
M&A(企業買収)を行う場合、いろいろな分野でデューディリジェンスを行う必要があります。今回は、「負債」の分野で行うべきデューディリジェンスについて、借入・預り金、社債、保証・担保提供、その他ファイナンス取引について述べてみました。
1 はじめに

株式取得によるM&Aの場合、買手は対象会社の権利義務を包括的に引き継ぐことになります。すなわち、貸借対照表に計上されている負債だけでなく、契約関係や将来の条件次第で発生し得る義務(いわゆる「隠れた負債」や「偶発債務」)も含めてすべて承継する点に特徴があります。
そのため、デューディリジェンスにおいては、単に金額の大小だけでなく、「どのような条件で支払義務が発生するのか」「買収後に問題が顕在化しないか」という観点から精査することが重要になります。
以下では、とくに重要性の高い、①金銭の借入・預り金、②社債、③保証・担保提供、④その他ファイナンス取引について説明したいと思います。
2 金銭の借入・預り金

⑴ 金銭の借入
まず、金銭の借入について最も重要なのは、「チェンジ・オブ・コントロール条項」の有無です。これは、会社の支配権、すなわち株主構成が変わった場合に、金融機関が「貸しているお金を一括で返してください」と要求できる条項です。株式取得はまさに支配権の変更に該当するため、この条項に該当すると、買収直後に多額の返済義務が発生する可能性があります。
また、「クロスデフォルト条項」と呼ばれる仕組みにも注意が必要です。これは、ある一つの借入について債務不履行が発生した場合、それとは別の借入についても連動して期限の利益を失い、一括返済を求められるというものです。このような条項が複数の契約にまたがって存在すると、リスクは非常に大きくなります。
さらに、担保の状況も重要です。担保とは、借入の返済ができなくなった場合に備えて、会社の資産(不動産や売掛金など)を金融機関に差し入れるものですが、「根抵当権」や「動産担保」「売掛金担保」といった包括的な担保が設定されている場合、会社の多くの資産が拘束されている可能性があります。この場合、買収後に新たな融資を受けたり、資産を自由に処分したりすることが難しくなるため、事業運営に大きな制約が生じます。
⑵ 預り金
次に、預り金についてです。預り金とは、顧客などから一時的に預かっている金銭ですが、その多くは将来返還義務を伴います。例えば、保証金や前受金(サービス提供前に受け取る代金)などは、一定の条件が満たされた場合や契約が終了した場合には返金をしなければなりません。したがって、「いつ」「どの程度の金額を返さなければならないのか」を把握することが重要です。
また、本来は分別して管理すべき預り金が、日常の運転資金として使われている場合には、資金繰りが悪化した際に返還できなくなるリスクや、顧客とのトラブルにつながる可能性があります。
3 社債

社債は、基本的には借入金と似た性質を持ちますが、注意すべきは発行条件です。社債とは、会社が投資家からお金を借りるために発行する証券ですが、その条件(利率、返済期限、繰上返済の可否など)は「社債要項」と呼ばれる文書に定められています。
この中に、「チェンジ・オブ・コントロール条項」や「繰上償還条項(一定の条件で早期返済を求められる条項)」が含まれている場合、株式取得をきっかけに一括返済が必要になることがあります。とくに注意すべきは「私募社債」です。これは限られた投資家に対して発行される社債であり、条件が個別交渉で決まるため、標準化されていません。その結果、一般的な開示資料だけでは把握できない特約が存在することもあり、契約書そのものを精査する必要があります。
4 保証・担保提供

第三者の債務に対する保証や担保提供は、貸借対照表には直接現れないものの、将来的に大きな支払義務となる可能性があるものです。
まず保証についてですが、重要なのは「どこまで支払う義務があるのか」という範囲です。上限額(極度額)が設定されていない場合、元本だけでなく利息や遅延損害金を含めて、負担が大きく拡大する可能性があります。
また、保証の対象となっている第三者(主債務者)の経営状況も重要であり、その会社の業績が悪化している場合には、保証債務を現実に履行しなければならない可能性が高くなります。
担保提供についても同様で、自社の資産(土地など)により第三者の借入を担保している場合、その第三者が返済できなくなると、自社の資産が処分されることになります。つまり、自社の事業とは直接関係のない理由で重要な資産を失うリスクがあります。このような担保が設定されている場合には、買収後に解除できるのか、金融機関の同意が必要なのかといった点も含めて確認する必要があります。
5 その他ファイナンス取引

その他のファイナンス取引としては、見た目は借入ではないが、実質的には借入に近いものに注意する必要があります。例えば、ファイナンスリースは設備などをリース会社から借りる形式を取りますが、契約期間中は原則として解約できず、実質的には分割払いで購入しているのと同じです。そのため、将来にわたって支払い義務が固定的に発生する点で、借入と同様に評価する必要があります。
また、ファクタリング(売掛金の売却)についても注意が必要です。「償還請求権付き」と呼ばれるタイプでは、売掛先が支払わなかった場合に、最終的には売掛金を売却した会社(M&Aの対象会社)が支払いをすることになります。この場合、形式上は債権売却であっても、実質的には売掛金を担保にした借入と同じリスクを負っていることになります。
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