
大学や研究機関では、任期付きのポストが広く用いられています。特任教員、助教、ポストドクター、プロジェクト研究員など、数年単位の契約を更新しながら研究を続けている方は少なくありません。
教授や准教授として長く勤務されてきた方であれば、年収は一千万円を超えることもあります。研究職は転職先が限られ、専門分野によっては次のポストを得るまでに年単位の時間を要します。
それにもかかわらず、「予算が終了したから」「大学の方針が変わったから」という理由で、更新を一方的に拒まれる例が後を絶ちません。ハラスメントの申告や学内の対立をきっかけに、懲戒処分が行われることもあります。
本記事では、大学教員・研究職の雇止めと解雇について、法的な枠組みと取るべき対応を、埼玉県大宮の弁護士が解説します。
任期付きでも、更新を拒めない場合がある

雇止めが制限される二つの類型
労働契約法第19条は、①過去に反復して更新されたことがあり、雇止めが無期契約の労働者に対する解雇と社会通念上同視できると認められる場合、または②労働者が契約は更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合において、労働者が契約期間の満了までに更新の申込みをしたとき(または満了後遅滞なく締結の申込みをしたとき)は、その申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないかぎり、従前と同一の労働条件でその申込みを承諾したものとみなすと定めています。
②の合理的な期待があるかどうかは、募集要項の記載、着任時の説明、過去の更新の運用、更新手続の実態などから判断されます。なお、この条文は労働者からの更新の申込みがあって初めて働くものですので、更新を希望する意思を明確に伝えておくことが極めて重要です。
契約期間の途中での解雇はさらに厳格
任期の途中で解雇する場合には、労働契約法第17条第1項により「やむを得ない事由」が必要です。これは無期契約の解雇よりも厳しい要件であり、予算の縮小といった事情だけで認められるものではありません。
無期転換ルールと研究者の特例
労働契約法第18条は、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みにより無期労働契約に転換されると定めています。もっとも、大学の教員等の任期に関する法律第7条、および科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律第15条の2により、同法の要件を満たす教員等や研究者については、この「5年」が「10年」と読み替えられる特例が設けられています。
ただし、大学に勤務していれば当然に10年になるわけではありません。任期の定めの法的な根拠や実際の職務内容によっては5年のまま無期転換申込権が発生する場合もあり、授業のみを担当する非常勤講師について特例の適用が否定された裁判例もあります。個別の検討が必要な論点です。
この期間が近づいた時点で更新を拒まれる事案が見られますが、無期転換を回避する目的での雇止めは、その動機自体が雇止めの合理性を否定する事情になり得ます。
大学・研究機関でよく問題になる場面

①外部資金の終了を理由とする雇止め
プロジェクト予算の終了は、雇止めの理由として説明されやすい事情です。しかし、後継事業や別予算での雇用の可能性を検討したか、更新の可能性についてどのような説明がなされていたかによって、結論は変わります。
②任期規程を理由とする再任拒否
大学の教員等の任期に関する法律に基づく任期制が採用されている場合でも、再任の可否についてどのような基準と手続が定められ、実際にどう運用されてきたかが問われます。恣意的な運用は許されません。
③ハラスメントの申告を理由とする処分
ハラスメントの加害者とされて懲戒処分を受ける場合、調査の公正さと事実認定の正確さが決定的に重要です。他方、ハラスメントを申告した側が不利益に扱われる事案もあり、その場合には報復的な取扱いとして違法性が問題になります。
④研究不正の疑いを理由とする解雇
研究不正が疑われた場合、機関内の調査手続が定められています。調査結果が出る前の処分や、弁明の機会が実質的に保障されない処分は、手続の相当性を欠くおそれがあります。
雇止め・解雇によって失われるもの

解雇や雇止めが無効なら、その間の賃金を請求できる
雇止めが無効であれば契約は更新されたものとして扱われ、その期間の賃金を請求できます。解雇が無効な場合も同様に、解雇の日以降の賃金を請求できます(民法第536条第2項)。
研究の継続そのものが失われる
研究職の場合、失われるのは収入だけではありません。研究室、実験設備、データへのアクセス、指導していた学生との関係、科研費など競争的資金の代表者としての地位。これらは一度失うと回復が難しく、早期に対応することの意味が特に大きい分野です。
更新拒絶や処分を告げられたときに、まずすべきこと

①更新に関する説明の記録を集める
募集要項、着任時の説明資料、面談でのやり取り、過去の更新手続の書面など、更新への期待を基礎づける資料を確保してください。
②更新を希望する意思を書面で伝える
更新を希望する旨を、期間満了前に書面やメールで明確に伝えておくことが重要です。何も言わないまま期間が経過すると、合意による終了と評価されかねません。
③退職届・合意書に署名しない
「任期満了だから形式的に必要です」と説明されても、内容を確認せずに署名しないでください。
④懲戒処分の場合は手続を確認する
就業規則や懲戒規程に定められた手続、調査の経緯、弁明の機会の有無を確認し、記録を残してください。
雇止め・解雇以外にも問題となる場面

担当授業やポストの一方的な削減
契約自体は継続していても、担当する授業や研究プロジェクトから外され、実質的に研究職としての活動ができなくなる例があります。賃金の減額を伴う場合はもちろん、伴わない場合でも、不当な動機・目的による措置であれば、権利の濫用として違法と評価される余地があります。
研究費・研究環境の扱い
競争的資金の研究代表者としての地位、研究室や実験機器の使用、研究データへのアクセスは、研究者にとって収入と同じくらい重要です。雇止めや解雇の交渉においては、これらの扱いや、次の所属先への引継ぎについても、条件として取り上げるべきです。
学生・大学院生の指導の引継ぎ
指導していた学生がいる場合、その指導をどう引き継ぐかは、ご本人にとっても学生にとっても重大な問題です。退職の時期を含めて、教育上の配慮を求めることができます。
非常勤講師・特任職員の場合
授業のみを担当する非常勤講師や、期間を定めて雇用される特任職員についても、労働契約法第19条の適用があります。長年にわたり毎年度の更新が繰り返されてきた事案では、更新への合理的な期待が認められる余地は十分にあります。
コマ数の削減という形で実質的な雇止めが行われることもありますので、担当科目の変遷が分かる資料を保存しておいてください。
解決までの流れと期間の目安

期間満了前の交渉
更新拒絶を告げられた段階で、代理人から更新を求める通知を出します。期間満了の前に動くことができれば、選択できる手段は格段に広がります。
労働審判
交渉がまとまらない場合には、労働審判を申し立てます。第1回の期日は申立てから原則40日以内に指定され、原則3回以内の期日で審理が終わります。次年度の人事に間に合わせたい事案では、この速さが意味を持ちます。
訴訟・仮処分
争点が多い事案では地位確認訴訟を提起します。また、収入が途絶えて研究の継続が困難になる場合には、賃金仮払いの仮処分を検討することもあります。
解雇された後の生活を支える手続

雇用保険の基本手当は会社都合として扱われる
解雇による離職は、原則として会社都合の離職(特定受給資格者)として扱われ、自己都合退職の場合のような給付制限を受けることなく基本手当を受給できます。所定給付日数も、多くの場合、自己都合退職より長く設定されています(年齢や被保険者であった期間によっては同じ日数となることもあります)。
ただし、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」(重責解雇)と判断された場合には特定受給資格者に当たらず、給付制限を受けることになります。解雇の効力そのものを争っている場合には、その事情もハローワークに伝えてください。
離職票に記載された離職理由に納得できない場合には、ハローワークに異議を申し出ることができます。会社都合であるはずなのに「一身上の都合」と記載されていないか、必ず確認してください。
解雇を争いながら基本手当を受けられる場合がある
解雇の効力を争っている場合でも、現に就労できていないのであれば、基本手当を受給できることがあります。ただし、後に解雇が無効となって賃金がさかのぼって支払われたときは、受給した基本手当の返還などが必要になる場合がありますので、あらかじめハローワークに事情を伝えておくことが大切です。
健康保険は任意継続と国民健康保険を比較して選ぶ
退職後の健康保険には、これまでの健康保険を任意継続する方法と、国民健康保険に加入する方法があります。保険料の額や扶養家族の人数によって有利不利が変わりますので、期限内に比較して選択してください。任意継続は、退職日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることを要件に、資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申し出る必要があり、加入できる期間は最長2年です。国民健康保険は、原則として退職日の翌日から14日以内の届出となります。
弁護士に依頼するメリット

更新への期待を法的に基礎づけられる
募集要項や過去の運用を整理し、労働契約法第19条の要件に沿って、更新への合理的期待を主張することができます。
学内の手続と並行して対応できる
大学内の不服申立てや調査手続と並行して、労働法上の主張を組み立てることができます。手続の選択を誤らないことが重要です。
研究の継続に配慮した解決を目指せる
復職のほか、次のポストが決まるまでの期間の確保、データや研究成果の取扱いなど、研究者にとって重要な条件を含めて交渉することができます。
当事務所のサポート内容

①契約内容と更新経緯の分析
労働契約書、就業規則、任期規程、募集要項を精査し、雇止めや解雇の有効性について見通しをお伝えします。
②大学・研究機関との交渉
代理人として、更新、復職、または適正な解決金の支払いを求めて交渉します。
③労働審判・訴訟の申立て
交渉での解決が難しい場合には、地位確認と未払賃金の支払いを求める労働審判または訴訟を提起します。
④ハラスメント・研究不正調査への対応
調査手続における弁明書の作成や、報復的な取扱いに対する是正の申入れを行います。
おわりに

研究職の方は、「任期付きなのだから仕方がない」と受け止めてしまいがちです。しかし、任期があることと、更新を自由に拒めることとは別の問題です。
期間満了の日が近づくほど、取り得る手段は限られていきます。更新をしないと告げられた段階、あるいはその可能性を示唆された段階で、一度ご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
労働問題
弁護士登録後、グリーンリーフ法律事務所にて残業代未払い・不当解雇など多数の労働問題を取り扱う。法テラス民事法律扶助審査委員として幅広い労働者支援にも従事。中央大学法科大学院・埼玉工業大学の講師を務め、不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、依頼人の権利を守る。




