M&Aを行う場合、いろいろな分野でデューデリジェンスを行う必要があります。今回は、「許認可・規制法遵守」の分野で行うべきデューデリジェンスについて述べてみました。

1 必要な許認可が全て取得・維持されているか

M&Aにおける許認可デューデリジェンスでは、対象会社の事業に必要な許認可が漏れなく取得され、現在も有効に維持されているかを確認することが重要です。例えば、建設業、運送業、医療、介護、人材派遣、産業廃棄物処理、金融関連事業などでは、業法上の許認可がなければ事業継続自体ができません。

そのため、単に許可証の有無をだけでなく、許可番号、有効期限、更新状況、許可条件、営業所追加届出の状況なども確認する必要があります。

また、実際の事業内容と取得済み許認可の範囲が一致しているかも重要です。一部事業について必要な届出が未了であったり、更新期限を徒過していたりするケースもありますが、こうした問題が発覚すると、行政処分や事業停止リスクにつながるため、M&A後の企業価値に重大な影響を与える可能性があります。

2 M&A後も許認可を承継・維持できるか

許認可は取得しているだけでは不十分であり、M&A後にも継続利用できるかを確認する必要があります。特に事業譲渡の場合は、法人格が変わらない株式譲渡と異なり、許認可を引き継げず、新会社側で再取得が必要になるケースがあります。

また、株式譲渡であっても、一定割合以上の株主変更や役員変更が生じた場合に届出義務が発生する業種があります。さらに、許認可によっては「実質的支配者」の変更を問題視するものもあり、M&A後に行政庁の審査対象となる場合があります。

もし再取得が必要となれば、一定期間営業できなくなる可能性もあるため、クロージングスケジュールや買収ストラクチャーに大きな影響を与えます。そのため、各許認可について、承継可否、必要手続、行政庁との事前協議の有無を整理しておくことが重要です。

3 行政処分・監査・法令違反の履歴がないか

対象会社に過去の行政処分や法令違反履歴が存在する場合、買収後に大きなリスクとして顕在化する可能性があります。例えば、業務停止命令、改善命令、行政指導、立入検査、監督官庁からの是正勧告などです

また、過去に問題が解消済みであっても、再発リスクや企業文化上の問題が残存しているケースもあります。そのため、処分歴の有無だけでなく、原因、是正状況、再発防止策まで確認することが重要です。このため行政文書、監査報告書、内部通報記録、弁護士意見書などを確認し、潜在リスクを評価します。

4 無許可営業や許可条件違反が存在しないか

許認可を保有していても、実際の事業運営が許可条件を満たしていなければ重大な法令違反となります。例えば、許可対象外地域での営業、登録業務範囲を超えたサービス提供、名義貸し、必要人員不足、無届営業所の設置などは典型例です。また、現場運営が社内規程や法令に適合していないケースも少なくありません。

とくに中小企業では、長年の慣行として不適切な運営が常態化している場合があり、経営者自身が違反を認識していないこともあります。

このような違反は、M&A後に行政調査や内部告発によって発覚し、許認可取消や業務停止につながるリスクがあります。そのため、デューデリジェンスでは契約書や許可証だけでなく、実際のオペレーション、現場管理状況、従業員ヒアリングなどを通じて実態確認を行うことが重要です。

5 業法上必要な有資格者・管理責任者が確保されているか

多くの許認可業種では、有資格者や専任管理責任者の配置が法律上義務付けられています。例えば、建設業では専任技術者、宅建業では宅地建物取引士、人材派遣業では派遣元責任者、介護事業では管理者などが必要です。

M&Aにおいて問題となるのは、これらの人材が実質的にオーナー依存となっているケースです。例えば、キーパーソン退職によって許認可維持要件を満たせなくなる場合、買収後に営業継続が困難となる可能性があります。また、資格者が名目的にしか関与していない場合は、法令違反と評価されるリスクもあります。

そのため、資格保有状況だけでなく、常勤性、兼務状況、雇用契約、退職予定の有無まで確認する必要があります。特に中小M&Aでは人的依存リスクの評価が非常に重要となります。

6 個人情報保護、労働法、独禁法など重大コンプライアンス違反がないか

業法違反だけでなく、一般的なコンプライアンス違反も重要なデューデリジェンス項目となります。とくに個人情報保護法違反、長時間労働・未払残業代などの労働法違反、取適法(下請法)違反、独占禁止法違反、景品表示法違反などは、買収後に多額の損害や企業の評価の毀損を招く可能性があります。

また、デジタル化の進展に伴い、情報セキュリティ体制やサイバー攻撃対応状況も重要性を増しています。これらの問題は、表面上は発見しにくく、内部通報や従業員ヒアリングで初めて判明するケースもあります。そのため、規程整備状況だけでなく、実際の運用実態、内部監査、事故履歴、労務トラブル履歴などを総合的に確認する必要があります。

7 重大な法令違反リスクが、株式譲渡契約の表明保証・補償条項で適切にカバーされているか

デューデリジェンスですべてのリスクを完全に発見することは困難であるため、最終的には株式譲渡契約の表明保証・補償条項によってリスク配分を整理することが重要です。例えば、「法令遵守」「必要許認可が有効に存在している」「行政処分不存在」などを売主に表明保証させ、違反が判明した場合には損害賠償請求を可能にします。

また、デューデリジェンスで問題が発見された場合には、特別補償条項や価格調整条項を設けることがあります。ただし、表明保証には期間制限、金額上限、免責条項などが付されることが多いため、実際にどこまで回収可能かを慎重に検討する必要があります。

とくに中小M&Aでは、売主個人の資力に依存する場合も多く、契約上の権利が実効的に機能するかを確認することが重要です。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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