
先だって、久方ぶりに労働基準法の改正が議論されていること及び現状の労働基準法改正の議論の状況についてご紹介させていただきました。
議論の対象となっている検討課題にはそれぞれ濃淡があり、実際に改正法に盛り込まれるもの、ガイドラインを策定するなどして対応するもの、引き続き議論を継続するものとに分けられますが、今回は、実際に改正法に盛り込まれることが予想される検討課題について、労働基準法改正前後の比較を踏まえ、企業側においてどのような対応が必要となるかについて解説をしていきます。
実際に労働基準法改正に盛り込まれることが予想される検討課題

労働基準法の改正を議論する労働基準関係法制研究会においては様々な検討課題が取り上げられていますが、同研究会が現状の議論状況を公表した報告書において変更の方向で検討すべきことが明言された検討課題については改正労働基準法に盛り込まれる可能性が高いと考えられます。
現時点で改正労働基準法に盛り込まれることが予想される検討課題は以下のとおりです。
①法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
②14日以上の連続勤務禁止
③法定休日の特定
④勤務間インターバルの導入
⑤有給休暇の賃金算定方式の統一化
⑥副業・兼業の割増賃金算定ルールの変更
労働基準法改正前後の比較を交えた各検討課題の具体的内容

法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
現行の労働基準法は、労働時間の基本的な上限を1日8時間・週40時間と定めていますが、一定の業種(小売業、病院、旅館等)かつ常時10人未満の労働者を使用する事業場については週44時間までの労働時間を認めています。
労働基準関係法制研究会は、実際に週44時間の特例措置を利用している事業場が僅かであることを理由として特例措置を撤廃する方向で議論しています。
週44時間の特例措置が廃止された場合、当該措置に基づいて労働時間を設定していた事業場については新たに36協定を締結することや残業代支払いといった対応をする必要が出てきます。
14日以上の連続勤務禁止
現行の労働基準法は、労働者に毎週少なくとも1日の休日を与えることを原則として定めていますが、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合には週に1日の休日を与えなくともよいとも定めています。
この定めによれば理論上は最大48連勤(4連休を連続勤務開始時と連続勤務終了時に設定した場合)も可能という状況にあります。
労働基準関係法制研究会は、2週間以上の連続勤務が精神障害の労災認定基準の一場面として紹介されていることにも鑑み、14日以上の連続勤務を禁止する方向で議論しています。
14日以上の連続勤務が禁止された場合、4週4休制を導入した上で操業や人員のやりくりをしていた事業場については人員体制の見直し等の対応をする必要が出てきます。
法定休日の特定
現行の労働基準法は労働者に毎週少なくとも1日の休日を与えることを定めていますが、その1日を特定しなければならないとの定めはありません。
通達では具体的に一定の日を休日として定める方法を規定するよう企業に指導する旨が示されていますが、あくまで通達レベルということになっています。
労働基準関係法制研究会は、法定休日は労働者の休息や生活リズムを保つためのものであり、労使間でも法定休日はいつかについて明確に認識される必要があるという観点から、あらかじめ法定休日を特定すべきことを法律上に明記するという方向で議論しています。
法定休日の特定が義務化された場合、文字通り法定休日を特定することとあわせ法定休日の振替や変更の手続についても整備する必要が出てきます。
勤務間インターバルの導入

現行の労働基準法において勤務間インターバルに触れる部分はありません。
別の法律において、労働者の健康を確保するため勤務間インターバルを設定することについて努力義務が課されており、同趣旨の指針も存在しますが、具体的な勤務間インターバルに関する法律上の定めは存在しない状態です。
労働基準関係法制研究会では労働者の日々のワークライフバランスを考えた場合、労働時間の上限規制のみでは不十分との考えから、基本的な勤務間インターバルを11時間とする案などが議論されています。
勤務間インターバルが導入された場合、個々の従業員が事業場等で何時間働いているかの管理に加え、退勤から出社までの時間がどの程度確保されるかという観点も踏まえた労働時間調整を行う必要が出てきます。
有給休暇の賃金算定方式の統一化
現行の労働基準法は、有給消化時の賃金計算について、①労働基準法に定める平均賃金、②所定労働時間勤務した場合に支払われる通常の賃金、③労使協定による健康保険法上の標準報酬月額の30分の1に相当する額、のいずれかを支払わなければならないとしています。
労働基準関係法制研究会は、月給制の労働者はさておき日給制や時給制の労働者についてはどの計算方法をとるかによって有給消化時の賃金に大きな差が出る可能性があることを指摘し、原則として②所定労働時間勤務した場合に支払われる通常の賃金を計算方法として採用する方向で議論しています。
有給休暇の賃金算定方式が統一化された場合、②以外で有給休暇の賃金算定を行っていた企業は計算方法を変更する必要があり、その結果、従前の計算方法よりも賃金支払額が増加するという可能性があります。
副業・兼業の割増賃金算定ルールの変更
現行の労働基準法は、労働者が副業・兼業を行う場合、事業主を異にする場合についても労働時間を通算して割増賃金を支払うことを定めており、実際には労働契約締結の先後の順に所定労働時間を通算し、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって割増賃金を計算する等の方法がとられています。
労働基準関係法制研究会は、現行の方法では企業側の負担が大きく労働者の副業・兼業に消極的に働く側面があること、副業・兼業は労働者の選択により行われるものであること等の事情からあくまで割増賃金の算定という観点では労働時間の通算を求めないという方向で議論をしています。
副業・兼業の割増賃金算定ルールの変更がなされた場合、労働者が副業・兼業を行っている場合の割増賃金の算定等について企業側の負担は軽減されるものと思われますが、労働者の健康管理という側面からの労働時間の通算という要請は引き続き残るため、企業側にとってどこまでの負担軽減となるかは微妙なところです。
まとめ

今回は、実際に改正法に盛り込まれることが予想される検討課題について、労働基準法改正前後の比較を踏まえ、企業側においてどのような対応が必要となるかについて解説をしてきました。
労働基準法の改正が予想される部分について、現状のやり方と異なる部分がどの程度存在するかにより企業側の対応の煩雑さは異なりますが、新しく制度化されるという部分も含まれますので、いずれにせよ一定の対応は必要になるかと思います。
労働基準法改正の時期については労働時間規制の緩和の要請もあり後ろ倒しになりそうな情勢ですが、詳しい情報が出ましたらまたご紹介をさせていただきます。
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