
アスベスト(石綿)による健康被害というと、吹付け作業を行う職人や、解体工事に従事する作業員のことだと思われている方が少なくありません。
しかし実際には、ビルやマンション、店舗の内装を仕上げてきた内装工、ボード工、クロス職人(表具職人)の方々も、極めて高い確率でアスベストにばく露しています。天井や壁の下地に使われていた建材の多くに、アスベストが含まれていたからです。
しかも内装工事は、その名のとおり建物の内部という閉ざされた空間で行われます。粉じんが逃げ場を失って室内に滞留し続けるため、ばく露の濃度は屋外作業よりもかえって高くなりがちです。
本記事では、内装工・クロス職人の方が受け取れる建設アスベスト給付金の要件、労災保険との関係、そして国だけでなくメーカーや当時の勤務先に対する損害賠償請求の可能性について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。
「内装工・クロス職人」は要注意!室内作業に潜むアスベスト被害のリスク

まず知っていただきたいのは、内装工事がアスベストばく露の「high risk 作業」に位置づけられているという事実です。
なぜ内装工事はばく露が起こりやすいのか
内装工事の中心は、天井や壁に建材を張り込む作業です。その過程で、建材を寸法に合わせて切断し、電動工具で穴を開け、端部をサンダーで研磨します。
こうした加工作業は、建材に含まれるアスベスト繊維を大量に空気中へ飛散させます。そして作業場所は、屋根と外壁に囲まれた室内です。外気による希釈がほとんど期待できないため、飛散した粉じんは室内に滞留し続け、作業者はそれを長時間にわたって吸い込むことになります。
また、内装工事は他の職種と同じ空間で同時進行することが多く、自分では建材を扱っていなくても、隣で作業していたボード工が発生させた粉じんを吸い込んでいた、というケースも数多くあります。
内装工事で扱われてきたアスベスト含有建材
内装現場で使用されてきた代表的なアスベスト含有建材は、次のとおりです。
①石膏ボード(一部の製品)
現在市販されている一般的な石膏ボードにアスベストは含まれていません。しかし、過去に製造された一部の製品には、約1~4.5パーセント程度のアスベストが含有されていました。
メーカーの公表資料によれば、アスベスト石膏積層板、不燃石膏積層板、石膏吸音ボード、ガラス繊維網入り石膏ボードといった製品が、昭和45年ごろから昭和60年代前半にかけて製造・販売されていました。
こうした製品を切断・穿孔していた方は、アスベストにばく露していた可能性が高いといえます。
②ロックウール吸音天井板(岩綿吸音板)
事務所ビルや学校、店舗の天井でよく見かける、細かな穴の空いた天井板です。過去の製品にはアスベストが含有されていました。
天井の下地に張り込む際、必ず寸法合わせの切断が発生します。天井を向いて作業するため、切断時の粉じんを顔面で受けることになり、ばく露の程度は非常に高くなります。
③けい酸カルシウム板・スレートボード
耐火・不燃を要する箇所の下地として広く使われた建材で、多くの製品にアスベストが含有されていました。硬質で、切断・穿孔時に大量の粉じんを発生させます。
④接着剤・パテ・目地処理材・仕上塗材
クロス職人の方が見落としがちなのが、下地処理に用いる材料です。目地処理材やパテ、接着剤、内装用の仕上塗材にも、アスベストが含有されていた製品がありました。
乾燥したパテを研磨する作業(サンディング)は、細かい粉じんを大量に発生させる、典型的なばく露作業です。
潜伏期間の長さという落とし穴
アスベストによる疾病の最大の特徴は、潜伏期間が極めて長いことです。中皮腫では30年から40年、肺がんでも20年から40年が経過してから発症するのが一般的です。
そのため、「もう40年も前に辞めた仕事だから関係ない」「今の体調不良は年齢のせいだ」と考えてしまい、補償の対象であることに気づかないまま時間が過ぎてしまう方が非常に多いのです。
内装工・クロス職人として働いていた時期があり、呼吸器の症状や検診での異常を指摘された方は、必ず過去の職歴を医師に伝えてください。
内装工が対象になる「建設アスベスト給付金」の支給要件を弁護士が解説

建設アスベスト給付金(特定石綿被害建設業務労働者等給付金)は、建設現場でアスベストにばく露して健康被害を受けた方に対し、国が給付金を支給する制度です。
訴訟を起こさなくても、国に対して請求し、認定を受ければ支給を受けられる点が大きな特徴です。
①対象期間
対象となる期間は、作業の内容によって二つに分かれます。
一つは、昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までの間に、石綿の吹付け作業に係る建設業務に従事していた場合です。
もう一つが、内装工の方に直接関係する区分で、昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの間に、一定の屋内作業場における建設業務に従事していた場合です。
平成16年9月30日までという長い期間が対象となっていますので、昭和後期から平成にかけて内装工事に従事していた方の多くが、期間の要件を満たします。
②対象となる業務(屋内作業場とは)
屋内作業場とは、屋根があり、側面の面積の2分の1以上が外壁などで囲まれていて、外気の流入が妨げられ、石綿の粉じんが滞留するおそれのある作業場をいいます。
内装工事は、まさにこの定義に当てはまる典型的な作業です。建物の躯体が完成し、外壁とサッシが入った後の内部で行う仕上げ工事ですから、ほぼ例外なく屋内作業場での作業に該当します。
この点は、屋外で行われることの多い他の職種と比べて、内装工が制度上有利な立場にあることを意味します。
③対象となる病気
給付金の対象となる疾病は、次の五つです。
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺(じん肺管理区分が管理2から管理4のもの)、良性石綿胸水です。
「まだ肺がんとは言われていないが、健診で胸膜プラークを指摘された」という段階の方は、給付金の対象ではありませんが、将来の発症に備えて記録を残しておく意味は非常に大きいといえます。
④給付額と減額される場合
給付額は、病態の区分に応じて550万円から1,300万円の範囲で定められています。中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水については1,150万円、これらにより死亡された場合は1,300万円が基準となります。
なお、ばく露期間が一定の年数に満たない場合には約1割が減額され、さらに肺がんの方に喫煙歴がある場合には、そこからもう約1割が減額される仕組みになっています。
「喫煙していたから受け取れないのでは」と誤解される方がいらっしゃいますが、そうではありません。喫煙歴があっても給付金の対象になります。減額はあくまで金額の調整にすぎませんので、諦めずに請求してください。
⑤対象者の範囲と請求期限
対象となるのは、雇用されていた労働者だけではありません。一人親方、中小事業主(親方)とその家族従事者も対象に含まれます。内装業では独立して一人親方として働いてきた方が多いだけに、この点は非常に重要です。
また、ご本人が既に亡くなられている場合には、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹といったご遺族が請求できます。
請求期限は、医師の診断日、じん肺管理区分の決定日、または死亡日から20年以内です。かなり長い期間が設けられていますが、逆に言えば、この期間を過ぎると一切請求できなくなります。
内装工・クロス職人のアスベスト被害は「労災」も申請可能

建設アスベスト給付金と労災保険は、別々の制度です。どちらか一方しか使えないというものではありません。
給付金と労災は併せて受けられる
労働者として雇用されていた期間にアスベストにばく露して発症した場合には、労災保険の給付を受けることができます。そして、建設アスベスト給付金は、労災保険の給付を受けていても、重ねて請求することが可能です。
実務上は、まず労災の認定を受け、その資料をもとに給付金を請求するという流れが取られることが多く、労災の認定は給付金申請における強力な立証資料にもなります。
労災保険から受けられる給付
労災が認定されると、療養補償給付として治療費が全額給付され、休業補償給付として休業期間中の賃金の約8割が補填されます。
また、じん肺による著しい呼吸機能障害などがある場合には傷病補償年金や障害補償給付が、亡くなられた場合にはご遺族に遺族補償年金と葬祭料が支給されます。
アスベスト関連疾患は治療が長期にわたり、経済的な負担が重くなりますので、労災の申請は必ず検討してください。
一人親方だった方・労災の対象外だった方
一人親方として働いていた期間については、労災保険の特別加入をしていなければ労災保険の対象になりません。
この場合でも、建設アスベスト給付金は請求できますし、職業上のばく露が立証できないケースでは、環境省が所管する石綿健康被害救済制度(救済給付)の対象となる可能性があります。
「労災は使えない」と言われても、他に使える制度が残っていることは少なくありません。
内装工のアスベスト被害は、国だけでなく「メーカー・会社」へ損害賠償も可能!

給付金と労災でも、被害のすべてが償われるわけではありません。慰謝料をはじめとする損害は、別途、責任のある相手方に請求する必要があります。
最高裁判決が認めた国と建材メーカーの責任
令和3年5月17日、最高裁判所は建設アスベスト訴訟について重要な判断を示しました。
国については、屋内建設現場でアスベスト建材を取り扱う作業に従事する者に対し、防じんマスクの着用を義務付けるなどの規制権限を行使しなかったことが違法であるとされました。この判断が、建設アスベスト給付金制度が創設される直接のきっかけとなっています。
さらに最高裁は、アスベスト含有建材を製造・販売していたメーカーについても、警告表示を怠った点に責任を認めました。
そして重要なのは、この保護の対象が、雇用された労働者だけでなく、一人親方にも及ぶと判断された点です。
内装工は「メーカー責任」を追及しやすい立場にある
建材メーカーに対する損害賠償請求では、その方が実際にどのメーカーのどの建材を取り扱っていたかを特定する必要があります。
この点で、解体作業のみに従事していた方は、既に建物に組み込まれた建材を壊すだけであり、どのメーカーの製品だったかを特定することが極めて困難です。そのため、メーカーへの請求は難しいとされています。
これに対して内装工・クロス職人の方は、新築・改修の現場で、実際に製品を仕入れ、開梱し、加工して張り込む立場にありました。当時の建材の商品名やメーカー名を記憶していることも多く、メーカーの責任を追及できる可能性が相対的に高いのです。
この違いは、請求できる金額に大きく影響します。ご自身が「解体だけ」ではなく「取付け・仕上げ」に関わっていたのであれば、この点は必ず検討すべきです。
当時の勤務先(会社)への損害賠償請求
雇用されて働いていた方であれば、当時の勤務先に対して、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求できる場合があります。
アスベストの危険性は、遅くとも昭和40年代には社会的に知られていました。それにもかかわらず、有効な防じんマスクを支給しなかった、局所排気装置を設けなかった、危険性を一切説明しなかった、湿潤化などの粉じん対策を取らなかったという場合には、会社の責任が問われます。
会社が既に廃業している場合でも、法人格が残っていれば請求は可能ですし、役員個人の責任が問題となることもあります。「もう会社はないから無理だ」と決めつけないでください。
労災・給付金と損害賠償の関係
損害賠償が認められた場合、既に受け取った労災保険給付と重なる部分については調整(控除)が行われます。しかし、慰謝料は労災保険では一切支給されない費目ですので、調整の対象になりません。
中皮腫などで亡くなられた場合、裁判基準による死亡慰謝料は、一家の支柱であれば2,800万円程度が目安とされています。これに逸失利益を加えると、賠償総額は数千万円規模に達することも珍しくありません。
会社から「見舞金」として数十万円から数百万円を提示され、示談してしまうケースがありますが、その金額が適正かどうかは慎重に判断すべきです。
昔の内装現場の証拠がない…アスベスト給付金の申請は弁護士にご相談を

アスベストの案件で最大の壁となるのが、数十年前の作業歴をどう立証するかという問題です。当事務所では、この立証を弁護士が代わって行います。
①作業歴の立証をサポートします
雇用保険の被保険者記録、年金記録、健康保険の記録、当時の給与明細、通帳の入金履歴、建設国保の記録、資格取得の履歴、現場の写真、同僚の陳述書など、あらゆる資料を組み合わせて作業歴を再構成します。
資料が手元に何も残っていない場合でも、弁護士会照会などの手続によって、第三者から情報を取得できることがあります。
②医学的資料の収集と評価を行います
胸部レントゲンやCT画像から胸膜プラークや石綿肺の所見を確認し、必要に応じて専門医の意見を得ます。既に医療機関を転院されている場合の診療録の取り寄せも、弁護士が行います。
③廃業した会社・不明なメーカーへの対応を行います
当時の勤務先が廃業している、社名が変わっている、メーカーが統合されているといった事情があっても、商業登記の調査や建材データベースの照合により、請求先を特定していきます。
④使える制度をすべて洗い出し、最適な順序で進めます
建設アスベスト給付金、労災保険、石綿健康被害救済制度、特別遺族給付金、そして会社・メーカーへの損害賠償——それぞれ要件も窓口も異なります。どの制度をどの順序で使うかによって、最終的に受け取れる金額は大きく変わります。
当事務所では、ご相談の段階で使える制度をすべて整理し、最も有利な進め方をご提案します。
⑤ご相談は無料でお受けしています
「自分は内装しかやっていないから対象外ではないか」「診断名がアスベストと言われていない」「もう何十年も前のことで何も覚えていない」——そうしたご不安をお持ちの方こそ、一度お話をお聞かせください。
ご本人が既に亡くなられているご遺族からのご相談も、数多くお受けしています。
おわりに

内装工・クロス職人の方は、閉ざされた室内で、アスベストを含む建材を日常的に切り、削り、張り込んできました。粉じんまみれになりながら建物を仕上げてきたその仕事が、数十年を経て健康を蝕んでいるとすれば、それは決して自己責任で片付けられるものではありません。
国、建材メーカー、そして当時の勤務先には、それぞれ果たすべき責任があります。給付金の請求も、損害賠償の請求も、被害を受けた方とそのご家族の正当な権利です。
請求期限は永遠ではありません。少しでも思い当たることがあれば、まずは一度ご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
労働災害(労災)
弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。






