商標は、自社のブランドイメージや企業価値を高めるうえで重要な役割を果たします。そのため商標権が侵害されてしまうと自社のブランドイメージや企業価値が損なわれてしまうおそれがあります。

本コラムでは、どのような行為が商標権侵害に当たるのか及び侵害されたときに取り得る対処法などについて解説します。

商標権侵害の要件

まずは、いかなる行為が商標権の侵害に当たるのか解説します。

商標権侵害が認められるためには以下の要件を満たす必要があります。

他社が標章を使用している又は使用するおそれがあること

標章を「使用」するとは、商標法2条3項各号に該当する行為をすることをいいます。

具体的には、商品の包装に標章を付する行為(1号)、標章を付した商品を譲渡する行為(2号)、商標を広告に使用する行為(8号)などです。

 加えて、「使用」ではないものの、商標法37条2号から同8号に規定されている一定の予備的な行為も商標権侵害となります(間接侵害)。具体的には、登録商標に類似の商標を付した商品を譲渡するために所持する行為(2号)などです。

また、後述しますが、差止請求をする場合には、実際に使用されていなくても、使用するおそれがあるといえれば差止請求をすることができます。

以上より、標章の「使用」の意義が多岐にわたっていることから、標章を他者に「使用」されているのかどうか判断することは非常に難しいと思いますので、商標を他社に使われている疑いが生じた場合には一度弁護士に相談してください。

他社の使用する標章が自社の登録商標と同一又は類似であること

商標権侵害といえるためには、他社の使用する標章が自社の登録商標と同一又は類似であることが必要です。

商標の類否の判断について、判例では、「取引者や一般の需要者が商品購入時に通常払うべき注意」を基準に判断すべきであるとされています。

過去の文判例で、類似性が肯定された例と類似性が否定された例をいくつか紹介します。

(類似性が肯定された例)
・「大アカフダ堂」と「赤札堂」(東京地判昭和40年5月10日)
・「池袋明治屋」と「明治屋」(東京地判昭和36年11月15日)

(類似性が否定された例)
・「喜鶏屋」と「喜度利家」(大阪地判平成20年1月31日)

他社の商品・役務が自社の登録商標の指定商品・役務と同一又は類似であること

商標権侵害といえるためには、他社の標章を使用する商品・役務が自社の登録商標の指定商品・役務と同一又は類似であることが必要です。

 商品・役務の類否の判断は、取引の実情を考慮し、商品同士が、同一または類似の商標が当該商品に使用されたときに、同一営業主の製造、販売にかかる商品であると誤認されるおそれがあると認められる関係といえるかどうかによって判断されています。

この趣旨を判示した判例を紹介します。

橘政宗事件(最判昭和36年6月27日)

・事案の概要
Xは指定商品を清酒等とし「橘政宗」という文字の商標の登録出願をしていたところ、Yが指定商品を焼酎とする「橘焼酎」の文字の商標の商標が登録されており、清酒と焼酎との商品の類否が問題となった事件です。(別途商標の類否についても問題となっております。)

・判決
商品・役務の類否の判断は、「商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであつても…類似の商品の商品にあたると解するのが相当である」との規範を提示しました。
そして「橘政宗」なる商標のうち「政宗」部分は清酒を表す慣用標章であって「橘焼酎」の「焼酎」部分は普通名詞である。「橘焼酎」なる商標を使用して焼酎を販売している営業主がいる状況で、他方で「橘政宗」なる清酒を製造する営業主があるときには、これらの商品はいずれも「橘」という同一営業主が製造したものであると誤認するおそれがあるとして類似性を認めています。

・ポイント
同一メーカーで清酒と焼酎との製造免許を受けているものが多いということも考慮されました。

商標権の侵害をされている場合

他社に商標を侵害されている場合には以下の対処法を取ることができます。

差止請求

商標を侵害されている場合、侵害者に対し、商標法36条1項に基づき、当該商標の使用をやめるよう請求することができます。

損害賠償請求

商標権者は、侵害者に対し、民法709条に基づき、損害賠償請求をすることができます。

通常、損害賠償請求をする場合には、請求する側が、損害の金額を算定しなければならないことになっていますが、商標権侵害の場合には、損害の推定規定が設けられており、

刑事告訴

商標法は、

商標権を直接侵害した者に対して、10年以下の拘禁刑又は1000万円以下の科料に処すること
間接侵害した者に対して、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の科料に処すること

を規定しています(商標法78条、78条の2)。

 これらは非親告罪であるものの、実務上、商標権者の告訴状の提出が求められていることが多いです。

 また、刑事罰が科されるためには、侵害者に商標権の侵害について過失では足りず故意が必要であるため、この点に留意する必要があります。

まとめ

・商標権の侵害は、指定商品・役務類似の商品・役務にて、登録商標類似の商標を「使用」した場合に生じる
・商標権を侵害された場合、侵害者に対し、差止請求や損害賠償請求をすることができる
・故意に商標権を侵害している場合には、刑事罰が科されることもある

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
  ※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。


■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 椎名 慧
弁護士のプロフィールはこちら