労働審判とは?

今回は「解雇が不当であるから、雇用主と争いたい」「会社はパワハラ・セクハラを受けたのに職場環境を改善してくれなかった」「賃金が未払いになっている」といった、職場におけるトラブルを解決するための手続、労働審判をご紹介します。

初めての方、労働審判になじみのない方でもわかりやすくご説明しますので、ぜひご参考ください。

労働審判とは

労働審判とは

労働審判とは何?

労働審判は、労働に関する事件について、話合いを主な手段とする手続です。わかりやすさを重視して説明すれば、裁判と話合いを足して2で割ったような手続です。

労働審判とは、具体的には、審判手続を原則として3回で行い、話合い成立による解決を試みて、合意がまとまらない場合には、事案の実情に即した解決に必要な審判を出すという手続です。これは裁判所が行う手続で、裁判所は、裁判官である審判官1名と専門的な労働関係の経験を有する労働審判員2名で構成される労働審判委員会を作り、労働審判委員会が労働審判手続を進めます。

このようなトラブルで労働審判が利用されます

以下のようなトラブルが労働審判の対象です。

  • 解雇されたが、解雇された理由に納得がいかない
  • 賃金が支給日を過ぎても払われない
  • 職場で上司からパワハラ・セクハラを受けた
    *ただし、上司のみの責任を問う場合は労働審判の対象にはならず、通常の民事事件として交渉や訴訟などによる解決を目指します。
  • 週休2日の契約だったはずなのに、実際には週休1日しか認められない

などです。

法律上、労働審判法1条の定める「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(個別労働関係民事紛争)について、労働審判の申立てができます。

労働審判手続の流れ

労働審判手続の流れ

以下では労働審判手続きの流れについて順に説明します。

Step1:申立て

まず、労働に関する問題の当事者は、個別労働関係紛争の解決を図るために、労働審判手続申立書を作成して、労働審判手続の申立てを裁判所に対して行います(労働審判法5条)。

この労働審判手続申立書の作成において、誰が、誰との間で、どのような労働に関する争いがあり、どのような解決を望んでいるのかなど、法的な主張と事実及び証拠を記載して、裁判所の窓口で提出します。

Step2:期日指定

次に、裁判所から、呼び出しがあります。

期日の指定を受けてからは忙しいです。労働審判の当事者双方は、初回期日までに、特に争いになる問題は何かを明らかにすること、大まかな主張や証拠を整理しておくことが必要です。また、基本的な事実関係は、第1回までにすべて明らかにすることが前提とされていますので、充実した準備が必要です。

手続きがスピーディーなので、当事者もスピーディーな対応・準備が求められます。

Step3:審理・調停

第1回の期日の前には、申立人のもとには、相手方が何と主張しているか(答弁書)がわかります。申立ての相手方のもとにも申立人の主張(申立書)がわかります。したがって、話合いの前に、どのようなことを争うことになるか知ることができます。

期日が始まると、労働審判の期日は原則3回以内で行われます。ここでは主に話合いが進められます。

個々の事件によって進め方が多少変わりますが、Step2にもあるように、第1回期日で基本的な事実関係が整理されます。また、第2回以降では、労働審判委員会が間に入って、基本的な事実関係をもとに当事者双方が話合いをします。

労働審判官や労働審判員は、法的・専門的・実務的な観点から、事件について一定の考え方を示します。ときに、当該事件が裁判になったらどのような判断が予測されるかなどを示す場合もあるようです。

なお、3回の期日でも解決しなければ、例外的に4回目以上の期日が行われることがあります。

Step4:労働審判又は調停の成立・不成立

Step3で話合いがされて、合意が形成されない場合には、労働審判がされます。わかりやすさを重視した説明をすれば、労働審判とは判決です。3回の期日の間で主張・提出された証拠や当事者の話から一定の結論を労働審判委員会が示すものです。

一方、当事者が話合いで解決できる場合には、Step3における期日で合意がされます。調停調書と呼ばれる書面が作成されます。

労働審判と期日における合意のいずれも、強制執行をすることが可能になるものですので、当事者に取り決めた内容や労働審判の内容を強制的に実行させることができます。

*Step4で労働審判に異議が出た場合:事件の終了・訴訟への移行

なお、労働審判に不服がある当事者は、異議申立てをすることができます。

異議申し立てをした場合、労働審判の申立人が申立時に地方裁判所に訴えを提起したものとみなされます(労働審判法22条1項前段)。これによって、裁判が開始します。

このように異議申立てがされる事件では、事実関係や主張が複雑になるものや多額の金銭が関係しているものが多いため、時間がかかるがより厳密な審理を行う民事裁判に移行することとされているのです。

労働審判手続の特徴

労働審判手続の特徴

労働に関するトラブルについては、訴訟を提起して解決することもあります。また、労働者と使用者の話合いによって解決することもあります。では、訴訟や話合いがあるのに、なぜ労働審判という手続があるのでしょうか。これは、労働審判ならではの特徴があるからです。

特徴①早いこと(迅速性)

まず、労働審判は、裁判よりも早く終わりやすいという特徴があります。

訴訟と労働審判の手続は、ともに、お互いの主張を言い合い、証拠を提出する場面があります(この機会を「期日」と呼びます。)。労働審判では、期日は、特別の事情がある場合を除き、3回以内で終結するとされています(労働審判法15条2項)。したがって、労働審判手続は、長期化しがちな裁判手続よりも早く終わりやすいとされています。

また、初回の期日に向けて、労働審判の申立人はあらかじめ主張や証拠の申出、証拠調べに必要な準備をしなければなりません(労働審判規則15条1項)。相手方も、申立人の主張に対する応答やその主張、今後予想される争点、予想される争点について主張する事実、証拠等を裁判と比べて早い段階で明らかにしなければなりません(労働審判規則16条)。

したがって、労働審判は原則として3回の期日以内で終結するために当事者双方及び労働審判委員会が準備をして取り組む手続きとなっており、迅速な事件の解決が目指されています。

会社とトラブルを抱えていると多くの場合、労働者は、ただでさえ忙しい日常生活のほかにストレスの原因を抱えることになります。また、会社側も労働者とのトラブルを長期間抱えるのは、事業の継続や会社の評判の観点から望まないことです。したがって、事件の長期化は誰も喜ばない事態なのです。

そこで、労働事件については迅速化が目指されました。

特徴②専門家が第三者として関与してくれること

次に、専門的な知識を持つ第三者が関与してくれるために、当事者双方が納得しやすいという特徴が挙げられます。

労働審判手続は、裁判官である労働審判官1名、労働専門家の労働審判員2名で構成される労働審判委員会によって運営されます(労働審判法7条、同8条、同9条1項、同9条2項)。また、労働審判員2名は、労働問題に関する経験が豊富な人物が選ばれ(同法10条1項、同条2項参照)、それぞれ、一方が使用者の側、他方が労働者の立場で経験豊富な人物が選ばれるとされています。

したがって、労働審判手続は、労働事件に関する法令・裁判例・実務の経験豊富な労働審判委員会が間を取り持つことで、公平で法令に沿った話合いの進行や審判に信頼感があるとされています。

例えば、従業員が会社と残業代の支払いについて交渉するとしましょう。会社側が法律的に無理のある主張を重ねることもありえますが、労働審判官や労働審判員が、そのような主張は法的に難しいということを会社側に伝えることがあります。このような労働審判委員会からの関与があるため、当事者二者間の交渉よりも話が進みやすいです。

このような問題に対処するために、労働審判手続では、労働問題の実務に精通した労働審判委員会が、法令・裁判例・実務に沿った理解をもとに、当事者の間を取り持つのです。

特徴③解決の方法が柔軟なこと

さらに、労働審判手続の特徴として、権利義務の存否の判断だけではない柔軟な解決ができることが挙げられます。

裁判では、一方の主張する請求が認められるか認められないかが判断されるため、勝ち負けがはっきりしてしまいます。

しかし、労働審判は、事件の解決のために、請求内容に限らない解決が可能です。例えば、解雇の無効を主張する従業員と会社が争う場合に、会社から従業員への一定の解決金の支払いを合意する代わりに従業員が退職するという解決をすることも可能です。特に、解雇の無効を争う従業員の方には、会社と争って勝ったとしても職場に残るのは嫌だという方もいますので、このような柔軟な対応が好まれます。

まとめ

まとめ

以上が労働審判制度の解説です。

労働審判は、労働事件を、労使間の話合いを基本として、早く、公正に、柔軟に解決することを目指した制度です。

職場でトラブルを抱えることは、労使双方にとって、経済的・精神的につらいものがあります。労働者・使用者の双方が労働事件を早く解決したいと望んでいるのですから、労働審判制度の活用には大きな意味があります。

職場でトラブルを抱えた方は、労働審判という制度を使ってみるということも検討してみてはいかがでしょうか。また、弁護士は、これらの手続きや法律の専門家ですので、依頼をしてみるのはいかがでしょうか。

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この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小松原 柊


令和4年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
令和6年3月 東北大学法科大学院 修了
令和7年4月 弁護士登録