
「仕事中や通勤中に怪我を負ってしまった」「今後の治療はどうなるのか」「休んでいる間の生活費は大丈夫だろうか」「会社はきちんと対応してくれるのだろうか」
突然の出来事に、多くの方がこのような不安を抱えることと思います。
そんなとき、頼りになるのが法律や制度の専門家ですが、「弁護士」と「社会保険労務士(社労士)」、どちらに相談すれば良いか迷う方も少なくありません。
このページでは、労災事故に遭われた方からよくある質問「弁護士と社労士のどちらに相談すればよいのか?」について説明します。
結論としては、弁護士の方が、広く労災に関する相談から労災申請、損害賠償請求による解決まで一貫して業務をすることができるので、弁護士がお勧めです。ただし、相談する弁護士が労災事故を多く取り扱っているかなどの実績には注目しましょう。
このページは、グリーンリーフ法律事務所の弁護士が、労災事故に遭われた方からよくある質問「弁護士と社労士のどちらに相談すればよいのか?」について説明します。
労災にあったら弁護士と社労士のどちらに相談すればよいのでしょうか?

結論
ずばり、>将来的な会社との交渉や裁判まで見据えるなら、労災に詳しい弁護士に相談するのがベストです。
理由については、これから説明していきます。比較的短い記事ですので、最後までご覧ください。
最後には、労災保険だけではカバーされない慰謝料や損害賠償請求についても解説しています。
理由(弁護士と社労士の業務範囲の決定的な違い)
社労士は、労働・社会保険に関する手続きの専門家です。労災保険の申請書類の作成や、労働基準監督署への提出代行などを主な業務としています。会社が労災申請に協力的で、ご自身も慰謝料請求などを考えていない場合には、社労士に依頼することでスムーズに手続きを進められるでしょう。
しかし、社労士ができるのは、あくまで労働基準監督署への申請手続きまでです。会社に対する損害賠償請求の交渉(示談交渉)や、労働審判、裁判といった法的な紛争解決手続きを行うことは、法律で禁止されています
一方、弁護士は法律の専門家として、労災発生直後の法律相談から、労災保険の各種給付、後遺障害が残った場合の障害補償給付の申請サポート、さらには会社に安全配慮義務違反などがあった場合の損害賠償を請求し、解決するところまでワンストップで一貫して業務を行うことが可能です。
つまり、被災労働者の方の代理人として、会社側と交渉したり、法廷に立ったりできるのは弁護士だけなのです。
よって、その職業からして、社労士はあくまで労災申請のための書類作成が行えるに過ぎず、その他の事件解決のために間に入って業務を行うことができません。
このように、取り扱える事件の幅が全く異なると言っても差支えありません。
| 法律相談 | 労災申請 | 示談交渉 | 労働審判 | 裁判 | 強制執行 | |
| 弁護士 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 社労士 | × | 〇 | × | × | × | × |
なお、弁護士は社労士の登録をすることができますが、社労士は弁護士の登録をすることができません。
社労士法3条2項には、「弁護士となる資格を有する者は、前項の規定にかかわらず、社会保険労務士となる資格を有する。」 と定められております。
つまり、弁護士となる資格を有する者=司法修習修了生であれば、社労士の登録ができるということになります。
| 弁護士 → 社労士 | 〇 |
| 社労士 → 弁護士 | × |
そして、当事務所の労災チームでは、弁護士と社労士の両方の資格を持つ申景秀弁護士がおります。
よって、社労士と弁護士のどちらに相談して良いか迷っている方は、まずは当事務所にご相談いただければ幸いです。
会社の社労士に労災申請を進めてもらわない方がよいですか?

労災事故に遭い、適正な賠償を受け取ることを含めた解決を目指されている場合には、やはり弁護士に相談すべきことは前述のとおりです。
もっとも、事故直後の労災申請については、会社の社労士を通じて労災申請をしているケースは一般的です。
つまり、労働災害が発生した場合には、会社は管轄する労働基準監督署に対し、労災事故報告書の提出を行い、その後、治療の経過に応じて、療養(治療費)給付申請、休業補償給付申請などの申請を順次行う必要があります。通常、1カ月毎に行わなければなりません。
このような労災申請については、会社の社労士を通じて行うことが可能です。
ただし、実務では、障害補償給付の段階から弁護士に依頼をする方も少なからずいらっしゃいます。弁護士は必要に応じて、後遺障害診断書の内容をよく確認し、内容の漏れや不備があれば病院側と話をして加筆等をしてもらう場合もありますし、労基署において、顧問医の面談に同席するケースもあります。
もちろん、最初から労災申請に協力的ではない会社の場合には、弁護士が労災申請から介入することもあり、それにより労災申請が進むというケースもあります。
いつ相談すべきか?

「まだ治療中だし、相談するには早いのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、相談は労災発生後、できるだけ早い段階で行うことをお勧めします。
早い段階で弁護士に相談すれば、今後の見通しが立ち、精神的な不安が軽減される可能性がありますし、会社とのやり取りを任せ、治療に専念できること考えられます。
これまで見てきたように、労災における社労士と弁護士の役割は明確に異なります。
したがって、もしあなたが、
- 会社に対して慰謝料などを請求したい
- 後遺障害が残りそうで、適正な補償を受けたい
- 会社の対応に不満がある
とお考えであれば、労災問題に精通した弁護士に相談することが最善の選択と言えます。
弁護士に依頼するメリットは?

弁護士に依頼するメリットは、労災事故に見合った適正な補償を受け取っていただけるということに尽きます。
「損害賠償請求でこんなに請求できるとは夢にも思わなかった」
「会社の責任があるなんて想像していなかった」
「加害者からの賠償は諦めていた」
このような声を、労災相談をしていると度々耳にします。
つまり、労災給付として労働基準監督署から支払われる金額は、適正な補償の一部に過ぎないため、弁護士が介入することで、適正な賠償を受け取るための交渉、労働審判、裁判を通じて、残りを回収することができるのです。
例えば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。
また、労災が認められたとしても、されに請求をするためには、自分が所属する会社を相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。
会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。
弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。
また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。
そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社に対する請求も問題となります。
労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。
以下では、慰謝料などについて少し解説します。
労災被害者が補償のために取り得る方法について

労働災害に遭われた方が受けられる補償には、大きく分けて2つの柱があります。それが「労災保険からの給付」と「会社への損害賠償請求」です。この2つの関係を正しく理解することが、適正な補償を得るための第一歩となります。
労災保険は、仕事中や通勤中のケガ・病気に対して、国が補償を行う公的な保険制度です。会社に責任(過失)があるかどうかに関わらず、業務上の災害であると認定されれば、誰でも給付を受けることができます。
労災保険で受けられる主な給付には、以下のようなものがあります。
①療養(補償)等給付
→労災による傷病治癒されるまで無料で療養を受けられる制度
②休業(補償)等給付
→労災の傷病の療養のために休業し、賃金を受けられないことを理由に支給されるもの
③傷病(補償)等年金
→療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級(第1級から第3級)に該当するときに支給されるもの
④障害(補償)等給付
→傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合に支給されるもの
⑤遺族(補償)等給付
→労災により死亡した場合に支給されるもので、遺族等年金と遺族(補償)等一時金の2種類が存在する
⑥葬祭料等(葬祭給付)
→労災により死亡した場合で、かつ葬祭を行った者に対して支給されるもの
⑦介護(補償)等給付
→傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ現に介護を受けている場合に、支給されるもの
⑧二次健康診断等給付
→労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の結果、身体に一定の異常がみられた場合に、受けることができるもの
労災保険制度では、以上のような補償を受けることができますが、労災保険では、慰謝料が一切支払われません。
事故で大ケガを負い、激しい痛みに耐え、不自由な入院生活を送り、将来への不安に苛まれる…こうした精神的な苦痛に対する補償(慰謝料)は、労災保険の給付項目には含まれていません。
また、休業損害も約8割(2割は特別給付)しか補償されず、残りの2割や賞与の減額分は自己負担となります。さらに、後遺障害が残った場合に失われる将来の収入(逸失利益)も、労災保険の障害給付だけでは十分にカバーされないケースがほとんどです。
そこで重要になるのが、会社への損害賠償請求です。前述したように、事故の原因が会社の安全配慮義務違反にある場合、あなたは労災保険給付だけでは足りない損害部分を、会社に請求することができるのです。
つまり、労災保険の手続きと、会社への損害賠償請求は、全く別の手続きであり、両方を進めることで、初めてあなたが被った損害に見合う、正当な補償を受けることができるのです。
会社に請求できる損害賠償の内訳

では、具体的に会社に対してどのような項目を、いくらくらい請求できるのでしょうか。
労災保険から治療費が支払われている場合は、基本的に会社に請求することはありません。しかし、労災が使えない自由診療を選択した場合の差額や、将来必要になる手術・治療費、通院のための交通費(特にタクシー代など)、車いすや義手・義足などの装具費などが対象となります。
労災保険の休業給付ではカバーされない、給料の残り約2割分や、事故がなければもらえたはずの賞与(ボーナス)の減額分などを請求できます。
また慰謝料も請求出来ます。慰謝料には、主に2つの種類があります。
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
事故日から症状固定日までの間、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する補償です。入院期間や通院期間が長くなるほど、金額は高くなります。 - 後遺障害慰謝料
症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。
具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。
| 等級 | 後遺障害慰謝料の金額 |
|---|---|
| 1級 | 2800万円 |
| 2級 | 2370万円 |
| 3級 | 1990万円 |
| 4級 | 1670万円 |
| 5級 | 1400万円 |
| 6級 | 1180万円 |
| 7級 | 1000万円 |
| 8級 | 830万円 |
| 9級 | 690万円 |
| 10級 | 550万円 |
| 11級 | 420万円 |
| 12級 | 290万円 |
| 13級 | 180万円 |
| 14級 | 110万円 |
逸失利益について

後遺障害によって労働能力が低下し、将来にわたって得られたはずの収入が減少してしまうことに対する補償です。後遺障害の等級、事故前の収入、年齢などによって計算され、賠償項目の中で最も高額になる可能性があります。
【逸失利益の計算シミュレーション】
- 前提条件:
- 事故時年齢:45歳事故前の年収:500万円
- 後遺障害等級:第9級(労働能力喪失率 35%)
- 計算式:
年収500万円 × 労働能力喪失率35% × 労働能力喪失期間(67歳までの22年)に対応するライプニッツ係数14.029 - 逸失利益:約2,455万円
このケースでは、逸失利益(約2,455万円)と後遺障害慰謝料(690万円)だけでも、合計3,000万円を超える請求が可能になります。労災保険からは、9級の場合、一時金として給付基礎日額の391日分(年収500万円なら約535万円)しか支給されません。その差がいかに大きいか、お分かりいただけると思います。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。






