外資系企業の不当解雇|PIP(業績改善プログラム)を理由とする解雇について弁護士が解説

外資系企業に勤務する管理職やスペシャリストの方から、「PIP(業績改善プログラム)を課され、達成できなければ退職だと言われている」というご相談を数多くお受けします。

外資系企業の管理職やディレクタークラスの年収は、インセンティブや株式報酬を含めれば一千万円台から数千万円に達することもあります。それだけに、退職を迫られたときに失うものは極めて大きくなります。

しかし、外資系企業であっても、日本法人と日本国内で働く従業員との労働契約には、日本の労働法が適用されます。本国の慣行がそのまま通用するわけではありません。

本記事では、PIPの法的な位置づけ、外資系企業でよく見られる退職勧奨の手法、そして退職パッケージを提示されたときの対応について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

外資系企業でも日本の解雇規制がそのまま適用される

外資系企業でも日本の解雇規制がそのまま適用される

日本法人との労働契約には日本の労働法が及ぶ

日本法人に雇用され、日本国内で就労している以上、労働基準法や労働契約法が適用されます。契約書が英文であっても、準拠法として外国法が指定されていても、労働者を保護する日本の強行法規の適用は排除されません。

したがって、労働契約法第16条の解雇権濫用法理も、そのまま適用されます。「業績が目標に届かないから解雇」という本国流の発想は、日本ではそのまま通用しません。

ジョブ型雇用でも解雇は自由にできない

職務内容を限定した、いわゆるジョブ型の雇用契約であっても、日本では解雇に合理的な理由と社会的相当性が必要です。職務が限定されている場合、他部署への配置転換義務の範囲は相対的に狭く解される傾向にありますが、それでも解雇が自由になるわけではありません。

管理職でも解雇規制の対象になる

ディレクターやマネージャーといった肩書きがあっても、雇用契約に基づいて働く従業員である限り、労働者として保護されます。労働基準法第41条第2号の管理監督者に当たるかどうかは、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されるかどうか(時間外・休日割増賃金)の問題であり、管理監督者であっても深夜割増賃金や年次有給休暇の規定は適用されます。いずれにせよ、解雇の可否とは別の問題です。

PIP(業績改善プログラム)をどう考えるべきか

PIP(業績改善プログラム)をどう考えるべきか

①PIPそのものは違法ではないが、解雇の免罪符でもない

PIPは、目標を設定して一定期間内の改善を求める人事上の措置です。制度自体が違法というわけではありませんが、PIPを実施したという事実だけで解雇が有効になるものでもありません。

②目標が達成不可能な内容であれば、退職強要と評価され得る

そもそも達成が困難な数値を設定する、必要な権限や人員を与えない、期間が著しく短いといった事情がある場合、PIPは改善の機会ではなく、退職に追い込むための手続だったと評価される可能性があります。設定された目標と与えられた条件の記録が重要になります。

③会社側の指導・支援の実態が問われる

能力不足を理由とする解雇では、会社がどのような指導・教育を行い、配置転換など解雇を回避する努力をしたかが問われます。上司との面談記録やフィードバックの内容は、その実態を示す資料になります。

④PIP中の言動が退職強要になっていないか

「サインしなければ懲戒になる」「今のパッケージは今日限りだ」といった説明で署名を迫る行為は、退職強要と評価される場合があります。面談の記録を残しておいてください。

退職パッケージ(severance)を提示されたときの考え方

退職パッケージ(severance)を提示されたときの考え方

提示額は「上限」ではなく「出発点」であることが多い

外資系企業では、賃金の数か月分の退職金と引き換えに合意退職を求める提示がなされることが一般的です。しかし、この金額は最初の提示にすぎず、争う姿勢を示すことで上積みされる例は珍しくありません。

未払いのインセンティブ・株式報酬を確認する

賞与やインセンティブの未払分、権利未確定のストックオプション、RSU(譲渡制限付株式ユニット)の扱いは、退職条件のなかで大きな比重を占めます。付与契約や規程を確認し、退職日をいつにするかによって扱いが変わらないかを検討する必要があります。

解雇が無効なら、その間の賃金を請求できる

解雇された場合、それが無効であれば解雇の日以降の賃金を請求できます(民法第536条第2項)。高額の報酬を受けていた方ほど、争うことの経済的な意味は大きくなります。

推薦状(リファレンス)と在職証明の取扱い

外資系の転職では、前職への照会(リファレンスチェック)が行われることがあります。退職の条件を取り決める際に、照会に対してどのような内容を回答するのか、在職期間と役職を確認する範囲にとどめるのかを、あらかじめ合意しておくことが有効です。

退職の経緯について会社が否定的な説明を行うことを防ぐという意味で、実務上、金銭の条件と同じくらい重要な項目になります。

退職を迫られたときに、まずすべきこと

退職を迫られたときに、まずすべきこと

①その場で署名しない

期限を切られても、応じる義務はありません。「持ち帰って検討する」と伝えてください。英文の合意書は、内容を正確に理解しないまま署名してしまう危険が特に高いところです。

②合意書の条項を精査する

清算条項、守秘義務、非誹謗中傷条項、競業避止条項、勧誘禁止条項など、退職後の行動を縛る条項が含まれていることが多くあります。これらの範囲は交渉の対象になります。

③PIPの記録を保存する

目標設定シート、進捗面談の記録、上司とのメールやチャット、評価の履歴などを保存してください。会社のアカウントは退職と同時に使えなくなります。

④解雇された場合は解雇理由証明書を請求する

労働基準法第22条(退職の日までは第2項、退職後は第1項)に基づき、解雇の理由を記載した証明書の交付を求めてください。

外資系企業に特有の周辺論点

外資系企業に特有の周辺論点

出社を免除される期間(ガーデンリーブ)の扱い

退職日までの間、出社せずに自宅で待機するよう求められることがあります。会社の都合による待機である以上、その期間の賃金は支払われるのが原則です。待機期間中の競業避止や情報管理の範囲についても、あらかじめ書面で確認しておく必要があります。

本国主導の人員削減と日本法の適用

グローバル本社の決定に基づくポジションの廃止であっても、日本法人に雇用されている従業員を解雇するには、日本法上の要件を満たす必要があります。ポジションが廃止されたことは人員削減の必要性を基礎づける事情になり得ますが、それだけで解雇が有効になるわけではなく、他部署への配置の検討や希望退職の募集といった解雇回避努力が問われます。

英文合意書のリリース条項

退職合意書には、会社に対する一切の請求を放棄する趣旨の条項(リリース条項)が置かれるのが通例です。これに署名すると、未払残業代や未払インセンティブを含めて、後から請求することが困難になります。放棄の対象から何を除外するかは、交渉の対象になります。

解決までの流れと期間の目安

解決までの流れと期間の目安

代理人からの通知と交渉

弁護士名で通知を出すと、多くの場合、社内の法務部門や外部の法律事務所が窓口になります。ここから条件の交渉が始まり、数週間から数か月で合意に至る事案もあります。

労働審判

交渉がまとまらない場合には、労働審判を申し立てます。第1回の期日は申立てから原則40日以内に指定され、原則3回以内の期日で審理が終わります。短期間で結論が出るため、次のキャリアに移りたい方にも適しています。

訴訟

争点が多く、慎重な審理を要する事案では、地位確認訴訟を選択します。高額な報酬を得ていた方の場合、審理が長期化するほどバックペイの請求額は大きくなります。

解雇された後の生活を支える手続

解雇された後の生活を支える手続

雇用保険の基本手当は会社都合として扱われる

解雇による離職は、原則として会社都合の離職(特定受給資格者)として扱われ、自己都合退職の場合のような給付制限を受けることなく基本手当を受給できます。所定給付日数も、多くの場合、自己都合退職より長く設定されています(年齢や被保険者であった期間によっては同じ日数となることもあります)。

ただし、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」(重責解雇)と判断された場合には特定受給資格者に当たらず、給付制限を受けることになります。解雇の効力そのものを争っている場合には、その事情もハローワークに伝えてください。

離職票に記載された離職理由に納得できない場合には、ハローワークに異議を申し出ることができます。会社都合であるはずなのに「一身上の都合」と記載されていないか、必ず確認してください。

解雇を争いながら基本手当を受けられる場合がある

解雇の効力を争っている場合でも、現に就労できていないのであれば、基本手当を受給できることがあります。ただし、後に解雇が無効となって賃金がさかのぼって支払われたときは、受給した基本手当の返還などが必要になる場合がありますので、あらかじめハローワークに事情を伝えておくことが大切です。

健康保険は任意継続と国民健康保険を比較して選ぶ

退職後の健康保険には、これまでの健康保険を任意継続する方法と、国民健康保険に加入する方法があります。保険料の額や扶養家族の人数によって有利不利が変わりますので、期限内に比較して選択してください。任意継続は、退職日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることを要件に、資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申し出る必要があり、加入できる期間は最長2年です。国民健康保険は、原則として退職日の翌日から14日以内の届出となります。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

交渉の窓口を代理人に切り替えられる

弁護士が代理人に就くことで、直接の面談は止まり、条件の交渉に移行します。人事担当者や本国のマネジメントと直接やり取りする負担から解放されます。

退職条件の上積みを引き出せる

日本の解雇規制に照らして解雇が困難であることを具体的に指摘することで、提示された条件の見直しにつながる例は少なくありません。

業界内での評判に配慮した解決ができる

外資系の業界は横のつながりが強く、争ったことが伝わることを懸念される方もおられます。合意退職の形式や退職理由の記載を工夫し、その後のキャリアに影響しにくい解決を目指します。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①契約書・PIP資料の分析

英文の雇用契約書、就業規則、PIP関連資料を精査し、解雇の有効性と交渉の見通しをお伝えします。

②会社との交渉

代理人として、退職条件の上積み、退職日、インセンティブや株式報酬の扱いについて交渉します。

③合意書の条項チェック

清算条項や競業避止条項の範囲を精査し、その後の転職を不当に制約する内容にならないよう修正を求めます。

④労働審判・訴訟の申立て

交渉での解決が難しい場合には、地位確認と未払賃金の支払いを求める労働審判または訴訟を提起します。

おわりに

おわりに

外資系企業では、退職を求める手続が整然と、かつ短期間で進みます。そのスピードに押されて、内容を十分に理解しないまま署名してしまう方が少なくありません。

しかし、日本で働く以上、守られるのは日本の労働法です。提示された条件が当然の相場だと考える必要はありません。署名を求められている書面がある方は、その前に一度ご相談ください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働問題

弁護士登録後、グリーンリーフ法律事務所にて残業代未払い・不当解雇など多数の労働問題を取り扱う。法テラス民事法律扶助審査委員として幅広い労働者支援にも従事。中央大学法科大学院・埼玉工業大学の講師を務め、不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、依頼人の権利を守る。