労働者を守る法律:知っておくべき権利

現代社会において、働くことは生活の基盤であり、自己実現の場でもあります。しかし、労働者と使用者(会社)の間には、情報の格差や力関係の不均衡が生じがちです。ここで重要な役割を果たすのが、労働者を守る法律です。

労働基準法とは

労働基準法とは

日本の労働法の根幹をなす労働基準法(略称:労基法)は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」という理念に基づき、使用者に対して最低限守るべき労働条件の基準を定めています。

この法律を知っているかどうかで、労働者の働き方、そして人生は大きく変わる可能性があります。

「法律は難しそう」「会社が守ってくれるはず」と考える人もいるかもしれませんが、法律は労働者の権利を守るための武器であり、労働者自身の盾でもあります。このコラムでは、労働基準法を中心に、安心して働くために知っておくべき重要なポイントを解説します。

労働時間と休憩・休日:過重労働から身を守る盾

労働時間と休憩・休日:過重労働から身を守る盾

労働時間:「1日8時間、週40時間」の原則

労働基準法が定める労働時間の原則は、1日8時間、1週40時間(法定労働時間)です。これが、使用者が労働者を働かせることができる原則的な上限です。

  • 法定労働時間:原則としてこれを超えて労働させることはできません。
  • 残業(時間外労働):法定労働時間を超えて労働させる場合、使用者は事業場の労働者の過半数で組織する労働組合又はその組合がない場合は事業場の労働者の過半数を代表する者と六(さぶろく)協定(時間外・休日労働協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
    • この協定がある場合でも、残業時間には月45時間、年360時間(特別条項付きの場合は例外あり)といった上限規制が設けられています。

休憩時間:働く力の回復に必要な時間

労働時間が長くなると、それに応じて休憩時間も義務付けられています。

労働時間休憩時間の最低基準
6時間超8時間以下45分
8時間超1時間

休憩時間は労働時間の途中に与えられ、自由に利用できることが原則です。電話番や来客対応を命じられている時間は休憩とは認められません。

休日:週1日の確保が原則

法定休日は、原則として週に1日(または4週間を通じて4日以上)与えなければなりません。この法定休日に労働させる場合は、「休日労働」となり、割増賃金が発生します。

賃金と割増賃金:働いた分に見合った対価

賃金と割増賃金:働いた分に見合った対価

賃金の5原則と最低賃金

賃金は、労働者にとって最も重要な労働条件の一つです。賃金は、次の5つの原則に従って支払われなければなりません(労基法第24条)。

  1. 通貨で支払うこと(銀行振込の場合は労働者の同意が必要)
  2. 直接労働者に支払うこと
  3. 全額を支払うこと
  4. 毎月1回以上支払うこと
  5. 一定の期日を定めて支払うこと

また、最低賃金法により、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。最低賃金は見直されており、労働者の働く地域の最低賃金は必ずチェックすべき重要な情報です。

割増賃金:残業・休日・深夜労働の対価

法定労働時間を超える労働、法定休日における労働、深夜(原則22時~翌5時)の労働には、通常の賃金に割増率をかけた割増賃金(残業代)を支払う義務があります。

労働の種類割増率(通常の賃金に対する率)
時間外労働(法定時間外)25%以上
月60時間超の時間外労働50%以上(大企業・中小企業ともに適用)
深夜労働(22時~5時)25%以上
休日労働(法定休日)35%以上

これらの割増は重複して適用されることもあります。例えば、深夜の時間外労働は「25% + 25% = 50%以上」の割増率になります。サービス残業は労働基準法違反であり、未払い賃金は過去3年間遡って請求できる可能性があります。

休暇と休業:心と体を守り、生活を支える制度

休暇と休業:心と体を守り、生活を支える制度

年次有給休暇(年休):労働者の当然の権利

年次有給休暇(年休)は、勤続期間と出勤率の要件(入社から6ヶ月経過し、全労働日の8割以上出勤)を満たせば、誰でも取得できる法律で保障された権利です。

  • 取得日数:週5日勤務(所定労働時間が週30時間以上)の場合、勤続年数に応じて入社半年で10日、最大で20日が与えられます。
  • 取得義務:使用者は、年10日以上の年休が付与される労働者に対し、年5日を時季を指定して取得させることが義務付けられています。
  • 時季変更権:会社は事業の正常な運営を妨げる場合に限り、労働者の指定した時期を変更するよう求めることができますが、「忙しいから」という理由だけで拒否することはできません。

育児休業・介護休業:仕事と家庭の両立支援

育児・介護休業法は、仕事と家庭生活の両立を支援するための重要な法律です。

  • 育児休業:原則として子が1歳(一定の要件で最長2歳)になるまで、男女問わず取得できます。2022年10月からは、子の出生後8週間以内に4週間まで取得できる産後パパ育休(出生時育児休業)が創設され、より柔軟な取得が可能になっています。
  • 介護休業:要介護状態の家族を介護するために、対象家族1人につき通算93日まで取得できます。

これらの休業期間中は、原則として雇用保険から休業給付金が支給され、生活を支える制度があります。

労働契約と解雇:安定した雇用を守るために

労働契約と解雇:安定した雇用を守るために

労働条件の明示:トラブル予防の第一歩

労働契約を締結する際、使用者は労働者に対し、契約期間、賃金、労働時間、就業場所、業務内容など、重要な労働条件を書面で明示することが義務付けられています(絶対的明示事項)。この労働条件通知書は、後にトラブルが発生した際の重要な証拠となります。

解雇のルール:簡単にクビにはできない

労働者を解雇するには、法律上非常に厳しい制約があります。

  • 解雇権濫用の法理:解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、無効となります(労働契約法第16条)。
  • 30日前の予告:解雇する場合、使用者は少なくとも30日前に予告するか、または30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません(労基法第20条)。

これは、労働者の生活基盤である職を失うことの重大性に鑑み、解雇を厳しく制限している規定です。不当な解雇をされたと感じた場合は、諦めずに労働基準監督署や弁護士に相談すべきです。

結び:法律は労働者自身が守り育てるもの

結び:法律は労働者自身が守り育てるもの

労働者向けの法律は、「働くこと」の健全性と公平性を保つための土台です。法定労働時間の原則、休憩・休日の保障、働いた分に見合った賃金、有給休暇、そして不当な解雇からの保護など、これらは全て労働者の人間らしい生活を守るためにあります。

しかし、法律は知らなければ活用できません。会社任せにするのではなく、労働者自身がこれらの権利と義務について学び、理解し、正しく主張することが、より良い労働環境を実現するための第一歩となります。

もし、職場で疑問や問題を感じたときは、まずはご自身の労働条件通知書や就業規則を確認してください。そして、一人で抱え込まず、労働基準監督署や総合労働相談コーナー、社会保険労務士、弁護士などの専門機関に相談することをためらわないでください。

知識は力です。日本の労働法を知り、活かすことで、労働者はより安心で、より充実した職業生活を送ることができるでしょう。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉

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