
多角化した事業の一部(不動産部門など)を切り出して別法人にする際、主に2つの手法があります。事業譲渡とは、契約や従業員を個別に引き継ぐ手法。不要な資産を切り離せる反面、取引先全員との契約巻き直しが必要で、手間が膨大になりがちです。新設分割とは、事業を丸ごと新会社に移す手法。契約関係や従業員が自動的に引き継がれる(包括承継)ため、多数の顧客がいる不動産・管理業などでは、手続きがスムーズなこちらが選ばれます。本コラムでは、これら2つの違いと、新設分割を選択した場合の具体的な手続きフロー(株主総会、債権者保護手続など)について、弁護士が分かりやすく解説します。
多角化した事業を整理・独立させたい経営者様へ

「本業の介護事業が安定してきたので、兼業で行っていた不動産事業を切り離して別法人にしたい」
「飲食部門とIT部門が混在しているので、リスク管理のために会社を分けたい」
事業が軌道に乗ってくると、このような「部門の分社化(別会社化)」を検討される経営者様が増えてきます。 会社を分けることには、意思決定の迅速化、リスクの遮断、事業承継の円滑化など多くのメリットがあります。
しかし、いざ実行するとなると、「今の会社の資産や契約、従業員をどうやって新しい会社に移すのか?」という実務的な壁に直面します。 今回は、事業の一部を別会社に移すための2つの手法、①事業譲渡と②新設分割について、その違いと選び方を解説します。
手法はこの2つ!「事業譲渡」vs「会社分割(新設分割)」

今の会社(A社)の特定部門を、新しく作る会社(B社)に移す場合、主に以下の2つの法的スキームが検討されます。
① 事業譲渡
A社とB社が「売買契約」を結び、事業という財産を売り買いする方法です。
メリット
欲しい資産、引き継ぎたい契約だけを選んで移転できる(チェリーピックが可能)。
デメリット
「個別の同意」が必要。これが最大の手間です。
従業員を移籍させるには、一人ひとりと再契約(転籍合意)が必要です。
取引先との契約、賃貸借契約なども、すべて相手方の同意を得て巻き直す必要があります。
② 会社分割・新設分割
A社の一部を切り出して、新しいB社を設立する方法です。
メリット
「包括的な承継」が可能。
従業員、契約関係、免許(一部除く)などが、法律上そのままB社に引き継がれます。個別の同意を取り直す必要が原則ありません。
デメリット
手続きが厳格。
債権者保護手続(官報公告など)が必要で、期間が最低でも1ヶ月以上かかります。
不動産や管理業務を移すなら「新設分割」がおすすめな理由

もし、移管したい事業が「不動産賃貸業」や「管理業」のように、多数の契約関係(入居者との契約など)が存在する場合、実務上は「②新設分割」が圧倒的に有利です。
理由はシンプルで、「契約の巻き直しが不要だから」です。
もし「事業譲渡」を選んだ場合、例えば管理している物件が100件あれば、100人のオーナーや入居者全員から「契約先がA社からB社に変わります」という同意ハンコをもらわなければなりません。これは実務的に非常に煩雑で、同意してくれない相手が出ると事業が移転できないリスクもあります。
一方、「新設分割」であれば、法律の効果として契約関係が自動的に新会社へスライドするため、スムーズに事業を継続できます。
「新設分割」の具体的な進め方とスケジュール

では、新設分割を行う場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
一般的な流れ(最短でも2ヶ月程度)を解説します。
ステップ1 新設分割計画の作成
まず、「どのような会社を作るか」「何を移転させるか」を計画書にまとめます。
・新会社の商号、本店、目的、役員構成
・引き継がせる資産(不動産、現金、備品など)
・引き継がせる契約、負債
・移転する従業員のリスト
ステップ2 株主総会での承認(特別決議)
事業の重要な一部を切り出すため、株主総会での「特別決議」が必要です。
※議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上の賛成が必要です。
ステップ3 労働契約承継法に基づく対応
従業員に対して、「あなたの雇用契約は新会社に移ります」等の通知を行います。
一定の条件に該当する従業員には異議を申し出る機会を与えるなど、労働法上の手厚い保護手続きが必要です。
ステップ4 債権者保護手続
会社分割は、見方によっては「優良資産だけ新会社に移して、借金だけ元の会社に残す」という悪用もできてしまうスキームです。
そのため、取引先や金融機関などの「債権者」を守る手続きが義務付けられています。
・官報公告
「分割を行います」と官報に掲載する。
・個別催告
知れている債権者には個別に通知を送る。
・異議申立期間
「文句があるなら言ってください」という期間を最低1ヶ月確保する。
ステップ5 登記申請
すべての期間を経過し、問題がなければ法務局へ登記申請を行います。 新設会社の「設立登記」が完了した瞬間に、事業や契約が法的に移転します。
弁護士からのアドバイス~落とし穴を避けるために~

「新設分割」は非常に強力で便利なツールですが、手続きにミス(公告漏れや労働者への通知不備など)があると、最悪の場合、会社分割自体が無効になってしまうリスクがあります。
また、許認可(宅建業免許や建設業許可など)については、自動的に引き継がれるものと、新会社で取り直さなければならないものがあり、事前の調査が不可欠です。
・自社のケースでは事業譲渡と会社分割、どちらがコスト安か?
・債権者保護手続をスムーズに進めるには?
・従業員への説明はどうすればよいか?
当事務所では、企業の組織再編に関する豊富な経験に基づき、御社の状況に最適なスキームをご提案します。事業の多角化・別会社化をご検討の経営者様は、計画段階で一度ご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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