人手不足が深刻化する中で、人手不足に関連して経営者が特に注意すべき法律問題が複数存在します。対応を誤るとリスクを招く可能性がありますので、今回はこれらの問題について解説をいたします。

労働時間に関連するリスク

人手不足の状況では、既存の従業員に過重な労働を強いるケースが増えます。これにより以下の問題が発生します。

残業時間の上限規制違反

働き方改革関連法によって、残業時間の上限規制が設けられており、月45時間、年360時間が上限となることが原則となります。この上限規制に違反する場合、罰則規定の適用があり、刑事罰の対象となります。

三六協定未締結や内容不備

事業場の労使協定を締結し、それを行政官庁に届け出れば、その協定の定めるところにより法定労働時間を超えて労働時間を延長し、または休日に労働をさせることができます(労働基準法36条に基づく、三六協定と言います。)。

この協定を締結せずに時間外労働や休日労働をさせると違法となるリスクがあり、協定の内容に不備がないように注意する必要があります。

残業代請求のリスク

労働者と約束した所定労働時間や、日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働者が労働を行った場合には、残業代が発生します。残業代の請求権の時効は3年間ですので、3年働けば3年分の残業代を請求されるリスクがあり、増大した残業代を請求されることは経営上のリスクとなります。

労働者は、労働時間をタイムカードや日報などで把握をして、残業代が増大しないように管理する必要があります。

安全配慮義務違反のリスク

過剰労働や職場環境の悪化によって、従業員の健康を損ねると安全配慮義務違反に問われることがあります。ケガや病気による労働災害が認定されたり、過労死が発生した場合には、経営者に対して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求がなされるリスクがあります。

これらの問題を予防するためには、労働時間を把握し、労働者の担当業務の進捗状況を確認して労働者が就業上の困難を抱えていないかをチェックし、また、定期的な健康チェックを実施する等の対応を行うべきです。

外部人材活用における法的リスク

人手不足を補うために外部人材を利用する場合、以下のような法的リスクがあります。

労働者派遣法による規制

①日雇い派遣(日々または30日以内の派遣)の原則禁止

②派遣元は、原則として、派遣労働者の待遇について、派遣先の同種労働者と比較して不合理な相違を設けてはなりません(派遣先との均衡・均等待遇方式)。

この方式を採用する場合、派遣先は派遣元に対して、比較対象となる労働者の賃金等の待遇に関する情報提供義務があり、派遣元は派遣先の情報提供がない場合は、労働者派遣契約を締結してはなりません。

③派遣元が派遣先に労働者を派遣する際に、派遣元が労働者との間で業務請負契約を締結し、実際には労働者派遣であるにもかかわらず、そうではないように見せかける等の方法により、労働者派遣法の規制を免れようとする問題があります(偽装請負等の違法派遣)。

このような派遣によって労働者の供給を受けることは、行政指導、改善命令、勧告、企業名の公表がなされるリスクがあります。

下請振興法による規制

平成30年12月に下請中小企業振興法(昭和45年法律第145号)第3条第1項の規定に基づく振興基準が改正(平成30年経済産業省告示第258号)され、親事業者は、①自らの取引に起因して、下請事業者が労働基準関連法令に違反することのないよう配慮することや、②やむを得ず、短納期又は追加の発注、急な仕様変更などを行う場合には下請事業者が支払うこととなる増大コストを負担することなどが新たに盛り込まれました。

外国人労働者の雇用に関するリスク

外国人を雇う際には、在留資格の確認と、在留資格に基づき許可されている業務内容の確認が必須です。許可されていない業務に従事させるような不法就労は、企業側も罰せられます。

ハラスメントのリスク

人手不足により職場環境が悪化すると、ハラスメントの温床になりやすいです。2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法制(労働施策総合推進法)が適用されています。

この法制に基づき、経営者は次の措置を講じなければなりません。

・職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること

・行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること

・相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

・相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること

・事実関係を迅速かつ正確に確認すること

・速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

・事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと

・再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)

・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること

・相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

試用期間中の解雇や試用期間満了時の本採用拒否のリスク

人手不足解消のために労働者を雇い入れた後、試用期間中に採用された労働者とのミスマッチに気がつき、試用期間中に解雇したり、試用期間満了後に本採用を拒否したいということが想定されます。

しかし、雇い入れをした後は試用期間中であっても、自由に解雇したり本採用を拒否できるということは無く、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合にのみ、許されます。

こうした理由を備えないまま、解雇や本採用を拒否した場合、労働者としての地位を確認する請求や、経営者が出社を拒否した後の未払賃金の請求がなされるリスクがありますので、注意が必要です。

まとめ

以上の通り、人手不足に対応するための経営においては、様々な法的問題が発生する可能性があります。そのため、経営者の方にはリスクを未然に防ぐ準備が求められますが、弁護士であれば、準備のための適切なアドバイスを行うことができます。必要であれば、経営者の方の業種や規模に即した具体的な法的対応策も提案できますので、お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉

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