建物の解体・改修工事でのアスベスト被害|会社への損害賠償と証拠集めについて弁護士が解説

「奇跡の鉱物」と呼ばれ、耐熱性や防音性に優れていたことから、かつて建材として大量に使用されていたアスベスト(石綿)。しかし、その正体は、髪の毛の数千分の一という極めて微細な繊維であり、吸い込むと肺の奥深くに突き刺さり、体外へ排出されることのない「静かな時限爆弾」です。

建設現場、とくに古い建物の解体・改修工事や配管設備・内装工事などに従事していた大工、左官、解体工、配管工といった多くの方々が、作業中に知らず知らずのうちに大量のアスベスト粉じんを吸い込んで(ばく露して)きました。アスベストの恐ろしいところは、ばく露してから20年から50年という非常に長い潜伏期間を経て、ある日突然、中皮腫や肺がんといった致死的な重篤疾患を発症する点にあります。

過去の建設業務が原因でアスベスト関連疾患を発症した場合、国に対して労災保険や建設アスベスト給付金などの申請を行い、補償を受けることが第一歩となります。しかし、ここで被災者やご遺族が直面する重要な問題があります。それは、国からの給付金や労災保険の支給だけでは、被災者が長年苦しみ抜いた末に命を落としたことや、闘病による精神的苦痛に対する十分な慰謝料がカバーされないケースが多いという点です。また、働き続けることができなくなったことによる逸失利益についても、公的給付だけでは実際の損害額の全額を補填することはできません。

これらの「公的制度では足りない損害」を補填し、適正な補償をすべて得るためには、労働者を危険な粉じんにさらし続けた過去の勤務先(会社)や元請け企業に対して、直接損害賠償(民事賠償)を請求する必要があります。本記事では、建設・解体現場におけるアスベスト被害において会社に問われる法的責任や、困難な証拠集めのポイント、そして複雑な給付金制度と損害賠償を組み合わせて適正な賠償を勝ち取るための弁護士の役割について、労災問題に精通した埼玉県大宮の弁護士が詳しく解説します。

長い潜伏期間を経て発症する「アスベスト疾患」と給付金制度

長い潜伏期間を経て発症する「アスベスト疾患」と給付金制度

アスベストを吸い込むことによって発症する特有の病気(アスベスト関連疾患)には、主に、肺を包む胸膜などにできる悪性腫瘍でアスベスト被害の代表的な疾患である中皮腫のほか、原発性肺がん、肺が線維化して硬くなる石綿肺(じん肺の一種)、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚などがあります。

これらの病気と診断された場合、被災者やご遺族を救済するための公的な制度として、大きく分けて労災保険、特別遺族給付金、石綿健康被害救済制度、建設アスベスト給付金制度の四つが用意されています。

国への給付請求と、会社への損害賠償請求の違い

労災保険や建設アスベスト給付金制度は、労働者保護や迅速な救済を目的としているため、過去にアスベストを取り扱う業務に従事し、対象疾病に罹患したという客観的な事実(業務起因性)が証明できれば給付が受けられ、会社側に悪気があったかどうかは問われません。

しかし、会社に対して直接損害賠償(慰謝料や逸失利益など)を請求するためには、それだけでは足りません。会社側に「アスベストの危険性を認識し、あるいは認識すべきであったにもかかわらず、労働者を守るための法的な対策を怠った」という安全配慮義務違反(過失)があったことを、被災者側で具体的に主張・立証する必要があります。

解体・改修工事における会社の「安全配慮義務違反」のポイント

解体・改修工事における会社の「安全配慮義務違反」のポイント

過去数十年にわたり、国は段階的にアスベストの使用規制や作業方法の規制を強化してきました。とくに労働安全衛生法や石綿障害予防規則(石綿則)などに基づき、事業者は厳格なばく露防止措置を講じる義務を負っていました。これらの義務が果たされていなかった場合、会社の明確な過失として損害賠償責任が問われます。

①事前の「石綿含有調査」の怠り

建物の解体や改修工事を行う際、事業者はあらかじめ、その建材にアスベストが含まれているかどうかを調査し、その結果を記録・周知する義務があります。「工期を急ぐあまり調査を怠り、アスベストが含まれている建材を無防備に破壊させた」という実態があれば、重大な安全配慮義務違反となります。

②作業現場の「隔離」や「湿潤化」の不備

アスベストを含む保温材や耐火被覆材を取り外す作業では、粉じんが周囲に飛散しないよう、作業場所をプラスチックシートなどで密閉・隔離し、強力な排気装置を稼働させなければなりません。また、解体時には建材に水を散布して湿らせる(湿潤化)ことで粉じんの発生を抑えることが義務付けられています。「隔離もせずに吹き付けアスベストを削り落としていた」「水をまかずにグラインダーで切断していた」といったずさんな作業方法は、労働者を死の危険にさらす行為です。

③有効な「呼吸用保護具」の支給・着用指導の欠如

アスベスト作業においては、粉じんの濃度に応じた適切な呼吸用保護具(電動ファン付き呼吸用保護具や防じんマスクなど)と保護衣を労働者に支給し、確実に着用させなければなりません。「会社から支給されたのは薄い布マスクだけだった」「息苦しいからとマスクを外して作業しているのを現場監督が黙認していた」という状況は、会社の安全管理体制の欠落を示しています。

会社への賠償金請求に向けた「証拠集め」のポイント

会社への賠償金請求に向けた「証拠集め」のポイント

アスベスト被害において賠償金を請求する際の最大の壁は証拠集めです。20年、30年前の作業が原因となるため、当時の会社がすでに倒産していたり、書類が廃棄されていたりすることが大半だからです。しかし、次のような証拠をパズルのように組み合わせることで、過去のばく露の事実や会社の責任を立証することは十分に可能です。

就労・作業実態に関する証拠

年金事務所で取得できる、いつからいつまでどの会社に在籍していたかを証明する被保険者記録照会回答票(ねんきん定期便を含む)は、最も客観的な証拠です。あわせて、粉じんにまみれて作業していた状況を示す当時の作業着や現場の写真、「当時の解体現場では防じんマスクは配られず、みんなタオルを巻いて作業していた」「会社からアスベストの危険性の説明は一切なかった」といった元同僚の具体的な証言(陳述書)も、会社の過失を裏付ける決定的な証拠となります。

医学的・公的な証拠

中皮腫や石綿肺の診断書のほか、CT画像においてアスベストを吸い込んだ人に特有に見られる胸膜プラークが確認できるかどうかは、アスベストばく露を客観的に裏付ける強力な証拠となります。また、すでに労災認定を受けている場合は、労働基準監督署が作成した調査復命書などを開示請求することで、行政が認定したばく露の事実関係を入手できる可能性があります。

アスベスト賠償金・給付金請求を弁護士に依頼すべき理由

アスベスト賠償金・給付金請求を弁護士に依頼すべき理由

アスベスト被害の救済手続きは、さまざまな給付金制度が複雑に絡み合っており、さらに過去の勤務先に対する損害賠償請求までを被災者やご遺族が単独で行うことは、ほぼ不可能です。専門知識を持つ弁護士に依頼すべき理由を説明します。

最適な制度の組み合わせと「もらい漏れ」の防止

前述のとおり、アスベスト被害には労災保険や建設アスベスト給付金など複数の制度が存在し、対象となる要件(労働者か一人親方かなど)が異なります。また、給付金を受け取ったうえで会社に対する損害賠償を請求する場合には、両者の間で複雑な支給調整が行われます。弁護士に依頼することで、どの順番でどの制度を利用すれば被災者が最も有利になるか(受け取る総額が最大になるか)を見極め、複雑な手続きをすべて代行します。

昔の会社が「倒産・廃業」していても責任追及できる可能性がある

当時の勤務先がすでに倒産しているからといって、賠償請求をあきらめる必要はありません。弁護士が徹底した調査を行うことで、当時の代表取締役などの個人責任を追及したり、作業の元請け企業(ゼネコンなど)に対して安全配慮義務違反を問えたりするケースがあります。また、弁護士会照会などの権限を用いて、個人では開示されない過去の行政記録などを調査し、証拠を掘り起こすことも可能です。

「裁判基準」による適正な賠償金の獲得

中皮腫などの重篤なアスベスト疾患で亡くなられた場合、裁判基準(いわゆる赤本基準)では、一家の支柱であれば2,800万円程度など、高額な死亡慰謝料が認められます。これに、生きていれば得られたはずの逸失利益を加えると、賠償金の総額が数千万円から、事案によっては1億円に迫ることもあります。会社側が道義的責任として提示してくる数百万円程度の「見舞金」で示談せず、弁護士が裁判基準を用いて交渉・訴訟を行うことで、被害に見合った正当な補償を勝ち取ることができます。

おわりに

おわりに

建設・解体現場でのアスベスト被害は、長年にわたり国や企業の対策が遅れたことによって引き起こされた、まさに「人災」です。真面目に働き、家族を支えてきた方々が、定年退職後などの平穏な生活のなかで突然死の淵に立たされる無念さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。だからこそ、適正な給付金と会社からの正当な賠償金を受け取ることは、被災者とご遺族に認められた当然の権利です。

「昔の解体作業が原因で中皮腫になった」「建設アスベスト給付金の対象になるか知りたい」「会社に慰謝料を請求できるか相談したい」とお悩みの方は、一人で抱え込まず、私たちにご相談ください。ご本人とご家族の正当な権利を守り、これからの生活を支えるための適正な補償の獲得に向けて、全力でサポートいたします。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働災害(労災)

弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。