
企業を経営・管理する上で、従業員の「問題行動」への対応は避けて通れない重要課題の一つです。職場の規律を乱す行為に対して適切な処置をとらなければ、組織の士気低下や企業全体の信用失墜、さらには重大な法的トラブルへと発展しかねません。
しかし、性急な処分や、手続きを軽視した対応は、後に「不当処分」として労働裁判で無効と判断される高いリスクを伴います。本コラムでは、経営者が知っておくべき、非違(ひい)行為の定義、懲戒処分の法的根拠、処分の種類、そして客観的で安全な運用の流れを分かりやすく解説します。
非違行為とは

非違行為とは
「非違(ひい)行為」とは、法律や命令、あるいは社内ルール(就業規則など)に違反する「非道徳的・違法な行為」の総称です。公務員の世界でよく使われる言葉ですが、民間企業においても「従業員としての義務や規律に違反する行為」を指す言葉として広く定着しています。
企業で発生しやすい主な非違行為
企業経営において問題となる非違行為は、大きく以下の4つに分類されます。
①業務命令違反・規則違反
正当な理由のない遅刻・欠勤の常態化、業務指示に対する故意の拒否、無断での副業、勤務態度が著しく不良であることなどが該当します。
②ハラスメント行為
パワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)など、他者の労働環境を悪化させる行為です。近年の法改正もあり、企業の防止義務や重大性がより厳しく問われるようになっています。
③不正行為・犯罪行為
会社の金品の横領、経費の不正請求、キックバックの授受、あるいは社外での刑事犯罪(飲酒運転、盗撮、暴行など)がこれに当たります。
④情報漏洩・信用失墜行為
顧客情報や機密データの社外への持ち出し、SNSへの不適切な投稿(いわゆる「バイトテロ」や会社を誹謗中傷する書き込み)など、企業の社会的信用を失墜させる行為です。
非違行為への対応としての懲戒処分の説明

懲戒処分とは何か
懲戒処分とは、従業員が非違行為を働いた際、企業が秩序を維持するために科す「社内の制裁(ペナルティ)」のことです。最高裁判所の判例でも、企業には「企業秩序を維持するための懲戒権」が認められています。しかし、これは経営者が自由に、主観で行ってよいものではありません。
懲戒処分を行うための条件
懲戒処分を有効に行うためには、以下の条件を満たしている必要があります。
①懲戒処分の根拠があること
就業規則への明記が典型例です。
どのような行為が処分の対象となり(懲戒事由)、どのような処分を下されるのか(懲戒の種類)が、就業規則に具体的かつ明確に記載されていなければなりません。規則にない理由で処分することは原則として不可能です。
また、その就業規則が、従業員に対して常時閲覧できる状態(社内サーバーへの保管や書面配布など)で「周知」されていなければなりません。
②懲戒事由に該当する労働者の行為の存在
③懲戒処分が相当であること
④適正手続き
労働契約法
(懲戒) 第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒処分の種類
懲戒処分には、一般的に軽いものから重いものまで段階的に種類が用意されています。
行為の重さに合わせて適用することが必要になります(以下、一般的な軽重順に記載します)。
①戒告(かいこく)/ 譴責(けんせき)
最も軽い処分です。
戒告は、問題行動に対して口頭または書面で注意を与え、将来を戒めるものです。
譴責: 従業員に「始末書」などを提出させ、自省を求めます。
②減給(げんきゅう)
本来支払われるべき賃金から、一定額を差し引く処分です。
ただし、労働基準法第91条により、引くことができる金額には以下の「一回の限界」と「総額の限界」の厳格な上限が定められています。
1回の事由につき: 平均賃金の1日分の半額まで
総額(一賃金支払期において): 総支給額の10分の1まで
③出勤停止(しゅっきんていし)
一定期間、就労を禁止する処分です。
出勤停止期間中の賃金は原則として支給しません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
④降格(こうかく)/ 降職(こうしょく)
役職(部長、課長など)を解いたり、職能資格のランクを下げたりする処分です。
役職手当の不支給などにより、結果として基本給が下がることがあります。
ただし、業務上の必要性による「人事権の行使としての降格」とは異なり、「懲戒としての降格」は就業規則の根拠が必須です。
⑤諭旨解雇(ゆしかいこ)/ 諭旨退職(ゆしたいしょく)
会社と従業員が話し合い、納得の上で退職届を出させる処分です。
本来は懲戒解雇に相当する重い事由があるものの、本人の反省の度合いや過去の貢献度を考慮し、「自発的な退職」という形で一定の情状酌量を認める温情措置としての側面を持ちます。
⑥懲戒解雇(ちょうかいかいこ)
企業が下す最も重い懲戒処分です。
労働者の生活基盤を奪うため、裁判でその有効性が最も厳しく審理されます。
決定的な証拠(犯罪行為や長期の無断欠勤など)がない限り、安易に行うことは避ける必要があります。
懲戒処分の流れ

①事実関係の調査と客観的証拠の収集
まずは「本当にその行為があったのか」を中立な立場で調査します。
相談者、被疑者、周囲の目撃者へのヒアリングを行い、日時・場所・内容を記録します。
メールの履歴、チャットツール、防犯カメラ、業務ログ、領収書など、客観的な「物証」を確保します。
②就業規則の該当条項の確認
集まった事実が、自社の就業規則の「どの懲戒事由に該当するか」を突き合わせます。前述の通り、規則に記載がない事由であれば、どれほど不快な行為であっても懲戒処分にはできません。
③本人への「弁明の機会」の付与
手続きの正当性を担保する上で、最も重要です。
本人を呼び出し(または書面で)、調査で判明した事実を告げた上で、言い分(弁明)を聴取します。
④処分の決定(懲戒委員会の開催など)
行為の悪質さ、過去の処分歴、本人の反省の度合い、そして「過去の社内の同種事例とのバランス(平等処遇の原則)」を考慮し、処分の重さを決定します。就業規則に「懲戒委員会を設置する」等の規定がある場合は、必ずそのプロセスを踏んでください。
⑤処分通知書の交付と実施
処分が決定したら、必ず「書面(懲戒処分通知書)」で本人に通知します。
通知書には、①処分の種類、②処分の対象となる具体的な事実、③就業規則の該当条項、④実施日を明記します。
本人が受領を拒否する場合に備え、手渡し時に内容を読み上げる、または内容証明郵便で郵送するなどの対策を講じます。
まとめ:経営者が心得ておくべき防衛策
懲戒処分は、問題社員を「排除するための道具」ではなく、あくまで「企業の規律を維持し、他の真面目な従業員を守るための手続き」です。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴

開設以来、数多くの法人破産、使用者側に関する案件・相談に対応してきた弁護士法人グリーンリーフ法律事務所では企業法務チームを設置しています。
懲戒処分にお悩みであったり、懲戒処分を実施した後に従業員から訴えられたりしたという場合には、ぜひ、弊所の顧問契約をご検討下さい。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。





