労災の不支給決定・等級認定に納得できないとき|審査請求と再審査請求の進め方を弁護士が解説

労働基準監督署長から届いた一通の通知に、「不支給」の三文字。あるいは、覚悟していたよりもはるかに低い後遺障害等級。労災の手続を進めてこられた方にとって、これほど気持ちが折れる瞬間はありません。

しかし、労働基準監督署長の決定は、最終的な結論ではありません。法律は、その判断に不服がある場合の手続を明確に用意しています。

特に、令和7年度の過労死等の労災補償状況を見ると、精神障害については請求件数4,958件に対し支給決定件数は1,082件であり、認められなかった事案が相当数存在することが分かります。判断が難しい事案ほど、不服申立てで結論が覆る余地があるということでもあります。

本記事では、労災の不支給決定や等級認定に納得できない場合の手続について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

三段階の不服申立て制度

三段階の不服申立て制度

労災保険の決定に対する不服申立ては、三段階の構造になっています。

第一段階 審査請求

労働基準監督署長の決定に不服がある場合、まず各都道府県労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行います。

期間は、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内です。この期間を過ぎると、原則として不服を申し立てることができなくなります。

審査官は、労働基準監督署が収集した資料を改めて検討し、必要に応じて追加の調査を行ったうえで、決定を取り消すか、請求を棄却するかを判断します。

第二段階 再審査請求

審査官の決定にも不服がある場合には、厚生労働省に置かれている労働保険審査会に対して再審査請求を行います。

期間は、審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内です。労働保険審査会は、公益・労働者・使用者の各代表委員で構成される合議体で、口頭意見陳述の機会も設けられています。

第三段階 取消訴訟

最終的には、裁判所に対して処分の取消しを求める行政訴訟を提起することができます。

訴訟は、審査請求に対する決定があったことを知った日から6か月以内に提起する必要があります。なお、審査請求をした日から3か月を経過しても決定がされない場合には、再審査請求を経ずに、直ちに訴訟を提起することも認められています。

不服申立てで争われる典型的な論点

不服申立てで争われる典型的な論点

業務起因性の有無

最も多い争点が、「そのケガや病気は、本当に仕事が原因なのか」という業務起因性の判断です。

特に脳・心臓疾患や精神障害では、長時間労働の時間数の算定、業務の質的な過重性、ハラスメントの有無と程度、基礎疾患や私生活上の要因の評価などをめぐって、判断が分かれます。

労働時間についても、タイムカード上の記録だけでなく、パソコンのログ、入退館記録、業務メールの送信時刻などから実労働時間を再構成することで、結論が変わることがあります。

後遺障害等級の認定

「労災は認められたが、等級が低すぎる」というご相談も非常に多くいただきます。

関節の可動域の測定方法が適切でなかった、神経症状の他覚的所見が十分に評価されていなかった、複数の障害がある場合の併合の処理が誤っていた、といった理由で等級が低く判断されていることがあります。

後遺障害等級は、労災保険の障害補償給付の額を決めるだけでなく、会社に対する損害賠償の額をも大きく左右します。ここを争う実益は非常に大きいのです。

療養の終了(症状固定)の判断

「これ以上治療を続けても改善しない」として療養補償給付が打ち切られることがあります。まだ治療の効果が見込まれるにもかかわらず打ち切られた場合には、その判断を争うことができます。

不服申立てを成功させるためのポイント

不服申立てを成功させるためのポイント

原処分の理由を正確に把握する

まず必要なのは、労働基準監督署がどのような事実認定に基づき、どの要件を満たさないと判断したのかを正確に把握することです。

決定通知書に記載された理由だけでは不十分な場合が多く、行政文書の開示請求などにより、調査復命書をはじめとする関係資料を入手して分析することが有効です。

新たな医学的資料を追加する

不服申立てで結論を覆すには、原処分の判断を揺るがす新たな資料が必要です。主治医の詳細な意見書、専門医によるセカンドオピニオン、画像所見の再検討、可動域の再測定結果などが考えられます。

「同じ資料でもう一度判断してほしい」という主張だけでは、結論はまず変わりません。

事実関係を裏付ける客観的証拠を補強する

労働時間、業務内容、ハラスメントの実態などについて、同僚の陳述書、業務記録、メールやチャットの履歴といった客観的証拠を追加することで、認定を覆せることがあります。

期間の管理を怠らない

3か月、2か月、6か月という各期間は、いずれも厳格に運用されます。「主治医の意見書が間に合わないから」といった理由で期間を過ぎてしまえば、それまでの努力がすべて無になります。

まずは期間内に申立てを行い、資料は後から追加提出するという進め方が実務上は一般的です。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

争点を的確に絞り込める

不服申立てでは、あらゆる不満を並べるのではなく、原処分のどの判断が誤っているのかを法的に整理し、集中的に主張することが重要です。弁護士は、認定基準と裁判例に照らして争点を絞り込みます。

医師との連携を図れる

医学的な意見書は、不服申立ての成否を左右します。弁護士は、法的にどのような記載が必要かを踏まえて、主治医や協力医との橋渡しを行います。

会社への損害賠償請求と一体で戦略を立てられる

労災の不服申立てと、会社に対する損害賠償請求は、密接に関係しています。等級が上がれば賠償額も上がり、行政の判断が固まれば交渉の材料にもなります。

他方で、労災の手続に時間をかけている間に、会社への損害賠償請求権の時効が進行してしまうという問題もあります。弁護士は、両者を見据えて全体の戦略を立てます。

不服申立てを検討すべき典型的なサイン

不服申立てを検討すべき典型的なサイン

次のような事情に心当たりがある場合、不服申立てによって結論が変わる可能性があります。

①調査で自分の話が十分に聞かれていない

労働基準監督署の聴取が短時間で終わった、こちらが伝えたかった経緯が決定理由に反映されていない、同僚への聴取が行われていない——こうした場合、事実認定そのものが不十分である可能性があります。

②会社の説明だけで判断されている

会社が提出した資料や説明が前提とされ、それに反する被災者側の主張が検討されていないと感じる場合には、反証となる資料を追加することで判断が変わり得ます。

③労働時間の算定に納得がいかない

自己申告制の勤怠記録だけで労働時間が算定されている場合、実態と大きく乖離していることがあります。パソコンのログ、入退館記録、メールの送信時刻などから、実労働時間を立証できる余地があります。

④後遺障害の等級が想定より低い

可動域の測定方法、神経学的検査の実施状況、複数障害の併合処理などに誤りがないかを検証する必要があります。等級が一つ違うだけで、会社への賠償額は数百万円単位で変わります。

⑤主治医の意見が反映されていない

主治医が業務との関連を認めているにもかかわらず、労働基準監督署の嘱託医の意見のみが採用されていることがあります。より詳細な医学的意見書を追加することが有効です。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

当事務所の労災チームでは、労災の不服申立てについて、次のような形でご支援しています。

①行政文書の開示請求と分析

調査復命書をはじめとする関係資料の開示を求め、労働基準監督署がどのような事実認定を行ったのかを分析します。

②医学的意見書の準備

主治医や協力医と連携し、法的に必要な内容を備えた意見書を準備します。

③各手続の期間管理と書面作成

審査請求3か月、再審査請求2か月、取消訴訟6か月という期間を確実に管理し、必要な書面を作成・提出します。

④会社への損害賠償請求との連携

不服申立てと並行して、会社への損害賠償請求の準備を進め、時効の管理も含めて全体の戦略を立てます。

おわりに

おわりに

労働基準監督署の判断は、行政による一つの判断にすぎません。実際に、審査請求や訴訟の段階で結論が覆り、正当な補償を受けられた方は数多くいらっしゃいます。

とはいえ、不服申立てには厳格な期間制限があり、また専門的な資料の準備が必要です。決定通知書を受け取ったその時が、動き出すべきタイミングです。

「もう無理だと言われた」「何を書けばよいのか分からない」——そうしたお気持ちのままで構いません。通知書をお持ちいただければ、まだ取り得る手段があるかどうか、その場でお答えいたします。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働災害(労災)

弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。