【弁護士が解説】粉砕機の労災事故でお怪我をされた方へ。適正な補償について解説します

建設現場やリサイクル工場、廃棄物処理施設などで稼働する粉砕機(クラッシャー)は、巨大な岩石やコンクリート、廃材などを破砕する強力な「一般動力機械」です。産業廃棄物の処理やリサイクル資源の生成には欠かせない設備ですが、その強大な破壊力ゆえに、ひとたび事故が起きれば、作業員の命や身体に回復不能な損害を与える危険と隣り合わせです。

厚生労働省の労働災害統計を見ても、粉砕機をはじめとする動力機械による事故は後を絶たず、特に「挟まれ・巻き込まれ」による死傷事故が頻発しています。ほんの一瞬の油断や、安全装置の不備、あるいは「ちょっとした詰まりを取り除こうとした」だけの行為が、指や腕の切断、あるいは死亡事故という悲劇的な結末を招いてしまいます 。

もし、あなたやご家族が粉砕機による作業中に事故に遭われたなら、「労災保険が下りるから、治療費や休業中の生活はなんとかなるだろう」と安心するのはまだ早いかもしれません。労災保険は、治療費や休業中の最低限の生活を支えるための重要な公的制度ですが、事故によって被害者が受けた精神的苦痛に対する「慰謝料」や、将来にわたって得られるはずだった収入(逸失利益)の全額を補填するものではないからです。

この記事では、粉砕機による労災事故に遭われた方が、泣き寝入りすることなく、ご自身の正当な権利を守り、適正な補償を得るために知っておくべき知識を、法的な視点から解説します。

一般動力機械(粉砕機)とは

一般動力機械(粉砕機)とは

「一般動力機械」とは、モーターやエンジンなどの動力を用いて駆動する機械の総称です。その中でも粉砕機(クラッシャー)は、投入された原料を、圧縮、衝撃、せん断、摩擦などの機械的な力によって細かく砕く装置を指します。 用途や構造によって、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ロールクラッシャー、ハンマークラッシャー、シュレッダーなど多岐にわたります。これらは、硬い岩石や金属をも容易に砕く能力を持っており、その駆動力は極めて強力です。 粉砕機は、通常、投入口(ホッパー)、破砕室、排出口、そしてそれらを駆動するモーターやベルトコンベアなどで構成されています。これらの可動部分は、作業者が接触すれば人体をも瞬時に破壊する凶器となり得るため、労働安全衛生規則などの法令により、厳格な安全基準が定められています。

しかし、現場では生産効率が優先され、安全対策がおろそかにされているケースが少なくありません 。

【粉砕機】で多発する事故類型

粉砕機の運転中や、点検・清掃・トラブル対応中には、その構造的特性から、特に以下のような事故が多発する傾向にあります。

巻き込まれ・挟まれ事故

粉砕機事故の中で最も多く、かつ重篤な結果を招くのがこの類型です。投入口から原料を押し込もうとした際に手が引き込まれたり、ベルトコンベアやVベルトなどの動力伝達部分に作業衣の袖や手袋が巻き込まれたりする事故です。粉砕機のローラーやハンマーは強力なトルクで回転しており、一度巻き込まれると人の力で引き抜くことは不可能に近く、腕や身体全体が機械に取り込まれてしまいます 。

転落・接触事故

大型の粉砕機の場合、ホッパー(投入口)の上部で詰まり解消作業を行っている最中にバランスを崩し、稼働中の破砕室へ転落する事故が発生します。また、破砕刃の交換や内部の清掃作業中に、安全装置(インターロック)が解除されておらず、誤って機械が起動してしまい、内部で接触・激突するケースもあります 。

飛来・落下事故

破砕作業中に、投入口から石や金属片が弾丸のような速度で跳ね返り(フライバック)、作業者の顔面や眼を直撃する事故です。また、振動により機械の部品や投入物が落下し、作業者に当たることもあります。これにより、失明や顔面骨折などの深刻な傷害を負うことになります。

これらの事故は、被害者に四肢の切断、複雑骨折、あるいは脳挫傷などの取り返しのつかない後遺障害を残す可能性が極めて高いのが特徴です 。

【粉砕機】で発生する労働災害の現状

【粉砕機】で発生する労働災害の現状

粉砕機による労働災害は、単なる怪我では済まないケースが非常に多いのが現状です。

強力な破砕力を持つ機械との接触は、指の切断(欠損)、手首や腕の離断、骨が砕ける圧挫創、神経損傷による重度の麻痺など、被害者の労働能力を奪うだけでなく、日常生活動作(食事、着替え、入浴など)にさえ深刻かつ永続的な影響を与える後遺障害を残す可能性が高いという特徴があります 。

切断や骨折といったケガが起こるケース

例えば、以下のような具体的な状況で重篤なケガが発生しています。

ホッパーでの腕切断

原料の投入中に投入口で石が詰まり、とっさに棒を使わずに手で押し込もうとした瞬間、急に詰まりが解消されて勢いよく吸い込まれ、腕を巻き込まれて切断してしまう 。

清掃中の死亡・重傷

粉砕機の内部に入って付着物を除去する清掃作業中、操作盤の前にいた別の作業員が清掃中であることに気づかず、合図なしにスイッチを入れてしまい、回転体に全身を巻き込まれて死亡、あるいは重篤な障害を負う 。

ベルトコンベアでの手部圧挫

粉砕機から排出される砕石を運ぶベルトコンベアのローラー付近に堆積した土砂を手で取り除こうとして、巻き込み点(ニップポイント)に手袋ごと巻き込まれ、手指を粉砕骨折する 。

これらのケースの多くは、作業員個人の不注意として処理されがちですが、実際には、安全装置(カバーやインターロック)の不備、電源遮断(ロックアウト)ルールの形骸化、作業手順書の不備、安全教育の不足といった、会社側の安全管理体制の問題が背景にあることが多いです。

労災保険の給付内容について

労災保険の給付内容について

業務中の事故であれば、労災保険から以下の給付が受けられます。

  • 療養(補償)給付: 治療費、入院費、手術代など。原則自己負担はありません。
  • 休業(補償)給付: 療養のため働けない期間の4日目から、休業1日につき給付基礎日額(事故前3ヶ月の平均賃金)の80%が支給されます(特別給付含む)。
  • 障害(補償)給付: 治療を続けても症状が改善しなくなった状態(症状固定)で、後遺障害が残った場合に、その等級(第1級~第14級)に応じて年金または一時金が支給されます。
  • 遺族(補償)給付・葬祭料: 労働者が死亡した場合に、遺族の生活保障のための年金や一時金、葬儀費用が支給されます。
  • 介護(補償)給付: 障害等級第1級または第2級の重い障害が残り、介護が必要な場合に支給されます。

【重要】しかし、労災保険では「慰謝料」は支払われません
ご覧の通り、労災保険は治療費や収入の補填が中心です。事故によって被った精神的苦痛に対する「慰謝料」や、後遺障害によって苦痛を受けた「後遺障害慰謝料」及び生涯にわたり失われた収入=逸失利益は、労災保険の給付対象外です。この不足分を補うために、次の「会社への損害賠償請求」が極めて重要になります。

会社への損害賠償請求について

会社への損害賠償請求について

労災保険とは別に、事故の原因が会社側にある場合、民法上の不法行為(709条)または労働契約法上の安全配慮義務違反(5条)を根拠に、会社に対して損害賠償を請求することができます。

(1)なぜ会社に請求できるのか?-事業者の「安全配慮義務」

事業者は、労働者が安全で健康に働けるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。これは法律で定められた絶対的な義務です。食品加工機械による事故において、会社が以下のような安全対策を怠っていた場合、義務違反に問われる可能性が高くなります。

安全装置の無効化や不備を放置していた

 本来設置されているべき投入口の防護柵やカバーを取り外して作業させていた、あるいは、詰まり処理を容易にするためにインターロック(蓋を開けると停止する装置)を意図的に解除していた場合などです 。

危険な作業手順を指示・黙認していた

 機械の詰まり処理や清掃を行う際に、「運転を止めると再起動が面倒だから」といって、電源を切らずに稼働させたまま作業するよう指示したり、見て見ぬふりをしていた場合です。また、専用の治具(押し込み棒など)を使わずに手足を使って作業することを黙認していた場合も該当します 。

機械のメンテナンスを怠っていた

緊急停止ボタンが故障して効かない状態であったり、ベルトコンベアのカバーが破損していることを知りながら修理せずに使用させ続けていた場合です。また、定期自主検査を実施していない場合も責任を問われます 。

安全教育や訓練が不十分だった

粉砕機の危険性や正しい操作方法、トラブル時の対処法について、十分な教育を行わずに未熟練者に作業をさせていた場合です。また、「機械の修理中は操作禁止」といった合図や立入禁止措置を徹底させていなかった場合も含まれます 。

これらの事実が認められれば、会社に過失や安全配慮義務違反があるといえる可能性が高いです 。

(2)何を請求できるのか?-労災保険では足りない補償

会社に対しては、主に以下の損害について賠償を求めることができます。

損害項目内容労災保険との関係
傷害慰謝料入通院によって受けた精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
後遺障害慰謝料後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
逸失利益後遺障害により将来得られなくなった収入の補償労災給付で不足する部分を請求
休業損害休業期間中の収入減(労災の8割給付との差額2割+α)労災給付で不足する部分を請求
将来介護費等重い後遺障害で将来必要となる介護費用や住宅改修費労災給付で不足する部分を請求
弁護士費用賠償請求のために要した弁護士費用の一部労災では支払われない

労災保険からの給付と会社からの賠償金を合わせて受け取ることで、初めて事故によって生じた損害の全体が補填されるのです。

慰謝料について

慰謝料には、主に2つの種類があります。

  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    事故日から症状固定日までの間、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する補償です。入院期間や通院期間が長くなるほど、金額は高くなります。
  • 後遺障害慰謝料
    症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。

具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。

等級後遺障害慰謝料(弁護士基準)
1級2,800万円
2級2,370万円
3級1,990万円
4級1,670万円
5級1,400万円
6級1,180万円
7級1,000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

逸失利益について

後遺障害によって労働能力が低下し、将来にわたって得られたはずの収入が減少してしまうことに対する補償です。後遺障害の等級、事故前の収入、年齢などによって計算され、賠償項目の中で最も高額になる可能性があります。

【逸失利益の計算シミュレーション】

  • 前提条件:
    • 事故時年齢:45歳事故前の年収:500万円後
    • 遺障害等級:第8級(労働能力喪失率 45%)
     ※想定事例:粉砕機のローラーに手を巻き込まれ、指を失った、あるいは手首の関節が動かなくなったケースなど
  •  計算式: 年収500万円 × 労働能力喪失率45% × 労働能力喪失期間(67歳までの22年)に対応するライプニッツ係数14.029
  • 逸失利益:約3,157万円

このケースでは、逸失利益(約3,157万円)と後遺障害慰謝料(弁護士基準で約830万円)だけでも、合計4,000万円に迫る請求が可能になります。

一方で、労災保険からは、8級の場合でも「一時金」として給付基礎日額の503日分(年収500万円なら約689万円)しか支給されません。 会社に対して損害賠償請求を行うかどうかで、最終的に受け取る金額に3,000万円以上の差が生じることになります。

解決事例:右手を機械に巻込まれ(事故時69歳)、労災保険に加えて2100万円の賠償を受け取った訴訟案件

紛争の内容
事故時69歳のAさんは、数年間、食品加工工場でご飯をかき混ぜる機械(自動反転ほぐし器)にご飯を入れてかき混ぜたり掃除をしたりする作業に従事しておりました。

ある日、Aさんは自動反転ほぐし器の中にご飯にゴミが混ざっているように思いました。食品であるため、Aさんとしては停止スイッチを押して機械をストップした上でゴミを取り除こうと右手を伸ばしたところ、機械が停止しておらず、右手を反転ほぐし器に巻込まれる大怪我を負いました。

労災保険の適用があり、治療費などは負担しなくて済みましたが、右手はほぼ動かない状態となってしまいました。

労災からは、療養給付、休業補償給付(約8割)、障害補償給付(年金)を受け取れる状態となり、後遺障害は5級と認定されました。

もっとも、自分にも落ち度(スイッチを止められておらず自ら機械に手を入れてしまった)はあるけれども、何らかの補償を会社から受けられないのかと相談があり、「会社に安全配慮義務違反があり、損害賠償請求できる可能性が高い」という話となりましたので、依頼を受けることになりました。

交渉・調停・訴訟等の経過
交渉では埒が明かず、訴訟提起による解決を試みました。

大きな損害としては、入通院慰謝料、逸失利益、将来介護費がありました。

将来介護費は、高次脳機能障害などを中心に家族や職業介護による将来の介護費が損害費目となりますが、右手が使えないという状態で将来介護費が認められるかは議論がありました。裁判例をくまなく探し、実際に配偶者の介護状況を確認するために自宅に赴くなどして、有利になり得るものを書面化し、主張しました。

<主張例>
現に、裁判例(大阪地裁平成23年2月21日判決)(甲〇)において、右上肢併合6級股関節等全体で併合5級の後遺障害に対し、余命分までの介護料日額2000円を認めた事例が存在する。いわゆる高次脳機能障害がなく、右股関節の機能障害は12級7号に過ぎないが、「原告は、食事及び排泄は、基本的に自力で行うことができ、それらにつき何らかの支障が生じたときや、更衣及び入浴について多少の介護を必要とするにとどまるものと解される」「原告は、症状固定日以降も、多少の介護を要するものと解されるが、その程度は重いものではなく、介護費用として1日2,000円程度が相当である」という事案である。しかし本件は、食事介護を含む介助が必要であり、この裁判例の指摘ほど軽い介護の事案ではないから、少なくとも本件において、かかる日額を下回ることはない。

また、過失割合についても争点となりました。

本事例の結末
お互いに主張をある程度尽くしたのち、裁判所に和解案を提示してもらいまいた。

ただ、和解案では少々不満があったことから、上乗せを提示し、裁判所を通じて会社側とも協議を重ねました。結局、裁判上の和解の形で訴訟は終了することができました。その結果、依頼者は、労災保険給付とはほかに、約2100万円の損害賠償金を受け取ることができました。

弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士に相談・依頼するメリット

労災に遭ってしまった場合なぜ弁護士が必要なのでしょうか。それは、上でご説明したように、慰謝料は労災からは支給されませんし、後遺障害を負った場合の逸失利益の補償も不十分であるからです。

また、労災が認められたとしても、されに請求をするためには、自分が所属する会社を相手に損害賠償請求を行う必要があります。

ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。

会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、まずは弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社と裁判をする必要もあります。

労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

労災関連のご質問・ご相談

労災関連のご質問・ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。労災分野では労災事故と後遺障害に集中特化した弁護士チームが、ご相談から解決まで一貫してサポートいたします。

初回相談無料:まずはお気軽にご状況をお聞かせください。

後遺障害労災申請のサポート:複雑な手続きもお任せいただけます。

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労災事故で心身ともに大きな傷を負い、将来への不安を抱えていらっしゃるなら、決して一人で悩まないでください。お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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