現在、約40年ぶりの労働基準法の大改正について厚生労働省の労働基準関係法制研究会が議論を続けています。

議論の進行状況から実際の改正は2026年以降になるものと思われますが、労働基準法が大きく改正されることになれば対応を求められる企業側の負担も大きくなりますので、その方向性を確認しておくことは重要です。

今回は現状の議論を踏まえた労働基準法の改正動向について解説をしていきます。

労働基準法の改正にあたっての基本的な考え方

2025年1月、今般の多様化する働き方に対応するため労働基準法等の見直しについて具体的な検討を行うことを目的として構成された労働基準関係法制研究会により労働基準法の改正に関する議論状況や検討結果をまとめた報告書が公表されました。

報告書において、同会は、労働基準法の改正にあたり、すべての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることができる社会を目指すという「守り」の視点と働く人の求める働き方の多様な希望に応えることのできる制度を整備するという「支える」の視点の2つの視点を重要視するという立場を表明した上で検討課題を整理しています。

労働基準法改正に関する検討課題

労働基準関係法制研究会の公表した報告書では、労働基準法の改正に関する検討課題の柱として以下の4点が挙げられており、以下では各検討課題に対する考え方について触れていきます。

・労働基準法における「労働者」
・労働基準法における「事業」
・労使コミュニケーションの在り方
・労働時間法制

労働基準法における「労働者」について

現行の労働基準法は、「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義していますが、実社会では雇用ないし労働契約とは異なる名称の契約のもとで実態として「労働者」と同様の働き方をしている者が多く存在する状況であり、また、デジタル技術の発達によりプラットフォームワーカー(デジタルプラットフォームを介して発注者に対して労務の提供や労働成果物の提供を行う働き手)も増加しています。

そのような従来の「労働者」の枠に当てはまらない者について労働基準法の保護を与える必要があるとの考えから、以下の論点を含めた総合的な研究・検討が提言されています。

・人的な指揮命令関係だけではなく、経済的な依存度や交渉力の差等について、どのように考えるか
・労働者性の判断において、立証責任を働く人側に置くのか、事業主側に置くのか
・労働者性の判断にあたり活用できる具体的なチェックリストを設けることができるか

また、現行の労働基準法は「家事使用人」については同法の適用を受けないとしていますが、現在では同法が想定する住み込みの使用人は減少しており、日々就業場所に出向き、決められた時間業務を遂行するという一般的な労働者の働き方と大きく変わることがない者が増えてきたこと等の理由から家事使用人のみを特別視して労働基準法の適用除外とすべき事情に乏しくなっているといえます。

そこから、家事使用人に対して労働基準法を全面的に適用除外とする現行法の規定を見直し、公法的規制については、私家庭に対する適用であることも踏まえ、実態に合わせて検討することが考えられるとの提言がされています。

労働基準法における「事業」について

現行の労働基準法は「事業」または事業場を一つの単位として同法を適用するという立場を採っていますが、職種や個々の事情、テレワークの普及等に応じて労働者の働き方が多様化していく状況の中では事業場単位で法律を適用するという原則の妥当性に疑問が生じている等の指摘もあるところです。

法制度の実効的な適用を確保するという観点から、労働基準関係法制における「事業」の概念については、将来的な労使コミュニケーションの在り方を含め検討していく必要があるとの提言がされています。

労使コミュニケーションの在り方について

主な労使コミュニケーションとして、法律で定められた原則的な水準を個々の企業や労働者の実情にあわせ労使の合意等の手段を用いて法定要件のもとで調整することや当該合意が適切に順守されているかを労使間で確認することといったものがありますが、そのような仕組みが適切に維持されるためにはそれを支える基盤である労働組合や過半数代表者の存在が重要となります。

そこから、労使コミュニケーションを図る主体の中核となる労働組合の活性化や組織化の取り組みが望まれ、また、労働組合が存在しない事業場を含めて労使ができるだけ対等にコミュニケーションを図り、適正な内容の労使間の調整を行うことができる環境の整備が必要となりますが、現状、労働組合の組織率は長期的に低下しており、過半数代表者の選出方法等にも課題があるとの指摘がされているところです。

このような課題について、労働組合に対して適用可能な支援は何か、労働組合の存在しない場合の過半数代表者の適正な選出と基盤の強化の方法(選出手続、過半数代表者となった労働者に対する支援、人数、任期等)について検討する必要があるとの提言がされています。

労働時間法制について

報告書は、労働時間法制についてより具体的な課題に触れる提言をしています。

その中には継続検討というものも含まれますが、改正を示唆するものも多く含まれますので、後者については現実的な対応が必要になるものと思われます。

最長労働時間規制について

時間外休日労働時間の上限規制については当該規制適用後の労働実態を把握した上で見直し等の議論を行う。

労働市場に対して企業の時間外休日労働の実態について正確な情報が開示されていることが望ましい。

テレワークに限らず、部分的なフレックス制度を導入するなどして柔軟な働き方を認めていくことが適切ではないか。なお、テレワーク時のみなし労働時間制については継続的な検討が必要である。

法定労働時間週44時間の特例措置について対象事業場の1割程度しか当該措置を用いていないため、廃止に向けた検討に取り組むべきである。

管理監督者など労働時間規制から外れる労働者についてその要件を明確化するとともに健康福祉を確保する措置について検討に取り組むべきである。

労働からの解放に関する規制について

現行法では4週に4日という休日ルールが定められているが、2週間以上の連続勤務を防ぐという観点から13日を超えて連続勤務をさせてはならないというルールに改めるべきである。

法定休日の特定については従来通達が存在するのみであったが、あらかじめ法定休日を特定すべきことを法律上に規定することに取り組むべきである。

勤務間インターバルは11時間を確保することを前提に検討すべきである。

労働時間外に業務上の連絡等を受けない「つながらない権利」の導入に関してガイドライン等の策定を検討することが必要である。

有給取得時の賃金算定には複数の方法があるが、原則として、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金としていくべきと考えられる。

割増賃金規制について

労働者が副業・兼業を行う場合、労働者の健康確保のため労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を要しないよう制度改正に取り組むことが考えられる。

まとめ

今回は現状の議論を踏まえた労働基準法の改正動向について解説をしてきました。

多様化する労働者の働き方を推進すべく上記で積極的な改正意見が述べられたものについては報告書のとおり、または、それに近い形で現実化するはずです。

実際の労働基準法の改正案が提示された時点で再度ご紹介をさせていただきますが、今回の内容は将来的な予測として認識しておいていただければ幸いです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二

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