
「働いた分のお金が支払われない」というのは、労働者にとって死活問題です。
生活への不安、会社への不信感、そして「自分の頑張りは何だったのか」という虚無感。そのお気持ち、痛いほどお察しいたします。
弁護士断言できるのは、「給料未払いは、いかなる理由があろうとも明確な違法行為である」ということです。
会社が経営難であっても、社長と折り合いが悪くても、それは給料を払わない理由にはなりません。
本コラムでは、未払い賃金を確実に回収するために今すぐ取るべき行動と法的手段を、弁護士の視点から詳しく解説します。
そもそも「給料未払い」はなぜ許されないのか

日本の「労働基準法」第24条では、賃金支払いの5原則が定められています。
1 通貨払いの原則(日本円で払うこと)
2 直接払いの原則(本人に直接払うこと)
3 全額払いの原則(勝手に天引きせず、全額払うこと)
4 毎月1回以上払いの原則(月に1回は必ず払うこと)
5 一定期日払いの原則(「第4金曜日」など決まった日に払うこと)
これらの一つでも欠ければ違法です。
「来月まとめて払うから」、「今は資金繰りが苦しいから」といった言い訳は、法律の前では一切通用しません。
また、残業代(割増賃金)が支払われないことも、立派な「未払い賃金」に該当します。
まず準備すべき「証拠」のリスト

会社に対してアクションを起こす前に、最も重要なのが「証拠の確保」です。
弁護士が交渉する際も、裁判所へ訴える際も、証拠がなければ「働いた事実」を証明できません。以下のものを可能な限り揃得ておくことをお勧めします。
1 労働条件を証明するもの
- 雇用契約書、または労働条件通知書(給与額、締め日、支払日が記載されたもの)
- 就業規則のコピー
2 働いた時間(労働実態)を証明するもの
- タイムカードのコピーや写真
- 業務日報
- パソコンのログイン・ログアウト履歴
- 会社からのメール・LINEの送信履歴(深夜や休日の業務連絡など)
- 交通系ICカード(Suica/PASMO)の利用履歴(通勤時間の証明)
- (何もなければ)手書きのメモや日記(「〇時〇分、退勤」と毎日記録したもの)
3 支払われていないことを証明するもの
- 給与明細書
- 預金通帳の写し(入金がないことの証明)
未払い賃金回収までの4ステップ

証拠が揃ったら、以下の順序で行動を開始しましょう。
ステップ1:会社への「事実確認」と「請求」
まずは穏便に、メールや書面で「給料が振り込まれていないようですが、いつお支払いいただけますか?」と問い合わせてみましょう。
単なる事務ミスであれば、これで解決します。
もし「払えない」と言われたら、そのやり取りもすべて記録(録音やメール保存)に残しておくことをお勧めします。
ステップ2:「内容証明郵便」の送付
口頭やメールで応じない場合、弁護士名義、あるいは個人名義で「内容証明郵便」を送ります。
これは「いつ、誰が、誰に、どのような内容の手紙を送ったか」を郵便局が公的に証明するものです。
会社に「本気度」を伝え、心理的プレッシャーを与えることができる、法的に給料の請求権(時効)を一時的にストップさせる効果があります。
※現在、賃金請求権の時効は3年(当面の間)です。放置すると請求できなくなるため、早めの行動が不可欠です。
ステップ3:法的手段(労働審判・訴訟)
ここからは専門的な手続きになります。
- 労働審判: 裁判官と弁護士が間に入り、原則3回以内の期日で解決を目指す裁判上の手続です。訴訟よりもスピーディーで、柔軟な解決(和解)が期待できます。
- 少額訴訟: 未払額が60万円以下の際、1回の審理で判決が出る手続きです。
- 通常訴訟: 争いが複雑な場合や金額が大きい場合に行います。
弁護士に依頼するメリット

「自分でやるのは大変そう……」と感じるかもしれません。
弁護士に依頼することで、以下のような大きなメリットがあります。
1 精神的な負担の軽減: 会社と直接やり取りする必要がなくなります。
2 回収率の向上: 弁護士名で通知が行くだけで、態度を一変させて支払いに応じる会社は少なくありません。
3「遅延損害金」の請求: 本来の支払日から遅れた分の利息(在職中は年3%、退職後は最大年14.6%)もきっちり計算して請求します。
4 適正な残業代計算: 自分では気づかなかった未払い残業代が見つかり、請求額が大幅に増えるケースが多いです。
会社側の「よくある言い訳」に対する反論内容

給料を払わない会社は、往々にして独自の理論で支払いを拒もうとします。
しかし、それらの多くは法律的には通用しません。
代表的な「言い訳」と、それに対する法的正論を整理しておきましょう。
・「お前は管理職だから残業代は出ない」
いわゆる「名ばかり管理職」の問題です。
労働基準法上の「管理監督者」と認められるには、経営者と一体的な立場にあり、出退勤の自由があり、相応の報酬を得ている必要があります。
単に「店長」「課長」という肩書きがあるだけでは、残業代を支払わない理由にはなりません。
・「みなし残業代(固定残業代)を払っているから、これ以上は出さない」
仮に固定残業代制を採用していても、その時間を超えて働いた分については、会社は差額を支払う義務があります。
また、求人票や契約書に「基本給〇〇円(うち固定残業代〇〇円、〇時間分)」と明確に区分して記載されていなければ、制度自体が無効とされるケースも多いのです。
・「赤字で金がない。会社が潰れたら元も子もないだろう」
経営状態と給与支払義務は別問題です。
労働者は会社の利益を分配される立場ではなく、労働力を提供した対価(債権)を受け取る権利があります。経営リスクを労働者に転嫁することは許されません。
給料未払い時、同時に確認すべき「社会保険・税金」

給料が払われないとき、同時に発生している可能性が高いのが「社会保険料の着服」や「所得税の未納」です。
具体的には、以下のようなケースです。
- 給与明細上は引かれているのに、年金事務所に納められていない
- 雇用保険に入っているはずなのに、ハローワークに届け出がない
これが発覚すると、将来の年金額が減ったり、失業手当(基本手当)が受けられなかったりする重大なリスクが生じます。
ご自身の年金記録を「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認し、会社が適切に納付しているか必ずチェックする方法がございます。もし未納であれば、年金事務所やハローワークにも相談し、会社へ是正を求める必要があります。
弁護士が教える「失敗しない相談のタイミング」

多くの方が「自分でもう少し交渉してから」、「本当に払われなくなってから」と相談を先延ばしにします。
しかし、弁護士の立場から言えば、「1日でも支払いが遅れた時点」が最良の相談タイミングと考えております。
理由1:時効は刻一刻と迫っている
現在の法律では、賃金請求権の時効は「3年」です。
1ヶ月放置するごとに、3年前の1ヶ月分の給料を請求する権利が消滅していきます。「いつか払ってくれるだろう」という期待が、資産を削っているのです。
理由2:会社が「倒産・夜逃げ」する前に
会社にお金がなくなってからでは、いくら裁判で勝っても現実的な回収が難しくなります。
会社の預金口座を差し押さえる(仮差押え)などの対抗策は、会社に余力があるうちでなければ効果がありません。
【実践】相談から解決までのタイムラインについて

実際に弁護士に依頼した場合、どのような流れで解決に向かうのか、標準的な期間とともに解説いたします。
| 期間 | 段階 | 内容 |
| 当日〜1週間 | 相談・受任 | 証拠の精査、未払い額の確定、受任通知(弁護士が介入した旨の通知)の送付。 |
| 1週間〜1ヶ月 | 交渉フェーズ | 弁護士が会社側と電話や書面で交渉。ここで解決(和解)する場合も多い。 |
| 1ヶ月〜3ヶ月 | 労働審判 | 交渉が決裂した場合、裁判所に労働審判を申し立てる。通常3回以内で決着。 |
| 3ヶ月〜半年以上 | 訴訟(裁判) | 争いが非常に激しい場合。判決が出るまで徹底的に戦う。 |
まとめ

会社は労働者の大切な時間と労力を買い、その対価として給料を払う義務があります。
給料を払わないということは、労働者の人生の一部を不当に奪っていることを意味します。
「お世話になった会社だから」、「波風を立てたくない」という優しさを、会社側が悪用しているのだとしたら、それは非常に悲しいことです。
法律は、自ら声を上げる人を守るために存在します。
一人で抱え込まず、まずは弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





