
「会社内で従業員が発明を完成させた」「発明についてトラブルを防ぎたい」「発明をどのように社内で取り扱うべきなのかわからない」「これから研究開発をするにあたって法律面での課題を確認しておきたい」といった声が聞かれます。
このような場面における知的財産(特に特許)についてのテーマには、技術職の方から法務担当者の方、経営者の方まで、多くの方がとっつきづらさを感じていらっしゃるのではないでしょうか。かつては、従業員である発明者が会社に対して多額の請求をする事件があり、今でも問題になることがあるため、非常に悩ましく思う方も多いのではないでしょうか。
今回は、そのような方に向けて、企業内で発明が生まれると関係する「職務発明」という制度について解説します。初めての方にもわかりやすくご紹介しますので、ぜひ一度ご覧ください。
企業側からみた発明と発明者から見た発明

職務発明に関するトラブルは、企業と従業員が、発明(と特許権の発生)による利益を取り合うためにおこるトラブルです。
企業側から見る発明
企業内で発明が生まれるとき、従業員が突如魅力的な技術を編み出すとは限りません。
ときに、営業部員が、お客様から聞いた困りごとを上司に報告することから発明が生まれることがあるでしょう。その上司が技術者と相談をしてプロジェクトチームを発足するならば、これに予算を注ぐことを決断する経営者やその判断に関わる経理担当の関与があることが通常です。
技術者が努力して研究をした結果、発明が誕生しても、話は終わりません。
発明を製品に生かすためには、量産化の工夫も必要ですし、お客様からのフィードバックを受けて実装化のために調整をすることになります。しかも、座して商品が売れれば苦労はありませんが、現実には販促のために手を尽くして初めて売り上げを出すことが出来ます。
悲しいことですが、発明を商品化しても売れないことや、商品化が上手くいかないことも多くあります。この場合、企業はその事業失敗リスクを負担します。また、発明を発明者に独り占めされてしまった場合、企業は発明者の個人的な研究のために協力をしてあげたにすぎなくなってしまいます。
発明者から見る発明
一方、当然ながら、発明者からすれば発明は「自身が生み出したもの」です。発明者がその才能と情熱を注いて優れた技術・アイディアを生み出さなければ、発明が生まれなかったことは想像に難くありません。
また、特許をとることで、生じた利益を自身のものにできることを期待している発明者の方もいらっしゃるでしょう。
このような事情をふまえると、発明者の利益は確保されなければなりません。
職務発明制度の意義

前振りが長くなりましたが、このような状況では企業側と発明者双方が自らの主張をしあうことになります。このようなトラブルを生じないように、特許法は職務発明制度を設けています。
簡潔に言えば……
「発明のためにかけたコストをなるべく回収して利益もあげたい企業側と自身の頑張りの対価を受けたい発明者のバランスをとる制度」、わかりやすさを重視してご説明すれば、これが職務発明制度の意義です。
職務発明にまつわる問題
企業内で従業員が会社の職務として発明した場合、発明者が企業に対して、発明により生じた利益の一部を支払うよう求めることがあります。
このような場合、職務発明制度をよく知らないで放置してしまうと、発明者は企業に対して、売上高等を根拠にかなり億単位の請求をすることがあります。過去の事例では、実際に数千万円~数億円の支払がなされたものも相当数存在します。
このようなトラブルの多くは、会社側が職務発明制度についてよく理解せず、職務発明規程を充実させずにいたために発生してしまいます。そのため、会社にとって、職務発明制度を知り、十分な職務発明規程を定めていることが非常に重要になってくるのです。
以下では、職務発明についての法律のしくみと個々の企業に導入される「職務発明規程」について解説します。
職務発明の取り扱い

そもそも、職務発明とは何かという複雑な問題がありますが、ここではさしあたり、「従業員が、企業の指示で研究をすることになり、企業の設備や会社に蓄積されたノウハウを利用して、よく売れそうなものを発明した場合」を職務発明が生まれた場合としましょう。
法律の内容
この場合、分かりやすさを重視した説明となりますが、職務発明について、大きく2つの法律効果が生じます(特許法35条1項ないし同条7項)。
①その職務発明について、企業は、従業員の許諾なしにその発明を事業や商品に使うことが出来る(通常実施権の取得)。
②企業が従業員から特許権などを譲り受ける場合、従業員は、企業から、その特許権の譲受に対する対価として相当な金額の利益を受け取ることができる(相当の利益請求権)。
なお、②の相当の利益の金額は、その発明に特許権が生じることの経済的価値、会社と発明者の役割の比率、会社が負担したコスト、発明後の従業員の取り扱いなどを考慮して算定されます。
なぜこのような内容なのか
職務発明が出来た場合、企業は、発明者である従業員に許諾を得なくとも、その発明を利用して商品などを作って売ることが出来るのです。これによって、「せっかく発明をビジネスにできるのに発明者ともめたせいで利益が出せない」という問題を回避することが出来ます。
一方で、企業に無断で発明を利用されてしまうのですから、発明者である従業員が「身を粉にして発明したのにいつもと同じ給料しかもらえなかった」と思えば、その従業員は発明をする気を一切失ってしまうかもしれません。そのため、相当の利益を請求することが出来るとしているのです。
発明者が発明をする気を失ってしまうことは好ましくありませんし、企業にとっても優秀な人材が流出してしまうリスクもあります。そのため、法律が、企業と発明者の双方に、権利を与えて(しかも両立する内容で)バランスをとっているのです。
トラブルを未然に防ぐ職務発明規程

特に、上でお話した②相当の利益については、その金額が問題になります。
トラブルのリスク
発明者の従業員がその発明の価値を大きく見積もっている場合、話し合いはまとまりません。訴訟になってしまえば、時間も費用も大きくかかってしまい、しかも大きく敗訴するリスクがあります。
職務発明規程の効果
このような問題に直面しないために、「職務発明規程」というものがあります。これは、労働規則のように、企業と従業員の間で、あらかじめ相当の利益の金額などを決めてしまうものなのです。
職務発明規程の重要な作用は、特許庁の定める職務発明ガイドライン(https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/shokumu/shokumu_guideline.html)に沿ったものであれば、企業は、そこに定められた金額を支払うことによって、それ以上の相当の利益を発明者に支払う必要がなくなることです(特許法5項、同条6項)。
気を付けるべきポイント
ただし、職務発明規程は、職務発明ガイドラインの趣旨に沿わないなど、不合理な内容である場合には上記の効果が認められないことには注意する必要があります。また、職務発明ガイドラインを単に読んだだけでは、何をすればよいかもよくわからないこともあります。
詳細は別稿でお話しますが、簡単に言えば、従業員と話し合ったこと、企業が持っている情報を適正に開示したか、発明に関わった従業員の意見を聞いたか等の観点でその合理性が判断されます。
内容が良ければよいということではなく、十分な手続を踏んでいるのかという点が非常に重要な問題となっています。
職務発明規程を作る際には弁護士等の専門家が関与することもおすすめです。
まとめ

ここまで職務発明及び職務発明規程について解説してきました。
職務発明制度は、企業に発明を使うことを認める一方で、発明者に対し、一定の利益を受け取る権利を付与するものとなっていました。
また、職務発明規程は、職務発明ガイドラインに沿って、適正な手続きの下で作成しなければいけない点が重要でした。
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