銀行・証券会社社員の不当解雇|コンプライアンス違反を理由とする懲戒解雇を弁護士が解説

金融機関は、法令遵守が厳しく求められる業界です。それだけに、社内調査の結果として、コンプライアンス違反を理由とする懲戒解雇や諭旨退職が行われることがあります。

銀行、証券会社、保険会社の総合職や専門職の方は、年収一千万円を超えることも多く、退職金や企業年金の額も大きくなります。懲戒解雇となれば、これらを失うだけでなく、金融業界内での再就職も難しくなります。

社内調査の面談で追及を受け、「認めれば処分を軽くする」と説明されて、事実と異なる内容の顛末書に署名してしまう例も見受けられます。

本記事では、金融機関における懲戒解雇の有効性を判断する枠組み、社内調査への対応、そして退職金の不支給を争う方法について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

懲戒解雇が有効となるための要件

懲戒解雇が有効となるための要件

就業規則の根拠と、事由への該当性が必要

懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の種別と事由が定められていることが前提です。そのうえで、実際の行為がその事由に該当しなければなりません。抽象的に「信用を失墜させた」と評価するだけでは足りず、具体的な行為の特定が必要です。

処分が重すぎないこと(相当性)

労働契約法第15条は、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効になると定めています。行為の性質・態様、会社に生じた損害、過去の処分歴、他の従業員に対する取扱いとの均衡などから、懲戒解雇という最も重い処分が相当かが判断されます。

たとえば、実損が生じておらず、本人が直ちに報告して是正した事案で、いきなり懲戒解雇とするのは相当性を欠く可能性があります。

適正な手続が踏まれていること

弁明の機会を与えたか、賞罰委員会など就業規則所定の手続を経たか、調査が公正に行われたかといった手続的な適正さも要件になります。結論を決めたうえで形だけの弁明の場を設けたにすぎない場合には、手続の相当性が問われます。

金融機関で解雇・退職勧奨が問題になりやすい場面

金融機関で解雇・退職勧奨が問題になりやすい場面

①顧客対応・勧誘に関するコンプライアンス違反

説明義務違反、適合性原則に反する勧誘、無断売買の疑いなどを理由とする処分です。顧客とのやり取りの記録、通話録音、社内承認の履歴などから、実際に何が行われたのかを丁寧に検証する必要があります。

②経費・事務処理をめぐる問題

交際費や出張費の精算、稟議手続の不備などが問題とされることがあります。金額の多寡、慣行として黙認されていた実態、故意か過失かによって、相当な処分の重さは大きく変わります。

③情報管理・持ち出しを理由とする処分

顧客情報や社内資料の持ち出しが問題とされる事案です。転職に伴う持ち出しか、業務上の必要によるものか、実際に外部に流出したかによって、評価は大きく異なります。

④成績不振・目標未達を理由とする退職勧奨・解雇

数値目標の未達を理由に、繰り返し面談が行われることがあります。これは退職勧奨であって、応じる義務はありません。断ったことを理由に、配置転換や業務外しといった不利益な取扱いを行うことは、人事権の濫用として違法と評価される場合があります。

退職金・企業年金の不支給を争う

退職金・企業年金の不支給を争う

退職金の全額不支給が認められる場面は限られる

退職金には、賃金の後払いという性格と功労報償という性格があります。そのため、懲戒解雇であっても当然に全額不支給となるわけではなく、それまでの勤続の功労を全部または一部帳消しにするほどの重大な背信行為があったといえるかが問われます。

実務では、全額不支給が否定され、一定割合の支給が認められる例もあります。金融機関では退職金の額自体が大きいため、この点を争う経済的な意義は大きいところです。

解雇が無効なら、その間の賃金も請求できる

懲戒解雇が無効であれば、労働契約は続いていたことになり、解雇の日以降の賃金を請求できます(民法第536条第2項)。賞与の比重が大きい金融機関では、賞与の扱いも含めて検討します。

企業年金の扱いも確認する

金融機関では、退職金とは別に企業年金の制度が設けられていることが少なくありません。懲戒解雇を理由に給付が制限される定めがある場合、その定めの内容と、実際にそれを適用することの相当性が問題になります。

退職金と企業年金は制度も根拠も異なりますので、それぞれについて確認が必要です。

社内調査を受けたときに、まずすべきこと

社内調査を受けたときに、まずすべきこと

①事実と異なる内容の書面に署名しない

「認めれば処分を軽くする」と言われても、事実と異なる顛末書や確認書に署名してはいけません。いったん署名すると、後からその内容を覆すことは容易ではありません。

②調査面談の内容を記録する

日時、出席者、質問と回答の要旨を、記憶の新しいうちに記録してください。誘導的な質問がなされた場合、その経緯自体が重要な事実になります。

③自分の側の資料を確保する

社内承認の記録、上司の指示が分かるメール、慣行を示す資料などを確保してください。退職と同時に社内システムへのアクセスは失われます。

④懲戒解雇の場合は解雇理由証明書を請求する

労働基準法第22条(退職の日までは第2項、退職後は第1項)に基づき、懲戒事由と該当する規定を明示した証明書の交付を求めてください。

⑤過去の処分例との均衡を確認する

同種の行為について、過去に他の従業員がどのような処分を受けてきたかは、処分の相当性を判断するうえで重要な事情です。従来は譴責や減給で済まされてきた行為について、自分だけが懲戒解雇とされたのであれば、均衡を欠く処分として争う余地があります。

社内報や過去の周知文書など、処分例が分かる資料があれば保存しておいてください。

懲戒処分の種類と重さの序列を理解する

懲戒処分の種類と重さの序列を理解する

軽い処分から順に段階がある

懲戒処分には、一般に、戒告・譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といった段階があります。同じ非違行為であっても、どの処分を選ぶかは、行為の性質と過去の取扱いとの均衡によって決まります。

より軽い処分で対応できる事案であるにもかかわらず、いきなり最も重い懲戒解雇を選んだのであれば、相当性を欠くと判断される可能性があります。

減給には法律上の上限がある

減給の制裁については、労働基準法第91条により、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。この範囲を超える減給は違法です。

諭旨退職・諭旨解雇と退職金

「自主的に退職すれば退職金は支給する」という形で、諭旨退職を勧められることがあります。これに応じるかどうかは、懲戒解雇を争った場合の見通しと、支給される退職金の額とを比較して判断すべき事柄です。その場で回答する必要はありません。

解決までの流れと期間の目安

解決までの流れと期間の目安

調査段階での対応

処分が決まる前の段階であれば、弁明書の提出や事実関係の整理によって、処分そのものを回避できる可能性があります。この段階での対応が、その後の展開を大きく左右します。

交渉

処分後は、代理人から通知を出し、処分の撤回や退職条件について交渉します。金融機関では対外的な公表や監督官庁への報告の要否も絡むため、交渉の材料は一つではありません。

労働審判・訴訟

交渉がまとまらない場合には、労働審判を申し立てます。第1回の期日は申立てから原則40日以内に指定され、原則3回以内の期日で審理が終わります。異議が出された場合や、事実関係の争いが大きい事案では、訴訟で審理を尽くすことになります。

解雇された後の生活を支える手続

解雇された後の生活を支える手続

雇用保険の基本手当は会社都合として扱われる

解雇による離職は、原則として会社都合の離職(特定受給資格者)として扱われ、自己都合退職の場合のような給付制限を受けることなく基本手当を受給できます。所定給付日数も、多くの場合、自己都合退職より長く設定されています(年齢や被保険者であった期間によっては同じ日数となることもあります)。

ただし、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」(重責解雇)と判断された場合には特定受給資格者に当たらず、給付制限を受けることになります。解雇の効力そのものを争っている場合には、その事情もハローワークに伝えてください。

離職票に記載された離職理由に納得できない場合には、ハローワークに異議を申し出ることができます。会社都合であるはずなのに「一身上の都合」と記載されていないか、必ず確認してください。

解雇を争いながら基本手当を受けられる場合がある

解雇の効力を争っている場合でも、現に就労できていないのであれば、基本手当を受給できることがあります。ただし、後に解雇が無効となって賃金がさかのぼって支払われたときは、受給した基本手当の返還などが必要になる場合がありますので、あらかじめハローワークに事情を伝えておくことが大切です。

健康保険は任意継続と国民健康保険を比較して選ぶ

退職後の健康保険には、これまでの健康保険を任意継続する方法と、国民健康保険に加入する方法があります。保険料の額や扶養家族の人数によって有利不利が変わりますので、期限内に比較して選択してください。任意継続は、退職日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることを要件に、資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申し出る必要があり、加入できる期間は最長2年です。国民健康保険は、原則として退職日の翌日から14日以内の届出となります。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

調査段階から適切な対応ができる

処分が決まってからでは取り得る手段が限られます。調査の段階で弁護士が関与し、弁明書を整えることで、処分そのものを回避できる場合があります。

懲戒解雇を撤回させ、経歴への影響を抑えられる

金融業界では、退職理由がその後の再就職に影響します。懲戒解雇を撤回させ、合意退職や自己都合退職に切り替える交渉は、実務上大きな意味を持ちます。

退職金・賞与を含めた総額で交渉できる

未払賞与、退職金、企業年金の扱いを含めて、総額での解決を目指すことができます。

報道・対外公表への配慮も交渉できる

金融機関では、処分の事実が社内外に周知されたり、業界内に伝わったりすることがあります。合意による解決を図る場合には、公表の有無や説明の文言についても取り決めておくことが可能です。

金銭の条件と同じくらい、その後のキャリアを左右する項目です。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①懲戒事由と手続の検証

就業規則の懲戒規定、調査の経緯、弁明の機会の有無を精査し、処分の有効性について見通しをお伝えします。

②弁明書の作成と会社との交渉

調査段階では弁明書の作成を支援し、処分後は代理人として撤回や条件の見直しを求めて交渉します。

③退職金・賞与の請求

不支給とされた退職金や未払賞与について、支給を求めて請求します。

④労働審判・訴訟の申立て

交渉での解決が難しい場合には、地位確認および退職金・未払賃金の支払いを求める労働審判または訴訟を提起します。

おわりに

おわりに

社内調査は、閉ざされた部屋で、圧倒的な情報量の差のなかで進みます。真面目な方ほど、会社の説明を信じて、不利な書面に署名してしまいがちです。

しかし、懲戒解雇が有効かどうかは、会社の判断ではなく、法律の要件を満たしているかどうかで決まります。処分を受け入れる前に、また署名を求められている書面がある段階で、一度ご相談ください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働問題

弁護士登録後、グリーンリーフ法律事務所にて残業代未払い・不当解雇など多数の労働問題を取り扱う。法テラス民事法律扶助審査委員として幅広い労働者支援にも従事。中央大学法科大学院・埼玉工業大学の講師を務め、不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、依頼人の権利を守る。