賃貸借契約をする場合、賃借人が複数の場合があります。賃料支払い、原状回復、敷金・保証金返還、中途解約、契約解除などの場合について、賃借人が複数の場合の注意事項、契約条項例をまとめてみました。

1 はじめに

  賃貸借契約をする場合、通常は賃借人は1名なのですが、複数になる場合もあります。複数の場合でも、基本的には1名の場合と同じなのですが、注意をしておいた方がよい点もあります。今回は、賃借人が複数の場合について考えてみたいと思います。

  

※ 以下は、土地の賃貸借契約を前提としていますが、建物の賃貸借契約の場合でも、概要は同じです。

2 賃借人が賃貸人に対して負う債務

  賃借人が賃貸人に対して負う義務には、賃料支払い義務、原状回復義務などがあります。

 ⑴ 賃料支払い義務

   賃借人は賃料の支払い義務を負いますが、例えば賃借人が2名いる場合、賃借人はそれぞれ賃料の半分を支払えばよいのでしょうか。この点、判例によると、「共同して1つの物件を借りている場合、賃料は分割可能であっても、その契約上、不可分の債務として処理される」としています。つまり、2人の賃借人は、それぞれ賃料全額の支払い義務を負うとなっています。

そうであれば、賃貸人としては、賃貸借契約書に何も記載しておかなくても、2名の賃借人に賃料の全額を請求することができるのですが(もちろん、1人が全額を支払えば、他の1人は支払いをする必要はありません)、誤解を避けるためにも、契約書に、連帯して責任を負うと記載しておくとよいと思います。

※ 不可分債務と連帯債務には多少の意味の違いはありますが、連帯債務の方がよく使われていますし、契約に記載するときは連帯債務、でよいと思います。

なお、契約書に、賃借人はそれぞれ50%ずつ賃貸人に対して賃料を支払うと書けば、賃貸人は2人の賃借人に対して50%ずつしか請求することはできませんが、その場合でも、1人の賃借人Aが50%の支払いをしないときは、Aに50%の支払いを催告の上、賃貸借契約全体を解除することができます。

※ なお、契約を解除する場合は、もう1人の賃借人Bにも、Aが50%の賃料を滞納していることを知らせ、Bに、Aの賃料を支払いう機会を与えてください。Bにとって、いきなり契約が解除されてしまうという事態を防ぐためです。

 ⑵ 原状回復義務

   原状回復義務の内容は、土地の整地、建物・残置物の撤去、汚損がある場合はその修復ということになりますが、こられについても、賃借人が複数いる場合、各賃借人が、それぞれすべての義務を負担することになると考えられます。

2人とも原状回復義務を履行しない場合は、賃貸人が原状回復工事を行い、その費用全額について、各賃借人に請求することになります(1人の賃借人が全額払えば、もう1人の賃借人には請求できません)。

このように、賃貸人としては、複数の賃借人それぞれに対し、すべての原状回復義務の履行を求めることができるのですが、この点も、誤解を避けるために、契約書に、連帯して責任を負うと記載しておくとよいと思います。

 ⑶ 契約書の条文

   上記のようなことを考えると、「賃借人は、本契約に基づく賃料その他すべての債務について、連帯してその責任を負う」という条文を入れておくとよいと思います。

3 賃借人が賃貸人に対して持つ権利

 ⑴ 敷金・保証金返還請求権

   賃借人が2名いる場合、敷金・保証金返還請求権は、原則として分割債権と考えられるので、2名の賃借人が50%ずつ、賃貸人に請求できることになります。

ただ、代表的な立場の人がいる場合は、その人に全額を返還することが許されるとされていますが、代表的な立場の人かどうかはっきりしないことも多いですから、誰に返還するのか、契約書ではっきり決めておいた方がよいと思います。

例えば、「敷金(保証金)の返還は賃借人●●に対して行う」あるいは「敷金(保証金)は、賃借人2名が共同でなければ返還を受けることができない」などです。

 ⑵ 中途解約請求権

   賃貸借契約は契約で決めた期間中は、賃貸人からでも賃借人からでも一方的に解約できないことが原則です。ただ、賃貸借契約書で例えば、「賃借人は、3ヶ月前の予告をもって中途解約することとできる」と定めれば、中途解約ができることになります。

ところで、賃借人が2人いる場合ですが、1人の賃借人だけの意思(1人の賃借人からだけの解約申し入れ)によって、中途解約ができるのかは疑問があるところで、1人の賃借人だけが解約申し入れをしたということでは、中途解約はできないと考えられます。

ただ、この点、状況によっても結論が違うということもあり得るので、契約書にきちんと書いておくとよいと思います。

   例えば、「賃借人●●は単独で、本条にもとづく中途解約の申し入れをすることができる」、あるいは「賃借人両名は、共同でなければ中途解約の申し入れをすることができない」などです。

4 契約の解除

  賃借人が2名いるときは、賃料不払いがある場合でも、賃貸人が賃貸借契約を解除するには、まず、賃借人2名に対して、賃料の支払いを催告する通知を出さなければなりません。それでも支払いがない場合に契約を解除することができます。

  これは、賃借人の1人が行方不明の場合でも同様で、行方不明の賃借人に対しては、住民票の調査、賃貸借物件に本当に住んでいないかの現地調査などをして、それでも居場所がわからないという場合、裁判所を通しての公示送達という方法で、契約解除の通知をしなければなりません。

  これは非常に面倒なので、例えば賃貸借契約書の中で、「賃借人の1名が所在不明または連絡不能となったときは、賃貸人は他の賃借人に対する通知をもって、本契約を解除することができる。所在不明の賃借人に対しては、別途通知を要しない」と規定しておくことが考えられます。

ただ、このような規定を設けた場合でも、交渉、調停の場合はよいと思いますが、裁判所に明け渡し訴訟を起こすときは、所在不明を裏付けるために、住民票の調査、現地調査などを求められ可能性があります。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

弁護士のプロフィールはこちら