
アスベスト被害に対する給付金制度は4種類存在しますが、弁護士の立場から強くお勧めするのが、まず「労災保険」への申請を最優先に検討することです。なぜ労災保険が最も重要なのか、他の制度と何が違うのか。このコラムでは、労災保険の給付内容と他制度との比較を詳しく解説し、適切な制度選択のポイントをお伝えします。「勤務先が労災保険に入っていなかった」「もう何十年も前の話で今さら無理だろう」と思っている方にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。
労災保険が最優先される理由

給付内容が最も充実している
4つのアスベスト給付金制度のうち、給付内容が最も充実しているのが労災保険です。治療費(療養補償給付)、休業中の生活費(休業補償給付)、後遺障害に対する補償(障害補償給付)、死亡した場合の遺族への補償(遺族補償給付)と、被害者が被る様々な損害を幅広くカバーしています。
石綿健康被害救済制度と比較すると、その差は明確です。石綿健康被害救済制度では、医療費と療養手当(月額103,870円)が主な給付内容であり、休業補償や後遺障害に対する補償がありません。死亡した場合でも特別遺族弔慰金280万円と特別葬祭料が支給されるのみです。
一方、労災保険の遺族補償給付は、条件によっては遺族補償年金として毎年数百万円規模の給付が継続して受けられます。
「本当の救済制度」とはどちらか
石綿健康被害救済制度は、2006年の石綿健康被害救済法施行により設立された制度で、労災保険の対象にならない方(職業ばく露以外の被害者)を救済するために設けられました。しかし、「救済制度」という名称から、すべてのアスベスト被害者にとって最善の制度であるかのような誤解が生じることがあります。
実際には、労働者として業務でアスベストにさらされた方の場合、労災保険の方がはるかに充実した給付を受けられます。石綿健康被害救済制度は、労災保険の「補完的制度」として位置づけるべきであり、労災保険への申請が可能な方には労災保険を最優先に検討することが極めて重要です。
労災保険の主な給付内容の詳細

療養補償給付 ~治療費が全額支給される~
アスベスト関連疾患の治療に要する費用が支給されます。労災指定医療機関で治療を受ける場合は、医療機関に対して直接支払われるため患者の窓口負担はありません。対象となる費用は、診察費・薬剤費・処置費・手術費・入院費・訪問看護費など幅広い治療関連費用です。
休業補償給付 ~働けない期間の生活費が補填される~
アスベスト関連疾患の療養のために働けなくなった期間について、給付基礎日額の60%が休業補償給付として支給されます。さらに社会復帰促進等事業の一環として、給付基礎日額の20%が特別支給金として支給されます。合計で給付基礎日額の80%が受け取れます。給付基礎日額は、原則として事故前3か月間の賃金を日額換算した金額です。
障害補償給付 ~後遺障害への補償~
症状固定後も後遺障害が残る場合、その重さに応じて第1級から第14級に認定されます。第7級以上(重い方)の場合は障害補償年金が、第8級以下の場合は障害補償一時金が支給されます。アスベスト関連疾患は重篤な後遺障害を残すことが多く、高額の障害補償給付が認められるケースがあります。
遺族補償給付 ~死亡した場合の遺族への補償~
アスベスト関連疾患を原因として死亡した場合、遺族に対して遺族補償年金または遺族補償一時金が支給されます。遺族補償年金は、遺族の人数に応じて給付基礎日額の153日分(遺族1人の場合)から245日分(遺族4人以上の場合)が毎年支給されます。
例えば給付基礎日額が1万円の場合、遺族1人では年間153万円が継続的に支給されます。また、遺族特別支給金(一時金300万円)・遺族特別年金も支給されます。遺族補償年金を受給できる遺族がいない場合は、給付基礎日額の1,000日分が遺族補償一時金として支払われます。
「勤務先が労災に入っていなかった」は誤解が多い

労災保険は強制加入
労災保険は、労働者を一人でも雇用するすべての事業主に加入義務があります(農業・林業・漁業の一部を除く)。雇用形態(正社員・パート・アルバイト・日雇いなど)は関係ありません。
元の勤務先から「労災保険に入っていない(入っていなかった)」と言われても、それは事業主の義務違反の問題であり、労働者の申請権には影響しません。労災保険に未加入の事業主の下で働いていた場合でも、労働者は労災保険の給付を受ける権利があります。
廃業した勤務先・亡くなった事業主への対応
元の勤務先が廃業している場合や事業主が亡くなっている場合でも、労災保険の申請は可能です。申請書の「事業主証明」欄については、廃業・連絡不能の旨を記した説明文書を添付することで対応できます。勤務の事実は、給与明細・源泉徴収票・社会保険の加入記録・同僚の証言などによっても立証することができます。
給付金の消滅時効と対処法

各給付の時効期間
労災保険の各給付には消滅時効があります。療養補償給付・休業補償給付は権利が発生した翌日から2年、障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料は権利が発生した翌日から5年です。
時効は申請(請求)によって中断しますので、早期に申請を行うことが時効完成による権利喪失を防ぐために重要です。遺族補償給付について時効が完成してしまった場合でも、「特別遺族給付金制度」という救済制度を利用できる可能性があります。
労災保険と損害賠償の関係

労災保険だけでは「慰謝料」は受け取れない
労災保険は非常に充実した制度ですが、「慰謝料(精神的損害への補償)」が支払われません。アスベスト関連疾患による苦痛・不安・生活の質の低下に対する慰謝料を受け取るためには、会社や国に対して「損害賠償請求」を別途行う必要があります。
また、逸失利益(将来得られたはずの収入の損失)についても、労災保険の給付で支払われる金額と、裁判基準(弁護士・裁判所が用いる基準)による損害賠償として認められる金額に差がある場合があります。弁護士による損害賠償請求を合わせて検討することをお勧めします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





