会社法は、事業譲渡について、譲受会社・譲渡会社の手続を定めております。このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める取締役の法的責任についてポイントを絞って分かりやすく解説します。

はじめに

「事業譲渡」という言葉を耳にされたことがあると思います。

このページでは、「事業譲渡とは何か?」や事業譲渡を行う際の譲受会社・譲渡会社それぞれの具体的手続について、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定めるポイントを絞って分かりやすく解説します。

事業譲渡とは?

事業譲渡は、「株式会社が事業を取引行為(特定承継)として他に譲渡する行為である。」とされます(江頭憲治郎「会社法」参照)。

例えば、A社が不動産事業と飲食店事業を営んでおり、飲食店事業をB社に譲渡するという具合です。

判例の表現を借りますと、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然…(現在の会社法21条)…に定める競業避止義務を負う結果を伴うもの」(最判昭和40年9月22日)となります。

そのため、単に事業用財産の譲渡は「事業譲渡」には当たらず、例えば、単に承継動産や不動産を用いて同種の事業が行われるだけではこれに当たらないと考えられております(旭川地判平成7年8月31日)。

では、得意先の移転を伴わない場合はどうか?というと、解釈の余地はあります。江頭憲治郎氏によりますと、「事業用財産に製造・販売等のノウハウが付随して移転されれば要件を満たし、従業員・得意先等の移転は必ずしも要件ではないと解すべき」としております。

事業譲渡の手続について

事業譲渡の流れ

 譲渡会社の場合

取締役会の決議(会社法362条4項1号)

  ↓

事業譲渡契約の締結

  ↓

株主総会特別決議(会社法467条1項、309条2項11号)※

※譲渡対象が、①事業の全部、または②事業の重要な一部であり、譲渡対象資産が譲渡会社の総資産の5分の1超の場合

 ↓

 事業譲渡の通知(会社法469条3項、4項)※

※効力発生日の20日前まで

 ↓

反対株主による株式買取請求(会社法469条)※

※効力発生日の20日前~前日まで

 ↓

効力発生

※事業の重要な一部とは

事業の重要な一部かどうかは、つまるところ株主の重大な利害にかかわるかどうかによります。例えば、「量的および質的双方の側面で判断される」(斎藤真紀)と言われており、量的基準としては、譲渡資産の簿価価額については形式的基準があるので他の要素(売上高、利益、従業員数等)が問題となるところ、これらのすべてを総合的にみて、おおむね事業全体の10%程度を超えなければ、重要とは解されないと説明されます。質的基準は、譲渡対象部分が小さくても、会社の沿革や会社イメージに大きな影響がある場合に問題となります。詳しくは、江頭憲治郎「会社法」を参照。

譲受会社の場合

取締役会の決議(会社法362条4項1号)

  ↓

事業譲渡契約の締結

  ↓

株主総会特別決議(会社法468条2項、309条2項11号)※

※譲り受ける事業が他の会社の事業の全部である場合で交付する財産が譲受会社の純資産の5分の1超である場合

 ↓

 事業譲渡の通知(会社法469条3項、4項)※

※効力発生日の20日前まで

 ↓

反対株主による株式買取請求(会社法469条)※

※効力発生日の20日前~前日まで

 ↓

効力発生

(事業譲渡等の承認等)
第四百六十七条 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
一 事業の全部の譲渡
二 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)
二の二 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
三 他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け
四 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約
五 当該株式会社(第二十五条第一項各号に掲げる方法により設立したものに限る。以下この号において同じ。)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、イに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く。
イ 当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
ロ 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
2 前項第三号に掲げる行為をする場合において、当該行為をする株式会社が譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、取締役は、同項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。

個別の契約相手方の同意

以上のほか、事業に「債務」や「契約上の地位」の移転が含まれる場合、個別にその契約相手方の同意を要します。なお、銀行の特例あり。

この点は、会社分割との違いであり、手続が煩雑です(しかし、会社分割では、優秀分割契約の備置・開示が必要)。

略式事業譲渡とは

事業譲渡の譲受会社が譲渡会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する時(=特別支配会社)は、譲渡会社における株主総会による承認は不要です。

また、譲受会社においても同様です(会社法468条1項)。

第四百六十八条
前条の規定は、同条第一項第一号から第四号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない。


■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志

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