ネットいじめと「動画拡散」 強要され、SNSで晒された子どもを守るために――被害児童生徒の立場から弁護士が解説ネットいじめと「動画拡散」
【この記事のポイント】
土下座を強要する様子を撮影し、SNSで拡散する――そんなネットいじめが社会問題になっています。鹿児島県姶良市では、中学生に土下座を強要した動画が拡散された問題で、市教育委員会が「いじめの重大事態の疑いがある」として調査を始めたことを公表しました。本記事では、いじめ防止対策推進法第19条が定めるネットいじめ対策、動画拡散の深刻さと回復の困難さ、強要・暴力という犯罪性、そして被害を受けた子どもと家族がとり得る削除・発信者情報開示などの対応を、被害児童生徒の立場から解説します。

1. 「一度拡散されたら消えない」という残酷さ

1. 「一度拡散されたら消えない」という残酷さ

ネットいじめが従来のいじめと大きく異なるのは、被害が空間と時間を超えて広がり続ける点です。学校を離れても、卒業しても、スマートフォンの中で被害が続く。撮影された屈辱的な瞬間が、本人の知らないところで何度も再生され、拡散される。一度ネット上に出た情報を完全に消し去ることは極めて困難であり、被害は短期間で深刻化し、回復が難しくなります。

2026年6月に報じられた鹿児島県姶良市の事案では、路上で土下座する中学生の頭を別の生徒が押さえつけるなどした動画がSNS上で拡散されました。姶良市教育委員会は記者会見を開き、関係生徒からの聞き取りや本人・保護者への確認を経て、動画の内容は事実であり、明らかないじめの事案であると説明したうえで、「いじめの重大事態の疑いがある」と判断し、調査を始めたことを明らかにしたと報じられています。土下座をさせられた生徒は、行為をさせられて嫌な思いをしたと話しているとされます。

この事案が示すこと
・「強要」して撮影し、SNSで「拡散」する行為は、極めて悪質ないじめである。
・市教委は『重大事態の疑い』の段階で調査を開始し、第三者委員会の設置も視野に入れている。
・撮影・投稿・拡散は、いじめであると同時に犯罪に当たり得る。

2. 法律はネットいじめにどう向き合っているか

2. 法律はネットいじめにどう向き合っているか

いじめ防止対策推進法第2条は、いじめの定義に「インターネットを通じて行われるものを含む」と明記しています。ネット上の行為も、被害を受けた子どもが心身の苦痛を感じていれば、いじめに該当します。

さらに、同法第19条は、学校に対し、児童生徒がネットいじめに巻き込まれないよう、防止と対処のための啓発などに取り組むことを求めています。国の基本方針も、ネットいじめを重大な人権侵害として捉え、名誉毀損罪や侮辱罪の対象になり得ること、被害の拡大を防ぐために学校が直ちに情報を削除する措置をとることなどを求めています。被害側が、情報の削除や発信者情報の開示を求める法的手段をとれることも重要です。

行為問題になり得る点
土下座などの強要強要罪・恐喝罪等に当たり得る。心身に重大な苦痛を与える悪質ないじめ
頭を押さえつける等の暴力暴行罪・傷害罪に当たり得る
動画の撮影・投稿・拡散名誉毀損罪・侮辱罪、肖像権・プライバシー侵害に当たり得る
拡散への加担(再投稿・共有)被害を拡大させる行為として責任を問われ得る

3. 「重大事態の疑い」の段階で動くことの意味

3. 「重大事態の疑い」の段階で動くことの意味

姶良市教委が「疑い」の段階で調査を始めたことには、大きな意味があります。いじめ防止法と国のガイドラインは、重大な被害が生じた「疑い」がある段階で、事実関係が確定する前から調査に向けて動き出すことを求めています。被害が確定するのを待っていては、その間にも拡散が進み、被害が取り返しのつかないものになりかねません。特にネットいじめでは、初動の速さが被害の深刻化を防ぐ鍵になります。

【重要】拡散を止める初動が最優先
ネット上の被害は時間との勝負です。まずは、当該動画・投稿のURLや画面(スクリーンショット)を証拠として保全したうえで、プラットフォームへの削除依頼、学校・警察への相談を急いでください。被害を受けた本人を責めず、安全と安心の確保を最優先にしてください。

4. 被害を受けた子どもと家族ができること

4. 被害を受けた子どもと家族ができること

◆ 証拠を保全する

動画・投稿の内容、URL、アカウント名、日時が分かる形でスクリーンショットを保存してください。削除される前に保全しておくことが、後の調査・削除請求・損害賠償で決定的に重要になります。

◆ 削除と発信者情報開示を求める

拡散された動画については、プラットフォーム事業者への削除依頼に加え、投稿者を特定するための発信者情報開示請求という法的手段があります。誰が拡散したのかを明らかにすることは、責任追及と再発防止の出発点になります。これらの手続は専門的なため、弁護士のサポートが有効です。

◆ 重大事態としての調査を求める

ネットいじめにより心身に重大な被害が生じた疑いがある場合は、重大事態として、第三者性のある調査委員会による調査を求めることができます。撮影者・投稿者・拡散者を含めた事実関係の解明を求めましょう。

相談・通報窓口
・学校/教育委員会:いじめ・重大事態としての対応と調査を求める
・警察(#9110、最寄りの警察署):強要・暴力・名誉毀損など犯罪に当たり得る場合 ・法務局(インターネット人権相談):削除に向けた相談が可能
・24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):子ども本人・保護者が利用できる無料相談窓口
・弁護士:削除請求・発信者情報開示・損害賠償まで一貫して対応

5. 「ネットのこと」と軽く見ないために

5. 「ネットのこと」と軽く見ないために

ネットいじめは、目に見えにくく、大人が気づいたときには被害が広がっていることが少なくありません。お子さんのスマートフォンの様子、表情や生活リズムの変化に、いつもと違う点がないか、気にかけてあげてください。本人が「大丈夫」と言っても、それは心配をかけまいとする気遣いかもしれません。少しでも気になることがあれば、早めに学校や専門家に相談することが、被害の深刻化を防ぎます。

【時効に注意】
いじめによる損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年(民法第724条)で時効にかかります。発信者情報開示には期限の問題もあるため、早めにご相談ください。

6. 「拡散した相手」を特定し、責任を問うために

6. 「拡散した相手」を特定し、責任を問うために

ネットいじめでつらいのは、「誰が広めたのか分からない」という匿名性です。しかし、匿名だからといって泣き寝入りする必要はありません。プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求という手続によって、投稿者・拡散者を特定できる場合があります。具体的には、まずプラットフォーム事業者に対して投稿に用いられた通信記録の開示を求め、次に通信を媒介したプロバイダに対して契約者情報の開示を求める、という流れをたどります。特定ができれば、その相手に対して、削除・謝罪・損害賠償を求めることが可能になります。

ただし、これらの手続には、通信記録の保存期間という時間的な制約があります。記録が消去されてしまうと特定が困難になるため、被害に気づいたらできるだけ早く動くことが何より重要です。手続自体も専門的なため、早い段階で弁護士に相談し、証拠保全と並行して進めるのが効果的です。「ネットのことだから仕方ない」と諦めず、加害行為に正面から責任を問う道があることを知っておいてください。

発信者情報開示のポイント
・まずは投稿・動画の画面とURLを証拠として保全する
・通信記録には保存期間があるため、早期着手が鍵
・特定後は、削除・謝罪・損害賠償の請求につなげられる

あわせて、学校や行政には、ネットいじめを生まないための予防教育も求められます。法第19条が啓発を学校の責務としているのは、被害が起きてからの対処だけでなく、撮影・拡散がいかに人を傷つけ、いかに重い責任を伴うかを、日頃から子どもたちに伝えることが重要だからです。被害を受けた子どもが「自分にも落ち度があったのでは」と抱え込むことのないよう、悪いのは強要し、撮影し、拡散した側であるという当たり前の事実を、大人がはっきりと示すことも大切です。被害に遭った子どもが安心して相談できる雰囲気を家庭と学校の双方でつくることが、早期発見と被害の最小化につながります。

7. まとめ――子どもの尊厳を、ネットの海から守る

7. まとめ――子どもの尊厳を、ネットの海から守る

強要された姿を撮影され、世界に向けて晒される――それは、子どもの尊厳を深く傷つける重大な人権侵害です。「子ども同士のふざけ」では決してありません。自己の形成過程にある未成年者がインターネットで嫌なことをさらされた場合には、心理的な絶望感を与え、居場所がないと錯覚させてしまい、その結果、人との関わりを恐れたり深く傷ついたりしてしまいます。しかし、そのような子の傷つきに周りの身近な大人が気づき、本気で解決に向けて尽力している姿をみたらどうでしょうか。時間がかかるかもしれませんが、あるいは自分らしさを取り戻し、後から振り返れる日が来るようになるかもしれません。

法律は、ネットいじめを正面からいじめと位置づけ、学校・行政の積極的な対応と、被害者の削除・開示・賠償を求める権利を認めています。お子さんがネットいじめの被害に遭ったら、一刻も早く、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典】

  • 南日本放送(MBC)/TBS NEWS DIG「『嫌な思いした』中学生の土下座動画“いじめ重大事態の疑い”教育委員会が判断 鹿児島・姶良市」2026年6月配信(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mbc/2751456?display=1)
  • いじめ防止対策推進法第2条・第19条・第28条/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)/文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

学校・いじめ

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。