
会社が破産する場合、会社の所有していた知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権等)も、破産財団に組み入れられて債権者への配当の引き当てとなる会社の財産です。本稿では、これらの知的財産権を換価する際の注意点について弁護士が解説します。
はじめに

破産する会社が、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権といった知的財産権を有していることがあります。
これらの権利も会社の資産を構成するものですから、会社が破産するときは、原則として破産管財人が売却して現金に換えます。
換価された後の現金は、その会社の破産財団に組み入れられて、最終的には債権者への配当原資となります。
本稿では知的財産権を換価する場合の注意点を見ていきますが、これらは、不動産や動産などの有形資産とは異なり、目に見えない無形資産です。
そのため、その存在を把握しにくく、代表者を始めとする会社関係者がうっかりその存在を忘れていたりすると、申立て時点の財産目録から漏れていたりすることがあります。
このようなことがないよう、まずは、知的財産権の内容と権利帰属をしっかり確認することが出発点となります。
内容と権利帰属の正確な把握

破産会社がどのような知財を保有しているかを正確に把握する必要があります。
この点、知的財産権には、「登録制度のあるもの」と「登録がなくても保護されるもの」がある点に注意が必要です。
登録制度のあるもの
特許権、実用新案権、意匠権、商標権などです。
それぞれ、特許登録原簿、実用新案登録原簿、意匠登録原簿、商標登録原簿で確認することができます。
網羅的なデータベースとして、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)がありますので、これを活用して、会社名義の権利はないか調査します。
共有者がいないか、実施権が設定されていないかについても、忘れずにチェックしましょう。
なお、登録料の納付状況を確認することも重要です。
納付期限が迫っている場合に、これを放置して権利を失効させてしまうと、債権者への配当の引き当てとなるべき貴重な財産を失ってしまうことになります。
その知的財産権に十分な換価価値があると判断される場合には、速やかに残りの会社財産から登録料を納付し、権利の保全を図ります。
登録がなくても保護されるもの
典型的なものは著作権ですが、登録されているものであれば、文化庁の「著作権等登録状況検索システム」で調べることができます。
一方、未登録の著作権は、会社関係者がしっかり把握していない限り、確知が難しいかもしれません。
なお、ノウハウや営業秘密も知的財産権の一種として扱われることがありますが、事業譲渡に組み込むのであれば別ですが、破産手続きにおいてそれらを単独で換価するのは至難の業です。
注意点① 知的財産権単独での換価か、事業譲渡か

内容と権利帰属の正確な把握ができたとして、次に、換価する場合の注意点を見ていきますが、知的財産権の場合、そもそも、権利だけを単独で換価すべきなのかどうかという問題があります。
なせなら、知的財産権は、破産会社が行っていた事業を競合相手の事業と差別化するために(または、競合相手からの知的財産権の権利主張から自らの事業を守るために)権利化されており、破産会社の事業と切っても切り離せない関係にあることが多いからです。
このため、知的財産権だけを事業と切り離して、それ単独で売却・換価しようとすると、本来持っている価値よりも低い価額でしか売れない事態になりかねず、極端な場合には、「無価値」と判断されてしまう事態もあり得ます。
そこで、正当な評価のもと、少しでも高く売却・換価するために、まずは、その知的財産権が関係する事業そのものを譲渡することができないかを検討します。
事業とセットで売ることが可能であれば、その方が、知的財産権の価値を最大化できるということです。
注意点② 評価方法と売却方法

上記のように関係する事業とセットで売却できればよいですが、それが難しい場合には、知的財産権を単独で売らなければなりません。
その際、知的財産権が持っている価値をどのような手法で評価するかが問題となります。
よく聞かれる評価方法として、
■コスト・アプローチ(開発にかかった費用を積み上げる方法)
■マーケット・アプローチ(類似の権利の取引事例と比較する方法)
■インカム・アプローチ(将来期待されるロイヤリティ収益を現在価値に割り引く方法)
がありますが、いずれも確立したものとは言えません。
弁理士や公認会計士、あるいは知財専門のコンサルティング会社に意見を求めることも考えられますが、やはり、最も無難なのは、複数の買受希望者による競争を経て、売却先と売却価格を決定することです。
つまり、競争入札方式です。
しかしながら、競争入札方式を取ろうとしても、知的財産権単独で、複数業者が買取りに名乗りを上げるほど市場価値の高い権利は、あまりないのが現状でしょう。
このような場合、例えば、
■共有者がいればその共有者に適宜の値段で買い取ってもらう
■その知的財産権にライセンスが設定されている場合は、ライセンシーに買い取ってもらう
方法があります。
手を尽くしても買受希望者が見つからず、このまま保有し続けても維持管理費がかかるばかりである、といった場合には、破産管財人は裁判所の許可を得て、会社財産からその知的財産権を「放棄」することになります。
「放棄」が選択されると、登録庁に対して抹消登録の手続を行うか、または、次回の登録料を敢えて納付せずにそのまま自然消滅させます。
注意点③ 瑕疵担保責任を負わない旨の条項

知的財産権を売却する時には、譲渡契約書に、譲渡人が次のような事項を保証する条項を入れるのが通常です。
・対象となる知的財産権に無効原因や取消し原因が存在しないこと
・第三者に実施権や使用権を許諾していないこと
・対象となる知的財産権が第三者の知的財産権を侵害していないこと
しかし、会社が破産する局面で知的財産権を売却しようとする場合、破産管財人は上記のような責任は負えませんし、破産手続きが終結すれば会社(法人格)は消滅してしまいますので、保証する主体が存在しないことになってしまいます。
そこで、会社が破産する局面では、通常の場合は入れるであろう上記のような保証表明に関する条項は入れず、瑕疵担保責任は一切負わない旨の条項を入れて契約する必要があります。
注意点④ ライセンス契約の処理

知的財産権にライセンス(利用許諾、通常実施権)が設定されている場合は、先に述べたとおり、その知的財産権の換価価値を最大化すべく、ライセンシーに買い取ってもらうのが有効な方法です。
しかし、ライセンシーを廃除して、別の第三者に高く売ろうとする場合には、通常実施権の持つ当然対抗制度に注意する必要があります。
本来、破産管財人は、契約の当事者双方がまだ履行していない契約については、契約を解除するか、それとも履行(続行)するか、選択することが可能です。
ところが、知的財産権に関しては、特許件については特許法、実用新案権については実用新案法、意匠権については意匠法、商標権については商標法、著作権については著作権法において、それぞれ、「通常実施権は、その発生後に当該知的財産権を取得した者に対しても、効力を有する」旨の特別の定めがあります。
これが当然対抗制度と呼ばれるものであり、例えば、ある特許権についてライセンスを設定した後に、特許権そのものが第三者に譲渡されたとしても、設定されたライセンスの効果は失われない、つまり、ライセンシーは特許権を新たに取得した者に対して、引き続きその特許権を自らが利用することを主張できる、ということです。
このため、破産管財人がライセンス契約の解除を選択しようとしても、一度設定されたライセンスの効力を否定することはできないのです。
このように、知的財産権にライセンスが設定されている場合には、ライセンシーにこれまでどおりの利用を認めなければならないという制約が付くことになるため、「より高値で第三者に売りたい」という戦略が取りにくくなるかもしれません。
最後に

会社が破産する場合に知的財産権を換価するには、以上のような注意点が存在するほか、換価のタイミングをどうするかなど判断に迷う場面も多々あります。
また、知的財産権の評価を見誤り、安易に廉価で売却してしまうと、会社財産を毀損する行為として、その後の破産手続きで問題視される可能性があります。
素人判断で動くのは危険です。
会社が破産する場面で知的財産権を売却・換価する場合は、必ず、申立代理人弁護士または管財人弁護士の指示のもとで、適切に進めるようにしましょう。
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