いが起きるまで表面化しない」こと
株主や取締役の間に争いがないうちは、こうした不備はまず表面化しません。だからこそ「今まで何も問題なかった」という実績が積み上がり、対応が後回しになります。しかし、ひとたび争いが生じると、経営権を失った株主や退任させられた取締役から決議の不備を突かれ、最終的に会社の根幹を揺るがす事態にまで発展することがあります。形骸化のツケは、必ず「一番まずいタイミング」で回ってきます。
1. 中小企業でも株主総会・取締役会は「法律上の義務」です

まず前提として、会社法は会社の規模を問わず、株式会社に対して機関の設置・運営を義務づけています。「うちは小さいから」「同族会社だから」という例外はありません。
◆ 株主総会 ── 定時総会は毎年必ず開催しなければならない
| 項目 | 会社法上のルール |
| 定時株主総会 | 毎事業年度の終了後、一定の時期に必ず招集しなければならない(会社法296条1項)。計算書類の承認・報告を行う |
| 招集通知 | 取締役会設置会社は総会日の2週間前まで(非公開会社で取締役会非設置なら1週間前まで、定款でさらに短縮可)に、株主全員へ発送する(会社法299条) |
| 議事録 | 開催日時・場所、議事の経過の要領及びその結果、出席役員、議長氏名などを記載し、本店に10年間備え置く義務がある |
| 株主リスト | 登記申請時には、議決権上位10名(または議決権割合3分の2に達するまで)の株主を記載した「株主リスト」の添付が必要 |
◆ 取締役会 ── 3か月に1回以上の開催が必要
取締役会設置会社では、代表取締役は3か月に1回以上、自己の職務執行状況を取締役会に報告しなければなりません(会社法363条2項)。この報告は書面決議(決議の省略)で代替することができないため、実質的に「最低でも3か月に1度は取締役会を開催する」ことが法律上求められています。
【重要な業務執行は取締役会決議が必須】
重要な財産の処分・譲受け、多額の借財、支店等の重要な組織の設置・変更、内部統制システムの整備などは、取締役会の決議が必要とされ、代表取締役に委任することができません(会社法362条4項)。「社長が一人で決めた多額の借入れ」が後から問題になるのは、この規定があるためです。
2. 形骸化が牙をむく瞬間 ── 4つの実害

では、株主総会・取締役会が形骸化していると、具体的にどのような不利益が生じるのでしょうか。実務で頻繁に問題となる4つの場面をご紹介します。
◆ 実害① 決議が「取り消される」「そもそも無かったこと」にされる
株主総会の決議には、瑕疵の程度に応じて3つの争い方が用意されています。
| 訴訟の種類 | 主な事由 | 提訴期間 | 提訴できる人 |
| 決議取消しの訴え | 一部株主への招集通知漏れ、招集期間の不足、定足数不足、説明義務違反、不公正な議事運営など | 決議の日から3か月以内 | 株主・取締役・監査役など |
| 決議無効確認の訴え | 決議の「内容」が法令に違反する場合 | 制限なし | 確認の利益がある者は誰でも |
| 決議不存在確認の訴え | 総会を開催した事実が全くない/招集手続の瑕疵が著しく決議があったと認められない場合 | 制限なし | いつでも・誰でも |
最も怖いのは「決議不存在」── 期間制限がありません
決議取消しの訴えは「決議から3か月以内」という短い期間制限があるため、時間が経てばリスクは消えていきます。ところが、実際に総会を開かず議事録だけ作っていた場合に問題となる『決議不存在確認の訴え』には、提訴期間の制限も原告適格の制限もありません。つまり、10年前・20年前の決議であっても、いつでも・誰からでも「あの決議は存在しない」と争われる可能性が残り続けるのです。しかも判決の効力は第三者にも及びます(対世効)。
【裁判例】
取締役会設置会社において、取締役会の招集決議を経ずに代表取締役以外の取締役が招集した株主総会の決議は「不存在」とされました(最判昭和45年8月20日)。また、招集通知の漏れが著しく、社会通念上招集通知があったとは認められない場合も決議不存在とされています(最判昭和33年10月3日)。
ケース① 20年前の役員選任が覆り、その後の決議が連鎖的に無効に
【状況】
創業者が「株主は家族だけだから」と総会を開かずに議事録だけを作り続けてきた同族会社。創業者の死後、相続で株式を取得した次男が「父の代の役員選任決議は不存在だ」と主張して提訴。
【結末】
選任決議が不存在とされると、その取締役が招集した以後の株主総会の決議まで連鎖的に効力を争われることになり、会社の意思決定の正当性が根底から揺らぐ事態に発展しました。
◆ 実害② 登記ができない・過料が科される・最悪は「みなし解散」
株主総会・取締役会の運営が形骸化している会社では、役員の任期管理が抜け落ちていることがほぼセットで起こります。
| 項目 | 内容 |
| 役員の任期 | 取締役は原則2年、監査役は原則4年。非公開会社は定款で最長10年まで伸長できる(会社法332条・336条) |
| 重任も登記が必要 | 同じ人が続けて役員に就任する場合でも、任期満了により一度退任し再び就任するため「重任」の登記が必要。「人が変わっていないから登記不要」は誤解 |
| 登記の期限 | 登記事由の発生から2週間以内(会社法915条1項) |
| 怠った場合の制裁 | 代表者等が裁判所から100万円以下の過料に処される可能性がある(会社法976条)。※実務上は数万円程度に収まることも多いが、確定的な保証はない |
| みなし解散 | 最後の登記から12年間何も登記がない株式会社は休眠会社として整理の対象となり、官報公告後も届出等がなければ解散したものとみなされる(会社法472条) |
【任期10年にしている会社ほど要注意】非公開会社では手間を減らすために任期を10年にしているケースが多くありますが、10年に一度の手続きは記憶から抜け落ちやすく、かえって選任懈怠・登記懈怠が起こりやすい傾向にあります。
◆ 実害③ M&A・融資・補助金の場面で「デューデリジェンス」に耐えられない
近年、中小企業でも事業承継型M&Aが一般的になりました。買い手候補は必ず法務デューデリジェンス(DD)を実施し、過去の議事録・登記・株主名簿の整合性を精査します。
- 議事録が存在しない、または日付や記載内容に矛盾がある
- 株主名簿と登記・株主リストの内容が一致しない
- 重要な財産処分や多額の借財について取締役会決議の記録がない
- 役員の任期・重任登記が長期間放置されている
こうした事実が発覚すると、「過去の意思決定の有効性に疑義がある」と評価され、買収価格の減額(ディスカウント)、表明保証条項の厳格化、最悪の場合は交渉自体の打ち切りにつながります。金融機関の融資審査や補助金申請でも、ガバナンス体制が問われる場面は増えています。
ケース② 議事録の不備でM&Aが土壇場で破談に
【状況】
後継者不在のため会社売却を決断した経営者。基本合意まで進んだが、買い手のDDで過去10年分の株主総会議事録がほとんど存在せず、株主名簿と登記の株主構成にも食い違いがあることが判明。
【結末】
「株主が誰なのか確定できない会社は買えない」として交渉は打ち切りに。整備し直すには相当な時間と費用がかかり、売却のタイミングを逃す結果となりました。
◆ 実害④ 取締役個人が損害賠償責任を負う
取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っており、これに違反して会社に損害を与えた場合、会社に対する損害賠償責任を負います(会社法423条)。
取締役会を開かず、代表取締役が独断で重要な意思決定を続けていた場合、他の取締役についても「監視義務を怠った」として責任を追及されることがあります。「名前を貸しているだけの名目的取締役」であっても免責されるとは限りません。さらに、株主から株主代表訴訟を提起されるリスクもあります。
【会社が支払ってくれるとは限りません】
役員の損害賠償責任は取締役「個人」の責任です。会社補償契約や役員賠償責任保険(D&O保険)を整備していない中小企業では、経営者個人の財産で賠償することになりかねません。
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3. 明日からできる ── 形骸化を防ぐ実務のポイント

とはいえ、中小企業に上場企業と同じ運営を求めるのは現実的ではありません。会社法は、実態に即した「使える制度」も用意しています。
◆ 集まれないなら「書面決議(決議の省略)」を正しく使う
株主全員が書面または電磁的記録により議案に同意した場合、株主総会の決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。取締役会についても、定款に定めがあれば同様の制度を利用できます(会社法370条)。
| 制度 | 要件・注意点 |
| 株主総会の 書面決議 | 取締役または株主が議案を提案し、議決権を行使できる株主の「全員」が書面等で同意することが必要。1名でも同意しない株主がいれば成立しない。同意書は10年間の備置義務あり |
| 取締役会の 書面決議 | あらかじめ定款に定めがあることが前提。取締役全員の同意と、監査役が異議を述べないことが必要。ただし代表取締役の職務執行状況の報告は書面で代替できず、3か月に1回は実際の開催が必要 |
「書面決議」と「議事録だけ作る」はまったく別物です
書面決議は、株主・取締役全員から実際に同意の意思表示を取得したうえで、その記録を残す正規の制度です。誰の同意も得ずに議事録だけを作成する行為とは、法的な意味がまったく異なります。前者は有効な決議、後者は決議不存在のリスクを抱えた文書です。この違いを正しく理解することが、形骸化から脱却する第一歩です。
◆ いま確認していただきたいチェックリスト
【ガバナンス自己点検チェックリスト】
- 直近の定時株主総会は、実際に開催(または適法な書面決議)を行いましたか
- 招集通知を、法定の期間内に株主全員へ発送していますか株主総会議事録・取締役会議事録を本店に備え置いていますか(10年間)
- 最新の株主名簿があり、登記・株主リストの内容と一致していますか
- 役員の任期はいつ満了しますか。重任登記は済んでいますか
- 多額の借財や重要財産の処分について、取締役会決議の記録がありますか
- 定款の内容は現在の実態と合っていますか(最後に見直したのはいつですか)
- 名義株や、連絡の取れない株主(所在不明株主)はいませんか
ひとつでもチェックが入らない項目があれば、その部分に将来の紛争の火種が眠っている可能性があります。特に最後の2項目は、事業承継やM&Aの場面で必ず問題になる論点です。
4. なぜ「顧問弁護士」なのか ── スポット相談との決定的な違い

ここまでお読みいただいて、「では問題が起きたら弁護士に相談すればよいのでは」とお考えになるかもしれません。しかし、会社法の分野に限っては、それでは手遅れになることが少なくありません。
◆ 会社法トラブルは「事後の相談」では取り返しがつかない
| 紛争が起きてから相談した場合 | 平時から顧問弁護士がいる場合 |
| ・過去に作ってしまった議事録は修正できない ・決議不存在の主張に対抗する材料が乏しい ・株式が分散した後では集約に多額の費用と時間が必要 ・M&AのDDで指摘された不備を短期間で是正できない ・訴訟対応に多額の費用と経営者の時間が奪われる | ・毎年の総会・取締役会を適法な形で積み重ねられる ・議事録が「証拠」として機能する状態で残る ・株式の分散を、相続が起きる前に手当てできる ・DDに耐えられる書類が平時から整っている ・そもそも紛争が起きにくい構造をつくれる |
◆ 顧問弁護士がご提供できること
| 支援内容 | 具体的な関与の仕方 |
| ①株主総会・取締役会の年間運営サポート | 招集通知・議案・議事録のひな形整備、開催スケジュールの管理、書面決議の適法な運用支援。「毎年の当たり前」を仕組みにします |
| ②定款・機関設計の見直し | 会社の実態に合った機関設計への変更、株式譲渡制限や役員任期の適正化、種類株式の活用検討 |
| ③株主の整理・株式の集約 | 名義株の調査と解消、所在不明株主の株式売却許可申立て、少数株主対策、特別支配株主の株式等売渡請求の活用 |
| ④事業承継・M&Aへの備え | 相続で株式が分散する前の対策、後継者への集約スキーム、DDに耐えうる書類体制の構築 |
| ⑤役員間・株主間の紛争予防と対応 | 問題役員への対応、株主間契約の締結、実際に紛争が生じた場合の交渉・訴訟対応 |
| ⑥日常の相談窓口 | 契約書チェック、労務問題、取引先とのトラブルなど、「これは相談すべきか」を迷わず聞ける関係。判断を早い段階で仰げることが最大の価値です |
税理士・司法書士の先生方との役割の違い
顧問税理士や司法書士の先生に議事録を作成してもらっている会社は多くあります。しかし、税務や登記の観点から見た形式的な整備と、将来の紛争を想定した法的な体制づくりは目的が異なります。「決議が争われたときに耐えられるか」「株主間で対立が生じたときにどう機能するか」という視点は、紛争解決を担う弁護士だからこそ提供できる部分です。私たちは他の士業の先生方と連携しながら、法務面を補完する役割を担います。
5. まとめ ── 「何も起きていない今」こそが、最も動きやすいタイミング

株主も役員も身内だけという会社にとって、株主総会や取締役会の手続は「形式的で意味のないもの」に映るかもしれません。実際、争いがない間は何の問題も生じません。
しかし、会社には必ず節目が訪れます。経営者の相続、後継者への承継、役員間の意見の対立、外部からの出資やM&A。そのとき、これまで積み重ねてきた(あるいは積み重ねてこなかった)手続の記録が、会社の未来を左右します。
そして重要なのは、過去にさかのぼって議事録を作り直すことはできないという事実です。今日から適法に積み重ねていくことだけが、唯一の対策となります。
【まずは現状把握から】
「うちはどうなっているのか分からない」という状態でまったく問題ありません。登記事項証明書・定款・株主名簿・直近数年分の議事録をご用意いただければ、現状のリスクを整理し、優先順位をつけてご提案いたします。
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現状の点検から、体制づくり、紛争対応まで一貫してサポートします。
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グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、地域の企業の皆様に寄り添って参りました。会社法務は、紛争が起きてからでは選べる手段が大きく限られてしまう分野です。だからこそ、平時から関与し、経営者の方が安心して事業に専念できる体制をつくることを大切にしています。顧問契約をご検討の企業様はもちろん、「まず現状を見てほしい」というご相談も歓迎いたします。会社の未来を守るために、私たちにお手伝いをさせてください。
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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
会社法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、企業からの会社法に関する質問対応を担当し、顧問先を中心に多くの企業の法務をサポート。株主総会の準備・運営や招集手続、役員の責任の訴訟といった会社法分野に関わり、常にメール・電話・オンラインを活用した顧問先からの質疑に対応。社内不正やハラスメント事案などの社内調査にも力添えし、事実調査の方針設計からヒアリング、再発防止策の提言まで一貫して対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、企業向けセミナーでの講演実績もあり、平時の予防法務から有事の紛争対応まで、企業経営を法的側面から幅広く支援する。




