はじめに

従業員が業務に起因して負傷または疾病にかかった場合、企業として迅速かつ適切な対応を行うことは、従業員の早期回復支援はもちろんのこと、企業の法的責任を果たし、職場全体の信頼関係を維持する上で極めて重要です。

従業員が怪我で働けない場合にも、従業員やその家族に生活があります。そのため、休業補償給付というのは労働者にとっても重要であり、使用者にとっても、労災保険により、6割(+特別給付2割)が休業中に賄われることは重要です。

そのため、企業として迅速かつ適切な「休業(補償)給付」の手続を進めることが求められます。この手続に使われるのが、「様式第8号」と呼ばれる書類です。

労務担当者の方であれば、一度は耳にしたことがあるかもしれません。

しかし、「具体的にどのような書類なのか」「企業として何をすべきなのか」を正確に理解されているでしょうか。

この記事では、日々多くの企業の労災問題に対応している弁護士が、「労災様式8号」の基本から、企業が対応する上での注意点まで、わかりやすく解説します。

以下に、労災様式8号の取り扱いにおける企業の役割と注意点について、具体的に解説いたします。

労災様式8号とは?

労災様式8号の正式名称は「休業補償給付支給請求書・休業特別支給金支給申請書」です。

これは、労働者が業務上の事由または通勤による傷病(ケガや病気)により、会社を休んで療養し、賃金を受けられない場合に、その間の生活保障として国(労働基準監督署)に休業補償を請求するための書類です。

請求するのは被災した労働者本人ですが、手続きを円滑に進めるためには、企業の協力が不可欠です。

様式8号が必要になる「休業補償」の3つの要件

様式8号を使って休業補償給付を請求するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 業務上の事由または通勤による傷病の療養のためであること
    • 医師の指示のもと、治療や療養が必要な状態であることが前提です。
  2. 労働することができないこと(労働不能)
    • 療養のために、これまで行っていた業務ができない状態を指します。
  3. 賃金を受けていないこと
    • 休業した日に対して、会社から給与(平均賃金の60%以上)が支払われていないことが必要です。

注意:最初の3日間(待期期間)について

注意点として、休業した最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、労災保険からの休業補償給付は支給されません。この期間については、事業主が労働基準法に基づき、1日につき平均賃金の60%の「休業補償」を行う義務があります。(※通勤災害の場合は、事業主の補償義務はありません)

労災保険からの給付は、休業第4日目からが対象となります。

【企業担当者向け】様式8号で会社が対応すべきこと

様式8号の書類には、労働者本人が記入する欄のほかに、「事業主証明欄」が設けられています。企業の労務担当者は、この欄に必要事項を記入し、内容が事実であることを証明しなければなりません。

特に重要な項目と注意点は以下のとおりです。

1. 事業主証明欄の記入

労働保険番号や事業場の名称といった基本情報に加え、以下の項目を正確に記載する必要があります。

  • 災害発生の事実: いつ、どこで、どのような状況で災害が起きたのかを客観的に記載します。
  • 休業した期間: 実際に労働者が休んだ期間を証明します。
  • 賃金を支払わなかった事実: 上記の休業期間に対して、賃金を支払っていないことを証明します。

2. 「平均賃金」の算定

休業補償の給付額は、「平均賃金」を基に計算されます。この平均賃金の算定は、事業主が行い、様式8号に記載する必要があります。

  • 原則的な計算方法:
    事故発生日直前の3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ その期間の暦日数

この計算は間違いやすいポイントです。

例えば、賞与(ボーナス)は賃金総額に含めない、試用期間中の場合は計算が異なる、など専門的な知識が求められます。

平均賃金の算定を誤ると、労働者が受け取る給付額が不正確になり、後のトラブルに発展する可能性があります。細心の注意を払って計算してください。

3. 労働者との連携

事業主証明は、あくまで労働者の請求内容を会社として証明するものです。災害の発生状況や休業期間について、労働者本人と会社の認識に齟齬がないよう、事前にしっかりと内容を確認し、連携を取りながら手続きを進めることが大切です。

企業の対応を誤った場合のリスク

労災手続き、特に様式8号への対応を誤ると、企業は以下のようなリスクを負う可能性があります。

  • 労働者との信頼関係の悪化: 手続きの遅延や不備は、労働者への給付を遅らせ、会社に対する不信感を生みます。
  • 損害賠償請求への発展: 事業主証明を正当な理由なく拒否したり、会社に都合の良い内容を記載したりした場合、労働者から安全配慮義務違反などを問われ、損害賠償請求訴訟に発展するケースがあります。
  • 労災隠しによる刑事罰: 労災の発生を隠蔽し、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しない「労災隠し」は、労働安全衛生法違反となり、刑事罰(50万円以下の罰金)の対象となります。

結びにかえて

労災対応でお困りの企業様は、弁護士にご相談ください

ここまで見てきたように、様式8号の手続きは、企業の労災対応における重要なステップです。正確かつ迅速な対応は、従業員との信頼関係を維持し、法的なリスクを回避するために不可欠です。

しかしながら、
「平均賃金の計算方法が複雑で自信がない」
「災害の発生状況について、労働者の主張と会社の認識が異なり、証明に迷う」
「労働者との話し合いがうまくいかず、トラブルになりそうだ」
など、判断に迷う場面も少なくありません。

このような労災対応に関するお悩みは、問題が大きくなる前に、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

当法律事務所は、企業側の労災問題に精通した弁護士が多数在籍しております。 これまでの豊富な経験に基づき、企業様の状況に合わせた最適なサポートをご提供いたします。

  • 労災手続き(様式8号の作成等)に関する的確なアドバイス
  • 労働基準監督署への対応サポート
  • 被災された従業員との交渉代理
  • 将来の紛争を予防するための労務管理体制の構築支援

労災は、どの企業においても起こりうる問題です。万が一の際に慌てず、適切に対応できるよう、ぜひ一度、当法律事務所の無料相談をご利用ください。貴社の頼れるパートナーとして、全力でサポートさせていただきます。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴

開設以来、数多くの法人に対応してきた弁護士法人グリーンリーフ法律事務所には、労務手続に精通した弁護士が数多く在籍し、また、全弁護士の専門分野による顧問弁護士体制、使用者側の労働問題専門チームも設置しています。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。
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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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