高所作業車やクレーン車で発生する労働災害について弁護士が解説

建設現場、電気工事、設備管理といった高所作業が不可欠な現場において、高所作業車やクレーンは作業効率を高める上で極めて重要な機械です。

しかし、その利便性の裏側で、ひとたび事故が起きれば、それは重篤な後遺障害や死亡といった、取り返しのつかない結果をもたらす労働災害に直結します。

もし、あなたやあなたのご家族が、これらの特殊な機械による事故で被害に遭われた場合、労災保険の手続きだけでなく、会社に対する適切な損害賠償請求を検討することが、生活再建のために不可欠となります。

本コラムでは、高所作業車・クレーン事故の具体的な危険性や多発する原因、そして会社が負うべき法的な責任について、解説します。

高所作業車とは?

高所作業車とは?

高所作業車は、作業床(バケット)を地面から高くまで上昇させ、人が乗って高所での作業を行うための機械です。建築物の外壁工事、看板設置、送電線や通信ケーブルの敷設・点検など、多岐にわたる用途で使われます。

一方、クレーンは、吊り具を用いて荷を吊り上げ、水平・垂直に運搬することを目的とした機械です。特に、公道を自走できる移動式クレーン(トラッククレーン、ラフテレーンクレーンなど)は、重量物の楊重作業に不可欠です。

両者に共通するのは、「高さ」の危険性と「重量物」の取り扱いが伴う点です。そのため、作業計画の不備やわずかな操作ミスが、物理的に重大な被害を生み出すリスクが極めて高いのです。

高所作業車やクレーンで多発する事故類型

高所作業車やクレーンで多発する事故類型

転落・墜落事故

発生状況

高所作業車の作業床(バケット)の囲いを超えて身を乗り出した際、または作業床と建物との間に隙間が生じた際にバランスを崩して地上に転落することがあります。

また、クレーンのブーム上など高所での点検作業中に安全帯を使用していなかったことによる墜落もあり得ます。

想定される被害

高所からの落下は、脊髄損傷、頭蓋骨骨折、脳挫傷など、極めて重篤な後遺障害を残すか、即死に至るケースがあります。

ここまでの重量に至らなかったとしても、重大な事故に変わりありません。

倒壊・転倒事故(特にクレーン)

発生状況

クレーン作業時に、アウトリガー(転倒防止装置)の張り出しが不十分であった、地盤が軟弱で沈下した、あるいは定格荷重を超える過積載を行った結果、機械本体が転倒・倒壊するなどの事故が考えられます。

想定される被害

倒壊した機械本体やブームが、周囲の作業員や通行人に直撃し、多人数を巻き込む大惨事となることがあります。

挟まれ・巻き込まれ事故

発生状況

高所作業車のブームやバケットを昇降・旋回させる際、作業員が構造物(電柱、梁、壁など)との間に挟まれたり、クレーンの旋回体と本体フレームの間に作業員が接近し、巻き込まれたりする事故があります。

想定される被害

胸部や腹部を圧迫され、内臓損傷や骨盤骨折など、生命の危険を伴う大怪我につながります。

激突・接触事故(クレーン)

発生状況

クレーンで吊り上げている荷物(吊り荷)の誘導が不十分なために、吊り荷が意図せず大きく振れ、近くの作業員に激突する。また、旋回や走行中のクレーンに気づかずに接触する。

被害

荷物の重量によっては、打撲や骨折では済まず、内出血や脳振盪など、事故直後には分かりにくい重傷を負うことがあります。

高所作業車やクレーンで発生する労働災害の現状

高所作業車やクレーンで発生する労働災害の現状

労働災害全体を見ても、建設業における事故は他の業種と比較して多く、特に墜落・転落、そして建設機械による事故が主要な要因となっています。

高所作業車やクレーンが関わる事故は、その一回の事故で死亡災害となる割合が他の軽微な事故と比べて著しく高いのが現状です。

これは、企業側が「慣れている作業だから」と安全管理を怠ったり、工期の遅延を恐れて危険な作業を強行したりする構造的な問題も背景にあります。被害に遭われた方は、単なる不運ではなく、会社の安全意識の低さによって人生を狂わされた可能性が高いです。

ケガが起こるケース(会社の過失の具体例)

ケガが起こるケース(会社の過失の具体例)

重大な労災事故の多くは、会社が負うべき安全配慮義務を怠った結果として発生することが多いです。

会社の責任を追及する際、特に問題となる具体的な過失(法令違反)の例を挙げます。

法令上の要求事項会社の安全配慮義務違反(過失)の例
作業計画の作成・遵守(労働安全衛生規則 など)地盤の状況を適切に調査せず、アウトリガーの下に敷板を敷く措置を怠り、クレーンを転倒させた。作業半径内に高圧線があるにも関わらず、防護管の設置や離隔距離の確保を怠った。
特別教育の実施(労働安全衛生法など)資格を持たない者や、特別教育を受けていない者に高所作業車の操作を行わせた。教育を受けた者に対しても、実技を含めた再教育や指導を一切行わなかった。
保護具の支給と着用義務(労働安全衛生規則など)高所作業車での作業者にフルハーネス型安全帯を支給せず、または着用を徹底させるための巡視・監督を怠った。
機械の点検・整備(労働安全衛生法など)始業前点検を形式的に済ませ、油圧系統の異常やブームの摩耗など、事故につながる機械の不具合を見過ごしていた。
作業主任者の選任・指導(クレーン等安全規則など)玉掛け作業を行う際に、資格を有する玉掛け作業者を選任・配置せず、不適切なワイヤー掛けで吊り荷を落下させた。

裁判では、これらの過失が事故発生の予見可能性を認められるか、そして会社が結果を回避する義務を尽くしていたかを確認し、追及する必要があります。

労働安全衛生法・民法715条と使用者責任

労働安全衛生法・民法715条と使用者責任

労災事故の被害者が会社に損害賠償を請求する根拠は、以下の法律上の責任です。

安全配慮義務違反

会社は労働契約上、労働者が生命や健康を危険にさらすことなく安全に労働できるよう、必要な配慮をする義務があります。

会社が上記の過失によりこの義務に違反した場合、債務不履行として、被害者は会社に損害の賠償を請求できます。これが労災事故における会社の第一義的な責任です。

使用者責任(民法715条)

事故が、上司や同僚といった他の従業員(被用者)の不注意(不法行為)によって生じた場合、会社は民法715条に基づき、その従業員の使用者として使用者責任を負います。

例えば、クレーンオペレーターの過失による吊り荷の激突事故などがこれに該当します。この規定により、被害者は加害者本人ではなく、資力のある会社に対して全損害の賠償を請求できます。

労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険は、会社が責任を認めない場合でも、労働者の保護のために迅速に給付されますが、賠償額という点で決定的な差があります。

労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険の給付は以下が主なものとなります。

給付の種類補償範囲と留意点
療養(補償)給付治療費、入院費など。自己負担なし。
休業(補償)給付休業4日目から賃金の約8割(特別支給金含む)。
障害(補償)給付後遺障害等級に基づき一時金または年金が支給される。
遺族(補償)給付死亡した場合の遺族への年金、葬祭料。

労災保険の決定的な不足点

労災保険には、被害者の精神的苦痛を補償する「慰謝料」という概念がありません。

また、休業損害や逸失利益の額が会社に裁判上請求できるものとは異なり、特に高収入の労働者の場合、将来の収入減を完全にカバーできないケースが多々あります。

会社への損害賠償請求(不足分の請求)

会社への損害賠償請求(不足分の請求)

そこで重要になるのが、労災保険だけでは不足する以下の損害項目を、会社の安全配慮義務違反や使用者責任を追及することで請求することです。

慰謝料

入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料など。労災事故では最も重要な請求項目です。

逸失利益の差額

労災保険の障害年金・一時金では満たされない、事故がなければ将来得られたであろう収入の差額分です。

休業損害の差額

労災保険でカバーされない賃金の2割の部分や、特別支給金との差額です。

その他

将来の介護費用(重度後遺障害の場合)、装具費用、自宅や自動車の改造費などです。

この会社への損害賠償請求こそが、裁判所が認める水準に基づいて適正な金額を算定し、被害者の生活を真に再建するために必要不可欠な手続きとなります。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

高所作業車やクレーンによる重大事故の場合、弁護士に依頼することが適正な賠償金獲得の最適の方法と言えます。

会社の安全管理義務違反の立証

事故直後の現場検証記録、作業指示書、危険予知活動(KY活動)の記録など、会社が不利になる証拠は隠されがちです。

これらの証拠を収集し、労働安全衛生法などの専門知識に基づき、会社の過失を立証する必要があります。

後遺障害等級認定のサポート

後遺障害の等級は、慰謝料や逸失利益の額を決定づける最重要ポイントです。

単に書類を作成するだけでなく、、被害の状況を正確に反映した医師の意見書や医学的証拠を準備することで、適正な等級の認定獲得を目指します。

適正な裁判基準での交渉

保険会社や会社が提示する示談金は、自社の利益を優先した低い金額であることが多いです。

ですが、過去の裁判例に基づいた最も高額な基準で賠償額を算定し、会社との交渉を行います。

この差額だけで、大幅な増額となることも珍しくありません。

まとめ

まとめ

労働災害は、人生を大きく変えるほどの出来事です。一人で悩まず、まずは一度ご相談ください。被害者の方の正当な権利を守るために、全力を尽くします。

労働災害に遭われてお悩みの方は、まずはご相談ください。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

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