
「夫(妻)との不倫の証拠はすべて揃っている。誠意を見せないなら、あなたの会社にもすべて話す」・・
不倫相手の配偶者から突然慰謝料を請求され、さらに「会社にバラす」と脅された場合、そんな絶望的な恐怖から、相手から言われるがままに法外な慰謝料の支払いに応じそうになっている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、 弁護士の立場から明確にお伝えします。「会社にバラす」という相手の行為は、法的に決して許されるものではありません。
また、仮に会社に知られたとしても、それが直ちに「クビ(懲戒解雇)」に直結するわけでもありません。
相手が感情的になっているからこそ冷静で法的な対応が不可欠です。
本コラムでは、不倫慰謝料を請求された側(加害者側)が直面しうる「会社への暴露」について、法的境界線、懲戒処分の実態、そして弁護士が介入することでどのように職場への接触をストップさせ、安全に解決へ導くことができるのかを解説します。
「会社にバラす」という脅しは犯罪になるのか?

相手の「会社にバラす」という発言や実際の行動は、場合によっては犯罪行為(刑事罰)や不法行為(民事上の損害賠償対象)に該当する可能性があります。
脅迫罪(刑法第222条)・恐喝罪(刑法第249条)
相手が「慰謝料を〇〇万円支払わなければ、会社に不倫の事実をばらす」と要求してきた場合、これは「恐喝罪」に該当する可能性があります。
恐喝罪は、相手を畏怖させて財物を交付させる犯罪です。不倫の事実が本当であったとしても、「ばらす」と脅して金銭を要求する行為は許されません。
また、金銭の要求がなくとも、単に「お前の会社に不倫を報告してやる」、「社会的に抹殺してやる」と告げる行為自体が、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知したとして「脅迫罪」が成立する可能性があります。
強要罪(刑法第223条)
「会社を自主退職しろ。さもないと不倫の事実を会社にばらす」、「不倫の事実を認める念書を今すぐ書け、さもなくば職場に行く」など、脅迫を用いて義務のないことを行わせようとした場合は「強要罪」が成立する可能性があります。
退職の強要などはまさにこれに該当します。
名誉毀損罪(刑法第230条)
相手が実際にあなたの会社に電話をかけたり、メールや手紙を送ったり、あるいは会社の同僚に言いふらしたりした場合、「名誉毀損罪」が成立する可能性が極めて高いです。
ここで重要なのは、「不倫の事実は本当なのだから、名誉毀損にはならないのでは?」という誤解です。
名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に成立します。つまり、その事実が真実(本当に不倫をしていた)であっても、言いふらす行為は犯罪になるのです。不倫はあくまで当事者間の私的な問題であり、公益目的で会社に知らせる正当性はありません。
このように、相手が不倫の被害者であったとしても、「会社にバラす」というカードを使った途端、相手自身が「加害者(犯罪者)」になり得るのです。この法的な事実を知っておくことが、過剰な恐怖から身を守る第一歩となります。
社内不倫がバレたら会社をクビ(懲戒解雇)になるのか?

「もし本当に会社にバレてしまったら、自分はクビになるのだろうか?」、これがビジネスパーソンにとって最大の懸念でしょう。
結論から申し上げますと、単なる社内不倫を理由とした「懲戒解雇」は、法的に無効(不当解雇)と判断される可能性が極めて高いです。
その理由や例外的に懲戒処分が有効となる場合について、詳しく解説いたします。
1 懲戒解雇が認められるハードルは非常に高い
労働契約法第15条では、懲戒処分について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。
不倫はあくまで「私生活上の非行」です。会社は従業員の労働力を提供してもらう対価として給与を支払っているのであり、原則として従業員の私生活に介入することはできません。
したがって、私生活上のトラブルである不倫を理由に、「懲戒解雇」を行うことは、権利の濫用とみなされ不当解雇となります。
2 懲戒処分が有効となる例外的なケース
ただし、絶対に何の処分も受けないわけではありません。
不倫が単なる私生活上の問題にとどまらず、「会社の企業秩序を著しく乱し、業務に重大な支障をきたした」と客観的に認められる場合には、懲戒処分(戒告、減給、降格、出勤停止など)が下される可能性があります。 例えば、以下のようなケースです。
職務専念義務違反が著しい場合: 勤務時間中に社内で頻繁に密会していたり、会社のパソコンや社用携帯を使って一日中不倫のやり取りをして業務を放棄していた場合。
会社の設備を不正利用した場合: 会社の会議室や、会社の経費で手配した出張先のホテルを密会場所として悪用していた場合。
セクハラ・パワハラを伴う場合: 上司と部下の関係であり、職務上の優越的な地位を利用して不倫関係を強要していた場合。
会社の信用を著しく失墜させた場合: 取引先の役員の配偶者との不倫など、会社の事業活動に直接的な悪影響(取引停止など)を与えた場合。
3 会社にバレた場合の現実的な影響
懲戒解雇は免れたとしても、会社に居づらくなることは事実です。
配置転換(異動)を命じられたり、周囲からの視線に耐えられず自主退職に追い込まれたりするケースは少なくありません。だからこそ、「会社にバラされる前に、水面下で確実に火消しをする」ことが何よりも重要なのです。
相手が「会社にバラす」と脅してきたときの絶対NG対応

パニックに陥った状態で誤った対応をすると、事態はさらに悪化します。以下の行動は絶対に避けてください。
NG1:相手の言いなりになり、不当な高額請求に合意する
「会社にバラさないでくれるなら、請求された500万円を全額払います」、「会社も辞めます」と、相手の言うがままに念書や合意書にサインをしてしまうケースです。
法的に有効な形で合意してしまうと、後から「脅されて書いた」と覆すのは非常に困難です。
不倫慰謝料の相場は数十万円〜300万円程度(相手夫婦の離婚の有無による)であり、相場を逸脱した法外な金額を支払う必要はありません。
NG2:相手を逆上させるような反論・挑発をする
「証拠があるなら出してみろ」、「勝手にバラせばいい、名誉毀損で訴えてやる」などと相手を挑発するのは火に油を注ぐ行為です。相手はすでに冷静さを失っています。
自暴自棄になり、「いくら払うと言われてもいい、社会的に制裁を加えてやる」と本当に会社に乗り込んでくる危険性が高まります。
NG3:証拠となるメッセージや録音を消去・無視する
相手からの「会社にバラすぞ」というメール、LINE、留守番電話の録音などは、後に相手の脅迫・恐喝を立証するための強力な武器になります。
恐怖のあまり消去してしまう方がいますが、保存しておくことをおすすめします。
また、着信拒否などをして完全に無視し続けると、相手は連絡手段を絶たれたと感じ、直接会社に連絡してくるリスクが跳ね上がります。
弁護士が介入することで「会社への暴露」をどうストップできるか

「会社にバラされるかもしれない」という恐怖から解放され、安全に解決するためには、不貞慰謝料問題に精通した弁護士に代理人を依頼することが確実で強力な防衛策です。
弁護士が介入することで、事態は次のように変わります。
1. 窓口を一本化し、本人への直接連絡をシャットアウト
弁護士に依頼すると、直ちに相手方に対して「受任通知」を送付します。
これは「私が代理人になったので、以後の連絡や交渉はすべて弁護士宛に行うこと。本人や職場への直接の連絡・接触は一切禁ずる」と通告するものです。
これにより、相手からの執拗な電話やメールからあなたは解放され、精神的な平穏を取り戻すことができます。多くの相手方は、弁護士が出てきたことで「これ以上無茶なことをすれば自分に不利になる」と冷静さを取り戻します。
2. 「会社にバラせば法的措置をとる」という強力な牽制と警告
弁護士からの通知書には、ただ窓口になるだけでなく、「もし本人の勤務先へ連絡した場合や、第三者に事実を口外した場合は、名誉毀損罪や業務妨害罪になり得る」旨を明記する場合があります。
一般の方が「名誉毀損で訴えるぞ」と言うのと、法律の専門家である弁護士が書面で警告するのとでは、相手に与える印象が全く異なります。
この「弁護士による法的な釘刺し」が、会社への暴露を防ぐ最大の抑止力となります。
3. 適正な金額での示談と「口外禁止条項(守秘義務条項)」の絶対的効果
弁護士は、過去の裁判例や類似ケースに基づき、法的に適正な慰謝料額(減額)に向けた交渉を冷静に進めます。
そして最も重要なのが、最終的な示談書(合意書)の作成です。
合意書の中に、「口外禁止条項(守秘義務条項)」を盛り込むケースが多いです。
これは、「今回の不倫の事実や示談の内容を、お互いの勤務先や家族を含む第三者に一切口外しない」ことを約束させる条項です。
さらに実効性を高めるために、「本条項に違反した場合は、違約金として〇〇万円を支払う」というペナルティ(違約金条項)を設定することもあります。
これにより、事後的に会社にバラされるリスクを将来にわたって封じ込めることができます。
まとめ

「不倫をしてしまった自分が悪いのだから、会社にバラされてすべてを失っても仕方がない…」 罪悪感からそのように思い詰め、相手の過大な要求を一人で抱え込んでしまう方がいらっしゃいます。
確かに、不貞行為は配偶者を傷つける行為であり、民事上の責任を負う必要があります。
しかし、だからといって、キャリアや社会生活まで不当に破壊されて良い理由にはなりません。
適正な慰謝料を支払って清算することと、相手の脅迫に屈して人生を棒に振ることは、全く別の次元の話です。
「会社にバラす」という相手の刃(やいば)は、適切な法的盾を持たなければ防ぐことは困難です。手遅れになる前に弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 安田伸一朗
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和4年の弁護士登録以来、離婚問題の解決に特化し、男性・女性を問わず、不貞慰謝料、財産分与、親権争いなど、感情の対立が激しい事案において数々の解決事例あり。依頼者の不安を解消する丁寧なヒアリングを徹底し、最新の裁判例に基づいた緻密な戦略で、有利な条件での合意や早期解決へと導くことに注力。






